教育・学習支援への取り組み

京都産業大学の修学支援とキャリア教育〜きめ細やかな教育体制推進のための人と情報〜


1.はじめに

(1)京都産業大学の紹介
 京都産業大学(以下、本学とする)は、1965(昭和40)年に京都市北区、上賀茂の地に経済学部・理学部の2学部で創立され、その後、学部・大学院などを増設し、2009年(平成21年)5月現在、8学部21学科、6大学院研究科、1専門職大学院、1通信制大学院、学生数約13,000名、専任教員数309名(客員教員などを除く)、事務職員数378名(嘱託・契約職員を含む)を擁する、一拠点総合大学として発展してきました。
 本学は、大学名に象徴されるように、創立時から「産学協同」を実践する大学を標榜していました。このことを大学の根本理念=「建学の精神」とし、「実社会と密接な連携を保ちつつ理論と実際との融合した教育」によって、「社会に役立つ能力を身につけた人材」、「将来の社会を担って立つ人材」、「国際社会の場で指導的な役割が担える産業人、科学者、技術者」の育成を、現在まで一貫して目指してきています。

(2)「グランドデザイン」の策定
 本学では、創立40周年にあたる2005年に、来る50周年に向けての中長期計画「グランドデザイン」を策定しました。この「グランドデザイン」の策定にあたっては、学長のリーダーシップのもと、学部を越え、教員・職員が一緒になって、テーマ別の七つの部会で議論を行ったことが重要であると思います。一拠点総合大学として、広く現状と課題を共有することができたからです。
 そこでは、教学についても様々な提言がなされ、「きめ細やかな教育体制の推進」、「多様な学生への学修・修学支援の充実」などが、大学のアクションプランに盛り込まれました。
 以下では、この動きの中で現在進められているもののうち、近年の大学改革の中でも重要視され、筆者が本学で関わっている、教学部門の修学支援とキャリア教育を中心に述べることにします。


2.教学センターによる修学支援

(1)教学センターの設置

 教学センターは、2007年10月、教務部などを改編し、10号館1階に設置されました。
 グランドデザインの方針を受け、当時教学関係の基幹部署であった「教務部」が、具体的な施策を検討する中で、それまでは内容によって教務部・各学部事務室・全学共通教育センターなど、学生対応の窓口が分かれていたので、「学部学生の修学上の相談および諸手続き窓口」を一元化しようと、「教学センター」構想が具体化されました。
 この点を事務業務の面から見ると、従来の学部事務室ごとに業務量や取扱いにばらつきがある状況から、共通する事務手続きなどをすべて集約して事務の効率化を図り、人材を業務繁忙期や案件に応じてフレキシブルに対応できる体制を構築することで、学生に対するきめ細やかで質の高いサービスを提供することが考えられたと言えます。学生対応を第一に考え、昼休みをなくしフルオープンとしたこと、夕方も5時限終了(18:15)後の18:30まで開けたこと、これらの点は、学生にとって非常に便利になったと言えます。教学センター開設当初は学生にとまどいもありましたが、現在は十分活用されてきていると言えます。
 そして、教学センターが、「きめ細かな修学支援」として現在進めているのが、「つなぎプロジェクト」です。これは、学生を中心にして、教員・職員・保護者・大学・社会等を「密接につなぐ」ことにより、修学支援の充実を図ろうとするものです。このプロジェクトは現在、1年次生に重点を置いて進めているので、以下ではそのあたりを中心に述べることにします。

 
(2)入学前後に関する取り組み
1)入学前教育
 入学前教育は従来、各学部が独自に行ってきました。比較的早く入学が決まった指定校・連携校などの生徒を中心に、基礎知識の確認や学習習慣の継続などを意識した課題が出されていました。
 2009年度入学生に対しては、二つの学部がパイロットケースとして、業者委託による入学前教育(英語・国語、英語・数学)を実施しました。学部の担当教員と業者がしっかり打ち合わせて課題を作成し、結果の検証もきちんと行いました。2010年度入学生に対しては、業者委託による入学前教育を行う学部が増え、また入学前教育を共通(複数の学部)で行うことの検討にも入っています。
2)教学DVDの作成
 2009年度入学生を対象に、大学生活への不安を取り除き、入学までに知っておいてほしい内容をまとめたDVDを作成・送付しました。2010年度入学生に対して、その改訂版を作成・送付しています。
3)「自己発見レポート」の実施
 「自己発見レポート」とは、アンケートや問題に答えることにより、自分の能力・性格・強み・興味関心などを客観的にとらえたデータが提示され、そこから大学での学びや将来の進路選択を学生に考えさせることを目的とするもので、10年以上前に本学が(株)ベネッセコーポレーションと共同開発し、現在は100を越える大学で使われています。
 本学では1998年から新入生全員に実施しており、入学時のオリエンテーションで提出したもらった結果を、4月下旬に学生に送付し、その後大学でフォローアップガイダンスを行い、また一部のキャリア形成支援科目で活用しています。この情報はまた、本学の学生支援情報システム「学びのポートフォリオ」にも組み込まれ、修学支援・就職支援などの参考にされています。
 
(3)出席確認システム
1)出席確認システムの概要
 本学の出席確認システムは、各教室の入口に設置されている読取端末に学生がICチップ入りの学生証をかざすことで、出席(学生証番号・入室時間など)が記録されます。
 2008年度は入学時のつまずき防止に重点を置き、新入生のみを対象にしましたが、2009年度からは全学年の学生証をICチップ入りのものにし、出席確認システムの対象を拡大しました。
2)出席確認システムの活用
 2009年度の春学期は、「出席状況の把握による指導」を、新入生を対象に4回実施しました。まず、授業開始第1週に出席日数0の学生を2週目に、以後、2〜3週目に出席日数3日以下の学生を4週目に、4〜6週目に出席日数3日以下の学生を7週目に、そしてこの間の該当者で春学期定期試験直前の13〜14週目にも出席日数3日以下の学生を15週目に、それぞれ電話連絡し面談を行い、状況を確認し履修指導をしました。
 8学部を合わせた履修指導の対象学生数を各回別に記すと、第1回が25名、第2回が34名、第3回が47名でした。第1回が読取端末へのかざし忘れなど軽微な理由によるものが多いのに対して、2回目以降は、病気や精神的に不安定な理由によることが多いことがわかりました。
  ここで、面談にあたっているのが、教学センターの修学支援担当職員で、特に経験豊富なシニア・アドバイザーによる学生との面談は、学生の大学に来るモチベーションアップに大きくつながっています。
 本学では、数年前から、在学生の保護者との教育懇談会に、一般市民・企業関係者・卒業生を対象にした講演会を加えた「京都産業大学DAY」を開催しています。2009年度は、京都(本学会場)で2回、地方会場で8回開催しましたが、その際も学生の学習を示す資料として、この出席確認システムは有効でした。
 従来は、授業で出席を取る必修科目や少人数クラスに限られていたデータが、全科目にわたり提示できるようになったのです。
3)出席確認システムの現状・問題点と今後

 しかしながら、出席確認システムを活用する中で、問題点もいくつか浮かびあがってきました。学生証の読取端末へのかざし率はまだ90%程度にとどまっており、「教室の入口(廊下)で学生証をかざすが、教室に入ってこない」ような学生も少数ながらいます。そして、現在はこの出席データを成績・評価の一部に加えようという動きも出ています。教学センターとしては、希望する教員に、出席確認システムの現状(100%の完璧なデータではない)を理解し、また学生に対しシラバスなどで説明した上で、学習指導や評価に反映させてほしいと、データの提供を始めているところです。
 今後、他大学の事例なども参照し、さらに有効な活用を考えていきたいと思っています。

 
(4)学びのポートフォリオ
 「学びのポートフォリオ」は、きめ細かな修学支援のため、それまで大学の各部署が有していた学生の諸情報(基本情報、学費納入・奨学金受給状況等、成績、各部署での相談内容、課外活動など)を体系的に統合し、支援の充実を図ったものです。利用目的(学生支援)、アクセス者の限定、セキュリティなど、個人情報の保護に留意し、低単位学生の指導や履修相談、「京都産業大学DAY」における保護者懇談会、進路相談(これは進路センターの担当)などで活用しています。
 なお、このシステムをはじめ、本学の教学(教務)関係のプログラムの多くは、(株)SIGELに業務委託しています。偶然にも、本誌本号に(株)SIGELによる、本学の「学びのポートフォリオ」のシステムの記事が掲載されているので、具体的な内容・システムなどに関しては、そちらも参照いただければ幸いです(p.57)。
 
(5)その他

 2009年度から、学生による学生のための修学支援として、ピア・サポーター制度が導入されました。学生に募集をかけ、面談を行い、研修を経て、初年度は全学部から合計30名ほどの学生に、主として新入生の履修相談などに、学生目線であたってもらいました。そこでアドバイスを受けた学生の中から新たにピア・サポーターを希望する者も出るなど、2年目の活動がこれから始まるところです。これについても、他大学の事例などを参照し、今後さらなる展開を考えているところです。


3.キャリア教育

(1)キャリア教育の概要
 本学は、1.で述べた「建学の精神」に見られるように、大学創立当初から社会で活躍できる人材の育成を目指していました。いわゆる就職支援については、進路センター(2000年10月に就職部から改名)が直接の担当部署ですが、それとは別に教務部の教育企画課がキャリア形成支援教育を進め、その部署が発展し、2005年4月にキャリア教育研究開発センターが発足しました。現在、キャリア教育研究開発センターは、教学センター・進路センター・全学共通教育センターと連携しながら、キャリア形成支援教育を推進しています。
 キャリア形成支援科目は、全学対象の教養教育の一つの柱として始まり、現在は20科目、1年間で延べ3,000名の受講生がいます。この数字は本学の1学年の学生数とほぼ同じで、大学4年間で一人平均1科目受講している計算になります(実際には、キャリア意識の高い学生が、科目を複数受講)。

(2)キャリア形成支援科目の内容
 次にキャリア形成支援科目の全体像と特徴的な科目をいくつか紹介します。
 まず、講義科目では、1年次春学期開講の「自己発見と大学生活」が、前述の「自己発見レポート」なども活用しつつ、大学で学ぶ意味、大学生活における人間関係、将来の進路選択などを考える授業です。講義とはいえ、グループワークやディスカッションも行っています。この科目からつながるのが、2年次秋学期開講の「大学生活と進路選択」、3年次春学期開講の「自己発見とキャリアプラン」です。それぞれの段階で身につけるべきこと・考えるべきことを学び、将来の進路につなげることを目指します。また、2・3年次生対象の「21世紀と企業の課題」では、実社会で活躍している卒業生をゲスト講師として招き、業界の最新情報、ご自身の経験、後輩へのメッセージなどを語ってもらっています。社会の実情を知るとともに、先輩という身近な存在を通して、学生のキャリア意識が形成されていくのです。

写真 キャリア教育の授業風景
写真 キャリア教育の授業風景

 次に比較的少人数のものとして、「キャリア・Re−デザイン1」をあげます。この科目は、ややモチベーションの低い学生も意識し、社会人インタビューや学生同士のディスカッションなどを通して、自分自身の考え方や価値観などを見直し、キャリア計画を再デザインすることを狙った科目です。ここで活用された、ファシリテーションという手法とそのノウハウを、学生支援全般に拡大したプロジェクトが「京産大発ファシリテータマインドの風〜ファシリテーションの定着による学生支援改革〜」で、2008年度に文部科学省の「新たな社会的ニーズに対応した学生支援プログラム」に採択され、活動をさらに広げています。
 次に社会・企業との関わりで注目されるのが、インターンシップ系の授業です。本学におけるインターンシップ科目は、大学コンソーシアム京都を通してのもの、大学独自のもの、海外へのインターンシップ、地域インターンシップなどがあります。マナー研修のような事前学習から始まり、夏休みに2週間から1カ月程度の企業などでの実習を行い、事後学習として報告会などを行っています。
 このインターンシップをもっと積極的に行おうとしたものが、「O/OCF」(オン・オフキャンパスフュージョン)という科目です。4年間かけて、大学での講義(座学)と4回のインターンシップをサンドイッチ形式で進めるもので、これは、「日本型コーオプ教育−オン・キャンパス学習と就業体験との融合による『多層サンドイッチ方式』の展開−」として、2004年度に文部科学省の「現代的教育ニーズ取組支援プログラム」に採択されました。
 そして、2009年度からはこれを改編した「O/OCF-PBL」(オン・オフキャンパスフュージョン−ピービーエル)が始まりました。PBLとはProject Based Learning(またはProblem Based Learning)の略で、企業などから与えられた課題に対して学生がチームで取り組み、その解決を図るとともに、その過程を通して自分たちを成長させるというものです。2009年度の1年次生は、学生対象のアンケートやインタビューを通して、学生生活の実態を考察し、改善点などを指摘しました。また、2・3年次生は、実際に企業などから与えられた課題に取り組みました。これは、経済産業省の「体系的な社会人基礎力育成・評価システム開発・実証事業」のモデル大学に2年連続で選ばれ、展開しているものでもあります。
 この「育成・評価システム開発・実証」における本学の取り組みの特徴は、社会人基礎力の三つの要素、12の能力要素に関して、「〜できる」ようになったという自己評価にとどまらず、適性科学研究センターの検査を用い、課題に取り組む前と後での成長を、目に見えない内面の評価も含め行っている点です。ここからわかる「頭の働かせ方」や「精神的タフネス」の成長が、社会人基礎力伸長の基盤となりますが、この成長は現代の若者にとってきわめて難しいことも、事例を積み上げ、比較対照することでわかってきました。「できる」ことを強調することが、若者の精神面にプレッシャーをかけてもいるのです。
 以上、本学のキャリア形成支援科目を色々紹介してきましたが、キャリア教育研究開発センターとしては、「O/OCF-PBL」など少人数の科目を充実させていきたいと考えています。しかし、そのためには、それを担当できる人の拡大・充実、そして教職協働の工夫などが必要です。本学の特長として伸ばしていきたいと思っています。


4.おわりに

 以上、京都産業大学における修学支援・キャリア教育について述べてきました。様々な情報やデータを活用するためには、「人」の問題が重要です。自分自身が、様々な「人」に支えられ、かつこれまでの積み重ねがあって仕事ができていることに感謝し、原稿の結びとします。

文責: 京都産業大学
教学センター長
キャリア教育研究開発センター長
文化学部教授 若松 正志

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