大学教職員の職能開発
【趣旨説明】
冒頭、講習会運営委員長の木村増夫氏(学校法人上智学院)から本研修会の趣旨説明が行われた。「大学が社会の要請に応えるには、私たち職員一人ひとりが教育改革や人材育成支援の担い手として十分な資質を備え、それを不断に磨いていかなければならない」という語りかけは、参加者の心に深く響くものであった。さらに、「分科会での討議にあたっては全体像を考え、分解して考え、そして異なる視点を組み合わせて考える“集団思考”のメリットを大いに活かしてほしい」というメッセージは、参加者の主体的な学びへの意欲を喚起するものであった。
【講義】
講習会運営委員による三つの講義を通じて、大学情報化に関する基本的な認識を共有した。
はじめに、梶田晶子氏(東海大学)から、大学改革を推進する上で「情報」が持つ価値と、これを活用する際に備えるべき視点が示された。続いて、山崎達朗氏(芝浦工業大学)から、教育の質保証を実現するツールとしてのICTの有用性と可能性が示された。最後に、斉藤和郎氏(札幌学院大学)から「PDCA」のプロセスに基づき、職員が新たな価値創造に関与する意義について解説が行われた。
【事例研究】
ICTを活用した先進的な事例紹介を受け、発表者との質疑応答を通じて取り組みの背景にある本質的な課題を探求し、大学職員が果たすべき役割について考察する機会を得た。
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創価大学では、「自律的学習者」としての基礎力を養成するためのプログラムに取り組んでいる。そして、学生の成長過程の掌握と適切な指導体制、初年次教育におけるFDの推進と学生との協同を推進するため、ポートフォリオの全学的導入を進めている。参加者は、学生を自律的な学び手に変革する組織的な教育支援のあり方について考察し、そのツールとしてのポートフォリオの意義について理解を深めることができた。 |
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関西大学では「CEAS」というe-Learningシステムを活用し、「学ぶ」、「語り合う」、「実践する」というアプローチで「総合的留学教育」を展開している。参加者は、現実の場面での“コンテキスト”を備えた実践的な学びの場を提供することの教育的意義について認識を深めるとともに、このプログラムを支え、推進する体制について教員と職員の協働という視点から考察を行った。 |
−分科会−
全体会に引き続き、分科会形式によるテーマ別討議を行った。各分科会ともメーリングリストでの事前研修を取り入れ、先進的な実践事例の紹介を織り交ぜながら、討議の活性化を図った。各分科会の討議内容ならびに最終結論は後述する。
【研修成果】
本コースが掲げる四つの全体目標について、参加者の自己評価を集計したところ、達成度は次のような状況であった(研修終了時に回収した「自己評価シート」から有効回答を集計)。
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このように、「コーディネートやマネジメントに関わろうとする意識の獲得」や「組織的課題への認識と解決へ向けた視点の獲得」のポイントが若干低いが、所期の目標は概ね達成されたと考える。一方で、2割程度の参加者がそれぞれの目標について「どちらでもない」と回答している。この要因を探るため、「自己評価シート」の詳細な分析を行い、例えば全体会と分科会との連携、あるいは分科会におけるテーマ設定の妥当性や討議の流れを支援する運営委員の働きかけなど、改善すべき課題を明らかにすることが求められる。
なお、講習会終了後も、五つの分科会ではメーリングリストを通じた事後研修に取り組み、参加者が自らの成長を振り返ったり、自大学における業務遂行に役立てたりする場を提供している。この取り組みはまだ緒についたばかりではあるが、本講習会が真に実践的な人材育成プログラム、つまり研修成果が業務に活かされるプログラムに発展するためには、分科会討議で培われた人的ネットワークを研修要素に組み込んだ継続的なプログラムの展開が必要と考える。今後、事後研修の成果を評価、分析しながらプログラムのさらなる改善を図っていきたい。
【各分科会の討議概要】
第1分科会: |
学生の主体的な学びを支援するための学生情報の活用 |
本分科会では、ポートフォリオや学生カルテに関する実践的な事例に触れ、学習支援のための新たな情報活用モデルを構想しながら、学生一人ひとりの学びの質を保証する支援の仕組みを探究した。
まず、事前研修としてメーリングリスト上で自大学が抱える問題や課題解決の取り組み状況について報告し合うとともに、相互コメントを通じて分科会への主体的な参加を促した。
分科会冒頭の事例研究では、創価大学において全学的なポートフォリオの導入を推進する高木功氏との質疑応答を通じて、ポートフォリオの意義について理解を深めるとともに、運用面で解決すべき課題を明らかにした。また、札幌学院大学における学生カルテの運用事例から、これを真の学生支援ツールとして活用するための人と組織の変革、情報の保護と活用のバランスなどについて考察を行った。
その後、1グループ8名程度の6グループに分かれ、ポートフォリオの定義、学生カルテの定義、その活用法とメリット、デメリット、理想像と課題等を整理しながら、独創的で斬新な学習支援システムを構想し、これを実践的な情報活用モデルとして具体化する試みを行った。すべての参加者が議論の活性化に貢献しようとする意欲に溢れ、自由な発想による豊かな学びのコミュニティが形成された。その結果、各グループの最終成果物はいずれも問題の本質を的確に捉えたもので、学生情報を有効に活用する戦略的かつ実践的なモデルに仕上がった。さらに、これらの成果物をグループ間で相互評価することによって自グループの討議内容と結論を省察し、職員が果たすべき役割についての認識を深めることができた。参加者から提示された今後のアクションプランには「研修の成果を関係職員や関連部局に示しながら自大学の教育改革にフィードバックしたい」など分科会での学びを自大学における改善活動に活かそうという姿勢が認められ、本講習会の実践的な場面での効果が認められた。
第2分科会: |
教職協働で進める教育支援のマネジメント |
本分科会では、教職協働で教育支援を進めるにあたり、実践的なマネジメントモデルを構想する作業を通じてその具体的なイメージや意義を理解することと、それらを展開する際の課題を明らかにすることを目標とした。
事前研修として参加者は、自大学での取り組みや問題意識をメーリングリスト上で交換して課題を共有しあった。
分科会の前段では、日本福祉大学より、e-Learningを活用したFD・教育改革の推進モデルの事例紹介を受け、職員が教育支援の企画・立案に積極的に関わることの意義について認識を深めることができた。その後、19名の参加者を三つのグループに分けて、教育支援のマネジメントモデルの構想に取り組んだ。各グループでは、教育支援をPDCAの枠組みで推進する独創的なアイディアの提案など、活発なディスカッションを行い、その結果、「大学間連携による大学入門教育コンテンツの作成と普及を目指すモデル」や、「新任教員を自大学での教育者として養成するための教員研修プログラム」、「理想的な初年次教育を教職協働で推進するモデル」が提案された。
事後研修は、グループ活動としてグループ討議のまとめを行うことと、個人活動として、分科会終了時に作成したアクションプランのうち「自大学に帰ってからすぐに実施すること」の実施状況を報告することとした。
分科会終了後に行った自己評価では、多くの参加者が本分科会の目標を達成できたと回答しており、提示されたアクションプランも、自大学において様々な改善案を提案したいという意欲的な態度が認められ、本分科会の目標は十分に達成されたと考える。
第3分科会: | 大学広報におけるWebサイトの戦略的構築と差別化 |
大学教育を取り巻く環境は依然として厳しく、人口構造・産業構造・社会構造等が大きく変わる中、大学が自らの構造転換に積極的に取り組み、社会に対する新たな役割を主体的に提示していくことが求められている。本分科会では、このような時代的な要請への対応として、大学広報におけるWeb
サイトについて現状の大学職員としての役割や組織的な課題を再認識し、問題解決の視点を獲得、また戦略的広報の可能性を模索した。
本分科会の参加者(25名)には事前研修として討議テーマに関する自大学の現状と課題、また今後の計画や提案に関しての事前レポートを課した。このレポートは参加者にメーリングリストで配信され、課題意識を喚起するために活用された。
分科会の前半では、日本大学より日大iクラブのWebサイト、立命館大学より同大学のWebサイトについて事例紹介を受け、両校のWebサイト構築の現状と課題について認識を深めることができた。また、正木卓運営委員(同志社大学)による「戦略的広報の実現に向けて」と題した講演を受け、アクティブな広報マインドの形成と広報戦略を学内・学外へ可視化する必要性を再認識した。
後半のグループ討議では、参加者を2グループに分けてテーマ選定と討議を行った。最終日には、グループ毎の成果発表を行い、研修成果を参加者全員で共有した。
研修後のアンケートでは、「広報業務を見直すきっかけになった」、「自身の広報マインドを再確認する必要性を感じた」、「学内への広報活動を行い、広報業務を理解してもらう」、「仕事に対する意識が変わった」、「この研修で包括的に考えるきっかけになった」など、短期間ではあるが今回の研修成果から広報担当者として、これを機に積極的な業務改善に活かそうという意欲的な姿勢が認められ、本分科会の目標は概ね達成されたと考える。
第4分科会: |
学生の自立的な学びを支援する大学図書館の役割 |
本分科会では、大学図書館が担うべき学修支援の取り組みについて、その役割を明確化した上で、他部署との連携によって実現する実行計画を策定するために事例紹介とグループ討議を行った。
事例紹介では、特色GPにも採択された明治大学の取り組みが紹介され、図書館の情報提供力、場としての学生集客力、高度なICT設備による基盤力の、総合的な「図書館力」を活かすことで真の意味でのラーニングコモンズが実現するとの提案があった。武庫川女子大学の事例では、図書館基幹業務の一部委託化が進んだことを契機に改革が進み、その成果として新入生オリエンテーションの受講率100%を達成したこと、そこで得た教務課との連携の経験が、受験生から卒業生に及ぶキャリア支援や、学生相談といった他部署連携に発展していることなどの展開事例が紹介された。最後にラーニングコモンズとは、学修支援、学生参加、学内連携を主眼とした大学図書館の新たな施設構成を指し、それは単なる施設改善ではなく利用を促す学修プログラムと人的サポート体制を必要とするものであることが提唱された。
討議では、20名の参加者が3グループに分かれて、具体的な支援策の検討を中心に討議が進められた。グループ発表では、学習困難学生への支援をテーマに、一人にやさしい図書館の特徴を活かすとともに、そうした学生にも図書館サポーターとしての役割を与えて不登校を予防する「図書館通学」が提案された他、図書館活用法コンテンツをe-Learningによりオープンソース化して大学間で相互利用する案、デジタルネイティブである現代の学生にはICTの活用支援よりも、溢れる情報の中から、必要かつ正確な情報を取捨選択する能力を醸成するための人的サポートが必要で、その役割を図書館が担うべきではないか等の提案があった。
全体を通して参加者全員が、大学の組織的課題を踏まえた上で、図書館としてどう支援していくべきかという視点を養い、大学職員の一員であるという自覚を認識できた研修となった。
第5分科会報告: |
情報活用の重要性と情報システム部門の役割 |
「システムの運用管理」から「知の資産の運用管理」へ、情報システム部門が役割転換の時代を迎えていることを認識し、今後の情報環境のあり方、情報資産管理の基本方針や実施体制などをテーマとして、マネジメントの視点から探求することを目的として、担当職域が近いメンバーを集めた3グループに分かれて討議を行った。
各グループは「情報システム部門の課題認識として”近い将来の情報資産活用とアウトソーシング”」、「大学として活用していくべき理想の組織”情報システム部門”」、「情報資産管理をするための情報システム部門のあり方」をテーマに選定し、ブレーンストーミングやKJ法といった創造技法を取り入れて、問題解決に向けて討議を行った。日常業務での問題や課題から情報システム部門のあり方を検討したグループ、中長期を見据えた理想の情報システム部門を創出するにあたり各自のモチベーションが向上したグループ、情報交換を中心に解決策を求めたグループなど、グループの特徴を活かした運営を行い、最終日には討議の成果をパワーポイントにまとめて、発表会と意見交換を行った。参加者は、討議によりグループとしての結論を創出するだけでなく、その過程を通して、問題解決の手法や手続きについても修得されたものと考える。研修終了時の自己評価によると、「技術の追求だけでなく、教育支援にどのように活用していくのかを理解できた」、「PDCAサイクルがPDで終わってしまっていることでシステムがうまく活用されない原因と認識でき、どうすべきかを考えることができた」など、日常の業務に活用できる実践的な成果を獲得した状況が認められた。
第6分科会: | コミュニケーションツールを活用した学生支援体制の構築 |
「コミュニケーションツールを活用した学生支援体制の構築」をテーマとし、コミュニケーションツール活用の可能性と課題を確認し、取り組むべき学生支援モデルの構想および実践上の課題を探求した。参加者は23人(うち協賛企業の5名を含む)であり、情報システム分野、教務分野、学生生活支援分野、学習支援分野と様々な業務を担当するメンバーにより構成された。グループ討議を始めるにあたり、事例発表として、佛教大学から学生支援活動の現状と今後の展開について、京都産業大学からMoodleを活用した学習支援体制について、大阪学院大学から卒業生ネットワーク構築の経緯および過去の私情協研修参加者のアクションプラン実践事例が発表された。
グループ討議は、7〜8人毎ABCの3グループに分かれ、事例発表等を参考としながら、各グループで討議テーマを決め進めた。Aグループは「離脱者ゼロ」をキーワードに、その実現のための方策を討議した。離脱してしまう学生の状況として、授業についていけない、自ら学びに入れない、相談できない、友達をつくれないことを挙げ、それらを解消するための学生支援やコミュニケーションツールのあり方を検討した。Bグループは、退学者・退学予備軍となってしまう学生に対応する方策として、大学独自のSNS活用による支援について討議した。具体的には、入学前から始まり、携帯電話の活用やポータルとの統合、ポイント制の導入、教職員や卒業生との情報交換を通じて、信頼関係の構築や友達づくり、居場所づくりに配慮したコミュニケーションについて検討した。Cグループは、学生からの質問について考察し、正確な情報源としての掲示やFAQ、解が複数ある場合や解のない場合の対面を必要とする相談など、ICTの有効活用とその限界について検討した。そして、学生支援に一つの有効な新しいコミュニケーションツールが提案された。
講習会後の自己評価では、コミュニケーションツール活用の可能性と課題を認識する視点を見出したかについて、十分達成できた(30%)、まあまあ達成できた(70%)と参加者は分科会の目標を達成できたようである。また、グループ討議結果発表での参加者相互の意見交換を踏まえ、事後研修において各グループは討議結果に検討を加え、最終的な成果物をメーリングリスト上に再提出した。さらに、研修成果を各自の業務改善に繋げることに取り組んだ参加者からは、具体的なアクションプランの提出があった。
文責:
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大学職員情報化研究講習会 運営委員会 |