教育・学習支援への取り組み
(1)地域とともに歩む大学として
広島修道大学は、1952年に開学した修道短期大学を前身に、1960年に広島商科大学として設置されました。その後1973年の人文学部設置とともに校名を現在の名称に変更し、現在では5学部(商・人文・法・経済科学・人間環境)と大学院5研究科(商学、人文科学、法学、経済科学、法務)を抱えるまでに発展しました。学生数が6,000名超と、広島県下では随一の規模を持つ文系総合私立大学ながら、在学生の多くは広島県やその近隣県出身者で占められる典型的な地方中規模私立大学です。
本学の設置者である学校法人修道学園は、広島藩の藩校に源を有します。校名にある「修道」の文字は、中国の古典『中庸』にある「道を修める」という一節に由来し、これは本学の建学の精神にもなっています。戦後広島の復興と発展を担う人材育成を目的に短期大学が誕生したことから、一貫して本学は「地域社会・地域経済の発展に貢献できる人材」の育成に取り組んできました。現在では「地球的視野を持つ人材の養成」、「個性的、自律的な人間の育成」を全学の教育目標とし、地域社会に貢献し、地域社会とともに歩む大学を目指しています。
(2)大学開学50周年の年に
近年の学力の多様化・ユニバーサル化という状況の中で、大学はどのように教育の質を保証していくのかという課題に直面しています。これは本学においても例外ではなく、そのため2007年度には全学部共通の教育刷新プログラム「修道スタンダード」が質保証の一つのあり方として導入されました。
これは学生一人ひとりの基礎能力の向上を図るもので、社会人の基礎力として、人間力・英語力・情報処理能力を養うことを目的としています。具体的には初年次教育の全学的な展開と、キャリア形成教育の初年次からの導入、TOEICスコアという目標設定を取り入れたe-Learning主体の英語教育、WordやExcelの基礎的技能の修得を中心とする情報教育などで、これらは新入生全員に履修が指導されています。
このように2007年度に始まった全学的な教育刷新が完成年度を迎える2010年は折柄、大学開学50周年の節目であり、かつ学長交代があって、本学の教育・学習支援体制はさらに高みを目指して検証と改善を図っています。
(1)本学の学士力を支える修道力
本学では既に現行カリキュラムについて大学としての三つのポリシーがまとめられましたが、2011年度には現行カリキュラムを修正した新たなカリキュラムがスタートするため、三つのポリシーについても見直しました。
また、修道スタンダードを継承しつつも、検証と改善を図る目的のプロジェクトチームが複数設置され、その一環として2010年度前期には精力的に本学の教育を考える勉強会や、学生および教職員向けのアンケートが実施されました。
これらの考察を通じて明らかになったのは、建学の精神「道を修める」という言葉の主体が、単に学生に向けられたものだけではなく、教職員が学生のために学びの道を整えることでもある、ということです。大学としての教育力の向上が建学の精神につながるものであると再確認された意味は大きいといえます。そして2010年11月の開学50周年記念日に、これら作業のまとめが公表される計画です。
教育力向上への取り組みは、このほかにも教職員研修の実施や学内新施設の建築計画策定など、本学はこれまで以上に改革への歩みを早めています。教職協創による「持続的に成長する修大カルチャーの創造」が、開学50周年にあたる本学の課題になっています。
(2)認証評価への取り組み
ところで本学は、2004年度に始まった大学基準協会による大学評価において初年度の適合校となりましたが、そのため2011年には第2回目の大学評価を迎えます。このため、2010年度は第2回目の認証評価に向けた学内の準備作業が開始されました。
5月には自己点検評価室が総合企画課のもとに設置された他、7月には外部評価委員の選定と依頼が行われました。これらは内部質保証を組織化する一環です。
さらに自己点検・評価作業中間報告会が、学内のFD・SD研修会の一環として5月から7月にかけて実施されました。報告会には多くの教職員が参加し、学内の教学体系や教学支援システム、大学運営の管理システムの現状と問題点などに関する認識・課題の共有化、情報交換を図る機会となっています。これも本学における教育・学習支援体制に新展開をもたらす契機として捉えることができます。
(1)設置の背景と現況
2005年度に設置された本学の学習支援センター(以下、LSCと表記する)は、上述の2007年教育刷新を支え、初年次教育をリードする部局として活動してきました。少子化による受験者の減少と入試種別の多様化がもたらす、学力レベルの低下と拡散に対応するリメディアル教育の必要性が、多くの教職員に認識されたことが、センター設置の背景にはありました。
2010年度のLSCの人的体制は、教員によるセンター長と次長(2名)、学習アドバイザー(任期付き専任2名、任期付き非常勤2名)、専任事務職員(2名)、および事務補助員(1名)の計10名となっています。学習アドバイザーは日本語分野、英語分野、数学分野からそれぞれ配置しており、高校の教職経験者や大学院の博士課程修了者の中から、公募によって採用を決めています。
また施設は、学生の移動導線のほぼ中央に位置する中教室(約140平米)を、壁面をガラス貼りにするなどの改装を施して学生の利用に供しています。内部には移動可能な変形の机(7台)・椅子(32脚)・書架・10台のパソコンなどを配置しています。書架には学生のための自習書の他、図書館蔵書には見られない漫画単行本コーナーもあり、貸出を行っています。開放的な空間を設けた理由は、学生が立ち寄りやすい雰囲気を醸しだし、個別学習相談にも立ち寄りやすい雰囲気を演出することが狙いでした。近頃ではすっかり学生が自習する場としても機能しており、リピーターの学生たちは語らいながら学習しています。
(2)LSCの学習支援業務
「広島修道大学学習支援センター設置規程」(2005年1月6日制定)では、在学生に対する「1)学習支援プログラムの実施及び学習相談」、「2)入学予定者の準備学習プログラムの実施」、「3)教育方法の企画・開発の支援」をLSCの主たる使命と規定されました。さらに2007年度からの修道スタンダード科目の実施にあたっては、その中核的初年次教育科目であるファーストイヤー・セミナー I(以下、FYS Iと表記する)の企画・運営を担当し、全学的な統一プログラムの実施を主導しています。
規程の1)については、英数国3教科を中心とする補習教育や日常の授業から派生する個別の学習相談を行っています。また学習アドバイザーが企画するワークショップ(例えばライティング講座やTOEIC対策講座など)も授業期間中に実施しています。
2)については各学部・専攻と協働して、秋に入学の決まった高校生を対象とした「入学準備学習プログラム」を用意しています。これは、高大接続教育を意識したプログラムで、12月と3月の2回、キャンパス学習の実施をコーディネートしており、毎年600名近くの高校生が参加しています。2005年以来LSCが担当しており、特色としてはアウトソースに頼らず、すべて自前で教材を用意している点が挙げられるでしょう。
3)については各種教材作成やアクティブ・ラーニングの方法紹介などを中心とする教育方法開発などに取り組んでいます。A4版1枚にまとめられた教材は定置配布物として、学生が自由に入手できるようにしています。また教員向けの教育方法紹介冊子としては、『ファーストイヤー・セミナー Iのためのアイデア集』を2009年3月(改訂版2010年3月)に発行し、全教員に配付しました。
さらに上述のFYS I用の副読本として、『ラーニング★ナビ』を企画・執筆し、2007年度から発行しています。これは学習スキル紹介を目的とする冊子で、本学学生のニーズに合わせた内容を心がけ、毎年度改訂を重ねています。この冊子はFYS Iの授業で使用することを強制するものではありませんが、改訂を重ねるにつれ、少しずつ授業内でも利用されるようになっています。
加えて、2010年4月には上述の「センター設置規程」が一部改正され、初年次教育に関する研究をもLSCの業務とすることになりました。これはより効果的な初年次教育のあり方を模索するため、広く他大学の研究成果を参照・分析し、方法論の確立を目指すことを意図しています。
(3)初年次教育を支えて
発足当初はリメディアル教育を担うことが意識されたLSCでしたが、その後、試行錯誤を重ねるにつれ、「初年次教育を通した自立的学習者の育成」に焦点をあてた取り組みに重点を置くようになっています。
これは本学のような文系大学では、理系大学で必要とされる理数分野での基礎学力支援とは異なり、学生に日本語力や英語力、社会に関する知識が不足していても、日常の授業を受ける上での致命傷にまではなりにくいため、学生がみずから補習のためにLSCを訪れることが期待しにくかったためです。そこで、LSCは、学習支援の実を上げるために、初年次教育における学習支援をカリキュラムと連動させて実施することにしたのでした。
これがLSCによるFYS Iのコーディネートです。FYS Iは、それまで各学部で多様な形で実施されていた導入教育の一部内容を、初年次教育として組み替えて実施するもので、2007年度以来1年次前期に全学履修必修科目として開講されています。これは後期のファーストイヤー・セミナーIIにおいて、各学部が専門分野への導入的演習授業を行うための前提となっています。
FYS Iの到達目標は、高校から大学への円滑な移行を図るために、1)大学をよく知り、意欲的に学び、大学生らしい態度を身につけること、2)大学教育に相応しい学習スキルを修得すること、としています。前者は、部局(学生部・キャリアセンター・図書館・学習支援センターなど)の職員が学科別の大規模講義として6回担当し、後者は各学部の教員が25名程度の少人数クラスで9回担当しています(2010年度実績)。
LSCは、FYS Iの授業案の作成・学部間の調整・部局との調整・実施に際した教室の手配などを行っています。また4月の授業開始時点と7月の授業終了時、さらに1年次終了時点の計3回、学生向けのアンケートを実施し、PDCAサイクルに基づいた授業改善を図っています(図参照)。
図 アンケート結果
(1)SDとしての効果
上述のように本学のFYS Iは、教員が担当する少人数クラス(学習スキルの育成を目指す)と部局職員が担当する学科別クラス(大学生活への円滑な移行を目指す)が組み合わされて運営されるユニークなものです。2007年度からのFYS Iでは、学習支援センター・学生部・キャリアセンター・図書館の職員がそれぞれ、1)講義の受け方、2)目標設定、3)対人関係の築き方、4)自己発見、5)キャリアデザイン、6)情報検索法の内容で規模の大きなクラスを担当しています。
このようないささか複雑な授業運営を行うことにした理由は、大学教員は個々に専門分野への導入に関しては秀でていても、大学生活への新入生の円滑な移行支援については必ずしも均質的な教育をおこなうことが容易ではない、という事情が考慮されたためでした。しかし、FYS Iの授業運営を制度設計する段階では、教員側から職員が成績評価に関わることへの強い抵抗が示されました。結局、部局担当クラスにおける「評価」は、個別クラスを担当する教員が「参考にする」という表現でFYS Iは運営されています。
同様に職員が授業を運営し、「評価」に関わることには、職員側からも戸惑いとためらいが示されました。部局担当クラスはそのマンパワーからいって、学科単位とせざるを得なかったため、規模の大きいクラスでは250名を越すクラスの運営を担当しなければならず、これは大きな不安を呼び起こすものでした。また、授業後の提出課題を採点する作業も、業務の負担増と捉えられました。
しかしながら、実際に職員が授業運営を行ったことは、予期せぬ副次的な効果をもたらした点が指摘できます。それは、職員自身が授業の場で本学の学生たちの生の反応や実情を知ることができたこと、授業運営の難しさを体感したことなどです。
大学の教育とは教員だけが担うものではなく、教員と職員が一体となって、学生が主体的な学び手となるために協働するべきであるという、教職協働の考え方が曲がりなりにも実践されたことは、職員組織のSDにもプラスの効果をもたらしています。
(2)教育手法の紹介と開発
FYS Iのような授業は、知識伝達中心の授業ではありません。新入生が大学という場を理解し、そこで学ぶためのスキルを獲得するためにより効果的なのは、学生が自ら主体的に考え、能動的に実践しながら学ぶことです。これを可能にする教育方法として参加型授業(アクティブ・ラーニング)の手法を積極的に紹介する必要性が認識されました。
そこで、LSCでは海外提携校であるカナダのノーザン・ブリティッシュ・コロンビア大学(UNBC)のラーニング・スキルズ・センターへの大学調査を通じて、北米の大学における学習支援の状況や、参加型授業を構築するための手法を学んできました。
2006年度以降LSCでは、学内研修会(2008年度から「初年次教育セミナー」)を主催し、学内に向け積極的に初年次教育の意味とその手法としてのアクティブ・ラーニングを紹介しています。この研修会は文字通り教職協働を旨として、教職員合同で開催しています。UNBCから講師を迎えたワークショップも含めれば、これらの研修会は、2009年度末までで通算で15回を数えています。
こうした研修会は、当初こそ、他大学からの講師を招聘するものでしたが、2009年度以降は、LSC自身が講師役となって参加型研修を企画・実施する機会をもつようにしています。
以上見てきたように、現在本学の教育・学習支援体制は急速に拡充されつつあるといえます。LSCもその一翼を担っていくことが求められています。
2011年度に始まる新しいカリキュラムにおいて、FYS Iは修大基礎講座と科目名称を変え、再出発する予定です。この新科目では、これまでの経験をもとに、部局授業の種類を増やし(例えば、自校教育や国際交流のすすめ、など)、キャリア形成支援教育の厚みも増す予定です。各学科は現在よりも多彩に用意される部局授業の中から、そのニーズに合わせて部局授業を選択できるようになります。教員授業のクラス規模も現在よりも緩やかにし、上級生ピア(アシスタント学生)の導入をすれば1クラスの人数を多くすることも可能となります。
全学的に統一された本学の初年次教育のカスタマイズを支えること、これが次なるLSCの課題の一つなろうとしています。
文責: |
広島修道大学 |
学習支援センター長、教務部長 | |
法学部教授 矢田部 順二 |