教育・学習支援への取り組み
龍谷大学は1639(寛永16)年に創設された本願寺派学寮を起源とし、2009年には創立370周年を迎えた日本で最も歴史ある大学です。ひとりの人間は平等に真実心を与えられているという親鸞精神に基づいた浄土真宗の教えを基盤とした教育を行い、次の5項目を建学の精神としています。
現在、京都市内の大宮と深草、そして滋賀県の瀬田に3キャンパスを展開しています。伝統を持つ文学部を母体に、現代社会の要請に応えて経済学部、経営学部、法学部、理工学部、社会学部、国際文化学部および短期大学部を設置する仏教系総合大学として発展してきています。学生数は2010年5月1日現在19,062名(大学院生を含む)を数えています。さらに2011年度には政策学部および短期大学部にこども教育学科を開設し、一層の拡充を目指しています。また、貴重な文献や資料を数多く所蔵していることから、仏教の誕生から現代の仏教までを分かりやすく紹介する仏教総合博物館「龍谷ミュージアム」も2011年春に開館を予定しています。
2010年度から新たに第5次長期計画(龍谷2020)がスタートし「進取と共生(ともいき)、世界に響きあう龍谷大学」をテーマに、「世界に存在感を示す大学」「多文化共生キャンパス」の展開をビジョンとしています。
このように歴史と伝統を誇る本学は、同時に先進的な教育・研究体制の構築にも積極的に取り組む、伝統と革新を兼ね備えた大学でもあります。本稿では龍谷大学のビジョンを支える情報教育システムの構築に向けた取り組みを紹介していきます。特に、これまでの取り組みの中から2009年9月に実施した情報教育システムのリプレース、および本学独自の試みであるラーニングクロスローズの紹介とともに、今後の取り組み予定・課題についても紹介していきたいと思います。
本学では、これまで5年毎に情報教育システムの見直しを行ってきており、2009年度がリプレースの年にあたりました。そのため、2007年6月から全学「メディア教育委員会」において情報システムの利用実態や教員の要望を踏まえながら、次期に導入するOS、応用ソフトウェア、機器構成等の具体的検討に入りました。それと並行して長期的な観点から次期情報教育システムのリプレイスコンセプトを明確にするため、メディア教育委員会の下に「次期情報教育システム検討委員会」を設置し検討を重ね、2008年3月に答申が出されました。
その結果、2000年頃からのブロードバンドネットワークやユビキタスネットワーク社会の到来などネットワーク環境の急速な発展という社会情勢の変化を踏まえて、本学情報教育システムの基本的な方向性として次の二つが明確に打ち出されました。
1)講義のオンデマンド配信や大学内・複数大学間での教育用コンテンツの共有など、今後求められるであろう教育改革に積極的に対応できるように基盤整備を進めること。
2)今日社会から要請されている、社会人としての基礎的能力、すなわち、自ら課題や問題点を発見し、必要な情報を収集し、有効な分析に基づき論理的に思考することのできる問題解決力、さらにその結果を効果的に伝え議論を深めることのできるコミュニケーション力の向上を支援すること。
上記二つの基本方針のもとで、「次期情報教育システム検討委員会」からは2009年度リプレースに向けて次のコンセプトが提案されました。
1)学内情報教育システムとWeb系ポータルシステムの連携の強化
2)普通教室のICT化
3)ユビキタス情報教育環境の拡充
さらに、この提案に関連した具体的な基盤整備のあり方、各学舎の対応も具体的に示されました。
その結果、OSはWindows Vistaを中心にLinux、Mac OS Xで構成し、情報教育の基本ソフト(ワープロ、表計算ソフト、プレゼンテーションソフト、メールソフト、Webブラウザ)としてWindows環境で整備し、語学教育が可能なCALL機能を付加するなど、3キャンパスで高い統一性を確保することができました。クライアント数が約2,300台にも上るシステムですが、4カ月の短期間で構築することができました。
新システムの主な特徴としては、ネットワークやハードウェアに関して、次のような仕組みを採用することにより、コストパフォーマンスの高いシステムを実現することができた点を挙げることができます。
また、情報システムの利用面からは次のような特徴を挙げることができます。
教員と学生が講義時間外での指導および相談等を含めて交流を深めることにより、学生の学習意欲を高める「場」としての利用を目的として、2001年度に深草学舎に設置されました。多様な出会いが生まれるようにとの願いが込められたその名称の通り、学生と教員の間だけでなく、学生同士の交流の場としても活発に利用されてきています(写真参照)。
写真 ラーニングクロスローズの風景
近年、大学図書館等にICT環境を整備した学生のための交流スペースとしてラーニングコモンズといった施設を設ける例が出てきていますが、本施設はその先駆けとも言えるものです。
開設後、ACコンセント・PCコンセントの設置、貸し出しPCの設置、プリンタの設置等、利用者の声に応えて利便性を高めてきました。そして、2007年度にはユビキタス情報教育環境の普及を踏まえ、教材作成におけるICT支援体制の構築とICT利用の一層の促進を図るために、教材資料の電子化支援機能を当施設に移設したのに加え、授業用PCや周辺機器等の貸し出しによる授業運営支援および利用者支援、学生用PCの設置等が追加され、本学の情報教育システムにおいて重要な役割を担うようになりました。
2007年度にはラーニングスペース(5室)とオープンスペースに加えて、カウンター、教材作成スペース等が追加され、さらに2009年度の情報教育システムのリプレース時には、オープンスペースのPC(10台)および教材作成室のPCの更新と増設も行われました(図1参照)。
図1 ラーニングクロスローズの配置(2009年)
ラーニングクロスローズの最近の利用状況を、ラーニングスペースについては申込台帳から、オープンスペースと教材作成スペースについてはPCのネットワークへのアクセスログから捉えてみました。
それによると、2009年度のラーニングスペースの利用実績は(図2参照)、ゼミの研究発表大会に向けての準備や演習論文のまとめなどのため、10月から12月にかけて活発に利用されたことがわかります。さらに、2010年度前期は2009年度に比べ、その利用がほぼ増加傾向にあることも分かります。
図2 ラーニングスペース利用実績
次に、オープンスペースの利用件数では(図3参照)、授業期間中の利用が多いこと、そして年を追って利用が増加傾向にあることがわかります。
図3 オープンスペースPCアクセス件数(学生)
教材作成支援のPC利用についても同様の傾向が見られますが(図4参照)、特に2010年度に入ってから利用が大きく伸びています。さらに、ラーニングスペース、オープンスペースのいずれにおいても2009年9月のリプレース後、ほぼ一貫して利用件数が増加しています。
図4 教材作成支援PCアクセスログ件数(教員)
以上のように、ラーニングクロスローズの利用は教員、学生とも増加傾向にあることから、当初のねらいをある程度達成できているのではないかと思われます。今後、さらに本学のユニークな取り組みとして、ユビキタス情報教育環境や教材作成支援機能の充実を図っていきたいと考えています。
クラウドコンピューティングが大きな注目を集めています。これは本学が目指すユビキタス情報教育環境の実現にも大きく寄与するものと期待されますが、一方でデータの機密性保持などセキュリティ面での不安が強く指摘されていることも事実です。したがって、大学が管理する重要な教育学習にかかわる情報資産のセキュリティを確保しながら、いかに利便性を高めるかが今後の情報教育システムの基本的な課題となります。これに関連して、本学では今後次のような点を予定、あるいは重点課題として認識しているところです。
1)第一ステップとして、本学ではGoogleのEducationサービスを用いて、2010・2011年度には全教職員のGmail利用を可能にするとともに、2011年度後期からは現在提供しているActive Mailの契約が満了を迎えることから、全学生のメールをGmailへ移行します。これにより、メール利用の信頼性・利便性を向上させるとともに、年間3,000万円以上のコスト削減も可能になります。
2)次に、ユビキタス情報教育環境を実現するインフラとして、学内無線LANを拡充していきたいと考えています。無線LANについては、これまでも計画的に設置を進めてきましたが、学内すべてをカバーするには至っていませんし、教室内では多数のアクセスにも対応できるように増強する必要もあります。これにより、これまでのPC教室を前提とした情報教育システムから多様な端末を中心とした自由度の高いシステムへ移行でき、情報化投資の大幅な削減に結びつくことが期待できます。
3)さらに、2009年度のリプレースでの答申でも指摘されていた点ですが、現在学内からのみアクセスが認められている共有ドライブおよび個人ドライブについて、学内無線LANや学外からのアクセスを可能にしたいと考えています。共有ドライブ、個人ドライブのデータの受け渡しが自宅等から可能になれば、教員・学生とも利便性が格段に向上します。ただし、保存されているデータの重要性を考慮して望ましい形態を模索していく必要があります。
4)ユビキタス情報教育環境の下では、電子化された教材が一層その利便性を高めることになります。ただ、ICT教材の作成には得手不得手があることから、特に不得手な教員については積極的に作成・利用のための支援を強化していくことでユビキタス情報教育環境との相乗効果を高めていきたいと考えています。
5)ユビキタス情報教育環境および電子教材の充実により、教室の設備もそれに対応させていくことが必要になります。本学ではこれまでの情報実習室以外の普通教室を対象に計画的にマルチメディア対応を図ってきているところですが、教室により設備が異なり、教員のニーズとの間にズレが生じる場合も見られました。今後はPCを中心としたユビキタス情報教育環境への対応を進めることで、利便性の向上と情報化投資の軽減に結びつくものと期待しています。
その他にも多くの課題がありますが、安全で快適なユビキタス情報教育環境の実現に向けて取り組んでいく所存です。なお、本取り組みは、将来はOCW(Open Course Ware)への道を開いていくことになると考えています。
最後に、本稿では紙面の都合上、Moodleを用いたシステムの構築など、本学のeラーニングへの取り組みについての紹介を割愛させていただきました。
参考文献 | |
[1] | 次期情報教育システム検討委員会:次期情報教育システムリプレイスコンセプトについて(答申). 2008. |
[2] | 富士通Webページ、導入事例:龍谷大学 http://fenics.fujitsu.com/products/casestudies/2010/ryukoku/ |
文責:龍谷大学 情報メディアセンター長 寺島 和夫 |