巻頭言
冨士 隆(北海道情報大学副学長)
この地球上で、異常気象が至るところで起きている。この冬、ヨーロッパは寒波に見舞われ、スキポール空港など主要な空港が雪のため閉鎖し、旅行客は大混乱した。また、本学の所在地である江別市や隣接する札幌でも、大雪による交通渋滞に陥った。その原因は、これまで経験したことのない短時間に大量の降雪があったためである。これまでの降雪には対応できる除雪体制ではあったが、ゲリラ豪雪には対応できず混乱したのである。
我々を取り巻く環境も大きく変わりつつある。学生の多様化とモチベーションの問題である。18歳人口の減少によって大学全入時代を迎え、基礎学力の教育が必要な学生や、大学で学ぶ目的を気づかせる必要のある学生が増加している。一方、国際化への対応もあり、教育の質の保証が求められている。このような環境の変化には、従来の、組織、制度、システムでは、対応が難しく、教育イノベーションが求められている。
コンピュータが企業に初めて導入されたのは、1954年である。米国GE社のケンタッキー州の工場の給与計算に利用された。以来、57年間、企業では、コスト削減や競争優位性の実現のためにITを利活用し、経営環境の変化に対応してきている。
大学は、その埒外にあるのだろうか?歴史のある授業では、世界第二次大戦のヨーロッパ戦線の状況を、ゲームを利用して擬似体験させることで、学生に歴史への関心を持たせる工夫をしている。また、プログラミングのある授業では、プログラム言語を教える前に、プログラミングした成果物の動作を、ICTを活用し視覚化することで、プログラミングへの関心を高めている。ほとんどの授業は、学生の予習を前提に行われ、授業後は、アサインメントが与えられるので、個々の学生の学習管理を効率的に行うためにLMSが利用されている。このようなICTを利活用した授業は、現在、多くの米国の大学で実践され、効果をあげている。
本学では、平成17年度の現代GPで「学生の多様化」に対応するプロジェクトを立ち上げ、3ヵ年で「学習者適応型eラーニング(polite)」(http://www.code. ouj.ac.jp/archives/1217)を開発した。学習者の理解度に応じて、初級・中級・上級の教材で学べる機能、インタラクティブな問い合わせ機能、効率よくノートが取れるeノート機能などがあり、学習の成果は、ラーニングポートフォリオで個々の学生が確認できるようになっている。従来の対面型授業との学習効果を評価した結果、同等あるいはそれ以上の効果があることから、現在、IT関係の科目の一部はpoliteを利用した授業で行われている。
また、「教育の質の向上」を目指して、平成20年度からFD委員会を設立し、授業の改善のための取り組みを全学的に開始した。平成20年度の教育GPにも採択され、「ICTによる自律的FD推進モデルの構築」に取り組んでいる。本学のFD活動の特徴は、ICTを利活用して教育の質を向上させる点である。授業改善のためのPDCAサイクルを組織的に行うために、FD支援システム(CANVAS)を開発した。授業の改善に必要な情報は、ファカルティポートフォリオというデータベースに蓄積され、共有される。例えば、学生による授業評価アンケートやピアレビューの結果は、時系列にいつでも把握することが可能であり、自らの授業の様子は、自動的に教室のカメラからファカルティポートフォリオに蓄積され、それを見ることで授業の改善に役立てることができる。授業改善のための研修会も、ビデオ・オンデマンドで閲覧できる。また、システム開発と併せて、外部アドバイザーによるカリキュラムの見直し、GPA制度、チュータ制度、Own Teacher制度、学生FD、学生による授業評価アンケートやピアレビューの改善などの制度の確立を進めている。
企業でも大学でも同じであるが、組織でイノベーションを実現するには、意識改革が求められる。そこには、個々の教員のパッションと協力が不可欠である。「私情協」という場が、ICTの利活用と教育イノベーションに関する情報を共有し、コミュニケーションを深めるという意味で、ますます重要になっているのではないだろうか。