教育・学習支援への取り組み
創価大学は、元々教育者であった創価学会初代会長牧口常三郎、2代会長戸田城聖の遺志を継ぎ、第3代会長池田大作によって、一人ひとりの人間における価値創造を目指す人間教育を実現する場として、1971年に東京都八王子市郊外に創設されました。開学当初は、経済学、法学、文学の3学部でしたが、その後、キャンパス内の施設を拡充しながら、教育学部、工学部、法科大学院、教職大学院等を増設し、現在では、学部生、大学院生、別科留学生を含め、約8,500名の学生がキャンパス内で学んでいます。また、同じキャパス内に500名が学ぶ女子短期大学、在籍者数1万8千人を擁する通信教育、東京都小平市の創価高校・中学・小学校、また、大阪府交野市の関西創価高校・中学校・小学校、米国カルフォルニア州オレンジ群のアメリカ創価大学等とも連携しあいながら様々な教育プログラムを展開しています。
他の多くの大学と同様、教育用の計算機環境は、1970年代の大型計算機のバッチシステムに始まり、TSSシステム、パーソナルコンピュータ、ネットワークと発展してきましたが、プログラミングやデータ整理、データベース利用を越えて、本格的に幅広い科目で、教育・学習支援として取り組み始めたのは、ここ7年ほどのことです。インターネットとパソコンの普及によって、学生も教員も生活の様々な場面で情報通信技術(ICT)を利用するようになり、教育支援についても内外において様々な取り組みがなされてきましたが、当初は他大学における先行の取り組みを参考に、それらの経験をもとに登場したいくつかの製品版の教育支援システムが試みられました。また、授業資料の配付や、レポートの収集については、大学の総合情報センターや、個別の教員の手作りのWebページがいくつか試されていました。
2004年には、その後のシステムの普及・発展を見越し、教務と情報システム担当の教職員を中心に、 創価大学全体としての教育・学習支援システムの取り組み方について議論を進め、既存の製品版システムの機能の一部を取り込みながらも、独自のシステムを組むことを決定し、2005年から開発開始、2007年には学部学生を対象にサービスを開始しました。
一方、工学部情報システム工学科でも、独自の学習支援システムの研究が進められてきました。学生の主体的な学習を促すため、学生自らが授業内容についての問題を作成し、問題の評価も含め、教員・学生間だけでなく、学生同士が相互に協調的に学習を進める仕掛けづくりと、実際の授業での利用を通した評価を行っています。
また、授業コンテンツの収録やマルチメディア資料の作成については、帝塚山大学を中心とするインターネット教育支援サービスTIESの共同プロジェクトに参加し、これらのシステムを統合的に利用するシステム環境の整備を進めています。遠隔授業についても、近隣地域の産官学連帯組織であるネットワーク多摩における大学間単位互換制度の一貫として相互授業配信に参加してきました。
以下では、ICTを活用した教育・学習支援の取り組み、特に創価大学が独自に取り組んできたアプローチについて紹介します。
教育・学習には様々な側面がありますが、最も時間と労力を要しているのは知識の伝達です。知識は基本的には情報の一形態ですから、ICTの力をうまく生かせば、効率的な方法や新たな方法が見つかりそうなことは、誰でも思いつくことでしょう。その前提としての利用者側の操作技能と必要な設備の充実も、2003年頃にはWorld Wide Web、電子メール、ワードプロセッサソフトの日常的な利用をとおして、教職員・学生の間に普及しました。
内外のいくつかの大学では、研究の一部として積極的に教育・学習支援システムの開発に取り組まれましたが、創価大学では、当初、全学を通しての本格的な研究・開発は行われず、それら先行する試みの中から産み出され、製品化されたいくつかのシステムを試す形で、総合情報センターと関心のある教員が中心となり、徐々に取り組みが進められました。2004年から、総合情報センターの下部組織として、教育学習支援専門委員会を設け、それらの経験を集約するとともに、創価大学としての方針を議論し始めました。議論の最初に上がったのは、それまでの多くが「教育支援」を謳っているのに対し、「学生のための大学」をモットーに掲げる創価大学としては、学習者の立場に立ったサービスに重点を置くべきとの考えから「学習支援」を第一に考えようということでした。
それ以前にも、工学部の教員の中には、独自に教材のWebページを作成したり、電子メールによる課題の出題とレポート受付などの試みがあり、また、文科系の一部の教員からの要望に応える形で、総合情報センターがWebページからの授業資料のダウンロード、共有フォルダの管理など、簡単な仕掛けを運営してきました。
教育・学習支援システムには、図書館や教務関連の事項、あるいは情報系科目等、既に情報化が進んでいたサービスとの連携も不可欠で、きめ細かなサービスを工夫しようとすると、教育・学習支援システムにも、それに応じた柔軟性が要求されることになります。専門委員会での議論の中で、既存の製品版のシステムでは、その開発母体となった大学の事情には適応できていても、創価大学で既に実施されている交換留学、資格取得支援、転入学・転学科など様々なサービスに適応するには、独自の変更が必要で、今後、新しいサービスを始めようとするときにシステムの機能の制約が足かせになる可能性があり、製品システムを利用するよりも独自開発を目指す方がよいとの結論に至りました。幸い、総合情報センターの事務担当部署である情報システム部職員の中に、先の簡易な授業支援サービス等の経験から、ある程度のWebサービス構築の技能を持つ者が複数おり、ある程度の開発能力は備えていると見込んで、2005年から開発を開始しました。とは言え、図書館や教務などのすべてのシステムを自前で開発するほどの余力はなく、各部署でも独自の工夫により、外部のシステムを利用したサービスを提供し始めていましたので、独自開発のシステムは、「学習支援ポータル」として、他のサービスを利用するための入り口としての役割を持たせることにしました。
2007年の運用開始当初は、機能的にはまだ極基本的なものしかありませんでしたが、その後、様々な支援機能や他システムとの連携を強化し、今でも、オンラインや窓口に寄せられる教員・学生からの要望に応える形で、定期的に開かれる専門委員会で関連部署とも調整を取りながら日々サービスの充実に向けて改良を続けています。
基本的な機能は、学生それぞれの履修・成績管理、時間割の管理など教務事項との連携、各授業科目におけるシラバスの参照、休講・補講情報、資料のダウンロードや関連サイトのリンク集、課題の提出、小テスト、アンケート、フォーラムなどです。また、教員向けの支援機能として、シラバス入力、事務手続きのオンライン化、必要提出書類のダウンロード、自己点検のための業績一覧更新なども徐々に取り込んでいます。学期末にほとんどすべての授業科目を対象に実施される授業アンケートの携帯電話による入力や、集計結果の閲覧、結果へのコメント入力等も、このシステムに取り込まれています。
図1 創価大学学習支援ポータルサイトPLASのトップ画面
学内のパソコン教室で利用する場合は、ユーザ名とパスワードは自動的に入力済みの状態となります。
ログインすると利用者ごとの画面に変わります。
2010年からは学生証ICカードによる出席確認システムと夜間・休日の入退室管理システムが導入されましたが、教務関係システムとの連携にも独自開発の強みを発揮して、統合化とユーザインタフェースの統一化を進めています。
創価大学生の教育に対する関心は高く、教育学部生でなくとも、教員志望あるいは教育関連業界志望の学生が少なからずいます。工学部情報システム工学科にもICTを活用した教育システムに関心を持つ学生がおり、もともとはネットワークサービスやセキュリティを専門の研究領域としていた勅使河原可海教授の研究室では、2000年頃から、新しい教育・学習支援システムの提案と実証実験に取り組んでいます。その中で産まれた成果の一つとして、ここで紹介する「学生が協調的に作問可能なWBTシステム」 CollabTest (コラボ・テスト)があります。WBTは Web-based Tutoring、つまり、Webサービスの一種として実装された個人教授という意味です。元は、大学院生であった高木正則博士(現、岩手県立大学講師)が開発したシステムで、彼の博士論文になりました。博士取得後も3年間は助教として創価大学に残り、プロトタイプだったプログラムコードを、より汎用的で拡張可能なものに改訂したり、全学の授業での利用を想定した大規模な利用にも耐えるような改良も加えました。また、いくつかのスタイルの異なる典型的な科目に実際に利用するなどの経験を経て、多くの改良と拡張がなされました。
2007年に文部科学省の現代GPに採択され、大学の教育・学習支援センターの中にICT活用教育推進部を設置、専任職員1名を配置し、大学院生のティーチングアシスタントを科目ごとに配置して授業での積極的な利用と改良を進めています。実用化と拡張のためのシステムの再構築も、この支援プログラムの資金的援助を得て、外部のソフトウェア開発企業との共同作業により可能となりました。
基本的には「自分で問題を作成し、みんなで問題を評価する」システムです。最初の研究動機には、教育・学習支援システムのコンテンツ作りを助けるという目的があったようですが、問題を解くだけではなく学生自らが作ることで理解を深めるという効果も大きいようです。学生の積極利用を動機付けるためにポイント制を導入しています。受講学生を少人数のグループに分け、作った問題をグループメンバーで相互に評価します。練られた問題を教員に提出するとポイントを獲得することができます。また、評価(コメント)したりオンラインテストに採用されたりしてもポイントを獲得することができます。ポイントと成績の関連付けは、担当教員の判断に任されています。問題は、問いと解答の選択肢からなっています。解答は選択肢の中から一つだけを選ぶ択一式と複数選択式から選ぶことができます。また、関連する画像を貼付けることもできます。Webサイトにアクセスさえすれば、いつでもどこでも問題の作成や解答することができ、同時にグループメンバーとコミュニケーションをとることができます。利用方法の伝達については、学生、教員それぞれのためのマニュアルを用意するとともに、学生用にはFlashアニメーションを利用した説明をWeb上で参照できるようにしています。
2008年度春から運用を開始しました。当初は、工学部で開発されたこともあり、知識や技能の習得を主な目的とする授業が想定されていましたが、文科系では、学生が自らの調査と意見に基づいてディスカッションを行うことに重点を置く授業科目もあり、知識を問う小テストより、フォーラムのような議論の場が重要な場合にも対応することが検討されました。一つの解決策はBLOGの機能を取り込むことで、これは、他でも広く利用されているBLOGツールを組み込むことで実現されました。
運用を開始してからの追跡調査では、使用しなかった年度に比べ、期末における試験成績が明らかに向上するケースがほとんどで、効果があることが実証されました。ただ、受講した学生の意見は様々です。パソコン教室を利用しない講義科目では、授業時間外での利用になり、一種の宿題となるため、ある意味で強制的に予習復習を課すのと同じことになります。もともと、科目に関心の強い学生には予習復習は当然と受け取られますが、関心がそれほどでもない学生にとっては面倒なことと感じるようです。科目への関心を高める工夫も同時にあれば、さらに効果が上がるものと思われます。
インターネットを活用した新たな試みもなされています。CollabTest の英語版を作成し、英語の授業をアメリカ創価大学と共同で行おうというのが、その一つです。昨年、最初の授業が行われましたが、米国人あるいは米国に留学した学生と、八王子キャンパスで学ぶ日本人学生との授業への取り組み方あるいは意見を述べることの積極性の違いが如実に現れる結果とはなったようですが、特に、八王子キャンパスの学生には良い刺激になったようです。また、時差の問題があるため管理側が苦労するという点にも何らかの工夫が必要なようです。
図2 学生が協調的に作問可能なWBTシステム
CollabuTestのトップ画面
教育には丁寧に手を入れれば入れるほど成果も上がります。それには人と時間が必要です。ICTを活用した教育・学習支援システムは、その効率の向上と新しい形のコミュニケーションの場を提供してくれます。システムの運用に人手がかかるのは当然ですが、手をかければかける程良いという原則はシステムを導入しても同じことです。年々、学生のパソコン操作のリテラシーの向上とともに、かつてあったようなタイピングから教えるなどということは、多くの場合大学では必要がなくなりましたが、新しいサービスは、まだ誰もがすぐに使えるというわけではなく、基本概念や操作について補助をする人が絶えず必要とされています。ここで紹介した CollabTest も、受講者数が10名を越えると、補助無しに授業担当教員だけで運営するのは難しくなります。今までは、現代GPや、その後勅使河原教授が獲得した当該研究課題に関係する科学研究費補助金による資金的援助で、大学院生をアシスタントとして雇うことができていましたが、いつまでも外部援助を充てにするわけにはいきません。学内の仕組み作りもこれからの課題となります。
システムの機能は、教育内容の変化、教授法の変化、それらに伴う現場からの改良の要望、新たなサービスとの連携や、スマートフォンなどの新たに普及し始めたデバイスの活用など、日々、改良と拡張が続けられていくことになります。また、これを怠っては、システムの継続的な活用はできません。システムを変更する技術的な能力とともに、全体を眺めた上でのシステムとしての統一性や将来性の判断も重要で、今後とも、学生第一に、現場の各部署の意見を聞きながら、よりよいものにしていきたいと思います。
文責: | 創価大学 |
総合情報センター長 畝見 達夫 |