巻頭言
滝澤 正(上智大学学長)
上智大学は、2013年の創立100周年に向けて、「世界に並び立つ大学」を目指して建学の精神に立脚した上智大学ならではの教育を一層活発に行っていこうとしています。この上智モデルは三つの価値の実現として集約できますが、それぞれにつき情報教育との接点を含めて述べてみたいと思います。
第一に、イエズス会によって創設された大学として、キリスト教ヒューマニズムに基づき、他人への奉仕を通じた自己実現を目指しています。上智大学は「Men and Women for Others, with Others(他者のために、他者とともに生きる)」をモットーとして掲げ、自分自身のためだけでなく、地球的な視野に立って貧困、飢餓、環境、差別などの問題に積極的に貢献する人を育てようとしています。具体的には全学共通科目に「キリスト教人間学」という科目群を設けて、選択必修と位置づけています。教育方法としては、少人数のクラス編成によりレポート、リアクションペーパー、発表、討論などを通じて学生が主体的に考える授業を展開しています。またその際に学術情報の入手、選別、分析能力の開発という情報教育が具体的場面を通じて同時に目指されています。
第二は、グローバル社会に対応できる能力(global competency)を養成することです。ますます国際化が進展する社会の中で、自在に活躍できる資質をはぐくむことを考えています。上智大学は、世界50カ国から900名を越える留学生を受け入れており、他方で世界の36カ国140校と交換留学、学術交流協定を締結しています。こうした実績をもとに文部科学省により国際化拠点大学(Global 30)の13校の一つに選ばれています。しかし一層肝要なことは、その背景にある教育理念です。国際化に関しては、「語学の上智」とかつて呼ばれていたことがありますが、我々はこれに満足してはいません。英語を自在に操ることができるということは、英語が世界の共通語になりつつある現在、不可欠な能力でしょう。しかし同時に英語以外の外国語にも通暁し、言葉の背景にある多様な文化を理解することが期待されます。また外国に関する知識をもつだけでなく、自国の文化を発信することができることも必要です。世界で生じている政治、経済、社会問題をグローバルな視点で捉える能力も重要です。具体的には、国内では留学生との交流の各種プログラムの企画があります。国外では本格的な留学のほか、海外短期語学講座、海外短期研修、グローバルリーダーシッププログラム、サービスラーニングプログラムなど多様な選択肢を設けて、能力向上を支援しています。これらの企画へのアクセスには、情報処理への習熟が欠かせません。
第三は、学際的な学びを支えるネットワーク(multidisciplinary network)の構築です。一方において教える側の対応として、専門分野の枠を超えた複合的な科目をとりわけ全学共通科目として積極的に展開しています。ここに位置づけられる情報リテラシー教育については、これまで全員に必修としていましたが、入学前から十分に情報機器を使いこなすことができる者が多くなったこと、知識に差が大きいことから、一律の対応をやめて、各人の能力と習得したい情報技術に応じて自由に選択させる方式に本年より切り換えています。他方において学生側の対応として、学生が関心ある科目を自主的な判断で文系理系といった学部学科の枠を超えて、また日本語による授業と英語による授業の壁を越えて、広く受講できる仕組みを整備しています。クロスリスティング制度はその代表例ですが、こうしたことが可能とされる背景としては、すべての授業が本学では一つのキャンパスで実施されていることの利点を最大限に生かした結果です。