特集 教育情報の公表
林 徳治(立命館大学 情報化推進機構 副機構長)
立命館では、公正な学園運営や教育研究での社会的説明責任の透明化(可視化)を果たし質向上に資する目的として「学校法人立命館情報公開規程」(2010年)が制定されています。本規程では、大別して情報の公開と開示を区分しています。公開とは、公開の対象とする者が容易に情報を閲覧できるように公表することです。開示とは、本規程に定める開示請求手続きに基づき、情報を示すことです。とりわけ教育研究上での教育情報は多岐多様に亘り、個人情報等の観点から情報の公開や開示について慎重に扱うことは言うまでもありません。今日ICTの進展に伴い、従来の紙ベースに変わり、Webによる電子情報の情報公開・開示は、極めて有益です。そこで本学では、建学の精神、学園ビジョンの概要、教育方針、校友会、アドミッションポリシー等の法人基礎データの一元管理の取り組みの一環として「データで見る立命館」として立命館法人基礎データ集を制作しました。学園規模が広がりを見せる中、教職員一人ひとりが学園動向をいち早く知る手段の一つとして非常に有用です。
教育情報では、授業支援(LMS)、ポートフォリオ(教員、学生)、教務(シラバス、成績)が連動した横断的な統合型システムの検討に入っています。この結果、学生を入学から卒業まで(卒業後も)各種データの一元管理のもとで学生や教職員が必要とする情報を容易に入手できます。これにより大学の教学改善として求められているAP(Admission Policy )、CP(Curriculum Policy)、DP(Diploma Policy)の実現に向けて大いに期待できます。
本学では入学時から卒業時までの学生の「学びの実態調査」を実施し、これから得られたデータを基に確かな人材育成に向けてのIRプロジェクトとして取り組んでいます。ここで扱うデータは、入学時の成績(入学試験等)、在学中における各学部や学科での成績状況、進路に向けての意識、学習意欲、アルバイトや課外活動等生活面も関与するため多方面に亘ります。個々の学生の変容を把握するために氏名等個人情報が必要であるため学部や学科での意向や承諾による共通理解が不可欠です。ここで大切なことは、これら学生個人の教育情報が日々更新、蓄積され、教職員がいかに個々の学生に応じた診断データとして活用できるかです。
公開情報や開示情報の作成は、以下の点に留意しなければなりません。一つは、社会一般や利害関係人を問わず、誤解や不安を防ぐために対象者の視点に立ってわかりやすく簡潔に概要を表記することです。二つは、個人情報等不開示情報が含まれている場合は、その部分を除いた形で公開することです。三つは、各大学間での情報のレベルを比較し配慮した情報の平準化が求められます。
情報公開をめぐっては、国民主権の理念や知る権利の保障に基づく行政機関の情報公開や組織の社会的責任に基づく利害関係人等への情報公開の制度化が今後ますます整備されるでしょう。今回の東北地方関東地域における大震災での原発事故においても、様々な情報が錯綜して混乱しており、一般社会や当地の利害関係人を対象とした情報公開や開示のあり方についても多くの課題が山積しました。大切なことは、組織を取り巻く人間が横断的に情報を扱う目的を共通理解し、日々更新される各種データのチェックや更新を怠らず、情報提供を受ける一般社会や利害関係人を問わず、対象者の視点に立った適切な情報の可視化を通して疑問や課題解決に向けた思考や行動に役立つ情報の提供が大切です。このことは、広く外部評価による学園の自律や健全化を示す指標となる広報戦略としても有用であり、さらに構成員による教育研究の質向上に大きく寄与するものです。今後は、これら教育情報のステークホルダー、セキュリティ、教職員を対象とした教育情報の扱いに関する各課での情報公開担当者の設置、情報に関するFD・SD研修を通して成熟した組織の構築がキーになるでしょう。