人材育成のための授業紹介●リベラルアーツ

LMS(Blackboard)を活用した教育

照屋 さゆり(玉川大学 リベラルアーツ学部リベラルアーツ学科准教授)

1.はじめに

 玉川大学リベラルアーツ学部は、2003年度に文学部リベラルアーツ学科として発足し、2007年度にリベラルアーツ学部として独立した玉川大学では7番目の新しい学部です。各学年約200名、約800名の学生が在籍しています。
 求める学生像として

1) 広い視野のもと、的確な判断力、考え抜く問題解決能力があり、積極的かつ協力的に社会に関われる人。
2) 基礎基本を土台に専門性を身につけ、様々なプロジェクトを実践・推進できる人。
3) 英語・日本語・デジタルコミュニケーション力があり、学びの成果を様々なかたちで社会に発信できる人。
4) 生涯教育を可能にする「ラーニング・コミュニティ」を意識し、生涯にわたり学び続ける意志を持ち、社会にその知識を還元・推進できる人。

を掲げ、将来のキャリア形成を意識しながら、時代の変化に柔軟に対応できる調和のとれた人材を育成するために、実験、実習、調査、フィールドワークなどの体験型学習を積極的に取り入れ、地域や企業、学校などとの連携を計り、社会的経験を積むことを重視しています。
 玉川大学では1998年より10年の長期計画によるネットワーク環境やシステムの構築を進め、2004年度からは全学的にLMSシステムのBlackboardを導入し、様々な活用を推進してきました。リベラルアーツ学部では特に学生一人ひとりがノートPCを携帯し、様々な授業での活用を推進しています。本稿ではその中から、特長的な利用について紹介します。

2.Blackboard活用の状況

 全学での活用状況は年々増加しており、2010年度秋セメスタ時の活用率は48.6%です(図1)。 その中でもリベラルアーツ学部での活用率は図2にあるように、71.4%と高くなっています。

図1 Blackboardシステムの活用率推移
図1 Blackboardシステムの活用率推移
図2 2010年度秋セメスタ 学部別活用率
図2 2010年度秋セメスタ 学部別活用率

3.導入科目での活用

1) 1年生の必修科目である「English Communication I/II」」 (5単位/セメスタ)は形式の違う構成で英語の「読む、書く、聞く、話す」の4技能をバランスよく学ぶことを目標としていますが、この授業を補完する形でオンラインイングリッシュコースをBlackboard(以下Bb)上に独自に作成し指導しています。毎週リーディングとリスニングの教材が掲示され、教材は1週間いつでもアクセス可能で、学生は何度でも英文を読んだり、音声ファイルを聞くことができます。学習後は毎週末までに20〜40の設問に答える課題が用意されています。4週ごとに授業内でこの教材を中心としたリスニングテストを実施し、学習成果を確認しています。
   
2) 同じく必修科目である「リベラルアーツ入門」(2単位)は、リベラルアーツ学部7メジャーの各分野の教員が各専門分野はどのような研究分野か、最新の研究状況などを紹介するオムニバス形式の科目です。この授業では講義内容をすべてビデオ録画しており、授業後にBbコースに掲載されます。やむを得ず講義を休んだ学生や、最終レポートをまとめる際にこのビデオを視聴することで、講義内容を何度でも確認することが可能になっています。また、毎回提出するリアクションペーパーに記述された質問事項の一部は授業内で担当教員が回答しますが、授業内におさまらなかった質問への回答は授業後Bbコースで全学生に回答が提示され、復習等に役立てられています。
   
3) その他、授業外においてもボランティアグループの活動や、海外からの短期研修生とのプロジェクト、新入生研修時のグループ活動、ガイダンス内容の指示、セメスターごとのポートフォリオの作成など様々な場面でこのBbが利用されています。

4.ITはコミュニケーションの道具

 リベラルアーツ学部では、英語、日本語、デジタルの三つのコミュニケーションを基礎力として重視しています。IT機器の利用はその道具として活用できるよう、多くの場面で活用を推進しています。
 1年生終了時の授業アンケートによると、「Bbは十分に活用したか」との問いに97%の学生があてはまると回答しています(図3)。
 自由回答においては、

Bbがなくてはならない生活になり、毎日PCを活用した。
パソコンを使って課題を提出するなど、今までではありえないことでしたが、すべて自己管理する大学ではいいことだと思いました。そのような中でパソコンを使う機会が多くなったのでパソコンの使い方やスキルも今まで以上に良くなったと思います。
入学当初は、パソコン知識がゼロに近かったが一人でもパソコンを使いこなせるようになった。

と回答しており、徹底してパソコンを利用していることが確認できます。
 2年生終了時のアンケート(図4)では直接はBbの利用が減少するものの自由回答では、

昨年よりは使いこなせるようになった
日常的にパソコンを使用するので、スキルアップにつながったと思う。
あらゆる場で、パワーポイントを使っての発表等があり、少しずつ着実にスキルが上がっていることを自分自身でも感じることができた。
大学入学前には、家にパソコンすらなかったため周りとのレベルの差を負担に感じていたが、授業で利用することが多いためとても勉強になる。

 と回答しており、1年次に定着したIT利用がBbの利用だけではなく、プレゼンテーションなどの応用に変化していることがわかります。

図3 1年次アンケート結果   図4 2年次アンケート結果
図3 1年次アンケート結果   図4 2年次アンケート結果

5.専門科目(教科指導法)での活用

 リベラルアーツ学部では、教職課程として中学・高校の国語および英語の教育職員免許状を取得することができます。3年次より開講されている教科指導法(2010年度は国語科指導法35名、英語科指導法24名)では、学生の模擬授業を中心に授業が行われています。この模擬授業をビデオ撮影し、授業後にBbコースに掲載しています。
 模擬授業担当者は事前に授業案や資料をBbコースから全員に配信し、授業参加者は各自で印刷した資料を持参して授業に出席します。模擬授業終了後は全員でのディスカッションをBbコース上で行ったり、各自の批評を書き込んだりしています。担当者は自分の模擬授業をビデオで確認することができ、模擬授業実施時にはわからなかった授業時の表情や、しぐさなども細かく確認することができます。また、教員から書き込まれる注意点や批評などは、全参加者への指導につながっています。

6.学外実践実習での活用

 リベラルアーツ学部ではキャンパス外での様々な学びの場を提供し、現場で学ぶことを奨励し、「学外実践実習」として単位認定しています(135時間3単位)。学生は各自の計画に応じて研修先を決定し、事前承認を経た後に実習を開始します。実習後は報告書をまとめ、報告会を開催し、外部評価も含めて総合評価される仕組みです。
 学外での実習を把握、記録する仕組みとして、これまでは、「実習ノート」等と呼ばれる実習日誌、実習報告書等を手書きで記録することが行われてきました。Bbを利用したプログラムでは、実習開始前の手続き(実習先との覚書、実習計画)から、実習中の実習記録、実習後の報告書作成、報告会資料作成、外部評価、提携先とのやりとりなどをBlackboard システムのポートフォリオ機能を利用して行っています。
 学外実践実習という取り組みは、あらかじめ用意された授業を受講するのではなく、どのような場所で、どのような取り組みを行うかという活動の企画から、活動の実施方法、期間、活動に関わる手続きなどの一連の項目に総合的に取り組むプロジェクトです。特に学外での活動においては、毎回教員が出向いて指導するということができないため、実施にあたっては、入念な計画と、自己責任が伴います。これらの活動を学内からも常に支援することができるようにネットワークを利用したシステムを構築しています。

◆学外実践実習におけるシステム利用略

1) 利用フォームをダウンロード
予定表、出勤簿、実習日誌等
2) 実習中 実習日誌を記述し各自のポートフォリオエリアに保管(1日1回)
記録は実習担当者・大学側指導者も閲覧可能
必要に応じて指導、相談を行う
3) 実習終了後 報告書作成
4) 最終報告書はWeb形式のポートフォリオとしてまとめ、実習担当者、大学側指導者等に送付配信し、コメント等を取得
5) 最終評価を受ける

◆Blackboardシステムの利用
 実習終了後の報告書作成では、eポートフォリオ作成機能を利用して、様々な記録をまとめて一つのWebサイトとして報告書を構成することができる仕組みを利用しています(図5、図6)。
 この仕組みを利用する利点は、作成したWebポートフォリオを簡単に多くの人に公開、共有できることにあります。Webサイトとして公開したアドレス(URL)を必要な評価者にメールで知らせることが可能で、共有にあたっては、パスワードを使用することや、共有期間を定めることも可能です。
 評価者は自動的にWebサイトに加えられるコメント欄を利用し、報告者へのコメントを記述することができます。そのため、外部の担当者に評価に加わっていただくことが比較的容易です(図7)。

図5 個人アーチファクト(最終ポートフォリオに含める学習成果物の保存)
図5 個人アーチファクト(最終ポートフォリオに含める学習成果物の保存)
レポート文書、写真、動画など成果物を記録。
この中に記録されたファイルをポートフォリオに含めることができる。
図6 作成されたWebポートフォリオ例
図6 作成されたWebポートフォリオ例
図7 Webポートフォリオからのコメント記述例
図7 Webポートフォリオからのコメント記述例

7.おわりに

 IT機器が「学ぶための道具」または「教えるための道具」の一つとなるように様々な教科や機会を活用して利用することを推進しています。その中でBlackboardの利点としてあげられるのは教員の立場からいうと下記の点があげられます。

1) 資料配布が容易 特に音声、ビデオ等
2) アナウンスメント、一斉メールによる連絡が容易
3) 予習の指示、問題意識の喚起に役立つ
4) 事前に資料を配布し読む、問いに答えたもので授業を行うなど、予習を活用した授業が実施できる
5) 学習経過の把握が可能(アクセス状況、提出物管理)
6) 小テスト・自動採点、アンケート集計・アンケートデータの処理が容易
7) グループ活動が容易
8) 一度作成した資料は再利用が容易

 困難な点は

1) 課題の添削がWeb上ではしづらい
2) 教材制作に時間がかかる
3) 教員のITスキルがないと教材作成が難しい

などがあげられますが、玉川大学ではeエデュケーションセンターにサポートデスクがおかれ、教員や学生のサポート体制が充実しています。
 今後の課題としてはIT環境の発展とともに、システムのバージョンアップ、機能の充実、モバイル機器への対応などが期待されます。


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