教育・学習支援への取り組み

経済・社会系大学での情報化と教育・学習のあり方
〜大阪経済大学の展開〜

1.大阪経済大学の沿革と概要

 本学は、前身である浪華高等商業学校として昭和7年から始まります。その後、京都帝国大学教授であった黒正巌博士が私財をなげうち、昭和10年に昭和高等商業学校として改編し、昭和19年に一時、大阪女子経済専門学校に、昭和21年には男女共学制の大阪経済専門学校に、そして昭和24年には現在の大阪経済大学となりました。初代学長に再び黒正博士を迎えました。以来、経済・経営系大学として、大学院を含む活発な研究・教育活動が展開されています。その後、従来の経済・経営学部に加え、平成9年に経営情報学部、創立70周年にあたる平成14年には人間科学部を開設して4学部になるとともに、各学部や大学院の充実と先取的教育内容の発展を図っています。本学は今後も「自由と融和」の教学理念のもと、時代が求める大学づくりを進めています(一部本学ホームページより)。学生数は、大学院生を含めて約7,500名、夜間部生420名余りで教職員数250名余りです。PCは、サーバーを含み約1,700台(教員研究室は含まない)です。

2.教育の理念と目標

(1)ミッションステートメント
 大阪経済大学は、経済経営系の伝統を基盤に、地域社会・企業社会・国際社会との交流をさらに進め、全学一丸となって、学生一人ひとりの主体性、自発性を引き出す教育研究プログラムとキャリアサポートシステムを提供します。そのことにより、市民としての良識とたくましい実践力を備えて、世の中で活躍し貢献する多彩な職業人を育てます。

(2)教育の目標
 世の中で活躍し、貢献する多彩な職業人として身につけるべき、次のような知識と能力の育成を目指します。

国語、外国語、情報処理、コミュニケーション、リサーチ、企画、プレゼンテションなどの基礎的能力。
21世紀を生きる市民としての幅広い分野の知識と洞察力。
経済学、経営学、経営情報学、人間科学の各分野における基礎的専門知識と応用能力。
将来の目標をつかみ、意欲的に生きる人間力(本学ホームページより)

(3)教育目標の実現へ
 教育改革には全学的な取り組みが必要ですが、現状では特に組織は設けず、教学の連携と理事会の支援のもとに活発な討議が進められ、改革が進んでいます。
 学生に語学を含めた学習スキルを身につけさせるには、現実的実体的に活用できる知識と能力を育成することですが、そのためには充実した教育内容と技術、設備と組織的支援が不可欠で、何かが突出しても不可能です。校舎建て替えとともに、自学自習が可能なe-Learningを充足させ、語学での対面による一対一の教育も実現できるよう、ICTと知的学習システムの充足に向け、経営情報学部で取り組みを始めています。

3.教育目標の実現へ

 平成16年度から出席管理システムを全教室に配置し、学生証を非接触ICカードに変更し利用を開始しています。プリンター出力にも活用されていますが、証明書発行以外支払等には機能させていません。出席管理システムの活用は遅刻等の時間も含めた出席管理とポータルサイトによる担当教職員の出席チェックも行え、指導上においてもきめ細やかな対応が可能になっています。教卓PCは全教室に配備しプロジェクターとともに、授業教材提示に画像・映像Tips提示に活用されています。

写真1 出席管理システム
写真1 出席管理システム

 学内のネットワークシステムは、2系列あり、事務系システム・教育系システムに分かれ、出席管理や成績管理、事務書類関係は事務系列に、e-Learningや教材、授業関係は教育系で運用され、限定された利用者は、ポータルシステムから意識することなしに利用が可能です。
 教材作成に関しては、教員が直接教材作成支援室に支援をお願いする場合と、各部署からの依頼も担当し、ネット中継、講演・講義等、スタジオでの編集を担当しています。内容に応じてSAの活用も行っています。
 機器類の利用法や問題などは、教育システム課のサポート窓口で教職員を対象に扱っていますが、学生からの相談にも開放しています。
 運営組織としては、担当職員はもとより、教員からセンター長、各学部センター委員によるセンター会議により運営されています(図2)。

図1 ポータル画面 図2 情報処理センターの概念図
図1 ポータル画面 図2 情報処理センターの概念図

 この他、学生の授業時間外学習では、自学自習用の専用オープンルームが学内に設置され、SAが基本的なトラブルに対応しています。教科内容に関しては担当教員とメール等で相談する体制をとっており、本学は少人数ゼミ制度をとっているため、理解が進まない場合の対策として協調学習が多く行われています。

4.ICTを活用した教育の展開の経緯

 古くは中型汎用機2系列を持った社会・文系大学としては珍しい存在であった時代から、積極的にICTの試行は進めてきました。その試行錯誤から、次のステップを考え続けています。

(1)会議システムを活用した現地からの授業
 様々な業務を臨場感を得て受講学生の動機付けの促進と授業理解の一環として、平成18年から東京証券取引所にご協力いただいて場所をお借りし、取引所内部から講義を行っていただきました。LIVE中継と教室の学生との質疑応答はかなり迫力があり、学生の関心も評価も高く、証券関係への就職希望が大幅に高まったとも言われています。当時は数回線の電話回線を使い、中継のための職員の派遣も必要で、費用対効果も含めて映像で見せながら、大学にお越しいただく方がよいのではないかという論議もありましたが、大阪証券取引所上階に北浜キャンパスを開設できてから、方向が変わってきました。

写真2 授業風景
写真2 授業風景

 現在は経済界のご支援を得て、業界トップの方のお話を学生が直接聞く機会が増えていきました。このシステムは他大学との共同授業や、学内での主として複数学部間での授業科目間乗り入れ授業などでも試みが行われています。特に、式典等の状況は、ネット中継により出席いただけない学費負担者の方にも配信しています。

(2)Skypeを利用した遠隔授業と指針
 海外の協定校との交流や自主留学する学生が増え、単位や必修科目との整合性に苦しむ学生のために、卒業研究やゼミナールの学習への配慮が平成11年前後から必要になり、遠隔授業を希望ゼミが実施し始めています。教務委員会の指針に沿って「Liveであること、ゼミの他の学生との討論が可能なこと、成果が記録しておけること」を自主基準に、Skypeを使ったゼミナール中心の少人数教育の配慮を始めました。その結果、4年で卒業が可能になり、就職への活動とともに無駄がなくなってきました。
 会議システムの活用も考えられますが、今のところ高解像度で音声も支障なく、ほぼ対象としている国では、順調に簡便に進行しています。

(3)仮想現実空間の活用
 平成13年から3Dサーバーとシステムを教育研究用に一部ゼミ室に設置し、運用を始めました。主として学生たちがキャンパスとキャンパス内の建物を再現し、walkingできるもので、本学は企業の協力のもとで会話システムも組み込んだ当初から画期的なものです。10年間の運用での問題点と有効点は、現実部分のキャンパスが変更されるごとに、一部修正しなければならないことや、より現実的にするためにキャンパス外をどこまで取り入れるかです。これは、クライアントの内部記憶容量との関係で徐々に解消されつつありますが、当初は極めて重要な問題でした。さらに、会話の問題では、アバター同士の距離と関係しないので、近距離・中距離・遠方と3段階に分けて音量が半分程度や通話不可に分ける試みを始めています。さらに表示されている内部のバーチャルスクリーンを使ってe-Learning教材を見せながらバーチャル講義が可能になっています。
 同時に、企業からの支援でsecond lifeを用いた会話学習バーチャル教室を試みてきました。海外の学生と入室し音声とともに最小限ではありますが、ノンバーバルコミュニケーションが可能な空間での試みです。

5.教育への展開へ

 様々な試みは、すべて教育をより効果のある現実的な学びの空間へ姿を変えて、新たに生み出す環境をどう作るかにかかってきました。しかし、一方では従来型の教育でも人を育てるには極めて有効な方法は多々あります。
 ところが、教育内容の精緻化と増大、思考力の低下と発想力の未熟さにより、学習者の興味関心や学習動機付け、理解の向上など、各種の展開が必要になってきています。人と経費の問題からICT化を促進する必要があり、対面による授業との相度補完的利用が求められています。
 それに伴って、経済学部等では「英語教育」「e-Learning」「基礎演習」の講習会が開催され、「学生が参画する授業評価等」が進められ、全学のFD委員会と各学部のFD委員会では、教員評価報告書の作成と、GPAの導入をゆっくり無理なく足元を固めて進めています。

(1)PBLの発展授業へ
 PBLの教育方法を取り入れて、10年を越えてきました。その間にかなり変化してきています。科目名称も変化しながら、現在は「プロジェクトプラニング」と名付けていますが、「ビジネスプラニング」へ変遷していきます。
 この科目は、1セメスター15回程度で1授業を形成していますが、内容は以下のものです。

1) 小店舗を計画的に起業すること、
2) 従来型のビジネスでなく、新たなビジネスモデルや新規性のもったビジネスであること、
3) 金融機関の融資審査に適合するように種類等も準備できるように近づけることを目標に授業が展開されていきます。

 この授業では、次の四つの観点と三つの重負荷を設定してあります。
 1.グループワークを中心に進めるので(しなければできない量がある)、チーム作業をしなければならないこと、2.関連科目を理解していなければ進められないので、常に再確認再学習を進める必要があること、3.イノベートされた発想を具体化し実現する方法まで進めなければならないこと、4.授業時間では圧倒的に時間不足が生じるので、生活時間から学習作業時間を生み出す必要があること、を念頭に

1)協調学習の促進、2)学習構造構成の理解、3)創造からの具体への手法学習、4)意欲的学習の促進

を観点としています。負荷としては、

1)のめり込むまでの学習時間の重負荷、2)人間関係と協調作業の負荷、3)不十分な学習と学習の必要性の認識と補足の必要性の負荷

を与えています。

(2)PBL授業でのICTの活用
 この科目の特徴は、自律学習でかつ協調学習であること、授業1に対して予習・復習が3〜4が必要になるように設定しています。この部分を少しでも緩和できるように、ICTの利活用を多用し、連絡・調査、制作・報告書、審査申請書の作成、プレゼン・CFも含めて運用できることなど、一通りの実態を実践しながら進行します。さらに、ここでは、夢を実現できる手法や方法を、いかにすれば可能かを試みます。

6.複線型教育計画

 学内のカリキュラムや実施方法が、一律である必要はないと考えます。カリキュラムも一元化する必要もなく、学習構造を意識すればよいのです。学内の全員が同一方向を向く必要もなく、総合的なコーディネターが全体を見ていれば済むことであり、クリエイティブ・クラスの人材育成が可能にすることを考えています。
 少人数のトップリーダーを育成できればよいのですが、様々な分野が必要なので、一律教育なら、意味がないかセカンドクラスを生み出すだけのことですし、ここから大規模ブランド校ではマネのできない教育ができると考えます。

文責: 大阪経済大学
経営情報学部長 家本 修

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