人材育成のための授業紹介●リベラルアーツ

リベラルアーツカリキュラム運用でのコンピュータ活用
〜桜美林大学〜

大道 卓(桜美林大学 総合科学系長)

1.はじめに

 桜美林大学のリベラルアーツ学群が開設されて4年が経過し、この3月に初めての卒業生を世の中に送り出しました。桜美林大学全体の改組は2005年から開始されましたが、最後に設置されたのがリベラルアーツ学群です。文学部、経済学部、国際学部等を母体としながらも、自然科学系科目を強化し、本格的な総合教養教育の実現を目指して計画されました。本稿ではリベラルアーツ学群のカリキュラムの特徴を紹介するとともに、カリキュラム運用において情報環境を整備し、どのようにコンピュータを活用したのかを紹介します。本学が取り組んできた試みを少しでも参考にしていただけたら幸いです。

2.建学の精神と大学改組の狙い

 本学の建学の精神は「キリスト教精神に基づいて、教養豊かな識見の高い国際的人材を育成することを基礎とし、深く専門学芸の研究と教育を行う」です。この建学の精神を具現化するために、本学は伝統的に総合的教養教育の実現を心がけ、各種制度改革に取り組んできました。1989にはセメスター制度、他学部・他学科履修制度を導入し、1994年には学生の学ぶ視点からの学習区分(基礎、専攻、自由)を導入し、共通科目の副専攻も実施しました。2000年にはGPAとアドバイザー制度、全学の主専攻・副専攻制度を整備し、2003年には基礎教育カリキュラムを整えました。
 これらの取り組みの成果を検証しつつ、入学生の示す特徴と社会のニーズにさらに対応することを目指して、全学的な改組が計画されました。2003年9月に全学体制で検討を開始し、翌年には「桜美林大学の学士課程を2種類に分けて整備する。一つはプロフェッショナルアーツ系であり、特定の分野での専門教育に特化した教育組織、二つ目はリベラルアーツ系であり、幅広い基礎学術学習を通した総合教養教育とする」との答申が出されました。同時に、教育組織を「学群」とすることも決められました。
 最初に整備されたのがプロフェッショナルアーツ系学群であり、2005年4月には、演劇、音楽、造形デザイン等の芸術系専攻を学ぶ「総合文化学群」が定員250名で設置されました。母体は文学部総合文化学科です。翌2006年4月には文学部健康心理学科の一部と経営政策学部の一部を融合し、健康科学、精神保健福祉、社会福祉、保育を専攻とする「健康福祉学群」(定員200名)、および経営政策学部を母体としグローバル・ビジネス、IT・ビジネス、ツーリズム・ホテル・エンターティメント、流通・マーケティング等のビジネス関連を専攻とする「ビジネスマネジメント学群」(定員400名)が開設されました。全学改組の最後に総合教養教育を実現する教育組織として整備されたのが「リベラルアーツ学群」であり、2007年4月に定員950名で設置されました。母体となっているのが文学部、経済学部、国際学部、コア教育センターの各組織です。
 このプロフェッショナル系3学群、リベラルアーツ系1学群からなる4学群体制を設置することにより、桜美林大学の新しい教育体制が完成しました。学生定員からすると概ね半々に分けられています。この教育組織構築と同時に、教員組織については「学系」が学群とは独立する形式で導入されました。学群は教育組織であり、科目が設置されており学生はここで学びます。専門性を高めるための専攻プログラムが学群設置科目から必要な科目を抽出してカリキュラムとして提供されます。教員は学系に所属し、学群の授業を担当し、カリキュラムを運営することを通して学生を育成することになります。

3.リベラルアーツ学群の教育課程

(1)基盤教育

 リベラルアーツ教育の特徴の一つとして、幅広く学んだ後に専門を選択するLate Specializationがあります。本学でも世界中のリベラルアーツ教育で行われているように、2年次秋学期に専攻(Major)を大学に登録し、各自の専門の目標を明確にします。入学からMajor宣言までは、様々な学問の基礎を学びながら多角的な視野を身につけ、さらに各自の専門を模索する重要な時期になります。リベラルアーツ学群ではこの基盤教育として表1の科目(合計42単位)が指定されていますが、外国語8単位や基盤教育科目18単位などが他学群に比べ多くなっているのが特徴です。学問基礎は人文、社会、自然、学際統合各分野での学問的おもしろさを学ぶための科目であり、専攻を理解するための専攻入門も含め毎年50〜60科目程度提供されています。学生はこの中から各自の興味に合わせて科目を選択履修することになります。この単位数および自由度の多さは複雑な組み合わせを可能としているために、卒業要件に見合う科目を修得しているのか確認が必要となるものです。

表1 基盤教育

●コア科目:16単位

キリスト教入門、口語表現法I、文章表現法I、英語コアI/II、コンピュータリテラシーI

●外国語:8単位

●基盤教育科目:18単位

LAセミナー

学問基礎:人文、社会、自然、学際統合の4分野各

専攻入門

キリスト教理解

その他

注)○文字は必修科目の単位を示す

(2)専門教育

 リベラルアーツ学群にて専門性を高めるためには特定分野の専攻科目を履修することになります。学群で用意した科目は、人文科学、社会科学、自然科学、学際統合科学の4学問領域の約750科目(約2,200単位)です。これらの専攻科目の中から科目を抽出して専門性を高めるための「専攻プログラム」が設計され、学生に提示されています。学生は各専攻プログラムで指定された方法で科目修得した場合、専攻プログラムを修了したと認められ、Majorとして認定されます。Major認定の単位数は標準で40単位です。また、Majorの一部を学んだ場合Minorとして認定されます。Minorの必要単位数は24単位です。
 リベラルアーツ学群の専攻プログラム数は、全体で37用意されています(Major認定を行うものが34、Minorのみの認定が3)。表2には設置されているすべての専攻プログラムが示されています。Major/Minorの登録は2年次秋学期に行われますが、定員や何らかの制限が設けられることはなく、学生の自由意志による選択のみで登録されます。また、登録後の変更も可能となっています。これらの方針で臨んだのは、学生が独自に履修計画を作り、卒業までに学んだ結果を大学が認定するという原則を採用しているからです。
 学生は自分の専攻選択に従い、計画的に授業を履修します。その際、リベラルアーツ学群の非常に多くの授業の中から必要な授業を抽出して履修登録を行わなくてはなりません。この観点から、コンピュータによる学生の履修サポートが求められます。

表2 専攻プログラム
表2 専攻プログラム

(3)卒業要件

 卒業要件は、基礎学習42単位修得、Majorを修得(40〜44単位)、合計修得単位が124単位、さらに通算GPAが1.5以上であることとなっています。MajorおよびMinorの組み合わせとしては、Majorのみ、Majorと(複数)Minor、Double Major等様々な形態が可能であり、これらの組み合わせに関しても非常に多くの状態が予測されます。
 一つの専攻プログラムを構成する科目は、レベルと科目カテゴリーの2次元分類で提示されます。学生には履修ガイドを通し37種類の異なる科目指定(カリキュラム)が提示されています。学生は自分の意思でこの高い自由度を持つカリキュラムの中から科目を選択し、Majorを修得しなくてはならないので、ここにもコンピュータによるサポートが必要になってきます。

4.カリキュラム運営でのコンピュータ利用

(1)履修登録時の学生サポート

1) 履修登録システム

 日本システム技術株式会社のGAKUENシステムを用いて教務事務を行っています。今回のリベラルアーツ教育の運用もGAKUEN利用が前提となっています。履修登録システムの詳細は「桜美林大学のe-Campus-リアルタイムエラーチェックWeb履修登録システム-」[1]を参照して下さい。主なチェック機能としては、以下の条件をリアルタイムで確認する履修登録システムです。

所属学群(専修)、年次、時間割重複、

先修条件、履修登録単位数上限(GPA連動)

 なお、抽選科目もこのe-Campus履修登録システムにて申し込みますが、当選後は自動登録されるようになっています。

2) 時間割作成のサポート

 リベラルアーツ学群専攻科目の開講数は毎セメスター800近くになります。学生は、この科目の中から各自に必要な科目を抽出して、時間割を作成しなくてはなりません。時間割冊子が配布されますが、あまりの開講数の多さから科目を探し出すことが困難になっています。通常の学科であれば科目数がそこまで多くなく、学生の時間割作成に冊子形式の配布でも大きな問題が起きるとは考えられません。ところがリベラルアーツの学生は、専攻プログラムのどれかを選択していたとしても、Minorを構成する科目、Majorに関連する隣接領域科目、さらに特定の興味を持つ科目などを自由に学ぶ場合もあります。したがって、学生が履修登録する科目は、Majorを構成する科目だけではなく、すべての学群設置科目から選択することになり、抽出するためにはコンピュータのサポートが必須となります。
 リベラルアーツ学群が誕生して2年目には、この問題を解決する必要が生じました。1年次に履修する科目は、基盤教育科目が多く専攻科目はそれほど多くありませんでしたが、2008年度を迎え、授業時間割作成のための科目選択ツールは必須の事項となりました。
 そこで、以下のように行ってこの問題を解決しました。開講科目時間割一覧は、GAKUENシステムのデータベースに入っています。このデータを抽出してEXCELファイル形式に変換して学生に配布することにしました。このファイルにはフィルター機能を設定しておき、曜日、時限、配当年次、担当教員は当然のことですが、専攻プログラムを指定すれば、その専攻プログラムを構成している科目を抽出できるようにしたのです。学生はさらに曜日、時限等を指定すれば、各自の時間割作成に必要な情報を入手することができるようになっています。このEXCELファイルは前述のe-Campusで、学生は自由にどこからでもダウンロードできるようにしました。

(2)Major/Minor判定

 MajorやMinorの履修方法はすべて履修ガイドに記載されているので、その通りに学生が履修をすればよいようになっています。しかし、学生の履修計画作成時の自らの確認やアドバイザーの履修指導の状況になると、履修ガイドに書いてあるので、すべて解決するということは現実的ではありません。学生が4,500名いることは4,500の履修パターンがあることを意味しています。その結果、学生自身も、学生を指導するアドバイザーも、専攻プログラムを担当する現場の教員でさえも、コンピュータのサポート無しには学生の厳密なMajor/Minorの確認を行うことはできません。ましてMajor修得は卒業要件となっているので、学生の卒業判定に直結する問題でもあります。
 Major修得のための確認システムは、3年生の履修登録時には必要になってきます。そこで、2009年度から学生本人およびアドバイザーに対して、Major/Minor判定システムをe-Campus上で使えるようにサービス提供を開始しました。学生(またはアドバイザー)は判定してほしいMajorまたはMinorを選択し、チェックボタンを押します。本人の修得済み科目データおよび履修中の科目データをもとに、MajorまたはMinorの判定結果がシステムから返されます。修得済みであればその旨表示されますが、未修得と判定された場合、不足する必修科目やカテゴリー内の単位数を結果として返すシステムです(図1参照)。
 この判定システムは、学生の成績データベースおよび履修登録データを用いて行います。修得済み科目を手作業で入力することも考えましたが、やはり成績データベースを判定に用い、正確な情報を学生やアドバイザーに還元することが重要であると判断し、システム開発を行っての利用を開始しました。
 このシステムを利用することにより、卒業要件の一つであるMajor修得に関して、学生に必要な情報が個別にフィードバックされるようになり、厳密な履修計画を作成することができるようになりました。

図1 Major/Minor判定システム(メジャーマイナーチェック)画面
図1 Major/Minor判定システム(メジャーマイナーチェック)画面

(3)卒業要件チェックファイルの配布

 リベラルアーツ学群の卒業要件のうち、Major判定はシステム開発で実現し、GPAおよび修得総単位は成績表で確認できます。卒業のために確認を行わなくてはならない項目として残っているのは、基盤教育(42単位)の履修内容確認です。
 基盤教育の科目は、表1に提示したものです。この表だけで考えると、それほど複雑な条件とは思えず、システム開発を行ってMajor/Minor判定のように学生に公開することが望ましいと考えられます。しかし、以下の例外処理があり、この基盤教育科目の履修チェックをシステムで行うことは時間の問題もあり、断念せざるを得ませんでした。

 これらの異なる条件や例外に関してはシステムの判定ではなく、EXCELファイルに学生が各自の履修結果を指示に従って入力し、そのデータをもとに必要な履修ができているかの判定結果を学生に返すこととしました。図2はその画面の一部が示されています。履修免除、GOプログラム参加等の条件を選択しながら修得した単位を入力します。入力フィールドはコア科目、外国語科目、基盤教育科目、Major判定結果、合計修得単位数の5項目に分かれ、修得した科目および単位数をそれぞれ入力します。入力した結果に基づいて判定が行われ、条件を満足した場合は「○○クリア!」と青色で表示され、未完了の場合は「○○未充足」と赤で表示されます。なお、留学生向けにはまったく異なる判定を行う必要があるため、別シートを作成して提供しました。
 この卒業要件チェックEXCELファイルの配布は、3年次学生から利用できるように計画され、時間割作成のサポートツールとして学生が利用できるようにe-Campusにてダウンロードできるようにしました。

図2 判定結果の一部画面
図2 判定結果の一部画面

5.結果の評価とこれからの課題

 リベラルアーツの教育は科目数および自由度の多さにその特徴を見ることができます。この中で学生が独自の判断に基づき自由に学ぶためには、今まで述べてきたようなコンピュータを用いたサポートが不可欠になります。まだ十分とは言えませんが、リベラルアーツ教育を運営しながら最低必要と思われるサポートは行ってきました。
 最初の卒業生の実態は以下の通りです。卒業希望届け提出者数は900名近くでありましたが、卒業不可と判定された学生は20名未満でした。不可になった理由は、単位数不足、外国語単位未充足、基盤教育科目単位数不足、Major単位不足の4種類のみです。卒業希望を持っていながら卒業不可と判定されることが起きないようにすることが望ましいのは当然です。学群としてこれを実現することを目標に、システム面でのサポートは行ったと考え、科目の読み替え等の例外処理で卒業を認めることは一切行わない方針で臨みました。今回の結果は完璧と言うことはできないかもしれませんが、一定の成果を得ることはできたのではないかと考えています。
 日本の学士課程教育の中で、リベラルアーツ教育に対するニーズは今後高まっていくのではないかと考えています。今までの学部・学科教育とはかなり状況が異なり、選択肢の自由度の多さ、カリキュラムの複雑さを解決しないと運用することができません。その意味でも、今回のコンピュータ活用は一定の方向性を見い出すヒントを提供しているのではないか考えています。今後、システムを用いた卒業チェック等を実施するなど、改善の余地はまだまだ残っています。皆様のご指導をお願いしたいと考える次第です。

参考文献

[1] 大道 卓:桜美林大学のe-Campus-リアルタイムエラーチェックWeb履修登録システム-. 大学教育と情報, Vol.11 No.4 2003.



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