私情協ニュース

公益社団法人私立大学情報教育協会 第1回通常総会開催される

 公益社団法人としての第1回通常総会が、平成23年5月31日(火)午後1時30分より東京のアルカディア市ヶ谷(私学会館)にて開催された。
 開会に際して向殿議長(明治大学)より、「社団法人私立大学情報教育協会を4月1日に解散し、同日に公益社団法人私立大学情報教育協会を設立。本協会の自治のもとで主体的に情報通信技術の可能性と限界を探求する中で、私立大学、短期大学における教育の改善充実の向上に取り組み、人材育成に寄与できるよう公益法人として社会的な責任を果したい。時代の転換点において、未知の時代を生き抜く力を学生に提供できるよう、情報通信技術を活用した教育の研究、高度な情報環境の整備・促進、大学間および社会との連携、教職員の職能開発、コンテンツの相互利用の普及など、種々の事業を展開したく、会員皆様方からの一層のお力添えをいただくことをお願いする。」との挨拶に続き、4月の理事会において、戸高名誉会員に本協会の顧問を委嘱したことの報告が行われた。
 当日の議事は、定款の一部変更、理事および監事の選任、22年度事業報告および収支決算の決定、報告・協議として24年度情報環境整備に関する調査および推進、「私立大学教員による授業改善白書」の最終報告、クラウドコンピューティング利用上の留意点(中間報告)、理事長・学長等会議の計画などであった。また、議事に先立ち文部科学省、私学振興共済事業団から、23年度の情報関係の補助申請等について説明を受けた。
 以下に、議事等の一部の概要を紹介する。

【文部科学省私学助成課の真野専門官説明】

1)ICT活用推進事業は、昨年とまったく変わっていない。ICT活用推進事業の趣旨はICTを活用した特色のある教育、優れた研究を実施するための必要な機器、建物の改造工事を補助の対象とし、構内LANの整備・更新、それに伴う機器類の整備およびそのために必要な講義室、演習室、実習室、研究室等ICT施設の改造工事の経費について補助している。学内LANは、専修学校、大学、短期大学、高専を対象。ICT施設は、大学、短期大学、高専のみを対象。補助率は2分の1で補助対象の下限を1,000万円以上としている。

2)教育基盤設備の趣旨は、平成21年度から教育設備と情報処理関係設備を一つにまとめて補助メニュー化している。情報系のものと違うものも含まれているが、情報処理関係の設備はここで全部対象となっている。下限が500万円で補助率が2分の1で大学、短期大学、高専を設置する学校法人、専修学校も補助の対象になっている。

3)22年度の情報関係補助金の採択状況は、教育基盤設備186件、15億8,000万円余りと、ICT活用推進事業が139件、27億3,000万円余りの要望に対し、交付は教育基盤整備が149件10億円余、ICT活用推進事業は51件で6億9,000万円余と少なくなった。22年度は補正予算が組まれていない関係で当初予算のみの執行を強いられ、特にICT活用推進事業はかなり厳しくなった。21年度は5月に極めて大きな大型補正が行われたので、極めて高い採択率が実現できたが、22年度は交付額と予算額が大幅に違っている。ICT活用推進事業の22年度予算額が約19億円余であったが、交付は6億9千万円と3分1程度となった。

4)交付の仕組は、専門家による教育内容、教育、研究への波及効果、整備した後の運営管理状況、整備の趣旨という観点で評価を行い、教育装置、研究装置、ICT活用推進事業など全体で優先順位をつけ、高いものから採択している。昨年の例では、ICTで単なる老朽の改善のための事業の申請があったが、更新することによってどのような教育効果が期待されるのか、研究に対する波及効果がどうかなど重点的に審査しているので、その点を配慮されれば、採択される可能性が高くなるのではないかと考えている。

5)震災への補正予算として、大学と短大関係の施設復旧費で338億円、学内LAN、情報用設備も地震で被害を受けている場合は、この施設災害復旧費の補助の対象になる。教育研究活動の普及支援として経常費補助で128億円、学費減免34億円、振興事業団の出資で低利・長期の貸付財源を措置している。

【日本私立学校振興・共済事業団の徳岡助成部長説明】

1)23年度私立大学等経常費補助金は、一般補助と特別補助の抜本的な組み替えを行った。従来特別補助の対象となっていた共通的な取り組みとして一般化・定着した就学機会の多様化の推進メニュー、大学院教育の研究高度化メニュー、高度情報化推進メニューは、一般補助の学生経費の単価をアップする方法で支援することになった。とりわけICTについては、学生経費の単価を上乗せする形で支援することになったが、さらにICTを活用した教育研究環境の整備状況に応じて補助の加算措置を考えている。具体的にどういった場合に加算をするかどうかについては、今後どういう対応ができるのかも含め、検討をさらに進めていきたい。新しい特別補助は、新たな項目として成長分野で雇用に結び付く人材の育成から、授業料減免および学生の経済的支援体制の充実まで、六つの特別補助の項目という形になっている。

2)22年度のICT活用教育研究支援の執行状況として、パソコン等の基盤整備は、21年度は765校に対して補助したが、22年度は754校と対象範囲が少し限定・減少した。電子ジャーナルに対する補助は、21年度516校が22年度では546校、30校ほど増えた。大学独自のデータベースでは、21年度は401校から22年度が420校、19校ほど増え、トータルとして約300億に近い金額を補助した。

3)23年度予算の執行について、教員経費、学生経費の単価をアップした。ICTについてはさらに整備状況に単価を乗じて加算措置を考えている。また、情報の公表の義務化に伴い傾斜配分を強化する。教育研究上の基礎的な情報、修学上の情報等、財務情報へ対応していない場合は、1%から3%減額、義務化されていない情報公表はプラス1%の増額などとなっている。

4)新たな特別補助は、成長分野で雇用に結び付く人材の育成への取り組み、社会人の組織的な受け入れへの取り組み、グローバル人材の養成を促進するための取り組み、大学院、学部、短期大学機能の高度化としての研究施設・設備の共同利用や産学連携等への取り組み、合併や地方自治体との連携、先導的な教学改革モデルなど未来経営戦略への取り組み、授業料減免事業の拡充と経済的支援体制の拡充などとしている。

5)補正予算の執行として、教育研究活動復旧費は128億円で被害の状況に応じて配分したい。被害状況について現段階で把握しづらいところがあることから、第一次交付は7月末を目途に準備を進めている。青森から長野まで9県で214の市町村に所在する大学について配分したい。今回暫定的に昨年度の補助金の配分状況を勘案して予算措置の一部を配分したい。7月末に1回、11月末あるいは12月の初め2回目、3月に最終交付で3回目という形になる。被害の状況がわかり次第、最終的にはきちんとした数字をおさえて配分したい。
 学費減免に対する経常費助成は、東日本大震災による被災で就学困難な学生は、事業費の3分2を暫定的な考え方で配分する。震災の影響による学生数の増減、ボランティア活動をしていて休学あるいは就職が困難な学生には、補助金の算定上不利にならないように取扱いをする。寄付金の支出に関する取扱いは、特に3千万円を超える場合については補助金の減額対象となるが、東日本大震災に関わる震災義援金支出を追加し、補助金減額調整の積算から除外という形で整理をしたい。以上、補助金の説明会を6月7日東京会場を皮切りにより詳細な説明を全国で行うことにしている。

 引き続き、向殿会長より、次の点について確認した。

1)一般補助の学生経費の単価改正でどの程度の補助が上乗せになるのか、3千人を例にあげて確認したところ、事業団の徳岡助成部長から、定員の充足状況などの教育条件、圧縮率などわからないが、22年度レベルの圧縮率は0.7、増減率を除いて考えれば、単価4万円であれば4万×3,000人×2分の1×0.7がおおよその目安となるとのことであった。

2)ICT活用推進事業が低い採択率であったことについて、教育研究の高度化、特色化、個性化を実現していくための基盤環境として極めて重要であり、その整備の遅滞は私学の教育研究活動に大きな影響をもたらす。毎年70から80校程度の大学が計画しており、予算より10億円以上多い27億円程度の申請を行っている。23年度の採択に関しては、昨年度のようなことがないよう配慮願いたい。
 これに対して、文部科学省の真野専門官より、執行にあたっては、できるだけ要望にお応えしたような形で執行させていただく。耐震の方に重点配分させていただいた関係で教育装置、ICT、研究装置の圧縮率がかなり高くなっている。会長からの指摘の通り、本来ならばこの私学助成で耐震ということではなくて、教育研究活動の高度化のためのハードを整備するというのが直接補助の目的なので、24年度の概算要求も踏まえて、できるだけ教育研究活動の高度化に十分な予算を確保できるように、最大限努力をしていきたいと思うとの考えが示された。

1.定款21条の一部変更

 総会の議事については、法令で定めるところにより、議事録を作成し、議長および出席した理事がこれに記名押印するとあるが、出席理事全員の記名押印は、時間がかかり、議事の経過の要領およびその結果を迅速に伝達することに不便となることが予想されることから、「議長および出席理事1名がこれに記名押印する。」に改めることの提案が行われ、提案通り可決された。

2.理事、監事の任期満了に伴う後任者選任

 理事、監事の選任手続規程により、事前に理事、監事候補者の選挙を書面投票し、その選挙結果を総会に報告して、理事22名、監事3名を選任した。その後、6月6日に会長選挙を実施し、副会長1名、常務理事6名を選定した。役員の詳細は、38〜39ページに掲載した。

3.平成22年度事業報告の決定

 一般報告および事業報告を以下の通り行い、社団法人私立大学情報教育協会の事業報告を決定した。
 一般報告では、平成23年度情報関係補助金の文部科学省概算要求並びに政府予算案の決定経過として、高度情報化補助金活用調査の結果をとりまとめ、財政支援の要望を行ったが、一律10%削減という政府の概算要求基準の下で、特別補助のメニューが一般補助に組み替えされた。大学団体連合会とも連携して臨んだが、組み替えをして新たな新成長戦略による特別補助を設けることで経常費補助金本体の削減を回避する方針となった。学内LAN、マルチメディアの工事関係の補助金とパソコンなどの情報機器を対象とした教育基盤設備は、政府予算において1割が減額された。
 事業報告の公益目的事業について「1.情報通信技術による教育改善の調査および研究」では、二つの事業を行った。一つは、情報通信技術による教育改善の研究として、本協会で検討の学士力および医・歯・薬系のコアカリキュラムを踏まえ、中学・高校での基礎学力の低下、大学の就職活動による学習期間の短縮などの問題が解決されることを前提に、5年先の教育改善モデルの研究を行った。中学・高校ではOECDの国際学力試験の結果を踏まえて、24年度または25年度より問題解決能力を育成するため、学習指導要綱を改善することになり、問題解決的な活動が発展的に繰り返される「探求的な学習」、他者と協同して課題を解決する「協同学習」、加えて「体験学習」を実践することになった。高校では22年度より先行実施しており、このような学習が将来実施されることを想定して、大学としての教育モデルを分野別に研究することにした。研究の視点は、未知の時代を生き抜く能力を目指して、卒業時点で学びが身に付いている仕組みを情報通信技術の活用を含めて研究をしている。イメージとしては、「学生が教員から教わるだけでなく世界の学識者と協力して学べるようにする」、「グループ学習による学び合いの積極化と学習成果を社会に発信して振り返り学習を繰り返し、社会への関与を体験させる」、「基礎・基本の学習は、教員同士による学びの点検と学生の理解度に応じた振り返り学習ができるようなプラットホームによる仕組み」などの授業デザインを30の委員会での具体的な研究課題について整理しており、23年度に本協会のネットワーク上で教育問題に関心のある教員の方々に意見を募り、それを踏まえてとりまとめる予定にしている。
 「2.情報教育の改善充実に関する研究」では、30分野における情報活用能力のガイドラインをとりまとめた。情報の信頼性を判断する能力、社会秩序に背く情報行為を自己規制する能力、情報を比較・分析する能力、情報を批判的に吟味する能力、情報通信技術を活用して最適なコミュニケーションを設定する能力、被害防止・被害回復に対する能力などを掲げた。課題としては、卒業までに情報の取り扱いや技能をあらゆる分野の中で取り入れることが必要で、FD研修などを通じて教育体制を整備することの重要性を指摘している。情報リテラシー・情報倫理分科会では、大学教育でのガイドラインをとりまとめるべく高校教育の実態について整理した。ワープロによる文書作成、表計算に表の作成、スライドの作成、情報社会における安全性、コミュニケーション、他者の権利と法制度などが8割の高校で実施されているが、情報のモラルでは教える教員が自信がないとしている。国は高校での情報モラル教育を含め、新学習指導要領を25年度から実施することを踏まえて、大学でのリテラシー教育の方向性の研究を始めることにした。情報専門教育分科会は、産学連携人材ニーズ交流会の実験で得られた意見、クリエータ系の学士力を新たに検討し、その上で専門人材教育のモデルを研究することにしている。
 「3.情報環境の整備促進に関する調査および研究」は、一般報告の通り。また、教育学習機能の高度化に関する情報システムのクラウドコンピューティング研究は、後掲の7で報告のため割愛。
 「4.大学連携、産学連携による教育支援等の振興および推進」では、三つの事業を展開した。

1)教員が作成した電子著作物の相互利用の事業は、利用の拡大を図るために協会のWebサイトでコンテンツを閲覧し、利用契約ができるようWebサイトの改善を行った。

2)産学連携による教育支援の事業では、産学連携人材ニーズ交流会の実験を22年度も実施した。情報系人材の学士力に対する意見を企業側より聴取し、見直しの方向性を明らかにした。教員に企業見学などの支援を希望する13大学の要請に対して、企業側は3社と積極的でなく、反面、最新技術の動向および技術を短期間で教員が研修する支援については、3%と比較的に協力が得られやすいことが分かった。また、産学連携の可能性について、大学側からはネット上で企業から現場情報などの話がきけるような仕組み、インターンシップの中小企業への参加が可能となるような場の構築が必要との意見が多くあった。企業側からはPBL関係の課題提供、学習成果の評価などの支援、教員に社員のキャリアプラン達成に向けた研修の見学など、前向きの発言が少なからずあった。

3)eラーニングによる教育支援の振興・促進を図るため、世界に通用する学習機会の場をネットワーク上で提供できるよう、希望する高校生、大学生、社会人を対象にオープンな対話型教育の仕組みを構想することにしている。

 「5.大学教職員の職能開発および大学教員の表彰」では、以下の通り六つの事業を実施した。一つは、レフリー付の「ICT利用による教育改善研究発表会」、二つは、教育改革の推進に関する基本問題、情報通信技術活用に伴う教育政策、教育効果を高める情報通信技術の活用、最新の情報通信技術環境などの理解の普及を目的とした「教育改革ICT戦略大会」、三つは、短期大学間による教育連携の可能性をテーマにした「短期大学教育改革ICT戦略会議」、四つは、「FDのための情報通信技術講習会」、五つは、職員による情報通信技術を活用した教育支援、人材育成支援の問題解決能力の開発を行う「大学職員情報化研究講習会」、六つは、「大学情報セキュリティ研究講習会」を7月から11月に開催し、詳細は本協会のWebサイトに掲載している。
 「6.この法人の事業に対する理解の普及」では、機関誌の発行は、年4回、3カ月おきに約1万8千部発行した。また、公益事業の内容の理解・普及を図るため、九州、中国・四国・関西地域、東北・北海道地域で事業報告会を計画したが、新法人移行認定が1月から3月にかけて本格的に始まったため、東北・北海道地域の1地域だけの実施とした。
 共益目的事業としては、一つに、大学連携を推進している機関との連携としてNPO法人TIES、大学eラーニング協議会、eラーニング専門人材育成機関への助言支援を行った。二つに、電子ジャーナルの共同購入による整備を促進するため、公私立大学図書館コンソーシアム、日本医学図書館協会、日本薬学図書館協会との連携機関として、本協会に「教育研究用電子情報整備支援機構」を設置して、私立大学の立場から版元との購入条件の交渉仲介を支援した。三つに、情報化投資額調査をもとに個別大学ごとに費用対効果の面から評価情報を提供した。四つに、大学間で戦略的な教育情報を交流する仕組みとして、88大学による大学間情報交流システムを運営した。五つに、教育改革FD/ICT理事長・学長等会議を実施し、社会的・職業的自立に向けたキャリア形成教育の在り方を模索し、大学の学びが社会に出た後どのような力となって役立つのか、学生にイメージしづらい点をはっきりと示すことが学習意欲を高め、卒業後の進路を考えさせる動機付けになることを確認した。六つに、事務局の管理者による「教育改革事務部門管理者会議」を開催し、キャリア形成教育を支援するために事務局として取り組むべき課題、戦略について共通理解を深めた。七つに、会議等に参加できない教職員を対象にビデオ・オンデマンドを作成し、理解の共有化に努めた。

4.平成22年度収支決算決定の件

 社団法人私立大学情報教育協会の平成22年度正味財産増減計算書の収益は、190,065,475円、費用は178,887,008円、当期経常増減額は11,178,467円となった。ただし、経常外費用として、1,571,988円固定資産の再評価を行い資産を減損処理したことにより、22年度当期一般正味財産増減額は9,606,479円となり、一般正味財産期末残高は、54,411,824円となったこと、および貸借対照表および財産目録の報告が行われた。次いで、監事からの報告を受けて、承認可決された。

5.平成24年度情報環境整備に関する調査および推進について

 高度情報化補助金活用調査を今年度も実施して、教育研究の高度化、特色化、個性化を実現していくために不可欠なICT活用推進事業、教育基盤設備の補助について強く主張するため、大学の教育研究をどのように改善しようとしているのか、調査に協力いただき、その結果を整理して文部科学省に提案することにした。また、経常費補助金一般補助にICT関連の予算が23年度より組み替えられたが、ICTを活用した教育研究環境の整備状況を踏まえて加算措置の対応を注視していくことになった。

6.「私立大学教員による授業改善白書の最終報告

 基本調査委員会では3年ごとに加盟大学、短期大学教員の授業改善に対する取り組みについて調査しており、22年12月実施の調査結果をまとめた。調査内容は、授業現場での問題点、授業改善に関する教員の考え方、大学としての課題、ICT技術の教育での使用状況、効果および課題等とした。加盟大学、短期大学の全教員6万5,000人の34%から回答が寄せられ、3年前と較べて教育におけるICTの活用が大学および短期大学ともに20%伸び、授業で多く取り入れられているという実態が明らかになった。以下に、概要を紹介する。

1)授業で直面している問題点は、3年前と同様、基礎学力の低下、学習意欲の低下と、さらに自発的に質問・発言をしないので困っていることが判明した。教員の思い入れと学生の授業への参加意識にギャップが生じており、授業の動機付けが機能していくような工夫を考える必要がある。

2)「教員自身の問題」としては、3年前と同様、「学習意欲を高める工夫が難しい」としているが、新たな課題として「予習・復習の習慣づけが難しい」としている。成績評価が学期末1回の筆記試験によっている例が多いため、知識獲得よりも、試験対策に終始してしまうことも一つの要因と考えられる。授業中の小テスト、レポートなどの複合的な評価や学習成果に対する卒業試験を大学として考えることも必要と思われる。

3)そのような問題を抱える中で、「授業改善に向けた教員の努力・対策」は、7割が学習意欲を高める授業設計・授業運営の工夫を掲げ、5割から6割が授業中に学生の反応をとらえ、理解度に応じた授業を展開したいとしている。また、その他には対話を重視した授業の徹底、授業で獲得できる能力・授業価値の説明の徹底、関連科目との調整・連携による統合的な学びの実現、社会と連携した現場感覚を導入した授業などがあげられている。学習意欲工夫の例として、グループ学習やコラボレーション学習、プロジェクト学習などの時間を増やしたり、学びの成果を社会に発信し、社会からの意見・反応から振り返り学習ができるような仕組みの導入、携帯端末を用いて学生の関心・興味や小テストによる理解の度合いをスクリーンに掲示しながら進めるなどが考えられる。

4)「大学全体として取り組むべき課題」としては、6割強が自立を促す教育指導の強化を掲げ、生涯に亘り社会生活、職業生活に対応できる人間力の強化をもっとも重要な課題としてとらえ、未知の時代を生き抜く力を身に付けさせるよう、教育課程の見直しを指摘している。また、5割前後は人材育成に対する意識改革の共有化を掲げ、授業を通して人材育成に関与することを大学全体で理解することが重要としている。
 学びの成果を確認する手段として、卒業試験などによる出口管理の厳格化を指摘している。以上のような課題の解決には、組織的なガバナンスを背景とした人・物・金・情報による教育学習支援体制の整備の確保は必至であるとしている。

5)「組織的な教育指導能力の開発(FD)を実効あるものする」ためには、教員自身による教育力の自己点検を最大の課題としている。他方、FDの全員参加を働きかける大学のリーダーシップの発揮、優れた授業を評価・顕彰する仕組みの導入があげられている。その工夫としては、教員同士によるFDから、学生、職員、卒業生を含めたオープンなFDへの転換と、企業現場での実務体験などを研修する学外FDが必要とされてきている。

6)「一大学で解決できない課題」としては、高大連携による基礎学力の充実が最大の課題としている。入学後に高校課程の学力水準を補完するだけでは問題解決にならないことから、大学と高校が連携して基礎学力の徹底を図る必要があるとしている。その他の課題として、学びの動機付けや就業意識を高める社会や産業界からの支援の導入、教養教育と専門教育の融合などとなっている。

7)「ICT使用の現状」は、8割から6割が教材の作成、学習管理システムによる学習方法、課題の提示、レポート提出などの教育情報の伝達に使用しており、学習意欲を高めるような授業設計・授業運営の工夫を図るためにICTを使用していることが覗える。また、6割が理解困難な理論や現象をアニメーションや映像で提示することに使用しており、3年前の4割から大幅に増加している。反面、授業中に学生の反応をとらえ、理解度に応じた授業を希望するが5割と受けとめていることに対して、「授業中に携帯電話やICTを用いて理解度の把握に使用している」のは1割に留まっている。利用技術普及の問題や支援体制などに課題があり、使用が進んでいないことが浮き彫りになった。
 2年先の授業での使用について、5割が事前事後学習、4割が学習成果が社会でどのように活用されているかを可視化する映像の紹介、3割が授業中の理解度把握と授業評価の整理・分析や改善への取り組みのフィードバックを計画している。新しい取り組みとしては、電子掲示板を用いたグループ学習、ネットワークを活用した産学連携、大学間連携などがあげられてる。

8)ICTの教育効果は、現実感覚を取り入れて授業に刺激、授業への参加意欲と動機付けの向上としている反面、3年前と同様、成績の向上には反映されていない。本質的な学びを導き出すための授業デザインや授業マネージメントが普及していないことが覗える。

9)問題点としては、ノートをとらない、理解しているようで理解していない、レポート等にコピー・ペースト行為が蔓延して学びが身に付かないことを指摘。また、授業中に別なことをしており、授業に集中していない現象が目立つようになっており、対策を考える必要がある。

10)改善策としては、ICTに全てを依存する授業ではなく、板書、対話を含む授業設計の工夫が重要としている。さらに、手書きメモの義務付けや、小テストなどにより学びの点検を行い、学習ワークを導入する必要があるとしている。

11)授業での活用事例として、社会科学系の法律学科では、電子掲示板の上で複数大学で議論して、学び合う中で通常の授業以上の成果を上げている。建築系では、学生の作品をインターネットに公開して、社会人との意見交換を行っている。2年先では、社会科学系の経済では、各自の論文を載せて、学生相互による評価を行い、振り返り学習を計画。看護では、ネット上で口頭試問を行って質保証を実現したいなど、従来に見られない授業のデザインをICTを活用して実現しようとしていることが浮き彫りになってきた。
 先進的な授業事例としては、自動採点を導入して自学自習を可能にした例、学習支援、ポータルシステムを活用した対話型授業、ネットを利用したプロジェクト学習、NPOと連携をした実践的なPBLの授業、ツイッターを活用した個別支援によるコミュニケーション教育、バーチャルな薬局で市販医薬品の広告を作らせている薬学教育、アパレルCADによる教育実践、ゼミ活動をWebサイトで発表・公開し議論するオンラインセミナー教育などを紹介した。

7.クラウドコンピューティング利用上の留意点

 明確な定義や合意のないままクラウドが大学の教育研究で使用されているのは、いささか問題があるとして、本協会に大学情報システム研究委員会を設置してクラウドを導入するときに何に注意すべきなのか、どのような形態のクラウドを取り入れることが望ましいのか、導入に際しての留意点を整理するとともに、今後の大学情報システムとしてどのように活用すべきか等の議論を進めてきている。1年間委員会を進めてきた結果として、「クラウドコンピューティングによる大学の情報システムについて」を中間的にとりまとめた。
 内容としては、「1.大学の情報システムの現状と課題」として、どのような問題を抱えているのか、持続可能な環境とするために機器、ソフト、人員、コストの負担軽減、情報セキュリティのリスクの厳格化など整理した。
 「2.大学情報システムの再考」として、自前で情報システムを整備してきたが、最適な情報システムを目指すために、クラウドによる負担の軽減化、機能提供の迅速化、機能の高度化など、変化に対応した情報システムを再考する必要がある。「3.クラウドコンピューティングとは」として、インターネット回線を経由してデータセンタに蓄積された資源を利用することを定義した。その上で、「4.クラウドのメリット」、「5.クラウドの課題」を整理した。メリット、デメリットを理解した上で、クラウド利用で留意しなければいけないことを「6.クラウド利用に当たっての留意点」として整理した。
 まず、重要度が大きい情報資産の利用は、自前で大学の中にサーバを置き、データ、プログラムを動かさなければいけないことも必要ではないであろうか。そのために、責任に対する問題など条件付きで対応しなければいけない。次に、クラウドを使う場合に考えるべきこととして、パブリック・クラウドという共有で利用するクラウドがある。インターネットを通じてどのマシンを使用しているか分からない環境で、業務ソフト、メール管理、計算機能、大学等の連携など特定の目的を実現するのに効果的であるが、使用に際してセキュリティに不安、カスタマイズ対応、情報の蓄積・共有に対する関係者による意識合わせなど、考えなければいけない課題がある。もう一つは、専有で利用するクラウドで、サーバ等の資源を外部データセンタから借用することで、情報環境の管理・運用の手間を削減することに効果的であるが、利用の規模によっては自前より負担増となるなど気をつけて使用しなければいけない。非常に重要な情報資産は自前の情報環境で対応し、少し重要でないものは専有のクラウドでもって、もう少し重要度が軽いものは共有のクラウドで対応するなど、見分けて使うことが重要。

8.教育改革FD/ICT理事長・学長等会議開催計画

 8月3日、法政大学市ヶ谷キャンパスで実施することを計画。今年のテーマは、教育情報の公表とした。義務的に教育情報の公表を考えるのではなく、学生を確保するために、社会からの支援を得るために教育情報をネットワークを活用して戦略的に発信し、大学本来の社会的責任を果たしていかなければいけない。教育の質を追求する情報収集と情報分析の体制、教育の多様化、特色化、個性化を高めるための大学としての情報戦略、教職員が人材育成に如何に向き合い、自己変革できるかが課題となることから、教育の質的向上を図るための自主・自律的な教育情報の取り組みと戦略的な活用について理解を深めることを計画しており、プログラムは本協会Webサイトに掲載している。


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