大学教職員の職能開発No.5

平成23年度 短期大学教育改革ICT戦略会議 開催報告

 平成23年度の本会議は、9月7日(水)にアルカディア市ヶ谷(東京、私学会館)にて、「社会で通用するコミュニケーション能力の育成を目指して」をテーマに開催した。参加者は昨年より少なく、24名(21短期大学)であった。社会・企業で即戦力となる人材育成を目指して、大学・短期大学ではキャリア教育が義務化されていることから、昨年度は「社会的・職業的自立を目指した教育戦略」をテーマに開催した。今年度はさらに的を絞り「コミュニケーション能力の育成」に焦点をあて、「社会で通用するコミュニケーション能力の育成を目指して」と題して実施した。「コミュニケーション能力」は社会あるいは企業が強く求めるジェネリック・スキルの中核をなす能力であるとともに、短期大学にあっても教育の最重要課題として位置づけているものである。短い修学期間の中で様々な知識や能力を前提としつつ、短期大学がコミュニケーション能力育成にどのように取り組み、成果を出し、かつまた、どのような課題を抱えているか等について、会議では2校の事例を紹介いただいた。加えて、社会・企業が何を期待・要望しているか等について、3企業の人事担当者から問題提起いただいた後、全体討議を行い、送り出す側と受け入れる側それぞれの観点にずれはないのか、討議を通じて課題を明らかにした。さらに、この課題を解決する契機として、社会・企業と短期大学とがどのような形で連携できるか、その糸口を模索するとともに、本協会から問題解決に向けての支援のあり方を提案した。詳細は以下のとおりである。

事例紹介1

「就職できるコミュニケーション能力育成について」

桜の聖母短期大学 加藤 竜哉氏

 授業科目や課外活動での体験を通じて、就業社会で役立つコミュニケーション能力の育成に向けた活動の報告である。地元企業や卒業生と連携して実務教育に対する企業のニーズを把握し、それらの要件をコミュニケーション能力育成教育に反映している。教育成果を分析するためにはBCSA(Business Communication Skill Assessment)を導入し、信頼性、共感性、理論性の3要素を軸とした全18項目からなる基準での診断を入学時と2年の4月に行い、評価し、学生にフィードバックしている。また、2年生が1年生を支援するB&L制度(ビッグ:2年生、リトル:1年生)を立ち上げ、入学時のオリエンテーションや学園祭等、大学の様々な行事を、学生が主体的に計画・運営することをコミュニケーション能力育成の一つの方策として重要視している。
 来年度から実施を予定しているが、ステップアップフローの第1段階として、1年次前期は、徹底して自分を見つめなおすための自己分析に集中し、それぞれの専門分野の学習は後期から始めるべくカリキュラムの再構築している。
 この取り組みの課題は、1)教職員間の連携を強化、2)学生カルテを整備し学生支援に供することである。なお、一連の活動は、広域連携型学士向上プログラムとして「アカデミア・コンソーシアムふくしま」を組織し、近隣の大学と連携している。

事例紹介2

「日本語運用能力の向上とコミュニケーション能力育成をめざして」

大阪城南女子短期大学 小林 孔氏

 全学共通基礎科目に1・2年次必修の「日本語セミナー」を置き、基礎的な日本語運用能力の育成を強化するとともに、その指導を通してコミュニケーション能力を育てる取り組みについての報告である。日本語セミナーは2年間4期を、1年前期は「基礎」、後期は「話す・聞く」(朗読、聴き取り、3分間スピーチ)、2年前期は「書く・読む」(表現を読む(詩)、評論・随筆を書く)、後期は「表現の文化」(季語と俳句)といった構成にしている。1年前期の基礎では、レポート作成を例にとると、(事前指導→下書き→添削・推敲→提出→評価→返却)というサイクルを徹底して行い、表記(漢字、かなのバランス、読点)、表現(文末表現、類似表現の連続等)、文章構成(段落の作り方等)の3点を重点に文章を推敲させ、日本語運用能力を鍛えている。後期はコミュニケーション能力の中核を「聞く」に置き、短いエッセーや評論を材料に、「聞く」「朗読」「要約」といった一連の作業をとおして「理解」の重要性を指導している。また、様々な場面で感じ、考えたことを書き残す創作ノートを作成させており、このノートに記述するときは思考過程を大切にする意味で消しゴム使用厳禁としているのが特徴的である。日本語運用能力とコミュニケーション能力の双方の育成を目的とした「大阪ほっとコミ」というミニコミ誌の発行も教育効果を発揮している。

全体討議

 「コミュニケーション能力の育成を連携の中で探る」ことをテーマとして、企業のコーディネートを行った三ツ木委員から、趣旨説明がなされた。本協会で行われたアンケートの結果から、コミュニケーション能力の重要性は指摘されているが、企業の求める能力とのギャップはないのか、あるとするならば、そのミスマッチを埋めるための方策はあるのだろうか、との問いが投げかけられた。
 全体討議に入る前に、企業関係者から、短大卒業生に必要とされる能力や、問題点、これからの期待などがそれぞれ15分で具体的に指摘・提案されたのち、参加教職員との意見交換が行われた。

事例紹介1 株式会社ホテルオークラ
事業管理部総務人事課 坂東 八栄氏

 海外事業所ホテル人事採用代行業務を行っているため、まず英語力(英検2級、TOEIC500点以上)が必要である。それに加え、心身共に健康で、コミュニケーション能力があり、チームプレーができることも必須。コミュニケーション能力は、人間関係力そのもの。他には、一般常識(基礎学力や理解力を含む)や日本の文化(お茶や生花)を体得理解していることが望ましい。短大卒業生が四大卒業生に比して不足であるという点はない。必要とする能力は、明確に数値で表しており、このハードルをクリアした学生には短大・四大卒の違いはない。

事例紹介2 株式会社オンワード樫山
東京地区・関東管理部販売人財課 森村 国生氏

 総合アパレルメーカーの販売専門職(ファッションパートナー)として、6割強の短大卒業生を採用している。最近気になるのは、「リセットタイプ」が増えていることで、彼らは、苦労を知らないため、我慢ができずに簡単にリセットボタンを押して白紙に戻してしまう。また、一般的に道徳性、社会性、主体性、計画性が不足している。相互理解力、基礎体力、基礎学力も不十分。短大では、聴く力、日本語力(会話力)と人間教育を行うべきである。加えて、主体性、チームワーク力、洞察力も伸ばして欲しい。

事例紹介3 株式会社スタジオアリス
人事部採用担当部長 大西 康雄氏

 こども専門の写真館を全国チェーン展開しており、その店舗スタッフに短大生・四大生の区別なく採用している。正社員1,152名のうち、女性が93.6%を占めている。受付業務、写真撮影、衣装案内、着付け、ヘアセット、フォトセレクト業務、店舗マネジメントを行うが、子ども(0〜7歳)とその両親がターゲットであるので、一般常識を身につけて自分の適性を見極めておくことが必要。さらに、子ども写真館というサービスを提供するためのスキルとして、短時間でわかりやすく説明する能力、ホスピタリティ、プレゼンテーション能力、パフォーマンス力、チームワーク力が必須。常に笑顔の絶えない職場の雰囲気づくりができること、40代〜50代のアルバイトともコミュニケーションがとれることも重要。

Q.
(企業に対して):四年制大学卒ではなく、短期大学卒を採用するメリットは?
A.
(ホテルオークラ):同じ年齢であれば、実務経験が豊富であるということになる。また、ビザを取得しやすいなどの利点もある。要は、「個人」を見ており、特性分析を行って適していれば採用する。
A.
(オンワード樫山):現場感がついている。若い感性が必要なことが多い。いつも雑感・五感を働かせて欲しい、と言っている。
A.
(スタジオアリス):顧客は若いファミリーであったり、孫を持つ祖父母であったりすることが多い。また、新しく若いカップルの記念日などを記録に残すビジネスを考えている。お客さんにとって、親しみやすい年齢層だ。
Q.
(短大に対して):すべての教員がキャリア教育に熱心であるとは限らないのでは?
A.
(フロアから)いずこも同じであろうが、専門に深く固執する教員もいる。タコ部屋、と良く言われるが、海溝にもぐったまま出てこない。学生には受けさせるのに、自身はBCSAスキル検定を認めない(受験しない)教員も多い。
A.
(フロアから)ジェネリックスキルは社会人としての基礎力であるので、本来はその育成に全教員であたるべきではないか。
A.
(企業から)大学で寄付講座を持っていたが、教員との打ち合わせの際に、「この人は大学教授という職業しかできないだろう」と思った。
Q.
(短大から)短期大学では、研究はいらない、と言われることが多くなってきたが、やはり研究は必要ではないかと思っている。新しい知識やスキルを取り込むだけでなく、教員自身が仕事のよりどころとして「調査」→「分析」→「新しい知見」という研究のプロセスを繰り返していかないと、学生に対する説得力がなくなってくる。
A.
(企業から)企業の観点からすると、大学の「顧客」は学生であり、やはり学生に対するサービスが第一ではないかと思う。
Q.
(企業に対して):中学・高校のインターンシップは全県で実施されているのに、短大でのインターンシップの受け入れ先がない。事例発表された企業では、受け入れていただけるのか?
A.
(ホテルオークラ)日本国内よりも、海外で展開しているホテルへの就職になるので、グアムでインターンシップ実績がある。以前に比べてビザも取りづらくなっており、また、学生の意識が不十分なため、絞る方向にある。
A.
(オンワード樫山)販売職は受け入れ可能。ただし、この業界を志せるかどうか、学校でフィルタをかけることは必要だろう。また、寮がないので、地方生は受け入れられない。
A.
(スタジオアリス)短期(10日ほど)では会社にメリットがなく、9〜11月の間に、1カ月ほどであれば受け入れ可能。現在個別対応で3校に絞っており、学内面接等で選別することが必要。

 また、議論の途中で三ツ木委員からフロアへの問いかけがあり、参加大学のほぼ全数がリメディアル教育を実施していたが、学内講演会や講習会など、FD活動を実施している参加校は数校であることもわかった。

討議のまとめと提案

 いずれの企業においても、広義の「コミュニケーション能力」が必要であることが強調された。換言すれば、人間関係力、相互理解力、チームワーク力、などであり、教養あるいは一般常識、日本語力を含めた基礎学力、体力に裏打ちされるものでなくてはならないことも指摘された。その一方で、業種・職種によって多少力点が異なることも明らかになった。海外展開するホテルで必要とされる英語力、ファッション業界で求められる若い感性(五感と雑感)や聴く力、子どもサービスで求められるホスピタリティやパフォーマンス力、などである。
 一方、短大では企業の要望に応えるべく教育を行っているが、職種・業種により必要な能力に違いがあるため、企業が求める人材像と提供する人材にミスマッチを生ずる場合が多い。企業組織の中で働いた経験がない教員の経験不足や、また、企業現場で求められるコミュニケーションについてあまり理解がない中で教育していることに省察が必要なことなどが問題点として挙げられた。
 これら問題を解決するために、本協会をプラットフォームとして短大と企業の連携を強化することが提案された。例えば、企業からの情報提供を受ける場や、交流会・研究会の開催母体として本協会が機能することによって、短大側と企業とのマッチングを促進する場となろう。また、短大教職員の意識を高めることによって学生の指導力強化を図ることができ、教職員のFDを促進することになると期待される。

文責:短期大学会議教育改革ICT運営委員会


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