巻頭言

教育・研究の改革と情報化

鎌田 薫(早稲田大学総長)

 大学は、常に、最新・最良の研究と教育を実現するために、改革をし続けていかなければならない。

 早稲田大学においても、2001年に「21世紀の教育研究グランドデザイン」を策定したのに引き続き、創立125周年を迎えた2007年には「Waseda Next 125」と称する改革プログラムを作成し、「今後10年以内に日本の大学としての存在を超え、グローバルユニバーシティとしてのWASEDAを構築」する旨を宣言するとともに、その実現に向けた基本方針と重点施策を提示した。現在、これに基づく改革を進めつつあるが、Next 125においては、その重点施策を2012年までに具体的に着手すべきものとされていたことを受け、次の戦略目標と具体的アクションプランなどの策定作業を行っている。この新しいプランは、本学が創立150周年を迎える2032年にはどのような姿になっていることが望まれるかを展望し、その姿を実現するためにはいま何をなすべきかを考えるものであり、Waseda Vision 150と呼んでいる。

 これまでの改革を振り返ってみると、何よりも、情報、環境、エネルギー、人間科学、公共政策など、新たに注目を集めるようになった学問分野に対応するため、あるいは国際化の促進、研究中心の大学への再編、高度専門職業人の養成などの新たな教育目標に対応するために、学部や大学院の新設・再編を行ってきたことが目につく。創立100周年にあたる1982年には8学部6研究科であった早稲田大学は、現在、新規募集を停止した学部・研究科を除いて、13学部・21研究科で構成されるようになっている。

 新しい研究領域や教育目標に敏感に対応していく必要性は失われてはいないものの、これまでの改革によって基本的な要請にはほぼ応えられる体制が整えられたこと、経済・財政の低迷は今後もなおしばらく続きそうであること、若年者人口は一層減少することなどを勘案すると、これからの改革の重点は、教育研究の質の向上と業務システムの効率化に移行していくべきであり、そのいずれにとっても情報化が重要な役割を果たすことになる。

 例えば、ICTを活用することにより、国内外の優れた授業内容や多様な教材・教育方法を取り入れ、教育の質を高めることが期待されるし、教育研究や大学運営に係る事務処理の効率化を図ることによって研究時間を確保することも期待される。

 こうした観点から、これまでもそうであったように、これからも、それぞれの時点で最も先進的かつ効率的な方式で、情報化を推進していかなければならない。現時点では、情報インフラとしてのクラウドコンピューティング、ソフトウェアアーキテクチャとしてのサービス指向などにつき、その利害得失を慎重に検討しながら、採用のあり方を考えることが当面の課題とされることになるであろう。

 他方で、いずれの大学においても、既に多くのシステムが構築され、大量のデータが蓄積されているが、その一貫性やセキュリティの確保などの問題が山積しており、新たなサービスを支援するシステムの構築に対する要求も強まっている。既存のシステムがそれなりに機能している状況の下で、かなり大きな財政的・人的負担を覚悟して、新しい概念に基づいた総括的なシステムの開発に踏み切るためには、相当の決断を要する。

 東日本大震災後、従来にも増して大学の役割に対する期待が大きくなっている。わが国の新しい時代の大学を考える際に、教育研究の手段として、また日常業務の効率化を図るツールとして、情報化がその中心に来るべきものであるということは言を俟たない。それを計画的に実施していくためには、日々新たな発展を遂げつつある情報化関連技術の動向に適切に配慮しつつ、教育研究の展開と教職員・学生の日常的な業務の改善のために情報化が果たす役割について全学的な理解を得、大学の総力を挙げてこれに取り組んでいくことが必要とされている。


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