特集 情報と災害対策

被災時の教育研究用コンピュータシステムの状況と大学の役割について
〜石巻専修大学〜

1.学内システムの被災状況について

 3月11日の地震当日、5号館に設置されている教育研究用コンピュータシステムのサーバやPCは地震による落下などの被害はありませんでした。停電によりサーバ室のサーバなど主要な装置は無停電電源装置が作動しシャットダウンを済ませることができました。また、春期休暇中で利用している学生も少なかったため学生がけがをするようなこともありませんでした。
 コンピュータネットワークの上位回線は図1のように東北インテリジェント通信(TOPIC経由)とNTT東日本(プロバイダ経由)の2回線を設けマルチホームの形態で片方の回線が使えない場合の対策を取っていましたが、NTT東日本、東北インテリジェント通信の中継局が津波により被災したため外部への接続ができなくなりました。
 停電と上位回線への接続が断たれたため、メール、ホームページの配信などの学内のサービスはすべて停止してしまいました。

図1 学内情報基盤と復旧状況

 3月20日に電気が復旧したことにより、学内のシステムを立ち上げることができました。サーバやコンピュータ室のPCに不具合はありませんでした。この時点で上位回線への接続はまだできませんでしたが、学内LANは使えるようになりました。
 NTT東日本では石巻市門脇にある中継局が津波による被害を受けていました。1階に電源があったことと、周辺のがれきの撤去のため作業が遅れたようです。NTTでは商用電力が復旧しなかったため3月20日より4月20日まで移動電源車およびタンクローリーを準備して対応していました。3月22日にNTT側が復旧したことでマルチホームのうち1回線が機能するようになりました。
 東北電力企業グループに属する東北インテリジェント通信では、3月11日に通信回線がいったん不通となりました。3月12日にバッテリーにより復旧し、その間に移動電源車を手配しましたが、収容局の周辺に立ち入ることができなかったようです。そのため3月14日に予備電源が切れて回線は不通になりました。3月23日に商用電力の復旧により通信回線も復旧しました。
 参考までに6月29日のTOPICの総会における各大学の報告によると、東北の大学の多くは3月13日までに復旧し、システムを稼働することができていたようです。
 4月7日に大きな余震がありました。このときも停電により学内サービスは停止しましたが、上位回線は自家発電により運用が継続されていました。4月8日の停電の復旧とともに学内サービスも使用できるようになりました。しかし、この余震の時にはコンピュータ室1、2において8台のPCの落下がありました(写真1)。

写真1 PCの落下状況(4月7日余震時)

 PCはテーブルに耐震ジェル(写真ではテーブル上の青い円形の形状)で固定されていました。本震のときには耐えることができましたが、余震のときには耐震ジェルの効果が弱っていたようです。また、この余震は深夜だったためコンピュータ室で人的な被害に至りませんでした。
 このようなことから、コンピュータシステムは3月11日から21日まで上位回線、並びに学内のコンピュータを利用できない状態になっていました。

2.安否確認

 大学には専用の安否確認のシステムはありません。このような状況の中で3月11日に本館事務棟へ設置した東日本大震災災害対策本部の下で、3月12日から学生、教職員の安否確認が始まりました。これと並行して3月12日には、専修大学のホームページで石巻専修大学の学生、教職員の安否確認情報を収集するサイトが公開され、3月14日から安否確認情報の掲載が開始されました(図2)。このときの情報収集は、専修大学において電話、メールにより対応が行われました。

図2 専修大学のページに掲載された安否情報

 本館事務棟の一部では自家発電による電力供給が行われていたので、事務側でシステム環境が準備されていました。しかし、ネットワークの外部への接続はまだできていない状態でした。3月15日に安否確認用として事務用パソコン1台とプリンタが対策本部に用意されました。3月16日には安否確認と通常業務再開に向けて、ファイルサーバと事務側のパソコンが使えるようになりました。
 3月16日には、坂田石巻専修大学長のメッセージをはじめとした石巻専修大学情報(特設)サイトが公開されました。3月18日から専修大学の協力により専修大学の外部DNSサーバで石巻専修大学のURLを専修大学のURLに振るようにしたため、石巻専修大学のURLへアクセスすると、専修大学の安否情報サイトへ直接つながることができるようになりました。3月23日に石巻専修大学のホームページが復旧するまで、専修大学から情報が発信されました。
 これとは別に教員側でも安否確認が進められました。3月15日ごろから仙台在住の経営、理工学部の教員の有志により仙台仮事務所が設置され、学生の安否確認の作業が始まりました。この作業では大学に学生原簿を印刷したものがあり、これを仙台に持ち込み学生原簿に掲載されている学生本人ならびに自宅の電話番号をもとに安否確認の作業が行われました。このとき、学生の電話番号に掛けた際に、着信拒否にされている場合がありました。また、春期休暇中ということもあり自宅に帰省している学生も多く、両親から安否を確認したケースもありました。
 安否確認は3月30日に終了し、約2,000名の学生、教職員の安否確認を終えることができました。また、外国人留学生は当時12人がいましたが、事務と教員により、全員に直接あるいは電話で安否が確認されました。

3.被災時の大学の役割について

 大学の地震による建物・設備等への被害は少なく、津波による被災もなかったので、被災地の復興と支援拠点として大学の施設を提供することができました。
 3月11日の震災当時、大学は大学のある南境地区の指定避難場所ではありませんでしたが、夕方から住民や学生が集まってきました。大学内の建物は、夕方に本館以外の建物はロックアウトされました。本館では自家発電装置が稼働し電気が確保され、水道、下水も数日利用できる状態にありました。非常食は前年に石巻専修大学育友会(在学生の父母からなる組織)から提供されたものがあったため、数日分を確保することができました。大学が石巻市から避難所の依頼を正式に受けたのは3月14日でした。
 3月15日から5月10日にかけては、自衛隊の臨時ヘリポート兼物資集積所が多目的グラウンドに設置されました。4月下旬まで大学の4号館は被災者の避難所として利用されました。大学の体育館は4月下旬まで石巻赤十字病院の救護所として利用されました。その後は、県の合同庁舎として9月末まで利用されました。5号館の1階とその周辺にはボランティアセンターが設営され、11月末まで運営されていました(写真2)。さらに石巻赤十字病院の看護専門学校は津波により被災したため、2号館の一部が教室として利用されています。

写真2 5号館前ボランティアセンターの受付の様子

 大学としては、4月23日、24日、30日、5月1日に東北各地において育友会支部懇談会を開催しました。この懇談会を通し学生と父母に対し大学の現状を説明し、また、学生や父母からの質問に答えました。5月6日、7日に経営学部は大学と仙台で臨時ゼミナールを開き、学生を集め大学が被害を受けなかったことを説明し、学生の状況について話を聞くなどして交流を深めました。このように早い時期に学生や保護者との集まりを設けたことで、大学との絆を強めることができたものと思われます。5月22日に入学式が行われ、前期の授業は5月末から始まりました。

4.被災の経験から今後考えるべきこと

 今回の地震と津波で、教育研究用コンピュータシステムは電力が復旧するまで稼働させることができませんでした。電力が復旧しても津波による各中継局の被災により、上位回線に接続することがしばらくできませんでした。また、安否確認システムもない状況でした。
 しかし、このような状況の中で安否確認の作業が始まり、早期に確認を終えることができました。姉妹校の専修大学からは、安否確認の情報を発信する際に様々なサポートを受けました。今回の作業では初動の効果が大きく影響しており、これを意識してこれからの防災に役立てていくことが必要だと思います。
 そのためにはBCP(business continuity plan)のように、大学の機能を被災時にも継続できるように、初動時に必要なことを記載したマニュアルや、他大学との連携を取るなどしてパートナーシップを組むことも必要のように思われます。このように準備しておいてテストや見直しなどを通して、常に被災時に行動をすぐ起こせるようにしておきたいものです。
 停電時の対策としては自家発電装置を用意することも考えられますが、大学が住宅地に近い場合、騒音が問題になることもあります。また、自家発電の際に必要となる燃料の確保、保管、保管のために必要な資格が必要となってきます。今回の災害時で燃料不足になった経験からも考えていくべき対策の一つであると思われます。
 上位回線と接続できない状態で、パートナーの組織に情報発信を引き受けてもらう手段もありますが、大学において必要なシステムをクラウド化していくことも考えられます。これは上位回線の接続および無停電の保障がなされているデータセンターにラックを設置し、大学のサーバの一部を移設することで、災害時においても必ず利用できることが保証されますが、その反面、設置費用や電気代が新たに発生してきます。システムの更新時には、この点を考慮に入れたシステムを考えていく必要があるかと思います。

文責: 石巻専修大学
情報教育研究センター長 教授 湊 信吾

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