教育・学習支援への取り組み

芸術教育・学生支援へのICT活用
〜大阪芸術大学〜

1.はじめに

 大阪芸術大学は、昭和20(1945)年、初代学長塚本英世先生が平野英学塾を設立したことに始まり、昭和39(1964)年4月に大阪府南河内郡河南町の地での開学から創立47年を迎え、幾多の有為な人材を輩出している関西で最も歴史のある総合芸術大学です。開学に当たって学校法人塚本学院創設者である塚本英世先生が述べられた芸術教育に対する考え方が、「自由の精神の徹底」、「創造性の奨励」、「総合のための分化と境界領域の開拓」、「国際的視野にたっての展開」、「実用的合理性の重視」といった五つの教育理念としてまとめられ、本学の建学の精神および大学を形成する基本理念の中核として機能しています。さらに大阪芸術大学芸術学部、大阪芸術大学大学院、大阪芸術大学通信教育部、大阪芸術大学短期大学部、大阪芸術大学附属大阪美術専門学校、四つの大阪芸術大学附属幼稚園は、大阪芸術大学グループとして活動しています。
 国際化への本格的な取り組みは昭和40年代初頭から始まり、昭和47(1972)年にアメリカ美術大学連盟(AICAD : Association of Independent Colleges of Art and Design)に加盟し、毎年、アメリカ美術大学連盟の大学において海外セミナーを実施して授業単位として認定しています。その後、加盟大学間での単位互換協定、留学制度等を整備し、カリフォルニア美術大学、シカゴ美術大学といった世界的に著名な美術大学との姉妹校協定も締結しています。アジア圏では昭和47(1972)年に韓国の弘益大学校、昭和61(1986)年に中国の上海大学美術学院と姉妹校協定を締結し、毎年相互で開催する交流作品展やワークショップ等によって交流を深めています。近年ではウィーン大学、ウィーン音楽・表現芸術大学との姉妹校協定による音楽系学科間の相互留学制度、海外セミナーの実施、ミラノ工科大学での造形系学科による国際セミナーの開催など、「国際的視野に立っての展開」という教育理念を体現しています。
 本学の芸術学部は、美術学科、デザイン学科、建築学科、文芸学科、音楽学科、放送学科、工芸学科、写真学科、環境デザイン学科、演奏学科、映像学科、芸術計画学科、舞台芸術学科、キャラクター造形学科、初等芸術教育学科の15学科を設置しています。大学院には、 芸術研究科博士課程(前期)に芸術文化学専攻と芸術制作専攻、博士課程(後期)に芸術専攻を設けています。また通信教育部は、美術学科、デザイン学科、建築学科、文芸学科、音楽学科、放送学科、工芸学科、写真学科、環境デザイン学科、映像学科、初等芸術教育学科が設置されています。これら課程において、平成23年度には7,600名余りの学生が在籍しています。
 また、本学の教育理念を推進して体現するためのICT関連設備として、芸術教育用サーバ機器等が約55台、芸術教育用コンピュータ演習室はWindows版PC約1,100台、Mac版PC約650台を設置し、1Gbpsおよび2Gbpsの光ネットワークで学内LANを構築しています。本稿ではICTを活用した取り組みとして、大阪芸術大学テレビ、学生ポータルサイト、超小型RFIDタグを用いた授業支援システムを紹介します。

2.大阪芸術大学テレビ(OUA-TV)による芸術教育・学生支援

 本学ではICTを活用した芸術教育・学生支援の一環として、大阪芸術大学テレビ(通称:OUA-TV)を平成18(2006)年10月に発足しました。OUA-TVは、大阪芸術大学グループ全体をつなぐメディアセンターとしての役割に加え、芸術教育・学生支援の一環を担っています。スタジオを大阪芸術大学総合体育館前中央広場、さらに大阪市内の「ほたるまちキャンパス」にサテライトスタジオを設置し、放送局で使用される設備・機器を整備して充実したインフラを擁しています。スタッフは放送学科教員・卒業生を採用するとともに、実習科目の一環として放送学科アナウンスコースの学生をアナウンサー、制作スタッフとして起用し、芸術教育・学生支援の活動として運営しています。
 OUA-TVでは、芸術系大学の特色あるコンテンツである各学科の授業・演習・実習、学生達による演奏会や作品展覧会、学内外で実施される様々なイベントの取材・中継を中核に、教員やゲストによるセミナーやシンポジウム、デジタルアーカイブされた研究成果や作品の発信など、アカデミックで華やかな活動を展開しています。取材で蓄積したコンテンツは、情報番組としてキャンパス内のICTを活用したデジタルサイネージで、地上波テレビ放送およびインターネット網を介して広く発信されています。このようなOUA-TVの活動は、講義・実習から現場での取材・制作・編集・配信までが連結し、メディア系学科に所属する学生にとって充実した芸術教育環境を提供しています。

写真1 OUA-TVの活動

 また、独立UHF局との協同事業によるテレビドラマや映画の制作と放映、インテックス大阪との事業提携による番組制作・配信など、産学官連携の推進にも大きな役割を果たしており、今後もその特色ある活動により、芸術教育活動の活性化に大きく寄与することが期待されています。 

3.学生ポータルサイト

 大阪芸術大学のポータルサイト(通称:大阪芸大ポータル)は、本学の教育理念を推進して体現するため、アカデミックで華やかな芸術教育の充実および学生生活、就職活動などの支援を目指して2010年4月に開設しました。学生達がインターネット網を介して、大阪芸大ポータルにアクセスして、様々な機能を利用します。大阪芸大ポータルでは、学生の履修情報、時間割、試験時間割、スケジュールなどの学生情報データベースにアクセスできるとともに、イベント、学事暦、緊急情報、お知らせ、休講情報、教室変更情報などの機能があります。学生達の学内での主な閲覧は、オープン利用を目的としたインターネットルームのPC(Windows版PC107台、Mac版PC30台)を利用しています。また、本ポータルのサブシステムとして、芸術教育支援用ファイルサーバなども設置して学内クラウド環境を実現し、ICT活用によって芸術教育・学生支援を行っています。

図1 大阪芸大ポータル
写真2 インターネットルーム

4.RFIDタグを用いた授業支援システムの開発・運用

 本学では、RFIDタグを添付した出席登録用カード(通称:RFIDカード)と、多人数授業の出席情報を記録・集計できる非接触・スタンドアローン型の授業支援システムを開発し、芸術教育・学生支援に活用しています。本システムは出・退席の登録に加え、1)出席回数、2)課題提出状況、3)各課の呼出し情報をディスプレイに提示し、学生へリアルタイムなフィードバックが行えます。また授業中であれば、いつでも出・退席の登録が行え、教室へのネットワークの配線も不要です。さらに、非接触・スタンドアローン型であることから、教室外でも使用できるといった特徴を備え、多様なフィールドで実践される芸術教育に適応しています。
 本システムのハードウェアは、Windows版ノートPC、カード型ミューチップリーダ、RFIDカードです。RFIDカードには128bitの固有IDが設定されており、カード型ミューチップリーダで固有IDを読み取って学生を識別します。ソフトウェアは、RFIDカード作成・出席登録・出席データ集計機構で構成されています。RFIDカード作成機構は、授業期間の開始前に作成したRFIDカードの固有IDを、履修者情報(学生番号、氏名、履修科目、履修曜日・時限、授業担当者)に付加して本システムに登録します。出席登録機構は、授業中における学生の入退室時刻と学生番号を記録し、出退席者一覧を可変表示します。出席データ集計機構は、出席登録機構で記録したデータを授業終了後に、出席回数、出席時間などで集計して出席簿形式でCSVファイルに出力します。図2に機構のインタフェース、図3に授業支援システムの処理フロー、写真3に授業におけるシステムの利用環境を示します。

図2 授業支援システムのインタフェース
図3 授業支援システムの処理フロー
写真3 授業におけるシステムの利用環境

 本学の授業においては、学生一人の出席登録の処理時間は約1.5秒、1クラス2〜4分で全員の登録処理が行えています。本システムでは、複数科目の履修者を1枚のRFIDカードで処理でき、紛失した際の再発行も容易に行えます。また、出席登録データがテキスト形式で保存されるためファイルサイズが小さく、標準的なノートPC環境で使用できるといった実用性も備えています。さらに、学習情報(出席回数、課題提出状況など)の学生へのリアルタイムなフィードバックによって、学習意識の向上が期待できます。

5.まとめ

 本稿では、大阪芸術大学のICTを活用した芸術教育・学生支援の取り組みとして、OUA-TV、大阪芸大ポータル、授業支援システムを紹介しました。OUA-TVは、今後も内容の充実を図りながら、高度な芸術教育・学生支援を推進することが期待されています。また大阪芸大ポータルではコンテンツの充実を目指し、授業支援システムは芸術教育に特化した機能追加を検討しています。また大阪芸術大学グループでは、学生の作家デビューを支援するために学生作品オークション作品展示販売を開催しており、作品展示のためのiアプリ対応サイトとして“大阪芸大アプリ”も構築し、図4のようにスマートフォンなどで公開して芸術教育・学生支援の充実を図っています。

図4 大阪芸大アプリ:作品展示のiアプリ対応サイト

 高等教育機関においてはICTを活用した教育支援が展開されていますが、最近ではCMS(Course Management System)に加え、教育基盤用の多様な情報システムが連動して運用できるCLE(Collaboration and Learning Environment)へと進展しようとしています。このような状況を踏まえ、本学でも教務学生システムなどとの連携が検討課題になると考えられます。
 本稿での芸術教育・学生支援への取り組みの紹介についてまだ十分ではありませんが、ICT活用の一助となる事項がありましたら幸いです。今後も、みなさまのご指導ご鞭撻を賜りながら、学生第一とする芸術教育・学生支援のためのICT活用に全力を尽くしたいと考えています。最後に、本稿執筆の機会を与えていただいた私立大学情報教育協会に感謝申し上げ、原稿の結びとします。

関連URL
[1] 情報処理学会 CLE研究会Webページ
http://sigcle.jp/
文責: 大阪芸術大学
システム管理センター長 武村 泰宏

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