教育・学習支援への取り組み

崇城大学芸術学部におけるICTを用いた教育への取り組み

1.はじめに

 君が淵学園崇城大学の沿革は1949年電気・電波学校を設立1965年熊本工業大学の開学、2000年芸術学部を設置、2005年には、情報学部、生物生命学部、薬学部を設置、現在は、芸術学部を含めて5学部体制です。学生数は約3,500名、教職員数は約400名で構成されています。建学の精神・基本理念は「体・徳・知」の理念の下、「健康で徳・知を備え科学的思考のできる秀れた人材の育成」を根本的な建学の精神としています。社会が多種多様なプロフェッショナルを求めていることについて、崇城大学は薬学、生物生命、工学、情報学、芸術学の5学部計11学科と修士・博士に計16専攻課程を持つ大学院を擁して対応し、それぞれの卓越した教育により、プロフェッショナルを養成しています。工学部、情報学部、生物生命学部では、昨年度からスタートした「豊かな人間力と本物の実践力を有する人材育成」をビジョンとした崇城大学教育刷新プログラム(SEIP)のもと、様々なプロジェクトが実行されています。具体的には1)体・徳・知の三育増進によるグローカル実践力育成プログラム、2)オーダーメード型自立支援プログラム、3)教育評価制度・組織改革プログラム、4)教職員のFD・SD推進プログラムから構成されています。目的は、学生が前向きに講義を受講し、どの講義も教員と学生の対話で「活気溢れる学びの場」を造ることによって、学生の本学に対する満足度を上げることを目指しています。
 本学では様々なプロジェクトが実行されていますが、ここでは、特に、体・徳・知の三育増進によるグローカル実践力育成プログラムとオーダーメード型自立支援プログラムの関連で、芸術学部におけるICTを活用した教育や支援の取り組みについて紹介します。

2.必要に応じて学べるBDL(Basic Design Literacy)

 芸術学部では、コンピュータを道具として活用することに重点を置き、各アプリケーションソフトウェアの使い方は学生全員がある程度はできるものとして、専門授業では創造的で理論的なことを中心に展開しています。そのような専門授業をスムーズに行うために、アプリケーションソフトウェアの使い方に関しては、授業以外にBDL(Basic Design Literacy)という、芸術学部全体で学年問わず誰でも受講できるプログラムを3年前から設定しています。かつては、例えば時計や車のように、ものの仕組みや原理を目で見て理解することもできましたが、現在はICと電池が見えるだけだったり、様々なものがブラックボックス化しており、学生は理論を勉強しないと仕組みや原理を理解しにくくなっています。授業では理論的なことが中心となるため、BLDが必要となります。
 BDLでは単位の取得はありません。学生は自分のレベルに合わせて、いつでも必要なプログラムを受講でき、理解できるまで何回でも受講が可能です。教育プログラムは、BDL Spring、BDL Summer、BDL Autumn、BDL Winterと同じ内容が4回流れており、例えば、BDL Springではフォトショップとイラストレーターが同時間に行われるので、Springではフォトショップを、Autumnではイラストレーター、と受講することも可能です。その他のソフトも計画中です。
 学生を支援するのは大学院生が中心で、大学院生にとっても学部生とのコミュニケーションの場になっています。大学院生を指導する教員は、終了時間まで自分の研究室で待機する体制をとっています。
 BDLを受講した成果は、最終的に作品制作の場でおおよそ評価でき、身に付いていなければ次のシーズンにまた同じものを受講することになります。
 芸術学部デザイン学科の各専門授業では、図1のように、デザイン・プロセスに必要なすべての能力の基本である「Communication」(コミュニケーション能力)、「Information」(情報処理能力)、「Presentation」(プレゼンテーション能力)の向上を目標にカリキュラムが構成されています。

図1 SOJOデザインの授業の流れ

 ここでいうコミュニケーションとは人、自然、物、作品などを対象としています。情報とは表情を持った情報のことです。図中の「Communication」から「Information」への二つのルートは、コミュニケーションによって得られた感性情報とデジタル化した情報(図中では量子化情報)です。デザイン学科では物事の評価は心理的評価+物理的評価である捉えており、感じたものを正確に伝えるためにもデジタル化しなくてはならないと考えています。収集した情報は、目的に合わせて分析・解析し、加工してプレゼンテーションします。プレゼンテーションしたものが作品や、製品や、論文となります。そして、プレゼンテーションすると、また、次のステップのコミュニケーションが始まるというものです。つまり、良いコミュニケーションを通して良い情報を目的に合わせてプレゼンテーションをするというループを習得することが重要と考えたプロセスで、4年間かけてこのループをスパイラル状にレベルアップするものです。専門授業で使用するアプリケーションソフトの使い方を学ぶBDLは、そのループの真ん中に位置します。
 コミュニケーションを通して得られた様々な情報を加工するときにCG、グラフィック、イラストレーション、アニメーションなどの表現手段がありますが、その表現手段を習得するだけでなく、コミュニケーション、インフォメーション、プレゼンテーションのループが重要であると認識しています。
 芸術学部において、感性教育は最も重要なものの一つです。感性を定義することはとても難しいですが、デザイン学科では、良く観て情報を収集し、その情報を分析・解析して目的に合わせて表現する「感性=観察力+創造力+表現力」と考えています。「Communication」「Information」「Presentation」のループは、感性教育にも一部通じるものがあります。コミュニケーションは、観察力に、インフォメーションは、創造力に、プレゼンテーションは表現力であるからです。そこで、「感性=観察力+創造力+表現力」の式が成り立ちます。

成果発表の場:プレゼンウィーク

 この教育の成果発表の場としてプレゼンウィークというものが設定されています。これは学生の感性能力の向上のためのものです。教員をはじめ他の学生にプレゼンテーションをするというものです。3年生、4年生、大学院生は英語での概要発表となります。

3.ICTを活用した教育支援環境

 現在、ICTを活用した教育支援環境としては、WebClassというシステムを全学的に使用しており、学生はIDとパスワードでログインし、大学のクライアントマシンや学外から利用できます。芸術学部では、学生が資料の確認や課題提出のために利用している他、教員は出席確認、課題やアンケートなどのフィードバックとしても使用しています。

図2 WebClassの画面例

4.地域プロジェクト

 これまで学科や教員個人レベルでの地域連携の活動を全学的・組織的に支えて社会貢献を果たすため、本学では平成23年4月に「地域共創センター」を発足しました。同じ学年の授業が横並びの授業と考えると、地域プロジェクトの授業は縦型の授業です。現在、8地域、八つのプロジェクト形式になっており、各プロジェクトに担当教員がいます。また、各プロジェクトは1〜4年生までで構成されており、4年生はコーディネーター、3年生はマネージャー、2年生はスタッフ的な仕事を行うといった形態になっています。上級生、下級生の役割を経験することによって、コミュニケーション能力とマネジメント能力を身につけ、結果的に学科全体的に「活気溢れる学びの場」になると確信しています。
 芸術学部では、全学年による「地域プロジェクト」を実施しています。デザイン学科では、本学と協定契約を結んでいる熊本県内の複数の市町村に対して、様々な情報を発信していくプロジェクトを実施しており、人口の推移、産業の推移、歴史的背景、歴史文化的情報など有形情報、無形情報の調査、収集、分析、提案までのプロセスを実行するため今年度から開始しています。各指導教員がそれぞれ一地域を担当し、1年生から4年生までがチームとして活動するシステムで、担当地域間、学年間の情報の収集・分析・提案の情報の受け渡しのためのデジタルアーカイブが不可欠なことから、そのシステム作りを昨年度より開始しています。また、地域の方々に対してのプレゼンテーションを「地域フォーラム」という形で開催することも考えています。

5.携帯端末によるデジタルアーカイブ充実の取り組み

 デザイン学科では、デジタルコンテンツのデザイン研究を大学院で行っており、地域プロジェクトに関連しますが、現在、スマートフォンやタブレットを使用した、教育、観光、科学、アートのビジュアライゼーションのためのツール開発を行っています。まだ開発途中ですが、例としてデザイン学科で学生と筆者が研究しているものを紹介します。

(1)熊本城下町プロジェクト

 教育や観光用に製作したもので、プログラム環境は、CG(MAYA), processing, XCODE, UNITY, VIRTOOLSなどです。スマートフォンやタブレットで400年前の町並みを今の街を歩きながら見えるというもので、CGの他にGPS技術を利用して製作しています。位置情報、角度情報、地理情報を用いることで、熊本城の天守閣から現存しない城内の櫓など、建物や天守閣から見た昔の町並みがリアルタイムで再現され、画像だけでなく関連情報も検索可能です。

写真1 熊本城下町プロジェクトの画面例

(2)文化財への応用

 文化財関連の教育に使用するため、前記同様に調査データをもとにCGデータ、位置情報などを用いて製作しています。公園を歩きながらスマートフォン(写真2)やタブレットを地面に向けると、遺跡の発掘状態が確認でき、角度を変えると当時の建物や生活空間が再現されます。掘り出された遺物はほとんどがバラバラな状態のため、三次元スキャナー(写真3)によってCG化された組み立てられた完成物も見ることができます。

写真2 スマートフォンでの発掘状態の画面例
写真3 三次元スキャナーによる遺物の再現

6.最後に

 これまで、自分達でICTのコンテンツを制作するものだと考え、ICTに関しては無意識でしたが、今回原稿を執筆するにあたり、情報活用能力やICTを活用した支援環境の大切さを再確認することができました。これを機に皆様のご助言を得て、さらに学生の満足度を上げることを目指した教育や支援に努めていきたいと思います。

文責: 崇城大学
芸術学部デザイン学科教授 漆原 一宣

【目次へ戻る】 【バックナンバー 一覧へ戻る】