大学職員の職能開発
平成23年8月3日(水)法政大学外濛校舎薩ホールを会場に78大学8短期大学より、150名の理事長、学長、役員、副学長、学部長等が参加して開催。今年度は「大学の教育情報公表の戦略的活用を考える」として、教育の質的向上を図るための自主的な教育情報公表の取り組みについて理解を深める場とした。まず、向殿政男会長(明治大学)より「大学の特色を高める教育活動、教育の弱みを組織的に点検・分析し、大学構成員全員が課題を共有して、変革や具体的な成長に向けた行動を可能にする内部統制システムとしての機能が期待されている」との開催趣旨の説明があった。次いで、会場校を代表して法政大学増田壽男総長より「情報をどのように活用するかが問われる時代となってきた。教育に情報を使うことの意義について深刻に考えないといけない。今後の教育情報の発展普及に向け、真剣に議論されることを願っている」との挨拶があった。
「大学における教育情報開示の意義」
黒田壽二氏(金沢工業大学学園長・総長、日本私立大学協会副会長、大学基準協会副会長)より、概ね次のような説明があった。
1.大学を取り巻く社会構造の変化に対応
大学の機能別分化を図っていく必要があること。国際的通用性の中でどのような力をつけるべきか考えること。学位課程プログラムの構築、人口減少期の大学の在り方、知識基盤社会・生涯学習社会への対応、専門領域の複雑化への対応を考える必要がある。その際、専門性に加え、幅広い教養・公共心・倫理観を備え社会に関与する人材、いわゆる21世紀型市民としての素養を培うための学士力を身につけるためにどのように大学が対応していくのかが課題となっている。政府は大学の量的拡大を受け止めつつ、事前審査から事後チェック体制に移行する中で、日本の大学の質の維持をどのように図るのか。他方、多様化する大学は社会的責任として、社会での役割を示すことが重要になってきている。また、グローバル人材は、各国で実施されている大学教育と同等の教育が行われることが大前提で、OECDの大学教育の学習成果に関する国際テスト(AHELO)への対応が必要になってくる。日本では土木工学の分野で国内6校を対象に試行的にテストを実施した。その成果を見て出題の方法や分野の対象を検討している。さらに、EUでは欧州大学間単位互換制度を作り、EU枠外に拡大しようとしている。
2.大学教育改革の必要性を確認
大学とは学位を自主的・自律的に授与する存在として確立されているが、それは国が制度の中で保証しており、大学が勝手に学位を出しているのではない。そのことから、国際的に共通性を持てるよう機関中心の認可から、学位を中心とした教育課程が保たれているかを検証しなければならない。
3.大学の使命の明確化による機能分化促進と質保証が重要
建学の精神に見合った使命の作り方があるのではないか。公的な質保証である大学設置基準について、教員の質に関わることについて見直す必要がある。設置認可審査の審査期間の適正化、届出制度の見直し、アフターケア(留意事項)の強化を図っていくことになっている。今後の認証評価は、大学の自己点検・評価の有り様として、内部の質保証が機能しているか、改善に繁られているかを見ていく。
4.学部教育を学士課程教育の構築で学修の質を保証
学位授与の方針、厳格な成績評価、卒業要件の明示をしっかり行うこと、教員の資質が変わらなければ改革が進まないので、FD活動と事務職員の資質向上を図るSD活動が重要となること。そのことにより、「何を教えるか」から「何ができるようになるか」が重要となる。
金沢工業大学では、「自ら考え行動する技術者」の養成として、12の学びのポイントを掲げ、人間力を培うことを基本に修学、自己評価レポート、キャリアのポートフォリオなどを積み重ねることで、学生が到達度を自己判断しながら進めている。20年度から全科目にCLIPという学習プロセスを開発し、講義や自学自習での知識の取り込み、体験や実験・演習での思考・推論で組み替えや結び付けを行い、新たな知識を創造し、その成果を発表・表現・伝達していく総合力をスパイラル状に高める工夫をしている。それを学習支援計画書で明示し、授業を通じて総合力がどのように身につくのかわかるようにしている。
大学に新たに課された義務として、職業的・社会的自立に関する支援および指導の義務化と教育情報の公表が23年4月より義務化された。また、財務・経営情報は公開が義務づけられている。「公表」は自らわかるように示すこと、「公開」は要求があったときに提示できるようにしておくことで、両方とも開示の義務を受けている。
5.教育情報の公表による教育の可視化が重要
公表は自らの大学のために行うもので、教育活動の多様性と主体性、大学機関としての客観性と標準性をうまく組み合わせることで、社会的に信用を得ることになる。要はその教員のFD活動による教育改善に向けた組織的・自律的な点検・評価だが、学位プログラムでの教員使命の明確化が難しく、教育の実質化が遅れている。それを受けて機関別評価、分野別評価が起き、情報公開、質保証がやってくるが、最終的に大学のコアとなる部分が動いて初めて改革の部分が進む。
情報開示の基本的考え方は、「誰のために」、「何のために」、「何を公表するのか」の観点で考えることが重要。学校教育法施行規則の改正による教育情報公表の「義務化」では9項目を掲げている。建学の精神・目的に関する情報、教育研究の基本組織に関する情報、教員に関する情報では教員の数、教員の有する学位と業績、とりわけ業績では論文を公表することになるとともに、教員の講義について個人情報保護を合議した上で行うなど、注意する必要がある。義務化の9項目の中身が問題となる。私立大学として問題視しないといけないのは、「努力義務」の項目で大学教育と専門学校の差異を明確化しておくことが必要。学士課程教育プログラムとコアカリキュラムの明確化について、社会、受験生に向けて分かるようにしておかないと問題が起きてくる。また国際的な競争力を高めるための情報発信として、国際的に大学情報の公表が望まれる情報の例が提示されているが、小委員会において掲載のモデル例の検討を進めており、修正を加えている。教育情報の公表で一番重要なことは、信頼に値する情報であるかどうかが問題。公表の正確性、信頼性を確保するために、監事による監査を受けるなど、教育分野では外部評価者の監査を受けたものを出していくことが必要と思っている。
6.グローバル社会で勝ち抜くために
大学は使命を明確にし、国際社会に向け情報を発信することが重要。そのために国際化した社会活動の変化を理解し、大学院教育の修士、博士の国際的地位の向上、外国大学とのダブルディグリー、ジョイントディグリーの推進、社会人の再履修・再学習ができる制度を作る、履修証明を活用するなどが今後大切で、情報発信する土台を自ら作りあげていかなければならない。
7.まとめ
義務だから公表しないといけないのではなく、教育研究情報の開示で社会の信頼を勝ち取ることが必要。大学が多様化する中で自ら率先して情報開示しなければ生き残れない。受験生、社会にそれぞれの視点で公表する内容を認識した上で、公表していくというのが大事である。
「大学を自己革新する戦略的な教育情報とは」
金子元久氏(国立大学財務経営センター教授、研究部長)より、概ね次のような説明があった。
1.日本の高等教育に何が起こっているのか
一つは、大卒の就職状況がかなり悪い。それは数年前からでなく、1990年代中頃から卒業者数に占める就職者数の就職進学率が下がっており、構造的な問題である。高卒の大半が大学に入学するようになっている状況で、どういう意味のある教育をするかが問われている。大学はきちんと教育をしていないと社会は思っている。もう一つは、奨学金の受給者が1980年代までは1割程度であったが、1990年代から3割台になっている。親が無理せず大学に行かせている時代ではなく、無理をして貯金しても大学に行かせられない状況が続いている。一方で4年生の3分の1は職に就くことができない。3分の1は借金をしていても成果が出ていないことになる。そういうことであれば、大学に対して見方が非常に厳しくなるのは当然ではないか。何か少し改善すれば済むのだろうか。かなり基本に立ち戻って考え直すことが求められている。アメリカでは2000年代中頃に連邦政府下の委員会で大学のコスト、大学の就職率について大学批判が非常に激しかった。また、イギリスでも大学への手厚い財政保護が大きく変化し、政府補助金を出さない代わりに、貸与奨学金を出すことで直接的な出資はしないことになった。その背景は、社会からの大学に対する批判が大きく変化していることだ。そのときに新しい秩序をどういう形で作っていくのか、情報公開、自己革新が出てくるのだと思う。
2.大学の課題としてどのようなことが求められるのか
一つは、就職状況の悪化、費用負担、大学教育への不信に、大学は何をしているのかということを社会に説明しないといけない。二つは、教育をどうするかという教育改革の問題がある。18歳人口の5割が大学に入学しており、週2時間以上勉強する学生は6割で、それ以外は家で勉強していない。知的な資質が変化したことは事実で、さらに多様な価値観をもった学生が入るなど、大学の状況は変化している。また、産業構造が変化して製造業が減少し、中小企業のサービス業が非常に多くなっているが、企業も経営などの知識を形成できていない。そういう中でどのような学生を作っていくのか大学にとっては大きな課題で、大学教育を高度化、実質化していくということが重要と思う。三つは、限られた資源の中で、質の高い教育をどのように作っていくのか。単に努力の問題ではなく、大学経営の問題だと思う。
3.大学改革のメカニズムを考える
社会から批判されているものとして、大学の自治が閉鎖的な組織であることがあげられる。社会から要求されていることは、透明性の中で自律性を発揮すること、理念を明らかにし、どのような結果をあげているのかを明らかにすること、それを改善に結びつけることであり、このような論理は対抗しようのない非常に重要なことではないか。大学の改革を考える視点として、三つの軸がある。一つは、資源配分とガバナンスで、教員、設備などの資源をどのように作り教育を行うのか。個々の教員が授業を行う、その枠組みを教授会のカリキュラムが作る、経営陣はそれに必要な資源配分を行うという、自律性が重要となってくる。また、適格認定制度、大学設置基準も必要となってくる。さらに、社会からも学生が大学に来ないなどの問題に対して大学は何をしているのか説明を求められる。一般的にこのような統制というものがどのように機能しているかが改めて問われる。二つは、プロセスで教育がどのように結果をもたらすのか考えるようにする。インプットとしての授業だけでは多様な学生に対応できない。実際に学生は授業にどの程度ついてきているのか、プロセスとしての学習行動をあまり考えていなかった。三つは、フィードバックで、プロセスを通じて知識・技能、職業達成の成果をどのように捉え、その問題をどのように改善に結びつけていくかということだと思う。フィードバックというのは、具体的には情報と評価の問題。フィードバックのルートはいくつかある。大学内規で点検・改善していく大学自治モデル、アクレディテーションモデル、政府統制モデルなどの教育インプットと、学生に大学を選択させることで変化を求めるアウトカム志向、学習過程・学習行動から点検・評価するものもあり、教育のどういう側面をとらえるのか、誰が使うのかにより様々なレベルによる情報が必要となる。
4.大学における情報とは何なのか
大学における情報をインプット、学習行動、成果・アウトカムとした。その上で、数量的に捉えた教員・学生数、財務情報、卒業生数、就職状況などの外形情報が資料として使用されているが、情報はそれだけではない。本当に必要とされる情報とは、既にある情報だけではない。ポジティブに大学を動かしていく、授業の内容・教え方、学生の学習時間、人格的な成長、獲得した知識・技能、満足度などの行動情報・構造情報が非常に重要な役割を持つ。意識はされているが計測されていない。例えば、インプットについての情報として、教員数、施設などの外形情報はあるが、教員の教育負担、学生の単位取得パターン、授業方法などの行動情報は少ない。アウトカムについても5月を基準に大学が就職率を示しても、数年経つと3割が企業を辞めてしまっているのが現状で、就職率だけでは実態を把握できない。就職といっても様々な形態があるが、卒業後もフォローして調べている大学はどのくらいあるか。分かっていない情報もあり、行動情報は少ない。もう一つ学習成果の測定として、1990年代からアメリカで様々な標準化テストが開発されてきた。OECDでも、アウトカムプロジェクトとして AHELO (国際テスト)を作って一般能力、経済学、工学などの到達度試験が進められようとしているが、これが非常に大きな力を持つことは近い将来あまり考えられない。外形情報は多様で多数存在しており、それだけでは解釈が困難で、混乱をもたらすこともある。問題は自己学習のためにどのような情報を使っていくのか、例えば、学生がどのように学習し、どのように反応しているかをモニタリングしている学習時間などの行動情報が必要。しかし、このような情報は極めて不足している。
5.自己革新にどう活かすか
情報をめぐる状況として、政策的には大学独自の情報開示、大学の情報をシステム的に開示する大学データベースの開発が検討されているが、アメリカ、ヨーロッパに比べかなり遅れている。その際問題となるのが、情報開示の中身であって、大学の教育効果をあげるために必要とされる自己革新のための情報戦略を考えておくことが重要。まず、最初に時間の問題。東京大学経営政策研究センターの2006年から2008年の「全国大学生調査」によれば、学生の1日の活動時間8時間の中で、授業・実験が約3時間、授業に関する学生自身の学習は1時間で、授業に関する準備時間が3対1と少ない。大学設置基準では1時間の授業に2倍の2時間準備学習することを規定しているが、教員も学生もあまり学習することを想定していない。次に、教員の時間は1日の活動時間約12時間の中で、5時間前後と非常に多くが研究活動で教育活動の時間は3時間未満となっており、これでよいのか。また、カリキュラムでのコマ数も1学期当たり8コマを担当され、大学院の負担、管理業務の負担が大きい。8コマの内、ゼミ・論文指導の数が多い。日本の大学教育の特徴として、教員の授業負担は多いが、学生参加型の授業への時間がとれず、そのような授業が少ない。学生のインプットは授業出席中心で自分での勉強は少ない。結果として、個々の授業の中身は薄く、体系的な知識の修得が不完全で教育成果の実感がない。さらに、社会で要求される人格的成熟度が低いことに対する大学としての正課、正課外での仕組みが欠如している。それは教員の努力不足では必ずしもない。有効な資源の組み合わせを考える構造的な再検討が必要。
社会からの情報要求への対応もあるが、自己改革の基になる目的をもった意味のある情報を収集し、意味のある改善に結びつけていくことが大きな課題となる。教員は強圧的な支持では動かない。説得するためには意味のある情報を提供することが必要。職員は数量的な情報をそれとして受け取る傾向があり、情報の意味を必ずしも理解していない。教育支援に関る中で主体的に情報収集、利用過程に参加することが必要となる。
「教育の質的向上を図るための教育情報の公表を考える」
向殿会長より、教育の質的向上を図る教育情報とは何なのか。大学側と社会側が求めている情報にミスマッチがあるような気がする。質保証の確保に向けた戦略情報の課題を整理したい。最初に社団法人日本私立大学連盟が取り纏めた報告書を踏まえて情報公表に向けた組織的な取り組みについての課題提起を行い、次に国際化に対応した教育情報の公開と人材確保の情報戦略、Webサイトを活用した情報公開の事例紹介をした上で、全体討議を進めることの説明があった。
【課題提起1】
「大学教育の質保証を踏まえた情報公表(日本私立大学連盟報告書)」
最初に松本亮三氏(社団法人日本私立大学連盟教育研究委員会委員長、東海大学観光部長)より、概ね次のような説明があった。
1.大学の情報公表義務化の経緯と意味
平成22年6月15日文部科学省令第15号の発令で、23年4月1日付けで学校教育法施行規則等を一部改正し、同日施行。9項目の大学情報の公表を義務化、とりわけ入学者に関する受け入れ方針、授業科目、授業の方法および内容並びに年間の授業計画、学修の成果に関る評価および卒業又は修了の認定基準と、教育上の目的に応じ学生が修得すべき知識および能力に関する情報項目の努力義務化、公表手段としてインターネットを推奨。平成17年中教審答申(「我が国の高等教育の将来像」)の三つのポリシーから、平成20年中教審答申(「学士課程教育の構築に向けて」)の中で、学位授与の方針、教育課程編成・実施の方針、入学者受け入れの方針の明確化を要請。さらに、大学に関する基本的な情報発信の必要性に言及している。これは私立大学連盟の中でも先駆的試みとして、平成15年、16年の「日本の高等教育の再構築に向けてその課題を問う」の中でも同様、入学者の受け入れ、教育課程の編成・実施、学位の授与・学習の評価を掲げ、FDとSDの下支えで取り組むことを提起してきた経緯からして、今回の情報公表が三つの方針に関っていくことから、きちんとした見解を表明することにした。
大学情報については、20年の授業方法・内容、授業計画の明示と学修成果の評価と卒業認定基準の明示と実施を追加条項の形で改正、23年には入学者受け入れ方針として何をどの程度学んできてほしいかを大学入学者選抜実施要項に列挙することになったが、いずれもインターネット等で公表する議論は公的には起こっていなかった。文部科学省の20年のホームページを利用した情報の調査でも三つの方針については調査もされていなかった。しかし、関西経済同友会から、ほとんどの大学が教育目標とそれに基づく人材育成像を明示していないとして、大学への提言の中で情報開示の徹底が指摘され、社会からの圧力が大きくかかわってきた。大学が社会に対して果たすべき責任は、透明性の確保と説明責任の遂行で、大学教育のユニバーサル化、グローバル化に伴って、大学教育のステークホルダーの範囲が入学を志す者、初等中等教育関係者、企業等を含め日本のみならず国際社会全体となり、直接関係者への明示ではなく、公表が必要となった。
2.我が国の高等教育における三つの方針確立と公表の必要性
ゆとり教育によって高校卒業生の絶対的な学力低下が起こっている。昭和35年の高校の学習指導要領で義務付けられている卒業単位に占める必履修単位の比率が80%から平成11年では42%弱になり、教育内容が薄まってきた。他方、AO入試と推薦入試の入学者が4割近くになり、非学力選抜によって大学入試が機能を失い、学力が担保できなくなってきた。このような問題に大学として、リメディアルや初年次教育、分かりやすい授業を徹底させる。また、個別授業の対応では、学士課程教育内容・方法の確立、公表と実行、教育の組織的な活動をとらえたFDが必要であって、教員に三つの方針を確立して実行し、それをまた改めていくことを公表していただけるようになってくると思う。
3.三つの方針の策定と公表
学位授与の方針は、学部・学科ごとに卒業生は何を修得しており、何ができるかを具体的に説明するものでなければならない。現在の学習指導要領も立命館大学の沖 裕貴氏の提唱する「観点別教育目標」(知識・理解、技能・表現、思考・判断、関心・意欲・態度)別に作られていて参考になる。それを実現したのが山口大学で、2006年4月に各学部・学科(コース)の教育目的を定め、学科・コースごとに学位授与方針(グラデュエーション・ポリシー)とそれに基づくカリキュラム・マップを策定してホームページに公開している。それを実現するのが、教育課程編成・実施の方針確立と公表で、カリキュラム・マップ(カリキュラム・チェックリスト)の作成、いわゆる学位授与方針と各授業科目との対応を図ること。その上で各科目の到達目標の設定を行い、到達目標の達成度を測る測定システムの開発が望まれる。入学者受け入れの方針は、学位授与の方針、教育課程編成・実施の方針の実現を目的に、入学前に何をどの程度学習しておかなければならないかを明示することが必要。これを明示すると受験生が少なくなるのではないかという意見もあるが、全私学が行うならば状況は改善に向かっていくであろう。大学入学者の学力低下、卒業者の質保証の要請に板ばさみになろうがなるまいが、大学教育の質保証向上を図らなければならない。それを行っていくための一つの仕組みが社会全体に向けて情報を公表し、それを違約しないように教育に当たり、改善していく努力を続けていかねばならない。
【課題提起2】
「国際化に対応した教育情報の公開と人材確保の情報戦略」
吉田賢一氏(株式会社日本総合研究所上席主任研究員)より、概ね次のような説明があった。
大学の情報開示は、ステークホルダーに向けて適切な情報を提供していない。教育目標・方針に沿って全学的に統一的にデータを数値化、整理・加工・可視化して、それらを評価指標として把握し、教育研究、学生支援、法人経営まで広範囲に活用するIR(インスティチューショナル・リサーチ)機能が必要。ペンシルバニア大学では、理事会の下に経営分役析室(8名)を設置し、経営陣の意思決定に資する情報やデータの提供、経営情報の集約・分析、教育内容などの質的改善を図る品質管理、経営戦略の立案等を行っている。その上で、大学の様々な教育情報や法人情報を大学が優位となるように学内外のステークホルダーに見せる機能が今後大事になってくる。大学とステークホルダーとの戦略的な双方向関係(USR)から大学を見つめる眼が重要となってくる。国際化ということで海外の大学と競って優秀な学生を確保するには、日本の大学情報を海外の大学と比較して、文化、風習、制度が異なる点をどのように開示していくかが大きな課題の一つ。対外的情報戦略の評価軸として、大学別機関認証評価などの制度的評価から、マスコミなどのランキングによる外部評価があり、学外評価の視点を学生募集のツールとして利用する動きも出てきている。日本では情報開示に疎い大学が多い。誰に向けて情報開示するのか、戦略的思考もまだ十分でない。アメリカでは、3回クリックして必要な大学情報が出なければ受験生は受験しない。他方、日本には開示に向けた標準的・統一的なフォーマットがまだない。また、IRを担うような組織がないし、統計技術や企画立案、ICTに沿った人材が不足しているので、日本に適した取り組みを早急に考えていく必要がある。
留学生に必要な対策として、風評被害に対する適切な情報発信、経済負担軽減への情報提供、国際的に通用性のある教育プログラムの実施、受け入れ体制の整備などの対応が弱く、情報開示が不十分。コンテンツの整備だけではなく、コンテンツへの接触の仕方が大事でストレスを感じないようにWebサイトの作り方、デザイン、コンテンツの配置に注意する必要がある。大学全体での対応を発信することも問題提起したい。ボストン大学、シンガポール国立大学のホームページは魅力的に作られている。今後とるべき対策として、海外ランキングの評価軸や項目を分析し、有効な対策が事前に打てるように組織的な対応を行う。共通言語である英語でのバーゲニングができるスタッフの配置や素材やツールを整備する。グローバルなWebサイトを整備し、留学生にわかりやすいコンテンツを盛り込み、その上で現地での説明会やWebサイトでの出願を可能とする仕組みを整えることが望まれる。
【事例紹介】
「Webサイトを活用した情報公開の事例紹介」
石井博文氏(芝浦工業大学専務理事)より、概ね次のような説明があった。
芝浦工業大学では大学が安定した経営をしていることを説明するため、財務情報をインターネットで公開することから取り組みを始めた。教育の質を高めるため、2007年の創立80周年を機に2008年4月から大学改革のための運動として、各組織が自主的にPDCAサイクルで改革を可視化することを理念として情報公表に取り組むことになった。基礎から積み上げる骨太な実践型技術者教育、大学の国際化と次世代を担う人間力の育成、社会に役立つ教育研究とイノベーションへの参画という三つの柱のもとで、教育の質保証、大学の国際化、人間形成、学生満足度の向上、大学ブランド力の向上、イノベーションの創出への参画の観点から、それぞれの部局が目標を立てて取り組んでいる。4月に目標の説明会、5月に部局による実施計画の策定、7月に中間報告、8月に全学的な重要項目の情報共有、10月にもう一度中間報告、3月に年度末報告を提出というサイクルで活動状況を学内LANに掲載・実施している。
教育の質を高めるため、学生による達成度自己評価システムを構築し活動を予定している。目標のアウトカムズを設定し、それを評価する行動特性を設けて、定量的に評価する評価基準を策定する。その上で学生自らが評価できるような仕組みを作ることにした。例えば、アウトカムズの学習目標をシステム思考とあげたならば、その行動特性はシステム効果のプロセスを理解し、問題解決に適用できるといったことで、これを達成するための科目はシステム工学Aとシステム工学演習で、その行動特性として傾聴力、読解力、記述力、提案力について、達成レベルを定量的に評価する。記述力であれば、高い水準として「正しい文章で他人が理解できる記述がされている」、低い水準として「文章に誤りがある、他人が理解できない記述がある」などのルーブリックを策定する。その上で学生に電子ポートフォリオを用いて自己評価させるシステムを開発している。その結果をレーダチャートにして学生個人に可視化するとともに、達成度を統計化して情報公表することにしている。平成22年度に教育プログラムのPDCA化のための体制の検討、23年度にIR体制の構築とそれを活用したPDCAの運用、24年度にアウトカムズ設定、カリキュラム構築、ルーブリック策定、IRによる管理などの教育プログラムのPDCAサイクルの確立を計画している。情報公表への積極参加が大学全体の情報共有の第一歩になればと考えている。
課題提起者および事例発表者、本協会の直井英雄副会長(東京理科大学)、疋田康行常務理事(立教大学)を交え全体討議を実施した。
[質問1] | ||
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教育情報の公表は満足できる状態なのか、できない状態なのか。 | |
[回答] | ||
* | 公表に先駆けて大学教育に対する理念が確立していない。その上で教育課程を見直す組織的な体制作りが重要で満足できる状態ではない。 | |
* | グローバル化に対しても大学の理念が見えず、何をしてくれるのか留学生にわかりにくい。 | |
* | 情報が氾濫していて勝手にランキングされる。それには後追いにならないようデータに裏づけされた意味のある情報をいかに公表していくのかが重要。 | |
[質問2] | ||
大学として理念を作り、ポリシーを決めるまではいいが、そのポリシーは誰に、高校生に示すのか、文科省に示すのか、世界に示すのか。ポリシーは一つであっても、表現形式はそれぞれに違ってくるはずだと思っている。 | ||
[回答] | ||
* | 理念、ポリシーを誰にでも同じところにたどりつけるよう、対象者向けに表現を書き換えていくことになるが、根本は変えてはならないと思っている。 | |
[質問3] | ||
ランキングが重要というのはわかるが、それを取り上げる例ってどうしてなのか。 | ||
[回答] | ||
* | アメリカの場合は民間で作り上げていき、自分たちで信頼性を保つのがアクレディテーションの特徴となっている。そうしたものを重視して教育機関が動くのは一つ前提としてある。マサチューセッツ工科大学では自大学が掲載されている通用性のあるランキングを整理し、意識して紹介している。アクレディテーションの信頼性という点では意味があるのではないか。 | |
[質問4] | ||
組織で働きたくなく、好きなことをしたいから来ている人が多く占めている大学で意識改革はできるか、意見をききたい。 | ||
[回答] | ||
* | 意識改革はしなければいけないし、できると思う。授業科目は教員自身が背負うものだという考えと他人の関与は許さないで授業をするというのは、まったく組織から離れている。学士課程の目標を達成するための一つのコマであることを、あきらめないで繰り返し教員に言わなければならない。 | |
[質問5] | ||
数量的な外形情報はわかるが、数量化されていない意味のある行動情報はあまり見たことがないような気がするが。 | ||
[回答] | ||
* | 決定的に不足している。教育の在り方など違う視点で見つめ直してみないと、そうした情報を集めることはできないし、活用できない。とにかく新しい情報への視点を持ちながら取り組まねばならない。 |
以上の意見交流を踏まえ総括として、教育情報の公表は大学の質的向上を進める一つのきっかけとなること。大学の教育情報をいかにまとめて分かりやすく開示するかを組織的に行うべきであること。その際に第三者評価機関による評価やランキングなどを用いて、情報の信頼性、透明性を高める工夫をしていくことを確認した。
「私立大学教員授業改善白書」
授業で直面している問題として、基礎学力低下、学習意欲の低下に加え、自発的に発言・質問しないとしていることを問題視している。学生から見ると学修が目的ではなく、単位の取得となっている。教員自身の問題として、動機付け、意欲を高める授業の工夫が難しいとしている。教室授業の2倍の学習を教室外で自学自習させようとしても筆記試験対策に終始しており、教員の思いと学生の授業参加がミスマッチしている。その対策として、学習意欲を高める授業デザインの工夫と授業中に学生の反応を把握して、理解度に応じた授業ができるようクリッカー技術を用いた授業マネージメントが必要とのこと。大学全体としては、教員に人材育成としての意識改革を呼びかけるとともに、到達度評価に対する出口管理の厳格化、学習支援機能の強化が要請されている。FDの実質化では、教員自身による自己点検・評価が必要で、ティーチング・ポートフォリオ、学生・職員も参加するオープンな授業研究などによるFDを考え、授業の振り返りを通じて改善に努めることとしている。一大学で解決できない問題としては、高大連携で大学教育に対する理解を高校に求めている。情報通信技術の効果については、現実感覚をとり入れることなどに効果があるが、反面のノートをとらない、理解しているようで理解していない、授業中に他のことをしており散漫、成績向上につながらないとしている。対策としては、振り返りや授業での学びをまとめさせて提出させるなど、授業中にワーキングをさせることが必要としている。
「クラウドシステム導入の留意点」
経済的負担、人的負担の軽減に効果があるが、大学の重要な情報資産を活用する、守るという観点も考慮して慎重に考えることが必要である。
「教育の情報化投資の実態」
22年度の決算による教育研究部門での大学全体の情報化投資額は5パーセントの増、短期大学では6.5パーセントの減となっている。学生一人当たりでは、大学平均で6.0万円が6.1万円に増え、短期大学では6.0万円が5.8万円に減少している。なお、大学の規模別の内訳は表の通り。
大学規模別 教育研究部門の情報投資額
「一般補助のICT加算措置」
23年度から従来の特別補助がなくなったことで、ICT関係の補助財源が学生経費の物件費として上乗せして配分されることになった。それだけでは十分でないとのことから、ICTを活用している大学等の状況に応じてさらに加算措置されることになり、私学事業団から調査が行われる予定になっており、本協会としても教育研究の高度化、学習支援の充実、社会および産業界との連携、教育の質保証、高大連携の観点から加算することを要望している。