私情協ニュース

公益社団法人私立大学情報教育協会
第2回臨時総会開催される

 公益社団法人としての第2回臨時総会が、平成23年11月25日(金)午後1時30分より東京のアルカディア市ケ谷(私学会館)にて開催された。
 開会に当たり、文部科学省専門教育課の内藤敏也課長より「高等教育機関では、大学進学率が5割を越え、学生が多様化してきている中で、教育の質保証が重要な課題となっている。大学教育の質保証を図り、多様な学習ニーズへの教育を提供していくには、ICTを積極的に活用することが強く求められている。例えば、eラーニングの導入、ICTを活用した柔軟な学習形態を可能とする取り組みが求められており、政府としても平成25年までの高度通信技術人材の育成への取り組みとして、大学等でのITによる教育学習環境の整備目標を掲げ、産業界との連携を図り、大学におけるICTの活用・促進について支援したい。私立大学における教育研究の質的向上および人材育成の充実を図るため、これまで以上に情報教育の充実や情報環境整備に関する調査研究、成果の普及に取り組んでいただくことを強く期待申し上げる」との挨拶があった。
 当日は、議事に入るに先立ち、23年度ICT利用による教育改善研究発表会受賞者の表彰が行われ、文部科学大臣賞に昭和大学の片岡竜太氏他9名による「医系総合大学における電子ポートフォリオシステムの構築とその活用」と、私立大学情報教育協会賞に日本歯科大学の佐藤かおり氏他5名による「バーチャルスライド導入による病理学実習カリキュラムの刷新と学習効果」が表彰された。続いて、23年度情報関係補助金の概算要求およびICT活用の加算措置等について、文部科学省、私学振興共済事業団から説明を受けた。
 以下に、説明および主な議事等の概要を紹介する。

【文部科学省私学助成課 真野善雄専門官による説明】

1)23年11月21日に三次補正予算案が成立した。私立学校関係全体で437億円で、四つの項目を計上。一つは、従来の耐震補強工事の補助に加え建物の骨組み以外の天井、壁、天井から吊り下げられている情報機器、照明器具など非構造部材の耐震対策を行う場合にも、補助制度を拡充している。地域の避難場所に指定されている学校、特段指定されていなくても防災機能の強化を目指す学校にも支援するということで、「私立学校等施設の耐震化促進事業」150億円の内、94億円を耐震補強工事等として補正予算に計上。また、事業団からの低利の融資を実施するための出資金として56億円が計上された。二つは、被災私立学校等復興特別補助・交付金として、大学は経常費補助、高等学校、高校までの施設、専修学校には基金を支援するとして83億円を計上。三つは、学費減免に対する経常費支援で14億円。四つは、高校生修学支援基金の延長として189億円積み直しすることにした。

2)概算要求は、裁量的経費の10%マイナスと日本再生重点化措置という要望枠の部分と復旧・復興枠の部分と三つの枠で組み立てられている。私学助成の経費は、裁量的経費中に含まれており、23年度10%減にしたものに対して1.5倍の範囲内まで日本再生重点化措置として要望できるとした。政府全体で7,000億円程度あり、復旧・復興は、特段シーリングは定められておらず、必要な経費を概算要求する。私立大学等経常経費の要求・要望額は、3,299億8,200万円と復旧・復興枠の74億6,000万円の合わせて3,374億4,200万円を要求。その内、日本再生重点化措置は154億6,000万円。ICT活用推進事業は、大学、短大、高専分については、1億2,000万増額の18億700万円の要求をしている。昨年、かなり多くの要望をいただいているので、増額要求とした。教育基盤設備は、4億1,000万円の要求をしている。こちらも、昨年度の応募状況を踏まえ、2,800万円の増額要求とした。

3)23年度事業執行の状況は、ICT活用推進事業では、全体で155件の要望を受けており、専門の大学教員に審査いただき、事業ごとに評価を行って優先順位をつけ、それを踏まえて予算の範囲内で採択し、10月25日に審査結果を各学校に伝えた。155件の内、57件が採択。採択率は約37%で、昨年に引き続き非常に厳しい状況になっているが、ICTだけではなくて、それ以外の教育装置、研究装置も同じような採択状況になっている。教育基盤設備は、申請151件に対して採択101件で、採択率は67%。いずれの事業についても、予算全体が非常に厳しい状況で約7割強の圧縮率をかけている。

4)申請の注意点として、ICT関係ではソフトウエア、ライセンス契約、教育基盤設備では機器を収納するラック、ワゴンがかなり申請に含まれているが、これらは補助対象外なので除くように注意いただきたい。

【日本私立学校振興・共済事業団 徳岡公人助成部長による説明】

1)23年度は、一般補助と特別補助の大幅な組替えが行われた。特別補助の中で共通的に行われる活動について一般補助に回した。今までの特別補助は1,100億円から400億円程度に政策誘導の特別補助になった。その結果、一般補助は、大学の裁量に幅を広げ、機動的な対応を推進していただくとともに、大学の経営戦略に基づく責任ある運営を実施していただくことで、一般補助の充実を行った。

2)一般補助の配分方法は、PD・RA・TA、障害者、ICT、大学院の基盤分については単価を上乗せする。教員経費の単価、あるいは学生経費の単価に上乗せする。さらに障害者、ICTは単価を上乗せた他に取り組み状況に応じて単価設定し、増額していきたい。ICTは、ICTを活用した教育研究環境の整備状況に応じた加算措置を行う。学生経費の中では既に単価が4万2,000円増額しているので、その中で、各大学は対応していただきたい。さらに、取り組み状況に応じての加算として四つの項目を考えている。「学習管理システムの整備をして利用している」、「正規の授業について遠隔教育を実施している」、「理解度把握システムを利用している」、「ICTを活用した教育内容改善の支援を実施している」の取り組みについて実施している大学には、該当する項目数×単価で経常費に上乗せをしたい。

3)この考え方については、私立大学情報教育協会の調査でもかなり利用されていることを承知している。特にICTを積極的に活用し、教育研究の高度化、学習支援の充実に活用するために環境整備しているところには、加算をしていきたい。既に調査票で各大学に案内している。その中で特に質問がある点として、学習管理システムについては、ホームページ、メール等で休校の案内や授業時間・教室の変更連絡などは対象外としている。教員から学生に授業の課題、教材の配信など、教育内容に関わるものを対象にしたい。遠隔教育では、他の大学との教育や、同一大学のキャンパスが離れている場合が対象になるが、同じキャンパスでも教育的効果を高める利用については対象と考えている。また、実際に装置、準備はしていても受講がなかった場合は、対象から除外している。10月31日を調査の基準にしたので、その時点で実施しているか、あるいは年度末までに確実に実施されるものについて対象にしたい。教育内容の改善の担当部署として、保守や管理、人員配置などは対象外。ICTを活用して教育内容の改善を図るための企画などの担当を対象にしたい。それを踏まえながら、今までも私立大学情報教育協会の調査や、中教審での指摘、白書から捉えて対象にして考えている。

4)情報公開の件については、震災における対応について弾力的な対応を考えている。私学支援ポータルサイトを私学事業団のホームページに開設した。被害校の情報を掲載し、個人、企業からの寄付金支援のマッチングを図る。現在30校が登録し、実際に寄附の支援が2カ所から申し出があり、大学から幼稚園まで10校程度支援している。周知方をお願いしたい。

5)24年度の概算要求は、基礎額としては2%減で済んだ。首相枠、復興枠を使ってさらなる増額を行い5.1%増をしている。特に、ポイントとしては、特別補助の中で成長分野の人材養成が31億円→56億円に、国際交流基盤を48億円→75億円に、新たな新規項目として就職支援を増額要求している。さらに復興枠では、特別補助の関係で授業料減免、復興支援を支える取り組み等が増額されている。

6)3次補正の被災した私立学校等の安定的な教育環境整備に向けた取り組みへの支援は、特に被災3県を中心に支援していく9億円と授業料減免は3次時補正の14億円を加え、今年度と同額の47億円を要求をしている。

 これを受けて向殿政男会長から、「ICT活用の加算措置の単価というのはどのくらいの程度か」、「全体の加算規模としてはどのくらいの額になるのか」、イメージについて確認があった。
 これに対して、徳岡助成部長から、「特別補助について調査を実施しており、どの程度の項目が出てくるのかということもあり、全体的なバランスも見ながら単価を決定することになるので、3月の配分時点にならないと分からない。予算枠としての取り立てはないもので、それも含めての調整になるかと思う」との説明があった。
 さらに、向殿会長から、「加算措置の内容はどこの大学でも適応できるので、加算の重み付けがあまり機能しなくなるのではないか。この考え方は24年度も継続されるのか、少し考える余地はあるのか」との質問に対し、徳岡助成部長より、「これで固定していく方法もあるかと思うが、実態がよく分からないので、ICTあるいは情報公表も含めて、積極的な取り組みへの支援について意見を聞かせていただき、見直しもさせていただきたいと思っている」との発言があった。

1.定款の一部変更、第19条(書面による議決権行使)の削除

 書面による議決権の代理行使を定款に規定したが、議決事項の中で役員改選の場合に適応しないことから、削除を提案することにした。正会員が総会に出席しなくても、一定の要件を充たす場合には、代理人による議決権の行使を法人法50条、書面による議決権の行使を法人法51条、電磁的方法による議決権の行使を法人法52条で規定している。書面議決は、法人法の中で、総会の2週間前までに招集通知と議決権行使の参考となるべき書類および議決権行使書面を交付し、事前に設定した期限内に議決権行使書面を提供することが、法律で規定されている。そのことからすると、事前に議決権行使書面を準備できない役員の選任議決は19条に適合しない。19条を規定しておくと、すべての議決に適応できるとの誤解を招くことになる。書面議決を定款に規定しなくても、総会を招集する都度、理事会で議決権行使方法について決議することになるので、定款19条を削除することが適切と判断した。削除の方法は、「19条(削除)」とし、定款の他の条文番号を変えないで変更することにした。この決議は、正会員現在数の半数以上であって、正会員現在数の決議権の3分の2以上にあたる多数を持って行うとの定款の規定に従い、賛否を諮った結果、全員異議なく、第19条削除を可決・承認した。

2.24年度情報関係補助金の要望とICT加算措置への要望

 24年度文部科学省の概算要求に向け、私立大学高度情報化補助金活用調査を6月に実施。その結果、パソコン・サーバ等の買い取り系補助の情報基盤整備は、大学・短期大学合わせて109校137件、24億円の希望が寄せられ、23年度予算3億8,200万円の6倍の要求となった。学内LAN、マルチメディア機器および工事を補助するICT活用推進事業は、84校、101件、22億円の希望が寄せられ、23年度予算16億8,600万円の3割増要求となった。
 大学からのニーズが極めて大きいことを調査結果を添えて文部科学省に7月26日に提出し、財政援助の減額でなく、拡大となるよう概算要求を要望したところ、増額の概算要求となった。
 経常費補助金一般補助のICT加算措置への要望については、遠隔学習、理解度把握への活用など教育研究の高度化、学習支援への活用、産学連携への活用、ポートフォリオ、学生カルテなどの教育の質保証への活用、高大連携への活用などに大学が組織的に関わっている点に配慮して、単価を設けて加算することを7月16日に私学事業団の徳岡助成部長に提案した。その結果、4項目の加算措置となった。今後、計画調書の実態を踏まえ、加算措置の内容について来年度見直しの検討を進めていきたい。

3.情報通信技術による教育改善モデル研究の中間報告

 2年前に学士力の考察として、分野別の学習成果の到達目標、到達度を発表したことを踏まえて、対面とICTを組み合わせた分野ごとの理想的な授業改善モデルの研究を進めている。医・歯・薬・看護系は既に作成されているモデル・コアカリキュラムの教育・学習目標を踏まえて研究している。
 本研究の背景は、大学教育で努力されている学びが未来に立ち向かっていく能力を強く育むものとなっていない。考える力、知識・技能を活用する力、社会への関与の力があまり備わらない内に、卒業する例が多くなってきていることを憂い、主体的に未来を切り拓いていく意欲と能力を獲得できるよう、5年先の改善モデルを目指すことにした。5年先としたのは、大学を取り巻く問題が多々ある中で、就職活動の早期化による学習期間の短縮化問題への見通しが経済界の協力で今後年次的に改善されていくことが期待できること。ゆとり教育による学力低下問題については、24年度から中学、25年度から高校で学習指導要領が抜本的に改まり、縦割り教科の他に横割りの総合的な学習で自らが課題を設定、調査分析し、その結果を父兄や地域社会に発表していく課題探求型の学習が始まることと、グループによる共同学習、体験授業の教育が進むことで高校では28年度に新しい学びを身につけて大学に入学することから、それを想定した新しい授業スタイルを考える必要があるとして研究することにした。
 また、23年1月下旬のキャリア教育と職業教育の答申の中で、将来新しい職業教育大学の可能性が報告されたことを受けて、職業教育大学と4年制大学、短期大学との棲み分けが必要になることを想定し、教養と専門を兼ね備えたリベラルアーツ型の統合教育が避けて通れなくなることも視野に入れることにした。教養と専門、専門基礎と専門応用の統合化に向けた教員同士によるチームティーチングの教育がこれから非常に重要になるとした。また出口管理では、学生が自分で課題を設定・討論し、社会に発信して振り返りする発展的な学習につないでいく授業をイメージした。
 例えば、一人の教員から教わるだけでなく、情報通信技術を用いて社会や世界の学識者と協力して学べるようにする。グループによる学び合い、教え合いを、学習支援システムの上で積極化する。学生が考えた成果を学内で発表したり、相互評価して、優れた成果については社会への発信とフィードバックを通じて発展的に学習させる。基礎・基本については、授業終了後でもネット上で関連分野の教員と連携をとりながら、卒業までに確実に身についているか点検して学習を支援する。学生目線のファシリテーターを入れて、事前・事後の学び合い、教え合いをネット上で行い、事前・事後学習を定着させる。教員、社会の専門家による面接試験の導入などを積極化する。科目が多すぎることで学びの時間が十分に取れないことから、カリキュラム編成、学科目制の見直しなどの問題を共通理解しながら研究を進めている。
 11月現在、中間報告できる改善モデルは、英語、国際関係、心理学、社会学、経済学、経営学等12分野となっているが、今後、23年度末に向けて、政治学、コミュニケーション関係学、法学、教育学、統計学、数学、生物学、機械工学、建築学、土木工学、経営工学、電気通信工学、栄養学、美術・デザイン学、体育学、医学、歯学、薬学、看護学の19分野の中間まとめを行い、24年3月の総会に大まかな報告を行うことにしている。
 例えば、英語教育の一例として、専門分野の必要性に応じて適切なレベルの英語語彙、英語表現が使用できる能力を目指すためには、卒業までの期間を通じて他分野の教員と英語の教員が役割分担、授業内容の意識合わせを対等な立場でオンラインもしくはオフラインで協同し、統合授業を行うという提案で、学習成果を社会に発表して外部の助言などを得るとしている。
 経営学教育の一例として、組織の社会的責任の重要性について認識できる能力を身につけさせるモデルとして、社会人の経験のない学生に組織の社会的責任の重要性を理解させ、自らの立場、考え方を説明させることは極めて難解であることから、企業活動の一端を理解させながら、異なる立場や意見を複眼的な視点で整理し、社会的責任の問題が発生したときの行動を自ら考えさせるシミュレーション型の授業を目指している。過去の企業の不祥事例、危機管理事例、社会正義に関わる討論ビデオを見せて、グループでどのような行動を選択するかを学習管理システムに掲載・共有して、グループ間で相互評価を行い、問題解決の疑似体験を行わせ、社会の専門家が解説・評価を行う。法学、心理学、社会学、哲学などの教員の協力を得て、単眼的視点の危険性を学生に認識させ、複数の大学教員がコンソーシアムを形成して、学習成果を相互評価し、社会変革に向けた学びに結びつけるなど、理想的な授業を提案している。
 24年11月の総会には、これまでの研究に加えて授業の点検・評価・改善の仕組み、教員の教育力の検討を行い、大学ガバナンスに向けて、400ページ程度の刊行物として出版する。ICTの活用を目的とした提案ではなく、5年先に備えておくべき教育革新の方向性を現場教員から問題提起していくというもので、授業モデルは一つの考え方を提示し、参考に供していただくことを目的としている。

4.知の探求・協同学習サイバーコンソーシアム構想

 構想のねらいは、未来を切り拓く志を持つ若者に、イノベーションにつながる力をネット上で支援する社会スタディを提供する。高校生、大学生、30才未満の社会人を対象に、解の見えない課題について討論型の学びをネット上で展開し、創発的に知の探究ができる協同学習の仕組みを構想として取りまとめた。
 位置づけとしては、イノベーションに関与できる人材育成の支援機関を目指すとともに、大学授業のあり方を見直す機会を提供したい。今までの授業は縦割りで、横串で考える分野横断型の授業が少ない。フォーラム形式で議論する中で、お互いに知恵をスパイラルのように高めていき、相互の学び合いを通じて創造的な知を深めることを目指す。課題を設定して、分野横断の総合学習を通じて、複合的な視点で最適な解を見出し、新機軸による価値の創造を通じて、社会や世界の発展に関与する能力の向上に寄与していきたい。教育クラウドというネットに協同学習の環境をつくり、有識者による学習支援を受けながら、グループで学び合い、教え合いを展開する。

サイバーコンソーシアムの概念図
テーマのイメージ

 このような電子会議による学びの仕組みが既にある。日本経済新聞が行っているバーチャルシンクタンクで、電子会議で民間による政策型の提案機関を構築し、創造的な知性を引き出している。米戦略国際研究所と日本経済新聞社が連携して共同のシンクタンクを構成し、外交・安全保障、マクロ経済・財政・金融、エネルギー・通商・産業の3部会で、米国側と日本側のアドバイザー、日本の政治家フォーラム、それにフェローとしての大学勤務、官庁勤務、企業勤務、研究機関勤務の該当者が自分のパソコンから電子会議に参加して、日本の将来像を描く討論を展開している。
 本協会は3年前からイメージしており、ネット上で有識者による意見交流のフォーラムを行い、コーディネーター、ファシリテーターなどの支援を受けて、グループで学習する場を提供する。震災の問題などで、日本が今まで競争力で優位を保ってきた品質・安全が揺らいできた。日本の特許であった安全・安心を再構築するという観点から、地球規模の安全、国の安全、経済社会の安全、個人生活の安全など、安全を脅かすリスクからテーマを絞り込んでみる。例えば、食の安全安心などは、学生でも議論に参加できるのではないか。
 学習の進め方としては、コーディネーターから安全・安心な社会を学習で取り上げる意義、予備知識を習得するための文献・情報の紹介とチームによる協同学習の仕方を紹介。その上で、学習者に問題の所在・背景を学習させ、有識者相互による安全・安心に関する意見交流のフォーラムを配信して、課題認識を行わせる。テーマに応じたグループを構成し、プロジェクト・ベースド・ラーニングで知識提供者からの意見を踏まえて、討論を繰り返して、創造的知性につながる学びを展開する。事業全体を企画する各界の有識者による総合アドバイザー、学習指導を支援する大学教員、退職大学教員等のコーディネーター、知識・情報提供の有識者、学習支援を学生目線で行える大学院博士課程修了生または退職大学教員などのファシリテーターがボランティア的に関与することを条件としている。インセンティブを持たせるため、コンテストを行い、優れた発表については政府の関係機関、報道機関による受賞を通じて働きかけていく。報道関係機関に特番やニュース等での協力を働きかけることも必要になる。クラウド上での個人の意見が外に漏れないよう、意見交流についての個人情報の保護、著作権保護を十分行った上で、展開しなければならない。
 今後は構想のニーズ調査を12月に加盟校に行い、ニーズがあれば構想の具体化および実験の検討を24年度以降に行う。ニーズがなければ凍結するなり、少し時間をかけて慎重に再考していくことを考えている。

5.私立大学情報環境調査の実施

 本調査は、教育活動に必要な情報環境況を組織的に点検・評価することで、大学として備えるべき情報環境を計画的に整備できるよう理解を促すとともに、費用対効果を高める情報環境の工夫・改善や学内体制など組織的課題を再認識することを目指して、3年ごとに実施している。
 調査内容は、現状と3年後の計画を尋ねることにしており、五つの視点から実施している。「施設・設備およびセキュリティの点検」、「教育・学習支援環境の点検」、「FD支援の点検」、「情報通信技術活用の授業の点検」、「教育情報公表の点検」。
 「施設・設備およびセキュリティの点検」では、学内ネットワーク、ユビキタス環境、コンピュータの整備状況、教室のマルチメディア化、情報セキュリティ対策、災害対策、クラウドコンピューティングの利用状況および内容など。
 「教育・学習支援環境の点検」では、学習支援システムの利用状況、クリッカー等の理解度把握への対応、eラーニングの実施状況、授業での多機能携帯端末の利用、学習ポートフォリオの利用、学生カルテの利用、コンテンツのアーカイブ化、学外連携、教育学習支援の体制・内容、高大連携でのICT利用。
 「FD支援の点検」では、情報通信技術を活用した教育改善に対する研修、授業改善計画の実施、教員に対する情報活用能力の研修、学外連携による教育改善のFD研究。
 「情報通信技術活用の授業の点検」では、23年度における授業科目の中で情報通信技術を活用している割合。情報教育だけでなくあらゆる分野における授業での情報通信技術の使用状況。
 「教育情報公表の点検」は、義務的項目については23年度の状況、努力義務化項目と任意項目は3年後についても尋ねることにした。項目は、外部に分かりやすい情報公表の工夫と改善への取り組み、一方通行の公表ではなく、質問・意見交流できる仕組みへの対応、情報を構築する体制、いわゆるIRへの取り組みとした。

6.マスコミ映像コンテンツの教育再利用

 マスコミの映像コンテンツを教育に再利用する可能性について、NHKを対象に問題提起を始めている。コンテンツの製作には、時間と労力、経費および著作権処理が大きな壁となっている。NHK番組を情報通信技術を用いて教育に利用することができれば、日本の高等教育をはじめ教育界に大きな社会資産を提供することになり、教育の動機づけ、高度化、豊富化、可視化など、人材育成の環境や整備に期待がもてる。本協会では、公共放送の立場で教育の改善・向上に役立つことがあれば協力する旨の感触を得た。
 そこで、本協会から加盟校の教員2万8千人にアンケートを実施し、2週間程度で1割程度の回答が寄せられた。集計に時間がかかることから、無作為で618人を抽出した傾向を報告する。

*回答教員の74%、461人が授業での使用が必要としている。

*必要と回答の5割程度が、実際に授業で使用している。

*授業で利用する目的は、3割が動画による可視化教材、27%が知識・技能教育に、25%が動機づけ教育に、17%がキャリア形成教育。

*希望する番組は、NHKスペシャル27%、クローズアップ現代11%、プロジェクトX9%など65番組。

 コンテンツの利用は著作権処理が大変で、そのために多くの経費がかかることから、公共放送料金の中で対応ができない仕組みとなっている。アカデミック価格を含め、再利用の条件などについて交渉を進め、実現の可能性を見つけ出したい。


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