巻頭言
辰巳 浅嗣(阪南大学学長)
現在大学教育は、少子化、ユニバーサル化の進行に伴い、大きな岐路を迎えている。そのため、一方では低学力層の急増に対応した教育が求められており、本学においても入学前教育や、新入生に対する全学的なオリエンテーション事業(キャンプを含む)の実施などに力を注いでいる。他方、より高度の学力を持つ、あるいはその意欲を持つ学生が学部教育の現状に倦むことのないよう、難関資格の取得や語学力向上などに役立つ特別クラスを設置し、また特別のカリキュラムも用意している。これらは大学全体として離学者を減少させるための手段でもある。
本学は「すすんで世界に雄飛していくに足る有能有為な人材、真の国際商業人の育成」を建学の精神とする。それに沿って、昨年新たに、チャレンジ精神旺盛な意欲ある学生を育て、国際的なビジネスパーソンとして成長させることをミッションとして掲げた。
1986年、上記の建学の精神に基づき、商学部(現流通学部)内に経営情報学科を設置し、世の中のグローバル化と高度情報化社会に即応しうる教学体制の構築に真摯に取り組み始めた。10年後、同学科は経営情報学部へと発展を遂げ、今日に至っている。同学部は、「複雑・高度化する企業経営の知識と情報システムの利用技術を兼ね備え、情報化する企業と国際社会で活躍できる人間性豊かな人材の育成」をその目的として掲げている。なお、情報関連を所轄する学内体制としては、情報センターおよび情報システム課が設置されている。
2000年には学部の枠を超えて、大学院企業情報研究科が設置された。「国際的な視野と展望を持ち、情報コミュニケーション技術に関する知識を備え、企業情報にかかわる課題探究能力と政策立案能力を持った高度の専門職業人および研究者の育成」をその目的とする。
情報化社会の発展に即した教学上の対応は、もちろん上記の学部および大学院のみでなく、大学全体の課題であり、全学共通科目および全学部のカリキュラムにも組み込まれ、重要視されている。
本学では、2007年度、「ICTを活用した双方向教育システムの構築」という教育プログラムが文科省の現代GPに採択されたことを契機として、任天堂DSその他の携帯情報端末等を活用した、教員・学生間の双方向教育システム(ポータブルHInT)が導入されてきた。その結果、大教室における多人数講義であっても、学生の反応を見て即座に対応しうる教育環境を生み出し、私語の少ない授業改善に大いに寄与している。また、HInTシステムは、それを通して教務課、学生課、キャリアセンター、入試広報課が相互に連携し、ゼミ担当教員などとも情報を共有することによって、日々の学生指導に寄与している。
一層の教育改善を図るため、本年度より新たな試みとして、「e-ポートフォリオ」が導入されることになった。周知のとおり、ポートフォリオは、学生の学習活動や日常の活動をWeb上で蓄積し、のちに振り返る(reflect)ことを目的としたシステムである。構成としては3本建てで、1)生活ポートフォリオ(仮称:高校までの振り返りと今後の目標設定、1週間単位の生活記録、1年後の振り返りなど)、2)ラーニングポートフォリオ(履修した講義の目標設定、教材・レポートの蓄積、提出レポートへの教員からのフィードバック、授業内での情報交換など)、3)キャリアポートフォリオ(自己分析、目標設定、希望業種等の決定、資格取得への道、就活の経過記録など)に着手している。言うまでもなく、e-ポートフォリオは、それを活用しようとする教員にとって多大の労力を必要とする作業であり、着手したとしても、継続することがより一層難しい。けれども、学生の学習状況、生活実態を把握することは、私がかねて主張している“face to face”の教育、いわば「顔の見える教育」を推進する上でも、不可欠と言っていい企てであると信じる。全学的なポートフォリオの普及・浸透が予想を超える教育効果をもたらしてくれることと期待しているところである。