特集 高等学校での情報科教育の実情と課題

 中央教育審議会の「学士課程共通の学習成果に関する参考指針」においては、大学生が身につけるべき汎用的技能として、情報教育(情報リテラシー)を掲げており、多様な情報を収集・分析して適正に判断し、モラルに則って効果的に活用することができる能力として、どの学問分野においても共通的な学士力として位置付けている。知識を活用して体系化し、複眼的視点に立って課題探究型の学びを実現していくには、情報を活用し科学的に分析する情報活用能力が不可欠となっている。
 大学では初年次の段階から情報教育を行っているが、情報を読み解き、情報通信技術を用いて主体的に取り組む能力が定着していない。そこで、高等学校の段階から身近な問題を解決するために情報の取り扱いと情報を科学的に用いる習慣づけが求められる。しかし、高等学校では授業を消化するための知識習得型教育になりつつある。とりわけ、情報社会の発展に主体的に寄与する能力と態度を育てることを目的とした「情報の科学」を含む一体化した情報科教育が要請される。
 そこで、新学習指導要領が実施される平成25年度を目前に、これまでの高等学校で実施されてきた情報科教育の取り組みについて実情を明らかにする中で、これからの情報科教育の方向性と課題について整理し、高大連携を通じて高等学校の情報科教育の充実に向けた改善策を考察することにした。
 情報教育の振興・普及とその充実は、国の将来を担う人材育成に欠かせない課題と受け止めていただけるよう、本協会では関係者とのあらゆる場での意見交流を通じて理解を求めていきたい。

高等学校全体の教科「情報」の状況について

佐藤 万寿美(兵庫県立西宮今津高校)

1.はじめに

 平成17年8月より中央教育審議会教育課程部会委員として、学習指導要領改善にむけたワーキングで教科「情報」担当として議論をさせていただきました。そして3科目編成「情報A」「情報B」「情報C」から2科目編成「社会と情報」「情報の科学」として、平成21年3月に告示されて既に3年が経過しました。さらに、高等学校学習指導要領解説情報編の作成に協力させていただき、平成22年5月に発行され、各教科書会社が教科書作成を始めて、今年の4月末頃より各社から「社会と情報」「情報の科学」の教科書が披露されました。既に小学校・中学校は今年度4月から新学習指導要領がスタートしていますが、高等学校においては、平成25年4月から全教科実施に向け、教育課程再編成の最終議論や移行期間措置対応に追われています。
 高等学校では、新学習指導要領のもとで、平成24年4月より先行実施教科・科目の数学、理科の授業が学年進行でスタートしました。主な改善点として、すべての教科に「言語活動の充実」を図る授業計画が求められています。また理科においては、物理・化学・生物・地学の4領域の基礎科目から3科目、または「科学と人間生活」を含む2科目が必修となり、各学校において教育課程を大きく見直す作業が強いられ、各学校現場とも教育課程編成に苦慮しているのが現状です。多くの学校が7限目を設置し、週当たりの単位数を30単位⇒32単位(50分1単位)に変更するなどの工夫で対応しています。このような現状の中、共通教科「情報」の設置についても新たに見直しが検討されています。本校の具体例を参考にしながら、小学校・中学校における情報教育および技術教育との接続をふまえ、普通教科「情報」の現状と、平成25年度実施の共通教科「情報」についてご参考になればと思います。

2.普通教科「情報」実施の現状

 平成15年度より設置された新教科で、科目は「情報A」、「情報B」、「情報C」の3科目による選択必履修制です。全国のすべての高校生が3科目のうちいずれかの1科目を必ず学習して(ただし、専門教育については、学習指導要領第1章総則第3款(2)より代替え措置あり)、日本の情報化社会を担う人材の育成を目標としています。センター試験への導入の問題、未履修問題など様々な問題を乗り越えながら現在に至り、今年度最終年を迎えます。

<普通教科「情報」の目標>
 情報及び情報技術を活用するための知識と技能の習得を通して、情報に関する科学的な見方や考え方を養うとともに、社会の中で情報及び情報技術が果たしている役割や影響を理解させ、情報化の進展に主体的に対応できる能力と態度を育てる。
・・・・・、情報教育の目標の3つの観点である「情報活用の実践力」「情報の科学的な理解」「情報社会に参画する態度」をバランスよく育てることである。(高等学校学習指導要領解説情報編第1章第2節、平成12年3月発行より)

(1)「情報A」「情報B」「情報C」の実施状況

 設置科目の偏りについては、平成15年度開設当時から問題視されてきました。図1は教科書出版社による全国の高等学校の教科書採択数調査結果です(平成15年度は1年次に設置されている学校のみの実施により、平成22年度より少ない)。「情報A」:(「情報B」+「情報C」)の比率が、約5:1⇒5:2と少々改善されていますが、偏りの大きさがよくわかります。原因は、各学校の情報科教員の配置状況や教員のスキルの問題と言われています。これらは、現場の教員の責任というよりは、都道府県の教員採用や人事の事情や教員の養成の遅れなど複雑な問題が考えられています。
 各科目の内容は、図2に示しました。

図1 教科「情報」の採択科目全国調査
(2011年10月 実教出版調べ)
図2 新旧科目の目標と内容の対比
(高等学校学習指導要領解説情報編第1章第3節p.16より抜粋)

(2)教員配置の問題

 全国の都道府県で教員採用試験が実施されていないのが高等学校教科「情報」の現状であることは周知の事実ですが、例えば本校が所属する兵庫県の採用試験は、平成16年度採用から平成19年度採用まで、「情報」の免許だけで受験できました。その後中断し、平成22年度採用から採用試験を再開しましたが、他教科の免許を取得している「複数免許」取得者を対象として、現在に至っています。
  また各学校の状況は、教員一人当たりの授業持ち時間数が平均約16コマ(週当たり、1コマ50分)6クラス規模以下の学校では、持ち時間数が12コマを下回るため、教諭枠をおくことが難しく、非常勤講師しかいない学校もあります。解決策の一つとして「情報A」に加え、「情報B」「情報C」や専門科目を選択科目として設置している学校があります。総合的な学習の時間や課題研究、さらには数学や理科など複数教科にまたがって授業を持つ場合もあり、教員の負担増になっているのが現状です。このような事情から採用試験を見合わす都道府県が少なくありません。この傾向は、新学習指導要領の下でも続くと思われます。教科「情報」の教員を目指す大学生にとっては、地元の高校へ帰れないというような声を耳にすることがあります。

(3)大学入試

 センター試験への導入については、教科「情報」を担う日本情報科教育学会や情報処理学会などの各学科の委員会・研究会を通じて必要性を強く訴えている状況です。また、大学単位での入試については、新課程からでもぜひ実施をお願いしたいと思います。高大連携等の協力を図っていきたいと考えています。高校現場の教育課程編成の基本的な方針は、大学入試との関係が重要視されます。入試教科・科目、特にセンター試験に必要な教科・科目の設置や単位数が優先される傾向にあることが一般的で、教科「情報」は新設であり入試科目にない場合があり、教育課程上では2単位でありながら複数年にまたがる分割履修の形態があります。これでは学習効果が半減してしまいます。そのため、新学習指導要領では、原則として同一年次で履修させることとなっています(高等学校学習指導要領解説情報編第3章第1節p.39)。

3.共通教科「情報」について(図2)

 平成22年1月29日にようやく教科「情報」の解説書が文部科学省のWebサイトにて公開されました。今回の科目名の変更により、学習内容がわかりやすくなったと言われています。また科目の構成の変更により、全国の高校生が教科「情報」において学習すべき内容がより明確化されました。科目名は、「社会と情報」「情報の科学」の2科目編成になりました。現行の「情報A」の内容の情報機器の扱いの部分が、義務教育へ移り、「情報C」+「情報A」から「社会と情報」へ、「情報B」+「情報A」から「情報の科学」へのスムーズな移行が期待されています(図2)。特に注目したいことの一つは、『今回の改訂の趣旨をふまえあらかじめ各学校でどちらか一方の科目に決めてしまうのではなく、いずれの科目も設定して生徒が主体的に選択できるようにすることが望まれる。(高等学校学習指導要領解説情報編第1章第3節p.17)』です。ここでは、来年度1年次から学年進行で実施される共通教科の特徴や課題についてご紹介します。

<共通教科「情報」の目標>
 情報および情報技術を活用するための知識と技能を習得させ、情報に関する科学的な見方や考え方を養うとともに、社会の中で情報及び情報技術が果たしている役割や影響を理解させ、社会の情報化の進展に主体的に対応できる能力と態度を育てる。

 今回の改定において、上記<共通教科「情報」目標>の下線部の表現が追加・変更になった表現です。「習得させ」という表現は、「確実に身に付けさせる」、「社会の」は「社会とのかかわりを重視する」ことをねらいとしています。また、『今回の改定では、・・・・義務教育段階において情報手段の活用経験が浅い生徒の履修を想定して設置した「情報A」については発展的に解消し、「情報の科学的な理解」及び「情報社会に参画する態度」に関する内容を重視し基礎的な科目として「情報の科学」と「社会と情報」を新設することとした。(高等学校学習指導要領解説情報編第1章第3節p.16)』という理由で2科目編成となりました。さらに、各科目の中で、「情報モラル」が項目立てされ、これまで以上に実践的な能力や態度が身に付くような内容に改善されています。

(1)教育課程編成上の課題について

 教育課程編成上の大きな課題は、他教科との単位のバランスから、選択必履修科目として何年次に設置すべきか、また生徒選択制導入や分割履修の禁止という縛りがあることです。教科「情報」としては、現行で1単位ずつの分割履修では、生徒の学びの定着が得られず、「情報学」という学力の保証について問題視しているため、今回の改定において分割履修の禁止が明言されています。そのため、各学校において次のような検討がされてきました。

(2)設置学年について

 新教育課程編成におきまして、他教科との関係で、1年次⇒2年次へ移動した学校があります。現行の教科「情報」では、平成15年スタート時に3年次に設置して実際は平成17年度から授業を開講する学校が少なくありませんでした。これは新しい教科のため、他校の実践状況の様子を見ながらのケースでしたが、必履修教科・科目のため、徐々に低学年、1年次へ変更する学校が増えました。

<普通科>

 3年次⇒1年次に移動するなど、ようやく1年次開講が増えてきましたが、今回の改定では他教科の単位数の問題で、2年次に移動する学校があります。このため情報科の教員が1年間の持ち時間が0になり、その対応が問題になっています。

<総合学科>

 1年次には「産業社会と人間」(2単位)が必修、HR担当とTTでクラス単位の授業展開をします。調べ学習や発表の機会が多いため、1年次に教科「情報」を設置する学校が多くなっています。

(3)設置科目

 「社会と情報」「情報の科学」の選択必履修です。現行科目の設置状況は、「情報A」:「情報B」+「情報C」が約4:1と言われていますが、「情報A」の発展的解消、生徒選択制が導入できない学校が多いなど、その動向が注目されています。「情報A」+「情報C」⇒「社会と情報」、「情報B」⇒「情報の科学」と考えられていますが、相当な偏りが生じることは否めません。そのため「情報の科学」へのアプローチは、次期改定に向けて非常に重要な課題となると思われます。小学校・中学校との接続を配慮し、生徒選択制の実現や「情報の科学」の設置の広がりを期待しています。

(4)生徒選択制の導入

 生徒選択制の導入については『・・・あらかじめ各学校でどちらか一方の科目に決めてしまうのではなく、いずれの科目も設定して生徒が主体的に選択できるようにすることが望まれる。・・・』とありますが、1年次に設置している学校は、生徒向けのガイダンスの徹底やクラス編成などの問題があり難しいと思われています。

<1年次の場合>

 入学前の早い段階で、芸術と同様に「社会と情報」「情報の科学」の選択科目を決定する必要があります。芸術と違い、中学校に教科がないため、内容説明等のガイダンスの工夫が大切です。今年度より中学校技術では、プログラムによる計測と制御およびディジタル作品の設計・制作が必修になったため、それらの内容との接続や関連を説明するべきでしょう。そこで今年度の本校の具体例を紹介します。

<西宮今津高校の事例:「情報B」「情報C」の生徒選択制導入(1年次)>

 平成24年4月から生徒選択制を導入しました。3月26日の保護者同伴の入学説明会では、科目の内容の説明で、1)「中学校技術の情報分野」と「情報B」「情報C」の内容比較表、2)「情報B」「情報C」の教科書の目次一覧の二つの資料を全員に配布し、さらに教科書展示と質問コーナーを設け、教科書・副教材をじっくり見てもらい、情報科教員が質問コーナーで質問を受け付けるなどの対応をしました。平成24年4月3日に240名の希望を回収した結果、240名中「情報B」希望者は44名(男子32名、女子12名)でした。男女比の差があるため、予定していた「情報C」5クラス、「情報BとCの混在」1クラスの計6クラス編成は難しく、「情報C」4クラス、「情報B」「情報C」混在を2クラスとし、教員配置は1クラスにつき「情報C」単独クラスは従来通り2名、混在クラスは3名としました。3名の割り振りは、人数の多い方を2名、少ない方を1名で担当しています。当初の計画より情報科教員の担当が2時間増えることになりましたが、教科内でカバーしています。生徒選択制について「情報B」選択者44名にアンケートを実施しました(平成24年5月実施)。図3より44名全員が「よい」と答えています。また、表1の理由の中で「内容がよかった」という声が半分以上いましたので、入学前のガイダンスが生かされた形になっています。さらに選択のその他の理由で「自分の夢に近づく科目なので情報Bをえらびました」「楽しいから」「将来役に立つから」「BCの選択ができる高校がほかにない」などの記述がありました。来年度実施にむけて大変参考になる結果が得られたと思います。

図3 「情報B」と「情報C」の生徒選択制実施後
アンケート(平成24年5月1年次生)
表1 科目選択の理由(複数選択可)

<2年次の場合>

 選択必履修科目として、生徒による選択制の導入の可能性が高くなります。1年次の間に十分なガイダンスができることや、進路に応じた教育課程編成が多く、理系は「情報の科学」、文系は「社会と情報」と決定している学校が複数あります。できれば理系=「情報の科学」ではなく、生徒が自主的に選択できる仕組みを取り入れてほしいと思います。

(5)原則として同一年次で履修させることについて(高等学校学習指導要領解説情報編第3章第1節)

 『・・・実習などの実践的・体験的な学習活動を通じて各科目の目標を達成するように配慮し、指導の効果を高めるためには、複数年次にわたって分割し各年次1単位で履修させるよりも、同一年次で集中的に2単位を履修させたほうがより情報活用能力の定着に効果的である。・・・各科目は原則として同一年次に位置付けることとした。(学習指導要領解説情報編第3章第1節)』と明記されています。これは現行の教科「情報」が、教育課程編成の単位数あわせに利用されるケースがあるためです。学習内容の定着を図り、実習を重視した体験的な活動を通じて指導の効果を高めるためには、同一年次での位置づけが重要になります。そのためには、1年次⇒2年次設置へやむなく変更するケースが今後増えることが予測されています。その場合、前述の「生徒選択制」の実現の可能性が高くなります。しかしながら、中学校との学びの接続を図り、義務教育段階の学習内容の確実な定着を図ることを目標として、1年次に1単位の学校設定科目を設置するなどの工夫をぜひ取り入れていただければと思います(高等学校学習指導要領解説情報編第3章第3節p.44)。

(6)2科目の実施の偏りの現状

 現行の「情報A」の採択率が図1より70%以上を占めていますが、これらの学校が来年度「社会と情報」「情報の科学」のどちらへ流れるかが注目されています。「情報A」+「情報C」⇒「社会と情報」、「情報B」⇒「情報の科学」ではないと予測されています。したがって科目の偏りの問題が是正されないでしょう。「情報の科学」を教える学校や先生を増やすため、各地での指導者講習や研究会の開催が求められています。高大連携の力をおかりして、教材作成のヒントになるような研究会等をこまめに開催したいと思っています。

(7)義務教育との接続について

 義務教育課程との接続については、『義務教育段階の学習内容の定着を図るための方策として、「情報基礎実習(仮称)」などの情報科の学校設定科目の設置の可能性がある(第1部第3章第3節(3)。』また中学校との接続だけでなく、数学・理科・公民科との連携を図る内容や、総合的な学習の時間との連携を図るなどの方策が考えられます。本校では、特定期間に実施する科目として「情報サイエンス実習」(1単位)を夏休みの集中講義として実施し、プログラミングの学習を実施しています。西宮市内の中学校20校には、技術の先生が各学校に一人配置されています。技術家庭科の時間は、1・2年生70時間、3年生35時間、そのうち技術の授業は1・2年生各35時間、3年生は18時間実施されています。昨年度は1年次生からこの科目の希望者がでました。「情報C」を学びながらの希望の理由は、中学校でプログラミングに興味をもったことが選択の理由でした。このように、中学校との接続を図り、生徒の希望や夢を実現するために、学校設定科目設置をすすめたいと思います。

4.教員養成について

 教員養成課程では、すべての教科で「情報教育」に関する学習内容を実践すべきだと思います。すべての教科において、「情報活用の実践力」は必要不可欠な力として育成しなければなりません。授業の工夫や改善の手段に活用できる人材の育成と、教科「情報」においては、生徒選択制や義務教育との接続など、多様な実践力・表現力・活用力が求められています。今回の新学習指導要領の共通教科「情報」を十分ご理解いただいて、教員養成課程の科目の内容の編成をお願いし、高大連携で協力していきたいと思います。

参考文献
[1] 高等学校学習指導要領解説情報編(平成22年5月15日). 文部科学省.
[2] 高等学校学習指導要領解説情報編(平成12年3月). 文部省.
[3] 中学校学習指導要領解説技術・家庭編(平成20年9月). 文部科学省

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