特集 高等学校での情報科教育の実情と課題
飯塚 浩(学校法人東海大学初等中等教育部初等中等教育課 課長補佐)
本学園は、高等教育機関として国内に東海大学と3短期大学、海外に1短期大学(現地法人)を設置する他、全国各地に付属高等学校14校(連携校1校、提携校2校を含む)、中等部7校(提携校1校を含む)、小学校1校、幼稚園4園の初等中等教育機関を擁する教育機関です。創設者松前重義が唱えた建学の精神を具現化した教科「現代文明論」を教育の中心に据えた、幼稚園から大学院までの一貫教育を大きな特色としており、各教育機関では、園児・児童・生徒・学生が連携した教育プログラムを教職員全体でサポートし、健やかな成長を促すことを目的に、日々の教育活動を展開しています。
情報教育については、時代に即応して1995年に本学園における初等中等教育機関の教育目標および教育方針に、「今日及び将来の社会の特徴は著しい情報化にあると言える。従って、将来の社会人として情報化に主体的に対応し得る知識や技術の修得が必要である。そのためには全学園的な一貫性を持った情報教育の目標を樹立し、それに伴う環境を整備すると共に、初等中等教育機関の教育プログラムを確立することが重要である」が示されました。その後、東海大学のスケールメリットを生かし、各校園の情報環境の整備が進み、現在に至っています。この間、法人に「情報化推進本部」が設立され、「東海大学情報教育センター」の教育活動の一環として開催されていた「東海大学高大連携情報化推進委員会」との協力体制ができ、教科「情報」の実施とともに、その果たす役割が大きくなってきました。この委員会は、大学の教員と付属高等学校の教員で構成されています。
以下に、2009年度以降の「東海大学高大連携情報化推進委員会」での活動を基に、本学園における「情報教育の現状と課題」について報告します。
2009年3月に東海大学情報教育センターから付属高等学校の情報教育に対する大学側からの指針が示されました。その内容は、教科「情報」の学習終了時において、「1)大学での講義・実験・研究活動」、「2)就職活動及び社会人としての仕事」について通用する情報処理能力を生徒が身に付けることを要望するものでした。ただし、本指針は各校の共通基盤とした上で、生徒の状況や背景および情報環境を考慮して、各校の特徴や独自性を活かす情報教育になるよう位置づけられました。
指針の中で、東海大学が実施している情報科目に見られる学生の問題点として、1)語学力の不足、2)基礎学力の不足、3)キー入力の遅さ、4)文書作成能力の不足、5)情報モラルの不足、6)自己能力把握の不足が挙げられ、これらの問題を解決し、優れた情報処理能力を学生に身に付けさせるためには、付属高等学校における情報教育は教科「情報」の指導にとどまらず、他教科との連携が必要であることを指摘しています(表1参照)。
表1 大学での問題点と高校の各科目との連携
このことから、教科「情報」では、コンピュータはあくまでも「道具」であることを意識し、問題解決のためにコンピュータやネットワークを利用することを目的とした教育に方向性が定まりました。そして、多くの付属高等学校がこの年までに教科「情報」の履修科目として教育課程を「情報A」から「情報B」、または「情報C」へ変更していたため、この方向性への取り組みもスムーズであったと記憶しています。指針では、問題解決能力を身に付けるため、情報教育の習得内容として「コンピュータやネットワークの仕組み」、「用語」、「決まり」、「事例」などの知識を身に付け、なんとなくコンピュータが使えるのではなく、他人に教えられる程度の体系的な操作ができなければならないことが記されていました。また、この知識と操作を組み合わせて調査能力や創造能力、未知の分野へ挑戦する能力を育成し、生徒自身の力でレポート作成やプレゼンテーション資料作成、発表などに応用できるよう、文書作成、データ整理、グラフ作成などの能力を身に付けさせることも示されていました。
2010年度は、前年度に示された指針に対して、実態調査を各付属高等学校において実施しました。調査項目は、大項目として16項目(表2)に分かれており、さらに各項目は2〜25の小項目に分かれていました。
表2 教科「情報」指導実施項目調査の大項目 操作系 Webページの制作 ワードプロセッサ 動画制作 表計算 プログラミング プレゼンテーション 情報倫理 画像処理ソフトウエア 情報科学 電子メール 情報活用 WWW 情報システム ネットワークの仕組み 総合実習
大項目のうち、「画像処理ソフトウエア」、「Webページの作成」、「動画制作」、「プログラミング」、「情報システム」、「総合実習」について、学校差が見られました。学習指導として座学分野については学校差が少なく、実習を伴う分野に学校差が見られる結果については、各校が導入しているアプリケーションの種類の違いと、実習には多くの指導時間数が必要になる点が考えられます。市販のアプリケーションについては、Microsoft OfficeのWordとExcel、PowerPointはそれぞれ導入していましたが、それ以外のアプリケーションは各校の状況に応じた導入でした。指導時間の配分については、1科目履修2単位時間実施の現状では、指導項目の多い情報教育においてすべてを指導する時間はなく、バランスを考えて指導項目を取捨選択する状況が見て取れました。
次に、この6項目の中で特に顕著な差があったのが「Webページの制作」と「プログラミング」でした。「Webページの制作」を実施していたのは14校中9校で、履修学年全員を対象とした指導内容でしたが、その制作方法に二極化が見られ、9校のうちWebページ作成ソフトを使用しているのが4校、テキストエディターによるタグの記述で作成しているのが4校、どちらも指導しているのが1校でした。「プログラミング」については、実施していたのは14校中3校で、特定のコースや選択授業で実施するなど一部の生徒に対しての指導にとどまっていました。扱うプログラミング言語はJavaが3校、C言語が1校、Excel VBAが1校でした。指導内容としては、変数と代入、演算子、入出力、条件分岐、繰り返し、1次元配列まで3校とも実施され、課題実習としてアプリケーションの作成も行われていました。
2011年度は、「東海大学における教育の情報化の推進」をテーマに研究会が行われ、「東海大学における情報環境」「付属高等学校における教育の情報化」「教育におけるICTの利用」について発表があり、「東海大学における教育の情報化」についてパネルディスカッションも行われました。
これらの発表と報告の中で共通に指摘されたのは、1)お互いの顔が見えるコミュニケーションツールになること、2)学生・生徒・児童・園児の学習歴や生活歴の教員間共有、3)学習支援に関わるシステムの構築でした。教育環境の情報化には様々な問題を抱えながらも、高等教育機関では環境の整備は進んでいる状況が窺えましたが、初等中等教育機関では学籍管理や成績管理などは整備されているものの、これらの情報について教員間の共有や学習支援システムについては準備段階と判断されました。さらに校園間や大学との連携についても構想段階であることが明確になりました。
コミュニケーションツールとしてのICT利用については、この年の研究会でWeb会議システムを利用して本学園の全教育機関に対して研究会の内容を配信し、多くの教職員が研究会に参加する試みが行われ、ネットワークを利用した新しい可能性について検証も行われました。
2012年度の教科「情報」の科目履修状況について、「情報A」は一部クラスが1校、選択科目として1校、「情報B」は全員履修が2校、選択科目として1校、「情報C」は全員履修が11校、一部クラス1校、選択科目として1校です。2013年度新学習指導要領実施に伴う教科「情報」の科目履修予定について、「社会と情報」が全員履修で6校、「情報の科学」が全員履修で8校です。2010年度東海大学高大連携情報化推進委員会で、「情報の科学」を付属高等学校で履修することについて検討されましたが、各校の教育目標や生徒状況を判断する中でこの結果になりました。
本学園の付属高等学校では「東海大学付属高校の情報教育への指針」に示されている通り、情報教育は教科「情報」の指導にとどまらず、他教科との連携により大学への進学後、さらに社会人として、それぞれの活動の中でICTを活かす知識と技術を身に付けさせるところにあります。しかし、十分な環境が整っているわけではありません。OECDのPISA2009の報告によると、「普段の授業のうち、国語・数学・理科の各授業で週に一度でもパソコンを使う生徒の割合はOECD29カ国の平均が国語26.0%、数学15.8%、理科24.6%だったのに比べ、日本は3教科とも1%台にとどまり、調査、アンケートの双方に参加した17カ国中最低だった」ということが明らかになりました。また、PISA2009の国際オプションとして実施された「デジタル読解力調査」(コンピュータ使用型調査)で日本は第4位と高い水準にありましたが、「プリント調査との比較では、日本は成績最上位層、最下位層の割合ともデジタル調査の方が少なくなっている」、「プリント調査による読解力が高い生徒の中にパソコンに不慣れな生徒がいるのが一因。一方で、読解力が低い生徒がコンピュータに関心を持ったのではないか」という報告もありました[1]。このような報告からも、教科「情報」以外の授業で生徒にコンピュータを使わせることや、教員もICTを使用することを前提に授業を展開することは教育効果を向上させられると考えられます。
しかし、このような授業を行うための教員が費やす授業の準備時間は、これまでと比較にならないことは容易に想像できます。本学園では、この問題を解決するために、教材などの共有を校内や教科内だけでなく、付属高等学校14校の学校間でも行い、大学教員との連携や協力も得ることで、少しでも教員の負担を軽減できる教育支援システムの構築が必要であると判断し検討しています。さらに、遠隔授業や教員の会議、打ち合わせにはWeb会議システムを使用することについても、学園行事として行った、教員の研究会、生徒の学習成果発表会(写真1)、大学教員による科学実験講座(写真2)を利用して検証を進めています。これまでに3回配信の検証を行い、Web会議システムを体験する教員が増え、今後の活用について様々な意見が寄せられています。
今回報告させていただいた通り、東海大学付属高等学校は各校の教育活動に加え、東海大学との連携により生徒への教育効果を高める活動を続けています。情報教育についても、日々進化を続ける情報化社会の中で、貢献できる人材の育成のため、一歩ずつ着実に前進して参ります。
写真1 SPP・SSH成果発表会
(東海大学高輪キャンパス)写真2 金環日食科学教室
(東海大学付属浦安高等学校)
参考文献 | |
[1] | 内外教育, 2011年7月8日, pp.6-7. |