事業活動報告
現在30分野で情報通信技術を用いた教育改善モデルを研究している。2年前に学士力の考察として、分野別教育の学習成果の到達目標及び到達度を発表した。それを実現するため、5年先を目指して、ICTを用いた教育改善モデルの研究を行い、23年度に中間まとめを行った。
大学教育での学びが未来に立ち向かっていく能力を強く育むものとなっていない。考える力、知識・技能を活用する力、社会への関与の力が備わらないうちに、大学を卒業していく学生が常態化し、社会からの期待に応えられる学生が少なくなってきていることを憂い、主体的に未来を切り拓いていく「意欲」と「能力」を獲得できることを目指して、教育デザイン、教育の仕組み、教育内容・方法、教育の点検・評価・改善、教育学習環境、大学ガバナンスとしての課題など、教育改善モデルの研究を進めている。
教育改善のモデルを研究する際、以下の諸相の進展について共通認識を持ち、5年先を目指すことにした。
1)就職の早期化に伴う学習期間の確保問題は、経済界の協力で今後、年次的に改善されていくことが期待できること。
2)ゆとり教育による学力低下問題については、24年度から中学校、25年度から高校で、学習指導要領が改まり、縦割りの教科の他に、総合的な学習の中で、自分で課題を設定し、調査分析し、それを父兄や地域社会に発表し、振り返りを繰り返す中で発展的な学びを身につけていく課題探求型の学習と自己との関連づけの中で自己の在り方、生き方を考えることができる学習スタイルが徹底されるようになり、改善が期待されること。高校では5年後の28年度に新しい学びを身につけた学生が大学に入ってくることを想定した教育を大学として考えておく必要があること。
3)23年1月30日のキャリア教育、職業教育の答申によれば、自立した職業人の育成と多様な職業教育ニーズへの対応を目指して、企業または職能団体との連携を前提とした職業教育のための2年または3年・4年制の新たな高等教育機関設立の必要性を提言しており、現在の大学との差別化が問われてくる。最新の知識・技能の教育を中心とする職業専門大学(仮称)に対して、現在の大学・短期大学は教養と専門を統合したリベラル・アーツ型の教育を追求することが必然となる。
4)「未知の時代を切り拓く能力」を提供できる大学教育を目指すことが不可避であること。そのために、教養と専門、専門基礎と専門応用の統合を促進するとともに、授業科目を体系化・総合化するなど教員同士が連携し、チームによる授業を大学のガバナンスとして組織的に取り入れる必要があること。
5)授業科目が多いことから、事前・事後の学習時間の確保が難しいので、科目編成の在り方等について統合授業など教員間で調整する必要があること。
6)学修した知識・技能・態度を質保証するため、学部・学科単位での卒業試験、卒業論文などの出口管理の厳格化と学習成果の到達評価の基準について教員間による共通理解が必要であること。
7)卒業時点で能力が備わっていることを目指すため、在学期間を通して学習ポートフォリオなどで定期的に達成していない能力を洗い出し、大学が組織的に学習支援する仕組みを設けること。
8)自らの問題として授業を受け止められるよう、主体的に参加できる理想的な教育の仕組みを創り出すこと。
分野別に掲げた5から6の到達目標のうち、2〜3の到達目標に限定し、それを実現するための授業改善モデルを以下の視点で研究している。
【到達目標】
【到達度として学生が身につける能力】
【授業デザイン】
【授業の点検・評価・改善】
(モデル授業の点検をどのような仕組みで行い、どのような視点で改善に結びつけるのかを紹介)
【授業運営上の問題及び課題】
(大学ガバナンスとして組織的に関与すべき課題を掲げる)
以上のような視点を踏まえ、学生に最良の教育を提供できるよう、次のような教育改善の工夫が研究されている。
1)当面、30の委員会で今回の報告の骨子を踏まえ、ガバナンスに理解いただけるよう表現、図等の編集を行い、到達目標も含め全体的に見直し、必要に応じて修正する。また、新たな課題として、分野別の教育に携わる教員として備えているべき専門性(学識)を整理した上で、改善モデルの実現に必要な新たな「教員の教育力」について言及し、組織的に指導能力を向上させる方策等について提言する。
2)24年11月下旬に大学教育への提言としてとりまとめ、11月の総会に発表する。その際、情報関係のモデルについても情報教育委員会の結果を踏まえ掲載することから、31分野となる。
3)ガバナンスに理解いただくため、本協会での理事長・学長会議、他の関係機関での説明の他、報道関係を通じて広報していくことを計画している。
英語教育の一部と経営学教育の一部を以下に紹介する。
三つの到達目標のうち、「専門分野の必要性に応じて、適切なレベルの英語語彙・英語表現を使用できる」の改善授業のモデルとして「分野に必要な教養と専門知識を習得し、専門分野を英語で理解・発表できるような能力を身につける」授業を提案する。
今まではTOEIC、TOEFLの対策に視点が置かれてきたが、英語を知っているだけであって、実用する力がついていないことから、専門分野で英語を活用できる能力を身につける改善案として、卒業までの期間を通じて専門科目の教員と英語の教員が連携して、役割分担、授業内容の意識合わせを行い、学内LAN上にプラットフォームを構築して、対等な立場でオンライン、オフラインで連携教育を行う仕組みを作る。
専門分野の基礎知識を理解した上で連携教育を行う。理解していない場合はeラーニングで再学習させる。学習管理システムの教材を用いてグループで予習させる。その際、専門分野の教員と英語教員が、講読すべき原書やネット上の英語情報について事前に打ち合わせを行っておく。授業ごとに発展学習を課して、上級学年生によるファシリテーターを導入し、学生目線による学習の支援を行う。発展学習の成果は、グループ間、大学内、大学間などの場で発表させ、相互評価による学習の振り返りを繰り返す中で、優れた成果をネット上で発信し、外部の評価や助言を得るなどとしている。
四つの到達目標のうち、「企業をはじめとする組織の社会的責任の重要性について認識できる」の改善授業のモデルを紹介する。
企業の社会的責任、経営哲学などは、個々の科目の中で一定の知識・理解を得ることができるが、社会人経験のない学生に組織の社会的責任の重要性について理解させ、自らの立場、考え方を説明させることは極めて困難である。そこで、企業活動の一端を理解させながら、異なる立場や意見を複眼的視点で整理して、社会的責任の問題が発生したときの行動を考えさせる授業として、学びが4年間を通じて定着できるよう、初年次での教育終了後も対面やネット上で学生の理解度に応じた学習の場を設け、2年次以降の発展的な学習に連動させて社会的責任の重要性を確認させる仕組みを提案している。
一例として、過去の企業不祥事、危機管理の事例、社会正義に関わる討論ビデオを視聴させる。グループでどのような行動を選択するかを学習管理システムに掲載して、共有し、グループ間で複眼的視点を学習させる。その結果をLMS上に掲載して、グループ間で相互評価することで問題解決の疑似体験を行わせる。社会の専門家が解説・評価を行い、さらに学生の上級学年生によるファシリテーターがシステム上で学習支援を行うようにする。その上で法学、心理学、社会学、哲学などの教員の協力を得て、単眼的視点の危険性を認識させる。複数の大学教員がコンソーシアムを形成し、学習成果の結果を相互公開・評価し、社会変革に向けた学びに結び付けていくことを提案している。
※モデル(その1)は掲載省略
本協会で策定した三つの到達目標の内、「専門分野の必要性に応じて、適切なレベルの英語語彙・英語表現を使用できる。」を実現するための教育改善モデルを提案します。
英語の学びが運用能力の技法に偏向しているため、専門分野を学ぶために必要な英語力が身に付いていない。これまでの英語教育の多くは英語検定試験(TOEIC・TOEFLなど)対策や技能向上だけを目指す学びであって、英語を実用とする学びとなっていない。
ここで提案する授業は、専門分野をグローバルな視点で理解できるようにするため、国際的な動向や考えを英語で理解し、英語で表現・発信できる能力を目指すことにした。
ここでは、4年間又は6年間のカリキュラムを通じて、専門分野で英語を活用できる能力を身に付けさせるために専門科目と英語の統合授業を前提とする。英語で専門分野のレポートを作成し、発表できることを到達度の評価基準として考える。
このため専門教員と英語教員が連携して指導を行うプラットフォームを構築し、専門知識は専門教員が、英語は英語教員が対等な関係を保ちながら協働教育を展開する。また、学生にはグループ学習による学びの場と、インターネットを通じて学びの成果を公表する場と、社会の評価を受けて振り返りを行う場を提供する。
以下に授業シナリオの一例を紹介する。
以下に学習内容・方法の一例を紹介する。
本授業は、診断テスト、到達度テスト、成果発表、アンケートや学習ポートフォリオなどを用いて、英語の教員・教科専門の教員が授業の進行・内容・成果及び協働のあり方と役割分担を、評価シートに基づいて点検する。さらに、学内外を通じた教員同士のコンソーシアムのアドバイスを受ける。
※モデル(その2)は掲載省略
本協会で策定した四つの到達目標の内、「企業をはじめとする組織の社会的責任の重要性について認識できる。」を実現するための教育改善モデルを提案します。
CSR、企業倫理、経営哲学などについては、個々の関連科目によって一定の知識・理解を得ることができるが、社会人経験が乏しく現場情報に触れる機会の少ない学生に対して、現代の企業をはじめとする組織の社会的責任の重要性について理解させ、自らの立場や考え方を説明させることは困難であった。
ここで提案する授業は、現実の企業活動の一端を学生に理解させながら、社会的責任に関わる問題が発生した時に自らどのような行動を選択するかを考えさせ、企業の社会的責任について異なる立場や意見を複眼的視点から整理し、自らの立場や考え方を説明することの重要性を理解させることを目指す。
ここでは初年次での教育を想定しているが、学びが4年間を通じて定着できるように初年次教育終了後も対面とネット上で学生の理解度に応じた学習の場を提供し、2年時以降の発展的な学習と連動させて社会的責任の重要性を確認させる。さらに、授業時間外に学習管理システム上の掲示板などで学びを深めさせた上で、学習成果をWebなどを通じて学外に公表することで社会からの意見をフィードバックして振り返り学習を行う。
以下に授業シナリオの一例を紹介する。
以下に学習内容・方法の一例を紹介する。
この授業の点検・評価・改善は、学生による評価(自己との関連付け)、ファシリテーターの評価、初年次教育担当教員の評価、ゼミ担当教員の評価に加え、卒業生などの評価を基礎に対面やネット上で意見交流を行い、カリキュラムの在り方、授業運営方法等について振り返りを行う。