教育・学習支援への取り組み
帝京大学は、1931年に設立された帝京商業学校を前身とし、1966年に開学しました。2012年度現在、医学部・薬学部・経済学部・法学部・文学部・外国語学部・教育学部・医療技術学部・理工学部・福岡医療技術学部の10学部と10研究科、さらに三つの附属病院を擁する総合大学です。キャンパスは、板橋、八王子、宇都宮、福岡の4キャンパスに分かれ、教員数1,105名、職員数2,973名(附属病院看護師含む)、学生数24,039名(2012年5月1日現在)で教育研究活動を展開しています。
帝京大学の建学の精神は次の通りです。
「努力をすべての基とし偏見を排し
幅広い知識を身につけ
国際的視野に立って判断ができ
実学を通して創造力および人間味豊かな
専門性ある人材の養成を目的とする」
これに則って、「自分流」という教育の理念のもと、自ら考え、行動し、個性を発揮しながら未来を切り拓く人間力の育成を目指しています。教育指針としては以下の三つを掲げています。
本稿では、四つのキャンパスのうち、宇都宮キャンパスにおけるICTを活用した教育・学習支援の取り組みについて述べます。
帝京大学宇都宮キャンパスにおいて教育改革をリードするプロジェクトは「FD推進会議」が担っています。FD推進会議は、教務委員会、FD委員会、キャンパスライフ支援センター、学習支援室、ラーニングテクノロジー開発室といった教育関連各組織の連携を促し、教育改善のPDCAサイクルを実現することを目指しています。具体例としては、大学4年間の学習を円滑に進めるために、1年生のうちに最低限、身につけるべき項目をMR(Minimum Requirements)として整理して、初年度の教育カリキュラムに反映させるプロジェクトを進めてきました。FD推進会議が全体的、プロジェクト的な教育改革を進めるのに対して、FD委員会ではFDセミナー、授業アンケート、卒業時アンケートなど、サイクルとして確立したFD活動を進めています。
ICTを活用した教育・学習支援はラーニングテクノロジー開発室が担っています。ラーニングテクノロジー開発室は、教育・学習活動をICTを活用して支援する技術(ラーニングテクノロジー)を開発・整備し、その利用を支援する部署です。ラーニングテクノロジーに関するコンサルテーションや教材開発など教員への支援をはじめとして、セミナーの開催などの普及活動、調査・研究などに取り組んでいます。
写真1 理工学部の格納庫
(1) 全体構成
図1に教育・学習支援のための情報基盤を示します。情報基盤におけるシステムのIDは統合されており、ユーザは自分のIDとそのパスワードを用いて、すべてのシステムを利用できます。また、Webメールシステム、コンピュータ教室のPC群を除くすべてのシステムは、CAS(Central Authentication Service)ベースのシングルサインオン(SSO)機能に対応しています。これらのシステムに一度ログインすると、別のシステムへはIDとパスワードの入力をせずにアクセスができます。
教育学習のための情報システムには、後述するシステムの他、科目の履修情報を管理する履修参照システム、Webメールシステム、コンピュータ教室のPC群があります。コンピュータ教室のPCは、使用OSなどを授業のニーズに応じて容易に切り替えられるように、シンクライアント方式により構築しています。
図1 情報基盤の全体構成
図2 LMSにおける教材の例
(2) 学習管理システム(LMS)
学習管理システム(Learning Management System)としてBlackboard Learn R9.1を導入し、全学で運用しています。通学制の授業における学習活動、通信課程でのテキスト配布やメディア授業で利用しています。教材の提示(図2)、課題レポートの収集、理解度確認のための小テストや、コミュニケーションツールなどとして活用しています。また、授業に出席した学生にLMSの授業情報を提供するために、出席管理システムとLMSとの間でデータ連係をするようにカスタマイズを加えています。
なお、独自に開発した教職カルテシステムをLMSを経由して利用しています。このシステムを用いて、教職課程の履修者についてのカルテを管理しています。
図3 出席管理システムMobile-MARSの画面例
(3) 出席管理システム(Mobile-MARS)
通学課程の授業において学生の出席を確認して、それらの情報を管理するために、Mobile-MARSというシステムを構築して運用しています。学生指導や保護者からの問い合わせ対応などに利用しています。
図3に示すように、学生は、携帯電話からMobile-MARSへアクセスして出席登録をしたり、自分の出席状況を確認できます。また、教員は担当授業の学生の出席状況、職員は指定した学生の出席状況を確認できます。
(4) 講義ビデオ配信システム(ビデオライブラリ)
講義ビデオをストリーミング配信するためのシステムとして富士ゼロックス社のMediaDEPOを導入し、学内では「ビデオライブラリ」と呼んで運用しています。通学・通信の両課程の授業において活用しています。90分の講義をそのまま録画したビデオや、学習内容におけるポイントの理解を補助するための十数分程度のミニ講義を配信しています。また、教員は、各ビデオを個々の履修者がどれだけ再生したか詳細に確認できます。
(1) 学生補助員制度
ICTを活用した授業を支援するために、ラーニングテクノロジー開発室に学生補助員制度を設けています。この学生補助員を「ラーニングテクノロジーアシスタント」、通称LTAと呼びます。LTAは教員や学生の活動を幅広くサポートします。希望する学生をLTAとして人材登録しておき、ニーズが生じた際に実際に作業を行ってもらいます。毎年30名程度の学部学生・大学院生が登録しています。自覚と責任を持ってもらうために学長名で辞令を交付し、作業に応じた給与を支給しています。LTAのための研修会も実施しており、時にはLTA自身が講師となって経験の浅いLTAを指導することもあります。
LTAの仕事は、主に、コンピュータ教室でのLMSを使った授業の補助などの授業運営の支援や、ビデオ教材やパワーポイント・LMSコンテンツなどの電子的な教材作成などです。柔道整復師国家試験や情報処理技術者試験の対策のためにLMSへの問題の入力も行っています。教員と共同で教材を開発したり、LTAとしての視点から教材についての提案をすることもあります。
LTAのためのeポートフォリオの運用を2012年度から始めました。LTAとしての活動をeポートフォリオに記録して、情報共有や振り返りをします。記録と省察を通してLTAがより成長することが期待されます。
写真2 仕事をしているLTAの様子
(2) ICTを活用した授業例
ICTを活用した特徴ある授業の例を二つ紹介します。
理工学部航空宇宙工学科の「設計製図」の実習では、ICTを活用して実験データの分析をしたり、多くの資料を効率的に整理しています。この実習は、火星上に探査機を軟着陸させるパラシュートの設計、その性能を地上で確認するためのモデルパラシュートの製作、降下試験と設計へのフィードバックから構成しています。
設計原理・設計図に基づいたものづくりのプロセスや、数名のチームで活動するプロジェクトの管理が経験できます。降下試験で得たデータをその場でPCを用いて解析したり、実習の各段階で必要な技術資料、解析プログラムなどのソフト、降下試験方法の説明書など多くの資料をLMSに整理しておいて、必要なときに効率よく参照できるようにしています。
理工学部ヒューマン情報システム学科の「情報システム実習2」は、LMSを活用した学習が大きな割合を占めています。この実習では統一モデリング言語(UML)を用いて情報システムをモデリングします。主に新しい知識や概念を学ぶ個別学習と、仲間と協調して情報システムのモデルを作成する協調学習の2種類の学習活動から構成されています。個別学習は、LMSを用いて個々の学生の自己学習活動を主体とするセルフラーニング型の学習方法を取り入れています。この方法により、LMSに載っている学習の進め方のガイドを参考に、基本的には自分のペースで学習を進め、すぐにフィードバックを得られる小テストで理解度を確認したり、LMSや他の手段を使って調べたことをハンドアウトに書き込むなど、多様な学習の方法をとることができます。これによって、きちんとした理解とともに自ら学習を進める力を身につけること目指しています。
写真3 火星探索機のためのパラシュート降下試験
帝京大学が提案・運営機関となる「栃木の自然と先端技術に学ぶサイエンスらいおんプロジェクト」が科学技術振興機構(JST)の科学技術コミュニケーション推進事業「ネットワーク形成地域型」に平成24年度新規企画として採択されました。栃木県総合教育センター、公設試験研究機関、科学館・博物館、栃木県内大学、多数多様な民間企業の他、県内メディアも巻き込んだ科学技術コミュニケーションネットワークを構築するものです。帝京大学では科学技術イベント「エンジョイ!カガク!!」を6年間、高等学校を中心に講義や実験教室を提供する「帝京サイエンスキャンプ」を3年間、実施してきた実績があります。本プロジェクトで県民が科学技術に触れる場の拡大を目指します。
帝京大学宇都宮キャンパスにおけるICTを活用した教育は、内容の充実を中心に少しずつ進んできました。2002年に宇都宮キャンパスにWebCTというLMSを導入したとき、「従来の教育を変えるテクノロジーがやってきた」とわくわくしたものです。もちろん、テクノロジーの導入のみによって教育の本質は変わるものではありません。学習が学生にとって意義あるものになるよう、テクノロジーを利用してできることを教員が模索する状態が続いています。
そこで、2012年、学内に「ICTと教育研究会」を立ち上げました。ICT活用に意欲をもつ教員が議論し、コラボレーションすることで、ICTを効果的に活用した新しい教育の実現を目指したいと考えています。
文責: | 帝京大学 ラーニングテクノロジー開発室 |
室長 | 渡辺 博芳 |
古川 文人 | |
高井久美子 |