教育・学習支援への取り組み

ICTを利用した教育改革の試み
〜西南学院大学〜

1.はじめに

 西南学院は、アジアの玄関口福岡に位置し、1916年にアメリカ人宣教師C. K. ドージャーによって創立されました。「西南よ、キリストに忠実なれ」という創立者の言葉を建学の精神として学院の伝統を育んできました。学院は現在、2016年の創立100周年に向けて、「マイケル・サンデル教授in福岡」の開催をはじめとして、様々な記念行事を展開しています。
 西南学院大学は、学生数約8,000名、神学部、文学部、商学部、経済学部、法学部、人間科学部、国際文化学部の7学部13学科、大学院、法科大学院をもつ文科系、社会系の総合大学です。外国語教育や情報処理教育をはじめ、各学部の専門教育についても充実した学びを可能にする施設・設備を整えています。

2.本学における情報処理センターの役割

 本学の情報処理センターは、1970年3月に大型コンピュータを導入して「電子計算機センター」として発足し、以来全学の教育・研究のためのICT基盤SAINS(セインズ:西南学院大学総合情報ネットワークシステム)の整備を図ってきました。近年、オンラインデータベースや講義の教材資料が急速に増えたため、学生がどこからでもそれらを利用できるように、学内外の情報アクセス基盤(無線LANの増設・自宅と大学間をより安全に通信するためのVPN接続の提供)の整備を重点的に行い、急速に普及してきた個人携帯情報端末への対応も進んでいます。具体的には、情報処理センターが次の二つの面で学内のICT活用を支援しています。

(1)情報教育カリキュラムの提供

 学生のICT活用能力を高めるために、情報処理センターでは、情報リテラシー教育の「情報活用基礎」、文書作成やプレゼンテーションやデータ分析やデータ管理など、各学部の専門教育に繋げる「情報処理応用IA〜IE」、高度な情報処理技術修得を目的とした「情報処理応用III」を開講しています。また、講義以外の自学自習用にe-Learningシステム上で、情報リテラシー教材、スタディスキル教材、社会人基礎力教材、リメディアル教材などを導入しています。学生はこれらを利用すれば、いつでも誰でも自分の状況に合わせて学習できます。

(2)ICTを活用した教育支援

 教育現場でICTを活用しやすいように、次節で紹介するMoodleをはじめ、多くの教育支援システムの整備や利用サポート体制を整えています(図1参照)。また、講義や自習でのICT活用を支援するために、昨年から、学生が当日学内で利用できる貸出PCを300台用意しています。学生がこれを活用すれば、パソコン教室以外の一般教室でも自習や講義の準備・復習など様々なシーンに合わせてICTを活用することができます。教員がこの仕組みを利用すれば、学内のどの教室・どんな講義でも学生にICTの利用環境を提供でき、「オンラインテスト」、「資料検索や情報共有」、「プレゼンテーション」、「オンライン資料の閲覧」などICTを活用した多様な教育が可能になります。

図1 e-Learningシステム構成

3.e-Learningシステムを利用した教育改善活動

 本学では、2004年度からe-Learningシステムを導入し、ICTを活用した授業支援を行っています。当初は、WebCTを利用していましたが、コスト的な問題やシステムの自由なカスタマイズができないことなどから、フリーのオープンソースのシステムである「Moodle」へと移行しました。
 Moodleには、教材提示やフォーラム(電子掲示板)、課題の提示・回収、小テスト、アンケートなどの機能があり、特に教材提示機能はよく利用されています。また、フォーラムでは教員からの連絡・告知や学生とのやり取りなども頻繁に行われており、きめ細かな指導に役立っています。
 Moodleの利用は、2010年度頃から全学的に広まり、2011年度には全講義の17%程度の講義で利用されるようになりました。今年度は、7月の時点で14%程度の講義で利用されており、今後さらに増加する見込みです。学部別で見ますと、文学部や法学部での利用が多くなっています(詳細な利用状況は図2参照)。
 e-Learningシステムの利用推進のため、情報処理センターでは、教員を対象とした講習会(年2〜3回)を含め、丁寧なサポートを行ってきました。最近では、学生からの要望に後押しされた形でのe-Learningシステムの利用も増えています。今年度からは、支援体制強化のため、パソコン教室等に常駐する学生アルバイトにMoodleの練習をさせ、教員や学生からの質問に対応できる体制の整備を進めています。
 また、本学ではMoodleの小テスト機能の使いにくさを解消するため、Moodleとの連携機能を持つオンラインテストシステム「Toqlla(トクラ)」を(株)ヌーラボと共同開発しました。Toqllaでは、「選択形式、単語形式、記述形式、計算形式、穴埋め形式、対形式」の6種類の形式の問題を作成することができ、問題作成、回答操作ともにわかりやすい画面となっています(図3参照)。現在は、全学的な利用を推進中で、特に法学部や経済学部での利用が多くなっています。次では、典型的な利用例を紹介します。

図2 各学部の利用状況
図3 Toqllaの問題作成画面

(1)大規模講義での活用例

 定期試験だけでは、学生に勉強を継続させるのは困難です。学生に講義の内容を復習・確認させ、かつ、学生の理解度に関する情報を教員が把握できる学習環境が重要と考えられます。その一つの対策はこまめに小テストを実施することです。しかし、授業時間中に行えば、授業進度に遅れが生じるばかりでなく、大講義では採点が大変なため、なかなか理想通り小テストを実施することができません。そこで、Moodleの小テスト機能の利用が有効です。オンラインテストの場合、課外にセルフ受験でき、自動的に採点されるため、以上の問題を解決できます。
 例えば、マクロ経済学I(経済学部1回生向け、約150人)とマクロ経済学I(他学部向け、約50人)では、各章に1〜2個の小テストで、全部で9個の小テストを用意しています。講義の進度に合わせて、1ヶ月に2〜3個の小テストを実施しています。昨年度までは文字通りテストでしたが、現在は何回も受験できるテスト練習として公開しています。また現在では、中間試験と期末試験についても、パソコン教室を使ってオンラインで実施しています。問題の形式は基本的に多肢選択問題・穴埋め・計算問題で、テスト練習(小テスト)は1回につき5〜7問程度(制限時間15分程度)で、中間・期末試験は20問(制限時間60分)です。
 このように、小テスト機能は目的に合わせて多様な方法で使うことができます。つまり、学生に継続的に勉強させることを目的として小テストを実施し、成績の一部に含ませることもできます。問題解法のテクニックを習得させ、知識を定着させるために、解答解説を公開し、何度でも受験できるが成績には含めない、とすることもできます。いずれも学習効果のアップに有効です。
 教員にとっては、問題を作成するフォーマットが限られているため、作問に時間がかかります。しかし、ひとたび問題が蓄積されていくと、試験の作成時間が大幅に短縮されます。また、採点の手間はほぼ無きに等しいため、作問の苦労は十分報われると考えられます。一方、学生にとっては、時間がカウントダウン表示されるオンラインテストは緊張するようで、紙ベースのほうが解きやすいとのことでした。ただし、小テストを何度も受験可能にしてからは、こうした声は聞かれなくなりました。

(2)小規模講義での活用例

 Moodleには、フォーラム機能などがついており、少人数の授業の活性化にも役立てることができます。ある法学部3年生ゼミでは、2011年度にゼミ全体で財務局学生論文コンテスト(注)に応募することにし、ここでMoodleを活用しました。このコンテストでは、共同執筆が前提になっていましたので、ゼミ全体を4人ずつ四つのグループに分けました。ゼミの時間そのものは、論文執筆の作法の教育や、成果物の検討に当てられます。そこで、実際の調査や執筆は、各グループがゼミの時間外に行うことになります。ここでMoodleが活躍します。夏合宿の日程調整にはアンケート機能が使えました。各自の分担執筆分は、グループごとに設けられたフォーラムにアップしました。グループのメンバーは、それを見てコメントをつけたり、自分の執筆内容を調整したりしました。また、他のグループのフォーラムを見ることもできるので、よい意味での競争意識も生まれました。その結果、全グループが統一感のある論文を完成することができました。

(3)入学前教育での活用例

 法学部では、推薦入試合格者全員に対して、Webを介したコミュニケーションを前提にした入学前指導を行っています。コミュニケーションは主として研修済みの学生アルバイト(SA)が担当します。指導科目は現代文と英語です。
 まず、合格通知に初回テストを同封し、Webで答案を提出してもらいます。その得点に応じ、受講生に対し、最初に取り組むべき参考書をメールで指示します。受講生は、その参考書の学習を終了したら、メールで終了報告を行います。SAはその学生に対しその参考書に応じた小テスト(WebテストのToqlla)の受験を指示します。SAはその得点に応じ、学習上のアドバイスとともに、復習または次に取り組む参考書を指示します。この間、受講生はいつでもSAに学習上の質問ができます。全1年生を対象にした現代文テストの結果、推薦合格者のグラフはフタコブラクダ状からヒトコブラクダ状に変わり、かつ、そのヒトコブのグラフの頂点が一般入試合格者のものより右側に位置するようになったことから、小テストの導入には、効果が明らかであったように思われます。小テストの導入は、常に受講生の現状学力にあった指導を可能にしたと言えそうです(図4参照)。

小テスト導入前(2011年度) 小テスト導入後(2012年度)
図4 小テスト導入の効果

4.その他の活用事例(学習ポートフォリオシステムの導入)

 本学では、2012年度の心理学科開設に伴い、学習ポートフォリオシステムの「Mahara」を導入しました(図5参照)。Maharaは、学習ポートフォリオシステムの機能とSNSの機能を併せ持った、オープンソースのシステムです。2012年度においては、まず心理学科にてテスト的に導入し、来年度以降の他学部での導入を検討していくことにしています。
 Maharaには多くの機能が備わっていますが、現在利用している内容としては、以下のものが挙げられます。

 テスト的な段階でもあり、初年度は、本人と教員のみが各学生のポートフォリオ画面を閲覧できるように設定しています。プロフィールについては、誰でも閲覧できるようにしており、学生同士のコメント入力も可能です。学生間では、フレンド機能を活用し、メッセージを送信することもあります。
 運用を始めてまだ3ヶ月しか経過していないため、現段階での評価は難しいところですが、今後、教員の意見等を参考にし、改善していく予定です。

5.おわりに

 Moodleの全学的な利用が広まりつつあり、教員、学生ともに便利なシステムであるとの評価を得ています。今後は、より多くの利用へ向けた支援体制の強化が必要となってくると思われます。また、これまでは、学生の履修登録とMoodle上での登録との間で同期が取れていないため、コースの利用開始に時間がかかることがありました。今後は、履修登録との自動同期を行う方策を検討していく必要があります。

図5 mahara のログイン画面

 財務省主催のコンテスト。財務局は財務省の総合出先機関。

文責: 西南学院大学
情報処理センター主任、法学部教授
毛利 康俊

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