巻頭言
山本 嘉一郎(京都光華女子大学副学長)
本学は、仏教精神のもと、豊かな人間性と専門の知識・技能を備えた女性の育成に取り組んでいる。仏教精神を「慈悲の心=おもいやり」と捉え、「おもいやり」をスローガンに、他者を思いやることのできる人材の育成に努めてきた。その具体策として2007年度から、「エンロール・マネジメント」(以下、EMと呼ぶ)を展開している。EMは1970年代の米国で、入学者の確保と退学防止を主目的に、データに基づく有効な学生満足度向上策として考案された。我が国の現状は当時の米国によく似ている。EMが解決策の一つとして挙げられる所以である。ただ、大学とその環境に大きな違いがあり、米国のEMがそのまま適用できる訳ではない。その違いに応じた適用が必要である。また、大学と学生の特性に合わせて、適切な内容を考案する必要がある。
本学では、EMを入学前から在学時を経て卒業後まで、個々の学生に対して最適な教育と支援を行うことと捉えている。教育そのものを支援の中心とした点に特色がある。その基本は「個別的教育と個別支援」である。このような本学のEMは2008年度の学生支援GPに「学生個人を大切にした総合的支援の推進」として選定された。EMの政策は、入学前、入学時、在学時、卒業後の段階ごとに用意する。各段階で学生の不安を解消し、最大の成果が達成できるよう学生を支援する。入学前では入学前教育や進路相談、入学時点では履修指導や初年次教育、在学時は教育支援、生活支援、就学困難者支援など、卒業を前にしてはキャリア支援、卒業後は転職、子育てなどの支援へと続く。EMはこれらの支援を一元的に管理運営し、「学生満足度向上」という目的に向かって無駄なく効率的かつ効果的に推進する。
ここで、在学時の主な支援として教育支援と就学支援を紹介する。教育支援は「教育充実策」として実施している。学修成果の達成へ向けた支援であり、カリキュラム改革、教育方法の改善、教員の教育能力向上などで構成される。成績評価の厳格化、カリキュラムの体系化と組織的教育、学生の主体的な学びなどに取り組んでいる。就学支援は、就学が困難な学生に対する支援である。その中で本学が力を入れているのが「トラッキングサポート」である。対象の学生を早期に発見し、その状況を判定し、効果的な支援を行う。学生の状況把握としての「アセスメント」と併せて、学生支援GPの中心的課題の一つとして取り組んできた。
EMで最も重要なことは「学生を知り抜くこと」とされる。学生の属性、態度、行動、意向などを知り抜くことで、適切なEMの実現が可能となる。学生を知らなければ、実施する施策は的外れなものになってしまう。EMは、学生を中心とするステークホルダーに関するデータに基づいて計画・実施されることが重要である。すなわち、IR(Institutional Research)の重要性がここにある。ただ、必要とされるデータは、本学のような比較的小規模な大学においても相当な量になる。ICTを活用して、効率的にこれらのデータを収集・分析できる仕組みが必要である。幸い、学生支援GPの中で整備した学生情報システムがあり、これを核にしてIRのためのシステムを構築している。
一方、個々の学生に対する支援には、個々の学生の特性に加えて、その時々の状況の把握が必要である。本学では、学生の状況を受験・入学時の状況、出席、成績、経済状況、窓口での相談状況などから、総合的に把握することに努めている。これらの情報を学生情報システムで一元的に管理し、関係者間で情報共有を図る。そこにICTの活用が不可欠であることは言うまでもない。中心になっているのが、IC学生証を利用した出欠状況管理システムである。出欠状況をリアルタイムに把握し、学生の動向把握に活用している。
以上のように、学生をはじめとするステークホルダーの傾向を分析して戦略を立て、個々の学生の状況を十分に把握して支援する。このことがEMの成功には欠かせない。本学では今後、IRの強化を中心にEMを発展させ、その完成に向けて取り組んでいきたいと考えている。