教育・学修支援への取り組み
皇學館大学(以下、本学)は、三重県伊勢市に位置し、学部生・大学院生・神道学専攻科生(以下学生と総括)合わせ約3,000名を擁する大学です。明治15(1882)年、皇大神宮の林崎文庫に設置された「皇學館」を大学の起源とし、以後明治36(1903)年に内務省管轄の官立専門学校に、昭和15(1940)年には官立神宮皇學館大學となり、第二次世界大戦終了後の昭和21(1946)年、GHQの神道指令により一度は廃学となったものの、昭和37(1962)年には私立「皇學館大学」として復興、平成24(2012)年度を以て創立130周年・再興50周年を迎えました。
(撮影:三輪晃久写真研究所)
本学は、「わが国の歴史に根ざした道義と学問とを学び、実際の社会の中でこれを実践して文明の発展に寄与する」ことを建学の精神とし、現在、文学部・社会福祉学部・教育学部・現代日本社会学部の4学部体制で教育に臨む他、事務組織としては学生支援部(教務担当・学生担当・実習支援担当・入試担当・教職支援担当・就職担当)や神職養成部が学生の研究・学習活動並びに就職・奉職活動を支援しています。そして平成20(2008)年6月、本学のFD活動を中心とする教学改革を推進し、同時に上記諸組織と連携して幅広く柔軟な学生支援や学習支援を提案し運営するため、学内に教育開発センターが設置されました。以後、本学のICT活用教育は、同センターと情報処理センターが緊密な連携を取りつつ管理・推進しています。
本学のICT活用教育は、授業内容の更なる充実を第一の目的として、学生が、授業中あるいは学内のみならず、自宅においても授業の予習・復習や自習の手段とし得るコンテンツの作成、および教員が授業において実施する事前事後学習の充実、並びに授業準備における負担軽減を目指し実施されています。
その一環として、まず平成21(2009)年度から、Moodleの本格運用が開始されました。ただし、フリーソフトであるMoodleには公式マニュアルが存在しないため、教育開発センターにおいて、授業補助として有益な機能に特化したやや詳細なマニュアルを作成し、これを教職員専用学内ホームページにおいて公開するとともに、システム活用方法についての講習会を、初年度となる平成21(2009)年度には5回実施しました。以後、毎年最低1回は活用法の講習会を開催し、特に新任教職員に参加を促しつつ、利用拡充に努めています。
図 Moodleの画面例
運用方法については、学内のより活発な利用を促すため、非常勤講師を含めた全教職員に、Moodle内にコースを作成できる権限を付与し、授業のみならずサークル活動やWeb会議の場としても活用できるよう設定しています。そして、学内から願い出があった場合には、教育開発センターにおいてリクエストされたコースを作成します。なお、何らかの不明な点あるいはトラブルが発生した場合は、教育開発センターがヘルプデスクとしての機能を果たし、連絡を受け次第スタッフが問題解決にあたるように定めているため、教育開発センター長並びにセンター助手、および情報処理センターの限定された職員には、Moodle管理者としての権限が与えられています。
本学のMoodleによるシステムは、混乱を避けるため、年度ごとに新たなシステムを情報処理センターで立ち上げており、単年度ごとの利用状況を把握しています。なお、旧年度のシステムも情報処理センターが管理し、教職員から希望があった場合には、旧年度のMoodleに設置したコースを新年度のものに移行する作業を教育開発センターが請け負っています。
教育学部を擁し、文学部と併せて延べ696件の教員免許を卒業生が取得する(平成23年度実績)本学では、学生・院生が一定期間教育実習等により授業を欠席することとなります。この教育実習期間中の授業内容をどのようにフォローするかという課題を解消すべく、平成21(2009)年度、自動追尾型撮影システム「Auto-Rec」の導入を決定しました。これにより、ハイビジョンカメラで撮影した授業風景をPCで自動編集(場合によっては手動でも編集)し、CD-Rにコピーした映像を教育開発センター内において保管するとともに、希望する学生に対する貸し出し作業を実施しています。
撮影する授業は、必要と判断される必修科目等の担当教員に、教育開発センターから撮影を依頼することもありますが、基本的には、教員側からの撮影希望の申し出を受けた後、センターのスタッフが撮影に出向いています。ただし、授業の撮影に際しては、後からシステム上で映像の必要な部分を自動的に切り出して編集できるため、カメラに付いてアングル調整等を行う必要がありません。黒板を含む教壇全体を撮影できるようにカメラを設置して録画開始し、授業終了時にカメラを回収するのみの作業ですので、専ら研修を受けた学習支援室(教育開発センター内に設置)のチューターが担当しています。これら個々の授業記録は、年間平均およそ60件を数える程度ですが、授業以外に、例えば教職支援担当並びに実習支援担当が主催する教育実習や介護等体験の事前指導、あるいは教員採用試験対策用特別講座といった特別授業の撮影依頼が増加しています。これらの特別授業をやむを得ない理由で欠席した学生をフォローするにあたって、授業記録は担当教職員の負担を大幅に軽減しています。
また、従来は講座の主催者の部署によって、学生支援部教務担当や教職支援担当などが個々に担当していた撮影業務を教育開発センターが一括して請け負うことが可能になったため、撮影依頼に混乱が生じないという利点も生れました。これを反映してか、授業・講座以外にも、学内で開催される特別講演やシンポジウム等の撮影依頼も近年は増加しています。
ただ、学生に対する貸し出し業務について、教育実習等により授業を欠席した学生が映像の貸し出しを希望するのは実習等から帰ってきた一時期に集中するため、数枚の貸し出し用記録を用意しても、かなりの順番待ちが発生する場合があり、そこから又貸し等が行われる危険が学内からも指摘されています。貸し出しにあたっては、個々の学生には、貸し出し期限は3日間を厳守する、他者への又貸しはしない、インターネットへのアップロード等閲覧以外の利用を行わない等の事項を定めた誓約書への署名捺印を求めています。しかし「見えない場所でのモラル」が保たれているかについては調査の余地があるように思われます。
加えて、ハイビジョンカメラによる映像をPC内に取り込んで編集するため、貸し出せる状態にするまでに若干の時間を要する点も課題と言えます。作業にかかれる教育開発センター内の人員からすると、現状では、90分の映像を編集するためには最低2日が必要であり、予期せぬトラブルによる再編集の可能性を考慮して、現時点では撮影から編集までには1週間かかる旨を学内に広報しています。しかしながら、授業等に欠席した学生が、その翌日には映像を借りに来ることもしばしばあり、センター人員の増加は予定されていない現在、この時間差をどのように解消するかが、今後のサービス向上への課題となっています。
写真1 Auto-Recによる編集の様子
Moodle、Auto-Recに続き、教職課程において平成25(2013)年度から必修化される科目「教職実践演習」のためのポートフォリオを構築するツールとして、平成23(2011)年度からmanaba-forioを導入しました。従来、紙ベースで蓄積していた情報を電子化し、クラウドシステムの運用による情報管理の容易化および担当教職員の負担軽減を主たる目的として、導入が決定されました。
運用面では、利用者のID・パスワード設定等の基本設定は情報処理センターが担当し、その情報を教育開発センターと共有することにより、教育開発センターが利用者の登録管理、コースの立ち上げ、コース運用上の質問受け付け等を行っています。なお、コースの立ち上げについては、希望する各教職員から申込みが提出された場合、教育開発センター長並びに情報処理センター長の決裁を仰いだ後、教育開発センターで専用コースを立ち上げ、担当教員・履修生を登録して授業の補助ツールとして役立てています。
加えて、manaba-forioには「指導教員別コース」を設置しています。本学では、教員と学生との密接な係わりときめ細やかなフォローを目的とした「指導教員制」を実施しています。各学科の教員1名につき、同学科の学生が1学年につき10名前後指導学生として割り振られ、3年次からは、各学生が選択したゼミの教員を指導教員とします。学修指導のみならず、入学時から卒業時まで個々の学生に配慮した目配りを行いますが、この指導教員専用コース、および各学年学科専用コースを準備し、教員・学生間のより緊密なコミュニケーションツールとしての活用を促しています。
さらに、コミュニティ機能が備わっており、学内の人間であれば誰でもコミュニティを立ち上げることができます。現在、学生が数件の趣味的なコミュニティを立ち上げる他、留学生コミュニティも設置されています。
ただし、既に教職支援の場で積極的な運用が始まっているものの、今年度が開始年度に当たることもあり、本来のポートフォリオ機能が満足な状態まで活用しきれていないというのが現状です。加えて、授業補助やコミュニケーションのツールとしてどれほどの活用が実現できるかは、今後の追跡調査を俟つ状態にありますし、教職員に対する活用方法の周知として、管理業者(株式会社朝日ネット)の委託による定期的な講習会の開催を今後も継続していく必要性を感じます。
写真2 manaba-folioを用いたきめ細やかな学生指導
一方、学生に対する使用方法の伝達方法が課題となっており、平成24(2012)年度においては、業者作成の簡易マニュアルを全学生に配布して簡単な説明を行い、不明な点は教育開発センターに問い合わせるよう指導するのみに留まっています。今後の活用拡充に向けて、学生へのPR方法を検討すべき状況にあります。
以上のように、本学のICT活用教育は、教育開発センターと情報処理センターを中心とする諸機関との連携の下で運営されていますが、運営上の課題として、各部署における担当者が1名程度であるため、担当者が大学を空けると運用が滞る問題が発生することが挙げられます。特にAuto-Recにおいては、教育開発センター内ですべての作業が行われるため、その傾向が強くなる嫌いがあります。
さらに、ICT活用は個々の教員によってその理解度や活用度に著しい差異が生じており、担当するほぼすべての授業でコースを立ち上げ、積極的にシステムを活用する教員もいれば、全くこのようなツールの存在に関心を示さない教員もいるなど、学内での温度差をどのように解消するのかが、今後に向けての大きな課題です。
操作にある程度のスキルを要するMoodleではその傾向が顕著であり、各年度の利用状況を調査すると、多くのコースが、非常に活発にMoodleを利用する数名の教員によって立ち上げられている状況です。同時に、学科によっても活用度に大きなばらつきがあり、今後全学における利用の幅を広げていく方法を検討する必要があると感じています。
文責: | 皇學館大学 文学部・教育開発センター助手 速水 香織 |