事業活動報告No.2

教育改革FD/ICT理事長・学長等会議開催報告
「大学教育の質的転換を図る主体的な学修の実現を考える」

 平成24年8月7日(火)午後1時、明治大学駿河台キャンパスを会場に72大学7短期大学より、152名の理事長、学長、学部長等関係者が参集して開催。質を伴う主体的な学修の実現を目指すために大学ガバナンスの関係者が理解しておくべき問題を確認し、教学マネジメントの中で対応が望まれる取り組みなど戦略を探求する場とした。
 開会にあたって、向殿政男会長(明治大学)より「社会が急激に変化する時代に生涯学び続け、主体的に考え、判断・行動できる人材育成が喫緊の課題となっており、大学教育の質的転換が急がれている。大学は未知の時代に立ち向かっていく学生に意欲と能力を育む教育の実現に向け、教学マネジメントを含めた改革を探求したい」との開催趣旨説明があった。
 次いで、会場校を代表して明治大学理事長の日高憲三氏より「世界が大きく変化している時代にあって、大学がどれだけ社会に優位な人材を育成してきたのか、強く問われている。教育ガバナンスはどのように改革されるのか、大学の経営者、教員、職員の意識改革はできているのか。大学の役割・責任が大きく問われている中で私情協を介して情報を共有し、日本の私立大学全体がともに発展することを期待したい」との挨拶があり、プログラムに入った。

講演

「質的転換を図るための大学教育の基本課題と教育メカニズムの形成」

 金子元久氏(筑波大学大学研究センター教授)より、標記のテーマを受けて「大学教育の質的転換への道」と題して概ね次のような説明があった。

1.教育改革に対する国の動き

 2008年に中央教育審議会が「学士課程教育の構築に向けて」の答申で大学教育の中身について触れ、はじめて「学士力」が話題になった。2012年3月大学教育部会で審議まとめ「予測困難な時代において生涯学び続け主体的に考える力を育成する大学へ」が報告され、8月中旬に答申が出る。また、文部科学省は6月に「大学改革実行プラン-社会の変革のエンジンとなる大学づくり」を年度区切ってどのように実行していくかを提示。さらに国家戦略会議では、6月4日付で「社会の期待にこたえる教育改革の推進」を発表し、グローバル人材育成が強調された。

2.大学改革の現在

 グローバル化、知識社会化、高等教育のユニバーサル化と若者の失業など、将来が見えにくくなっている中、高等教育への課題は、一つは、大学教育が学生の生き方にどのような関連性・妥当性を持っているのかが、改めて問われている。専門分野の知識・技能だけでなく、それを支える能力が必要。二つは、質をどうやって保証するのか、大学評価、大学の情報公開も非常に大きな問題。より高い教育成果をより少ない資源で行う効率化の検討が必要。三つは、学生の学習をどうしたら高度化・実質化できるのか。シラバス、初年次教育、GPA、厳格な成績評価などの小道具を含めた議論が多いが、それらを繋ぐ体系性・持続性が欠けているのではないか。
 日本の大学教育の実態を直視する必要がある。まず、学生が勉強していない。学習時間自体が足りず、学修成果も疑問。教育のガバナンス、教育マネジメントも実態を把握するものでなければいけない。とりわけ、学修時間・自律的な学修の構築は、学修の量と質をどう確保するかが課題。
 日本の学生の活動時間は、授業・実験が約3時間、授業関連の学習が1時間、卒論は4年間平均で0.7時間、読書等が0.8時間、アルバイト・サークルが2.7時間で合わせて8.2時間。授業には3時間くらい出ているが、自律的学習は1.7時間と授業時間の半分、アルバイト・サークルよりも少ない。設置基準の授業関連の学修時間は5.2時間必要に対して、理工は4年に集中して3.6時間で充たしていない。人文・社会に至っては1.8時間で自律的学習の3分の1程度と極めて低い。

 基本的には1日8時間勉強することを意味しているが、日本は国際的な標準に及んでいない。アメリカと比べても1週間の授業関連の学習時間は5時間以下で比べると、アメリカは15%程度に対して、日本は6割程度と非常に少ない。

3.なぜ「自律的学習」か

 授業に出席するが自律的な学習時間が少ない。卒論等に重点をおき、1年生からの積み上げが少ない。何故こういう学修構造ができたのか、歴史的背景がある。一つは中世の大学、法学・医学・神学のプロフェッション教育は、明確な修得目標があり、標準的教科書、試験による「修得モデル」であった。二つは、イギリスにおけるリベラル・アーツの教育がアメリカに行き、学習過程を統制・設計し「学習統制モデル」となった。もう一つは、19世紀初めベルリン大学の「探究モデル」で学生の自主性を信じ、学生自身も探究するものだという考え方がある。日本は探求モデルの影響が強く、戦後に統制モデルを導入し、学生は自律的に学習するものだとする学習が普及した。アメリカでは、学習をコントロールするカリキュラムが設計され、学士課程を124に分割して、どのような目標に向けて学修課程が編成されていくのかという「プログラム」主義となっている。日本も学部等の組織主義に対してプログラム型になっていくべきだが、組織としてはプログラム型になっていない。日本の教員の担当コマ数は、平均で8コマを超えている。アメリカの大学は平均4コマ、研究大学で2コマくらいと2倍以上になっている。日本は学部学科に細かく分かれ、自分の専門の講義を組織することに教育的意味があるとして非常に授業が多い。研究室や小集団の学習は、自分が何を学習しているかではなく、組織の中で皆が支配している知識を出す。しかし、結果としては個々の授業にあまり時間を使っていない。4年間を通じて体系的に修得した知識というのがあるのかどうか、教育成果の実感がなかなか生まれない。社会の流動性が高くなり非安定性が高くなってくると、個人としての判断が非常に必要になってくる。自分が何を知っていて、何を学習することができるのか、自律的学習は社会全体の変質と重要な関わりがある。

4.改革への道

 それではどういった形で自律的学習を作っていくことができるのか、出席の厳格化、小テストなどに頼ると学習時間は下がる。モチベーションの活性化が問題で教員自体が方向性を持っていないといけない。教育のガバナンスはトップダウンではなく、教員が参加してメカニズムを作っていく必要がある。「教育改革の設計」、「実態把握」、「理念・目標の形成」が相関し合うことが、一番重要だと思う。

 学長の意識が2、3年急速に変化しているが、教員の意識はそこまで変化していない。文科省のアンケート調査では、学長が考える「授業改善の障害」の要因について、全体的には「カリキュラムの体系化、標準化、広域化が必要」としている。

 ところが、私たちが実施の教員意識調査で「授業の改善に何が必要か」たずねたところ、「研究室・ゼミ等を通じて教員や学生間の接触を強化する」として、その大学のカリキュラムを良くしようとする教員はあまりいない。また、「修得すべき知識を標準化し、それに応じてカリキュラムを体系化する」は、はるかに支持が少なく力を入れている教員は5分の1程度。さらに、「少人数の授業を増やすよりも、授業内容、教材などを標準化し、TAなどを増やす」はまったく支持がない。

 学長が政策的に考えている方向と個々の教員が考えているユートピアが違ってきている。問題はどうやってギャップを閉じていくかだ。一つは、合意形成に向けた客観的根拠、教育の実態把握が必要。二つは、単なる調査ではなく、教育理念に結びつける必要がある。三つは、教員等の有効配分の観点も重要。改革の方向としては、リーダーシップの問題が考えられる。経済同友会の提案は、学校教育法の中の教授会権限に全学において教育の内容を考えることができるようにしようという提案があるが、法律をその問題だけで変えるのは困難と思う。しかし、学士課程についてバーチャルな全学的な調整機関を作り、実質的な統括組織を構築していくことは可能性がある。アメリカでは専門分野に教員と大学院生が属しているが、学士課程はそれぞれに学生が属するのではなく、学士課程に教員が出向いて教育をするというバーチャルな組織に責任者がいる考え方をとっている。
 ガバナンス関係者は、自らの理念を明確にし、対話を通じて新しい理念を構成していくところが一番大きな課題。単に新しい教育テクニックを投入するだけではなく、今まで日本の大学人が信じてきた価値観・教育観を振り返り、修正を加えるべき時期にきている。そのために合意形成、全学的な学部構成が必要になってくる。

【質疑応答】

[質問]
説明は、アメリカの大学のUndergraduate Collegeのような形の概念を提示されたと考えたらよろしいのか。学部教員になると強く縄張り意識が出てくるところがあるのか。
[回答]
Undergraduate のCollegeはバーチャルな組織としてもう一方にあって、教員は帰属組織からUndergraduateに出ていく。日本はすぐそこにいくのは大変難しいであろう。その間に中間的な形態がいくつかあるのではないかと思う。学部学科の教員の帰属組織は相当細かくされている場合が多いが、それと対応して学生の帰属組織を作る必要はなく、学生の帰属組織は大括りでもいいというのが私の考え方。
 
[質問]
教授会で言われるが、「学生の責任は教授がとる」というところに帰結してしまうと考えればよろしいのか。
[回答]
そこが問題。実は学生の教育の責任を誰がとるのか。教養科目などあるわけで、学部の教授会で全て学士の質保証の責任をとれるのかどうか、よく分からない。学部教授会が主という考え方をしてきたが、全て学部が決めなければいけないということでもない。全学で決るべきこともあるので、考え直すことが必要であろう。

講演

「能動的学びを実現する『話し合い学習法』と学習支援システムによる効果の検証」

 高木 功氏(創価大学経済学部教授)より、標記のテーマを受けて「能動的学びを実現する『話し合い学習(LTD)法』と学習支援ポートタルシステムによる効果の検証」と題して、概ね次のような説明があった。

1.大学・学部教育改革とLTD法との出会いと応用」

 今、自律的な学習者の育成が大きな課題になっている。本学が取り組んできた大学の教育改革の流れの中での実践の一例として、LTD学習法を紹介する。LTDは、Learning Through Discussionの略でディスカッションを通しての学びである。神戸学院大学の古圧先生がLTDを応用したところ、一人当たり平均4.5時間の学習時間を確保できることが報告されている。LTDは、米国のWilliam F.Hill氏が50年前に考案した協同学習で、10年前から久留米大学の安永 悟氏が翻訳して実践・紹介された。私も同氏のワークショップを受けて10年程実践してきた。学習時間のみならず、自分から学びの喜びを感じ、自身で学習に取り組む姿勢を涵養するという非常に有望な一つの教育方法ではないかと考える。
 本学の教育ミッションは、「どんな困難な条件・環境においても価値を想像できる人間を育てる」とした創造的人間の育成を掲げている。1990年台から2010年まで教育改善・改革、組織的な改組・開設を行った。どのような学生、人間性を備えた学生を育てることができるのか、語学教育、教養科目の体系的な整備が前提条件になった。そのために、教員と学生の間に立ってニーズをマッチングさせ、教育・学習をファシリテートする教育学習活動支援センター(CETL)を設け、文科省のGPを継続活用する中で教育改革が進められた。私が学部長補佐の時代、三百数十名の初年次教育を必修化する際、自律的な学習者育成に効果がある安永先生のLTDワークショップに参加した。

2.LTDの目標と授業の流れ

 LTDの目標は、学生個人の主体的な学習態度の形成を促し、学習内容の理解を深めることとしている。教員が一方向で話す授業を自己抑制する学習法で、学生への信頼を重視している。授業の流れは、15回の授業の中で2〜3回、話し合い学習法をとり入れる。教員が討論の材料を選定し、1週間又は2週間前に教材を提示して学生による論材の読込みを行わせ、それぞれ予習ノートを作成させた上で、3人から5人のグループで予習した内容について話し合いを行い、グループで学習成果をまとめさせる。授業で理解できていない共通の問題があれば、次の授業で教員が説明し、理解の共有を図り、フィードバックする。学習の評価を学生、教員で行い、改善を図る。

3.LTD授業の事前準備

 まず、学生にLTD授業の基本姿勢として「グループへの貢献」を理解させ、各自予習ノートの作成を徹底する。予習ノートが不完全やできなかった場合は、積極的に傾聴させる。事前準備で重要なことは、教員がどのような論材を選ぶかがポイント。教科書やジャーナル雑誌の一章や、論説、新聞などを選択する。テーマは、専門的、普遍的な問題との関連性、主張・結論が明確で興味深いものを選択する。

4.予習ノートの作成と準備

 ステップ1は、課題を読ませる。ステップ2は、不確かな言葉など語彙調べを行わせ、意味を理解させる。ステップ3は、著者の中心的な主張を自分の言葉で書かせる。理解度がここに現われる。ステップ4は、著者の主張を裏付ける話題を見つけさせる。統計的事実、歴史、権威の論文の引用などトピックを三つ選ばせ、主張の証拠と足り得るかどうか、関連する疑問があれば書き出させる。ステップ5は、既存の知識と新しく得た知識との比較をさせることで、知識との関連付けを通じて理解を深める。ステップ6は、知識の自己への関連付け・適用を通じて価値付ける。ステップ7は、こうすればもっと説得力があるや、反対意見との比較でいくとどうも主張が不十分であるなど、著者の主張を評価する。以上を予習ノートにまとめ、リハーサルを行いミーティングに備えさせる。

5.LTDの実施

 60分の経済関連科目のLTDを紹介。授業当日150名の学生を3名から5名単位で学生の協力を得てグループ化する。LTD記録紙を配り、お互い自己紹介しながら、ステップ1で予習の有無など確認し、ウォーミングアップする。ステップ2で調べてきた語彙・用語を確認。ステップ3で著者の主張を自分の言葉でノートを見ながら発表。ステップ4で主張をサポートする事実・話題の検討。ステップ5で新知識との整理・比較。ステップ6で批判的な吟味、振り返りという形で議論が進められる。

6.学習時間と評価

 ある学部の1年生の基礎ゼミで新聞記事の論材をディスカッションする実験をしたところ、平均3〜4時間勉強してくる。LTDを8時間した学生が12人中2人もいた。別のゼミでも4時間勉強している。LTDが注目されたのは、学習時間が見えるということ。また、予習することでお互いに知識を交換し合い、教える人、学ぶ人という関係が成り立つ。教員は授業をモニタリングするだけ。沈黙のグループもあるが、沈黙をどうやってブレイクするかも彼らの力であえて放っておく。予習してこなかった学生は、予習してきた学生にものすごい刺激を受ける。

7.LTDの効果

 一つには、テキストを読み込むという基本的な学習スキルを習得する。二つは、予習という個別学習の習慣化を可能にする。三つは、新しく得た知識の定着と批判的思考能力を養う。四つは、新たに得た知識を自身の生活や経験に適用する作業を通じて知識の価値を確かめ、批判的評価を涵養する。五つは、共通の話題・テキストに対する多様な視点や考え方を学ぶ。ある学生がここが大事だと言われて自分の視点の狭さに気付くことで、多角的な視点を得ることができる。六つは、コミュニケーション力、論理構成力、説得力が身につく。七つは、他者に対する尊重の姿勢を涵養する。

8.LTDの課題

 一つは、話し合いのステップについて簡易な話し合いができるよう工夫する必要がある。二つは、学問分野の専門性、クラス規模の中でLTDに期待している効果、位置付け等により、実施形態を変える工夫も必要。三つは、学生の取り組みと成果をいかにして正当に成績評価に反映させるか。予習ノートで評価するが、ディスカッションしないでノート作りをする学生もいる。仲間の評価を入れるというのは一つの方法かもしれないが、日本的文化に合わないような気がする。

全体討議

「大学教育の質的転換を図る主体的な学修の実現を考える」

 座長の向殿会長より、主体的な課題を踏まえて、取り組むべき戦略等について理解を深めるため、まず事例報告を行う旨の説明があり、「教育課程体系化のための方策」、「学修時間確保に向けた授業科目数の調整」、「学習支援システムを用いた事前・事後学修の対策」について、概ね以下の紹介があった。

【取組紹介1】

「教育課程体系化のための方策」

 最初に国際基督教大学学長の日比谷潤子氏より、概ね次のような説明があった。
 ICUの開学は1953年に日米のキリスト教会の関係者が集まって作った大学で、当初から統制モデルを念頭に置いて、教育プログラム中心の大学を考えてきた。3学科を持つ教養学部としてスタートし、その後、6学科となったが、2008年から学科を統合して1学年620人のアーツ・サイエンス学科とした。大学院も2010年度から四つの研究科を統合し、アーツ・サイエンス研究科としている。学生数は全体で3千人程度に対して、専任教員は145人となっている。

1.大学の教育理念と目標

 「国際的社会人の教養をもって、神と人とに奉仕する有為の人材を養成し、もって恒久平和の確立に資すること」という建学の理念が現在のディプロマポリシーとなっている。具体的な到達目標は、図の通り五つのことができる能力を身につけた学生に学士(教養)を授与している。今日のトピックに最も関係があるのは多分1番の主体的に計画を立て創造的に学んでいく能力かと思う。

2.アーツ・サイエンス学科の学び

 1、2年生の間は世界の人と対話できる言語運用能力を実現するために、初年次教育として「リベラル・アーツ英語プログラム」でリサーチの仕方、論文の書き方、プレゼンテーションの仕方などを英語で学ぶ。2年の終わりにメジャーと呼んでいる専修分野を決めるため、それに向けて一般教育科目を履修し、様々な知の世界に触れて探索的な学びを行う。同時に専門のメジャーの基礎科目が30程あるので、自分に適しているか履修を通して確認していく。メジャー制度の最大の狙いは、さまざまな知の世界に触れ、自分が学びたいものを見つけることを期待している。

3.科目番号制(ナンバリング)

 3学期制をとっており、4年間に12回の履修登録がある。学生が主体的かつ計画性を持った履修プランを立てられるよう、科目内容が一目瞭然となるよう科目番号制度、いわゆるナンバリングを設けている。0番台の科目は学部の共通科目で一般教育、保健体育、語学の科目などが入る。100番台の科目は専修分野の基礎科目と全学共通初級科目。200番台は専修分野の中級レベルの科目と外国語の中級レベル。上級科目が300番台、全員必修の卒業研究は391番、400番〜500番台の授業は大学院の開講科目の中で学部高学年の学生が教員の許可を得て履修できる科目。ナンバリングの一例として、言語学の音韻論は「LNG214音韻論」としている。LNGはlinguisticsの略でアルファベット3文字が必ず頭について分野を示す。200番台なので中級、履修するためには、100番台の科目を二つは履修していなくてはいけないことが理解できる仕組みになっている。

4.キャップ制

 1学期に受講する標準の単位数は13単位までとなっている。単位を取りすぎてしまうと予習、する時間がなくなり学修できなくなることから、履修科目の数を押さえるためにキャップ制を設けている。ただし、アドバイザーの許可があれば18単位まで可能で、さらに累積のGPAが3.4以上の成績が良い場合には18単位以上が可能。無理な履修をすると成績が下がる。GPAが下がる状態が続くと除籍になる。科目の数を押えて集中的に履修させることが極めて重要で、1週間に一度の90分授業は本当に意味がない。学期完結型で週に複数回授業を開講することで、教員も集中して担当することが重要。

5.アドバイザー制度

 個々の学生が自らの問題意識・関心に応じて主体的に物事を考えることのできる自己形成を期待して、どのような履修計画を立てればよいのか保証する制度として、学生一人ひとりに教員のアドバイザーがつく。最低でも各学期最初の履修登録の日に面接して、学期の成績、累積GPAの推移などを見て、学生支援の指導をしている。その他修学上・生活上の諸問題への対応、奨学金や留学、進学の際の推薦状書きも役目の一つで、1週間に2コマ分、オフィアワーを設けている。

6.GPA制度

 GPA制度で非常に重要なことは、試験を受けないなど科目の放棄を許さないこと。最終試験を受けない場合、0点になるのでGPAが下がる。3学期連続、もしくは通算4学期間で1.0未満となった場合は除籍となる。12単位以上登録して全て単位を修得し、GPAが3.7以上の場合には、Dean's Listという顕彰制度があり、これは海外大学院への推薦状などでも触れている。

7.学修時間と学生の学修支援

 教室授業以外の学修時間の例として、授業効果調査の結果から、一週間で6時間以上勉強したという人が12.5%、4時間から6時間20.8%、2時間から3時間43パーセントいる。また、自分の人生の目標を考えるきっかけを作れるよう、ICUfolioというポータルサイトを設けている。入学直前にどういう分野になぜ進みたいか、大学で何をしたいか、エッセイを1年生から4年生の終りにかけ通算5回書かせる。

【取組紹介2】

「学修時間確保に向けた授業科目数の調整」

 中央学院大学学長の椎名市郎氏より、教育マネジメントの観点から、教員連携による科目調整に取り組んでいる実例について、概ね次のような説明があった。
 科目数の調整は少なくとも五つある。一つは、経済学など14、15科目あるので系統別に整理したい。二つは、グループティーチングによって科目を統廃合すれば教員の負担軽減ができる。三つは、半期で法学部商学部が100コマ以上と非常に多いので、学生のために全体の科目数を削減したい。四つは、他大学や他機関との単位互換による調整。五つは、減らすだけではなく必要があれば新設科目を設ける。
 科目数を調整する上での問題点として、一つは、教授会のカリキュラム編成権や担当教員の意識が調整の障害となる。二つは、自分が担当する科目に影響を及ぼすため、教員同士の相互牽制が働き調整を難しくする。三つは、専任教員組合への法人の対応で、1年間の非常勤教員を5年間雇用すると定年まで身分保証する有期労働契約法が国会で決まったことから、科目数の削減・統合などへの対応を調整するのか難しくなる。四つは、事務職員の仕事量の増大がある。五つは、保護者の意識や大学のドロップアウトなどの環境調整がある。
 そこで、本学は理事長が第二期の財政安定化協議会を立ち上げた。五つの部会からなる協議会の一つに、学長、学部長を中心とした「大学カリキュラム改編部会」を作った。大学46年の歴史の中で初めての試みであった。
 理事長から大学改革の趣旨を十分反映したカリキュラム改編とコア科目以外の科目削減の提案が行われた。これらの検討を加速するために学部長、各学部を支えている中堅の人、未来を支える若手20数人によるワーキンググループを編成し、調整が動き出した。例えば、商学部では10科目くらい会計科目を会計学原理、中級会計学、上級会計学として、グループティーチングにしてまとめられないか。そのかわり、それぞれに「演習・ケーススタディ」という学生が参加できる新しい科目を教員の教育力により作る提案を学長から行い、その結果、10科目を6科目に調整することにした。法学部はいち早く6月6日に11科目の廃止を決めた。統合科目が5科目、名称変更の科目が4科目、廃止に向けて検討中4科目、全体で140科目中25科目を検討している。

 法人がカリキュラムの問題に関与することが重要で、調整を通じて教員サイドはよいFDになっているのではないか。学士力の基礎を学生に身に付けるために、大学院にないような科目はどんどん削減する。基礎で重要な科目は週2回でも3回でもできるようにし、学生が参加できる授業科目の調整を通じて教員の意識改革をしたい。
 リーダーシップを発揮すると言えば簡単だが、トップダウンはモチベーションどころの話ではなくなる。附属高校の教諭や大学の職員からもカリキュラムなどの要望が出ている。理事長・学長は、教職員、附属校も含めて一体となって、学生のために最良の教育の実現に向けて対応していくのが、真のガバナンスではないかと思っている。

【取組紹介3】

「学習支援システムを用いた事前・事後学修の対策」

 創価大学教授の高木 功氏より、学習支援システムを活用した学修活動への取り組み等の事例について、概ね次のような説明があった。
 経済学部での学習支援ポータルシステム(PLAS)の活用による教育・学修活動の改善として、例えば、NPOの協力を得てオムニバスで毎回講師が変わり、レポート、課題、アンケートをポータルシステム上で提出させている。調べた課題はレポートボックスに提出させ、成績評価の基準にする。また、授業アンケートも毎回、私が総括して学生の感想・意見を掲載し、学生と教員のコミュニケーションの実現、クラスの成員間の問題意識、知識の共有を可能にしている。
 次に、共通科目ラーニング・アウトカムの設定による質保証と学習指導に活用している。共通科目の理念である「自立的学修者となること」、「多文化共生力の育成」、「真の教養を身につけること」、を具体的なラーニングアウトカムズとして、八つの能力を各科目に落とし込んで共通科目の教員に八つの力のどれに焦点を当てているのか。授業を受ければどのような力がつくのか、学生に知らせることで学修の動機付けを図っている。

 さらに、経済学部では論理的思考力、数量的分析力、課題設定力、創造的思考力、言語表現力、討議推進力、自己育成力、対人基礎力、環境変革力、目標達成力の10の就業力について専門科目の教員に科目をとるとどのような力がつくのかをカリキュラムチェック・リストとして丸印をつけて学士力の指導に活用している。これにより、学生は身に付けたい10の就業力のマイマップを作成し、その上で教員のアドバイザー制の支援を受けて学生に適した履修科目の指導を行っている。

カリキュラム・チェックリストによる履修指導

【参加者との主な意見交流】

[質問]
科目の番号制を付ける場合の難しい点はどういうところにあるのか。
[回答:日比谷]
  はじめに番号ありきではなくて、最初にカリキュラムがしっかり編成されていることが重要で、その上で10の位、1の位にどのような意味を持たせるかが結構厄介。
 
[質問]
金子先生から教員はTAを使っていない話をされたと思うが、本来TAというのはどういうふうに活用すべきなのか。
[回答:金子]
  例えば、規模の大きい授業では、学生は主体的な参加が難しいので、グループに分けTAが色々な質問に答えたり、あるいは 週に1回目は大きなクラス、2回目には復習のTAが中心に補習するなど、構造的なTAの活用が必要となる。それには、授業自体が構造化され、ある程度標準化されているということが必要。日本の大学教員は今までのところはやっていない。
 
[質問]
教育改革を進める上で教員の負担が非常に大きくなるので、それを回復するのが難しい。仕組みとしてうまくいっていないところで、どうやって仕組み化していくのか。関連して高木先生の報告で学修支援システムなど先進的な使い方をされているが、教員がついてこない。どうやって教員に活用させるように行っているのか。
[回答:高木]
  ポータルサイトを本当に活用する教員は少ない。ただし、若手教員は積極的なので、若手教員から始めていくしかない。それが次第にマジョリティにつながってくると思う。
[回答:金子]
  講義でも自分が好きなことばかりしている先生も確かにある。カリキュラムをもう少し広い目で見直そうという立場の中で、話し合ってみればある程度気がつくところもあると思うし、それがリーダーシップの役割と思う。
[回答:日比谷]
  若い教員は7、8人で集まり、今学期の授業について相互に公表し合い、自主的に教育方法、TAの使い方などの研究をしている例もあり、これからはずっと良くなるのではないかと思う。
 
[質問]
大学の授業における効率化というのは、いったいどういう観点から考えればいいのだろうか。
[回答:金子]
  今、問題になっているのは、より高い水準の教育をいかに達成していくのか。資源は限られている。今まで日本の大学がかけているコストは、アメリカと比べれば低いが、国際的に見ても高い水準にある。学生一人当りの教員数も劇的な差があるものではない。学生が学修していなのは、教育を作る教員の努力でもあるが、学生が学修に時間を使用していないと学修の効果も作れない。学修させることで効果が上がるわけで、一種の効率性の問題。個々の授業では準備にも時間を使わない薄い授業が多いが効率的なのか。それとも授業の数を制限して時間を集中的に使う方が効率的なのか。そういう意味で効率性は非常に重要な概念で十分に考えるべき問題であると思う。
 もう一つの問題として、大学の改革に学生がどのように応え、どのような生活をし、どのような学修行動をしているか、それをどのように測り、分析するか、議論されていないが重要な問題だと思う。少なくとも学生がどういう行動をしているか、さらにどういう能力を発揮しているかを把握することが非常に重要。いずれにしても、どういう結果を教育が与えるかということをアセスメントする姿勢は非常に重要でその方法は大学において考えるべきだ。それから学生がどういう行動しているか、大学間で比較をすることは非常に重要。自分の大学のどこに問題があるのか、発見する上で非常に重要。
 
[質問]
学生が主体的に学ぶということを考えたときに1週間に1回の授業をできれば改善したいし、科目数を激減させたいが、そう簡単にいかない。何のために大学にきているのか、モチベーションが低い学生がかなり増えている。ここをまず変えないことには、カリキュラムを変えても、あるいはコマ数が減ってもなかなかうまくいかないではないかということで、そこを何とかしようとしている。何か工夫されているところがあるのか。
[回答:日比谷]
  ICUfolioは、ICUに入ることを決めた後に4年間、どのように学んでいくか計画するプロセスを支援するツールだが、4年間だけでなく、その先を見越して何を勉強し、どういう将来を描いているかエッセイを書かせる。入学する前、1年間授業をとった後、2年、3年、4年の終りの節目に振り返って自分でよく考えて文章化させる。どうして変わったかを書いてくる学生だけでなく、このようなのでは駄目だという学生もいる。駄目な学生をどのように導いていくかはアドバイザーの仕事で、担当する学生のページにアクセス権を持って、サイト上でコメント機能を用いて導くこともできる。例えば、卒業研究に入ると、夏休みに卒研合宿の際に全員がそれまで書いたエッセイ全部もってくるようにして、ここの研究室に何故きているのか、その経緯を皆で思案させたりする教員もいる。一方で何も見ていないのではないかという教員もいるので、それこそガバナンスの問題で学生に対する動機付けをしっかり対応させれば役立てられると思う。
 
[質問]
LTDのディスカッションでは、やる気のなさそうな学生が入ってきても、やる気を起こさせるのに役立つのか。
[回答:高木]
  万能薬はない。一つの小道具として使えると思う。短い新聞の社説でも読ませてディスカッションするだけでも、きっかけを作れる。また、「あなたにとってグローバル人材って何ですか」といった課題について1週間後に回答を持ってこさせる。自分で図でも文章でもよい、マップを作らせてそれをディスカッションさせ、そこから授業への参加を仕掛けることが大事。
[回答:金子]
  基本的には授業の実践の仕方も相当響くことが調査で分かった。第一の小テストや出席の確認は効果がない。学生の自主的な学修時間を抑制する場合がある。第二の誘導型の授業は、学生の理解度を確認し、学修することがどういう意味があるのかを分りやすく説明する。これは学生の学修時間を増し、効果がある。もっとも効果があるのは参加型の授業だ。ディスカッションに参加させることも重要だが、学生が書いてきたものに、学生が考えたことに応えて教員の意見を入れて返すことが非常に有効。無気力型の学生というのは何がやりたいのか分からないし、自分はこの大学が指導してくれることと自分は関係ないと思っている学生に、非常に効果がある。授業プラクティスは非常に重要なエレメント。1年生、2年生の学生は相当流動的なので、どのように育てる体制をとっていくかも多分重要だろうと思うが、複合的に色々を考えなければいけない。一般的にこれでいいと言うのではなく、教員自らが発見するものだと思う。
[回答:椎名]
  ガバナンスの観点から言うと、やはり入試だと思う。入試であまり同じ層をとらないことを伝統的にしている。いつも足切り点の上だけを入れてしまうと、ドロップアウトしたり、同じ学生だけが来てしまう。スポーツの選手なども積極的に入れていく。教授会は嫌がると思うが、このような学生も入学していることでドロップアウトも防げるだろうし、選手等は毎時間一番前に座るように監督が指示するので、他の学生が見れば一生懸命やっているのではないか。不可をとると寮から追い出されるなど、相当厳しくしている。私どもの大学だけではないとは思うが、多様性は非常に重要だと思う。

【問題整理:金子】

 質問も大変面白くて、多くの大学で様々な工夫、動きがされているなと思われた。ただ、リーダーの先生が考えていることと、一般の大学の先生の意識との間にまだ相当開きがある。ここのところをどのように摺り合わせて調整していくのかが非常に重要。その際に学生の実態、何が現実に起こっているのかを把握し、先生の間で知ってもらうということは非常に意味がある。
 最後に、自律的な学修というのは何となくよいように聞こえるが、なぜ今の時代必要なのかということを先生の間でディスカッションしないと本当の信念が出てこない。これからの日本にはかなりクリティカルに若い人に重要になってくると思うので、各大学のビジネスとして一生懸命考えなければいけないことではないかと思う。

【総括】

 次いで向殿座長から、ディスカッションのまとめが述べられ、以下のことが確認された。
 一つは、教学ガバナンスのリーダーシップを発揮して、全学による合意形成の工夫が非常に重要。
 二つは、学生の主体性を育むためには、教員の意識形成を強化する必要がある。
 三つは、教員一人でする授業からチーム・ティーチング、教員の連携によって授業を運営するという方向にやはりいくべきではないか。
 四つは、教学ガバナンスが教授会と連携してカリキュラム改編、科目の調整に関与することが不可欠となる。
 五つは、事前・事後学修を習慣化するためには、グループ学修やLTDなど対話型の指導法をFDを通じて普及していく必要がある。
 六つは、私情協としてICTを活用は、事前・事後学修、学修意欲の喚起、個別指導にかなり有効である。

関連情報提供

1.5年先を目指した授業改善モデルの研究経過

 本協会では、平成24年11月下旬に6年間研究してきた。学士力、5年先の教育改善モデル、改善モデルを実現するために求められる教員の教育力、ガバナンスとして配慮すべき課題などをとりまとめ上梓する予定にしている。特に、31の学門分野に亘り、学士力の一部を実現する教育改善モデルのアイディアが出されている。例えば、基礎・基本の理解が定着せず、応用・発展に活用できない。基礎の先生方も所定の授業期間が終わると授業しないことになっているが、授業期間終了後でも基礎力が身につくよう、学内LAN上の学修支援サイトで基礎の先生と応用の先生が連携して卒業までにフォローアップすることを提案している。
 また、達成感、主体性を持たせられるよう、グループによる学び合いを学修支援システム上で積極化する他、学修成果を学内・内外に発表し、学外からの講評を受けて振り返りを繰り返す中で、社会への関与を体験させる工夫を仕組みとして取り入れることが欠かせないとしている。

2.私立大学における情報環境整備・利用の点検・評価

 3年ごとに教育の環境整備の状況を点検・整備するために調査した結果の一部が紹介された。
 主体的な学修を支援する学修支援システムとして、ラーニング・マネージメント・システムがあるが、現状では大学の6割が使用している。3年先では7割程度になる傾向にある。使用の傾向としてはeポートフォリオとして、学生による学修の自己点検のツールが増えていく。
 それから、FD支援の点検で教員による授業改善計画の実施をたずねたところ、3割の大学実施しており、ガバナンスとして活用していることが分った。例えば、各教員が半期に一度「授業報告書」を作成し、学科単位で授業改善策を検討し、学部でそれらの結果を共有することによって、各教員の授業改善への努力と取り組むべき課題を明らかにするなどの取り組みがある。
 開講科目でのICTの活用状況は、大学全体で25.0%から37.7%に改善している。開講科目の7割以上活用の大学が31%、5割から7割が16%となっており、普及してきている。
 教育情報の公表の取り組みについては、積極派と消極派が相半ばしている。積極派の大学では、情報公表の内容を分かりやすくするために、音声や映像を入れたり、3回クリックして教育情報に到達するように工夫するとしている。教育情報に外部からの質問・意見の取り入れでは、インタラクティブに考えている大学は2割で、ほとんど未着手。エビデンスをしっかりとらえて教育情報を分析しようとしている大学は、3割で教育情報の構築体制の整備が今後の課題であることが明確になった。

3.平成23年度における教育への情報化投資の実態

 平成23年度の決算による教育研究部門での大学全体の情報化投資額は、前年度に比べ7.7%の増、短期大学ではマイナスの12.1%の減となっている。Aの大規模校は16.8%の減、社会科学系単科大学のFと人文科学系単科大学のGも1割から2割減となっている。特に、減額している大学は前年度に自前の環境を購入してきた学校で、平成23年度はクラウドに移行したことによる。平均で16%減額していることがわかった。それ以外の大学では、入学定員2千人未満で自然科学の学部を持つCの大学は25%の増となっている。
 投資額の規模を学生総定員で割り算して学生一人当たりの状況をみると、大規模大学は一人当り7万円程度、医歯薬系大学のHはだいたい10万円程度となっている。比較的投資額が少ないのはFやGの文系単科大学となっている。

大学規模別 教育研究部門の情報投資額

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