特集 地域連携による教育の取り組み
大学では「地域のための大学」として地域再生や活性化に取り組んだ教育が行われている。文部科学省でも平成25年度「地(知)の拠点整備事業(大学COC事業)」により、地域を志向した教育・研究・社会貢献を進める大学を支援する取り組みがなされている。地域との交流を通じて、地域の課題認識、活性化に向けた立案づくりから実施までを試行錯誤しながら行うことで、学生の主体的な学びを育む新しい教育として、今後さらに取り組みが盛んになると思われる。
そのような中で、本特集では地域と連携した教育に取り組んでいる大学から、実施の目的、内容、今後の課題・予定等を紹介していただくことにした。
水野 晶夫(名古屋学院大学 経済学部教授)
名古屋学院大学では、2000年度の経済学部政策学科(現総合政策学科)の創設をきっかけに、商店街活性化をはじめとする地域連携活動を推進してきました。活動の中心には、学生サークルが運営するコミュニティカフェ「マイルポスト」があり、その活動と連携するPBL(Project-Based Learning)型のいくつかの授業科目が開講されています。
大学における学生による地域連携活動には二つの目的があります。一つは、活動を通じて学生が実践力をつけること、もう一つは、学生を育ててもらうだけでなく、地域から評価していただけるような地域貢献をし、恩返しをすることです。
講義室での授業では、知識や理論を学ぶことができますが、現実の社会問題と向き合ったときに、実際にどう解決していくべきかを教えてはくれません。現実の社会では、あらかじめ答えが用意されているわけでもなく、自分たちで答えを探していかなければなりません。調査や分析、そして地域の方々からのアドバイスなどを受け、試行錯誤しながら、学生たちは問題解決に近付いていきます。そして、そのプロセスや成功体験を通じて、実践力を向上させます。
他方、学生たちのバイタリティーや感性は、地域になかった新しい力となって、問題解決とともに活性化に大きく貢献することもあります。ともすると、地域は予定調和的な停滞傾向に陥り、活力を失う方向に進みがちになります。その中で、若い世代が新しいアイデアで、ボランタリーに地域貢献活動をすることが、その停滞傾向を打破し、また学生たちの健気で真摯な態度は、地域の大人たちへのエンパワーメントにもつながります。
大学そして教職員は、地域とのつなぎ役となり、こうした学生たちに寄り添い、実践力向上や地域の活性化へと導き、成果を出す大事な役割を担っています。
以下では、学生による地域活性化のメカニズムと教育的成果、そしてそれらを支えている大学システム、最後に指導上の留意事項について説明します。
名古屋学院大学の愛知県瀬戸市での商店街活性化活動(2001年から2006年まで)では、シャッター通りであった地域商店街(銀座通り商店街)に人通りが復活、空き店舗も埋まり、学生による商店街活性化の成功事例として全国から数多く視察団体が訪れるようになりました。そして2006年には、商店街と大学との連携事業が評価され、全国1万を超える商店街の中から、経済産業省「がんばる商店街77選」に選定されるまでになりました。
名古屋市熱田区での活動(2007年から現在)でも、地元の日比野商店街での活性化事業による商店街組合員の倍増などの成果が評価され、2010年には「愛知県活性化モデル商店街」に認定されました。また、2013年3月に発刊された全国商店街振興組合連合会『商店街の可能性を目指して』の中で、10の活性商店街事例が掲載されており、当該商店街が「商学連携」のモデル事例として紹介されています。
こうした成果を実績に、2007年度には、文部科学省「現代的教育ニーズ取組支援プログラム(現代GP)」、2013年度には、「地(知)の拠点整備事業(大学COC事業)」の採択を受けました。
商店街を視察に来られる団体から「なぜ学生が商店街を活性化できたのか」という質問をいただくことが少なからずあります。その多くは「学生にそんなことができるはずはない」というような懐疑的な質問でもあります。こうした質問に対して私は次のように説明しています。
「数多くの新聞、テレビ等のマスメディアへの露出、いわゆるパブリシティが活性化への『期待』を地域に浸透させ、それによって商店街にバンドワゴン効果(1)を呼び起こしたことが、この結果を導いた最大の要因です。」
瀬戸では、2002年のコミュニティカフェ「マイルポスト」のオープン時には、地元の主要な新聞社およびテレビ局からの取材を受け、瀬戸はもちろん、名古屋圏にまでその情報は発信されました。こうしたパブリシティにより、地元の人々はもちろん多くの観光客の方々を商店街は迎えることになりました。
名古屋学院大学の学生による地域連携事業には、社会問題をビジネスによって解決を図るソーシャルビジネスをコア事業に位置付けています。ここでは、PBL型授業などを通じて毎年新しいメンバーといっしょに、社会性・新規性のある事業を目指しているため、結果的にそれが次々とマスメディアに取り上げられ、これらもパブリシティとなっていきました。また、学生という若さや期待、そして商店街とは異質の存在だけにその面白さも加わり、これらのパブリシティは徐々に地域に活性化への「期待」醸成につながっていきました。
また、商店街店舗の中には、イートイン設備(2)を導入する店舗や飲食店に業態を変える店舗まで現れるようになりました。活性化活動が始まる前は飲食店でさえも閉店の憂き目にあう状況でしたが、マスメディアが大々的に報じるようになると、商店街を中心に次々と飲食店舗などが空き店舗などに新規オープンし始め、2004年頃には活動前の倍以上の飲食店が軒を並べるまでになりました。
さらに、学生たちの活動に刺激を受けた商店街では、新規イベントや「一店逸品活動」など様々な事業も推進していきました。このようにして活性化への「期待」は、新規出店ラッシュや来客者数の増加を生み出しました。
このように、学生のバイタリティーや社会性および新規性のある様々なプロジェクト、そしてそれに呼応する形で生まれる商店街の活動が実体経済に好影響を与えるとともに、数多くのパブリシティが地域活性化への「期待」醸成となり、それがバンドワゴン効果につながっていくのです。
名古屋学院大学の現代GP「『地域創成プログラム』の実践」(2007〜2009)では、「地域を理解し、共生・創造できる市民」を目標とすべき人物像として掲げました。そして、PBL型授業や社会貢献型サークル活動を通して「社会人基礎力」の向上を目指しました。
この現代GPでのPBL型授業とは、経済学部「地域活性化研究」で、通年4単位を基本としながら、リーダー格の学生は翌年度さらに同授業に4単位で参画できるスパイラル型方式を取り入れています。これにより事業の継続性・発展性を担保にしながら、より社会人基礎力を育成できるようになっています。複数の異なるプログラムが開講されており、合計で年間50名前後の学生が履修しています。これらの単位は卒業単位数にカウントされます。
他方、コミュニティカフェ「マイルポスト」を運営しながら商店街活性化をミッションとする社会貢献型サークルは、毎年30〜40人ほどの学生が所属しており、地域連携センターのサポートを受けながら、学生主体での活動を行っており、活動を通じて社会人基礎力を育んでいます。こちらは単位プログラムとして位置づけられていません。
社会人基礎力とは、考え抜く力(シンキング)、チームワークで働く力(チームワーク)、前に踏み出す力(アクション)の三つの能力から構成されており、「職場や地域社会で多様な人々と仕事をしていくために必要な基礎的な力」として、経済産業省が2006年から提唱している概念です。
図1 学生の活躍による商店街活性化の法則
図2 社会人基礎力アンケート(社会貢献型サークル)
図3 社会人基礎力アンケート(PBL型授業)
ここでは、考え抜く力について「問題解決力」「企画力」、チームワークで働く力について「思いやり・助け合うことの大切さ」「コミュニケーション能力」、前に踏み出す力について「実行力・行動力」「社会への関心」を代理変数にして、活動を通じて何を学んだかを調査しました(2009年度実施)。
社会貢献型サークルでは、「思いやり・助け合うことの大切さが非常に高まった」との回答が多く、主体的な活動の良さがチームワーク力を高める形として表れたと言えます(図2)。
一方、PBL型授業では、座学で学んだことを実践し、活動後、丁寧に振り返りを行っているので、社会への関心が高くなっています(図3)。また、「コミュニケーション力が高まった」と答える学生が多く、これはプレゼン等説明する機会が多いためと思われます。
「地域が学生を育て、学生が地域を元気にする」地域連携活動を行うためには、実践教育と地域活性化が両立できるような体制作りが大切です。一教員の個人プレーでは成果を出すことは容易ではありません。
そこで以下の四つの課題を解決することで、それを実現させる仕組みづくりを行いました。
課外活動(社会貢献型サークル)は、正規の教育カリキュラムではなく、ゼミナールでの活動も教員個人の活動と見なされがちです。そこで、課外活動での学生の主体性を維持しながら、カリキュラム内のPBL型授業との連携・協力する形態を取ることによって、地域連携活動は、大学の特色ある教育プログラムとして位置づけることができるとともに、地域活性化への成果を出す形になりました。
名古屋学院大学には以前は、公開講座を担うエクステンションセンターが地域連携事業を担ってきましたが、公開講座以外の職務分掌はありませんでした。そこで、2007年度の名古屋キャンパス開設を契機に、地域連携活動を包括的組織的に推進していくために、地域連携センターを開設しました。
地域連携活動を大学として行う上での大義名分、つまり地域連携協定を締結するため、2006年の秋頃から、名古屋市市民経済局に打診し、2007年10月に締結に至りました。
また、同時に、「連携協議会」も設け、行政等との顔の見える関係を維持しつつも、組織体組織の関係、持続可能なシステムを構築しました。
名古屋学院大学と名古屋市との連携協力に関する協定
趣旨:
名古屋市と本学のパートナーシップのもと、地域のさまざまな課題に取りくむことによって魅力ある地域づくりを進めることをめざし協定を結びます。協定締結日:
2007年10月1日(月)協力する事項:
・商店街の振興
・観光の推進
・まちづくり など
情報の交換や人の交流、事業の実施により連携協力していきます。推進体制:
連携協力の方針や事業について協議する「連携協議会」を、名古屋市と本学地域連携センターで組織します。当面の取組:
・熱田区商店街の活性化
・堀川や熱田区の歴史的魅力を生かした地域の活性化
名古屋市との地域連携協定は、あくまでも継続的な事業推進、組織体組織の関係構築のためであり、予算を名古屋市から求めるものではありません。そこで、文部科学省の補助事業に予算を求め、2007年度には、文部科学省「現代的教育ニーズ取組支援プログラム(現代GP)」、2013年度には、「地(知)の拠点整備事業(大学COC事業)」の採択を受けました。これらは、予算獲得はもちろん、先の「大義名分」としても威力を発揮し、学内における事業推進体制の確立に寄与しました。
最後に、学生による地域連携活動を行う上でのいくつか留意事項について述べます。
商店街活性化の法則があったとしても、その理解が学生の参画意欲には反映されるとは限りませんし、方法論だけでは、利用されていると思う学生もいるかもしれません。なぜこの活動を行うのか、それが自分にとってどのような意味があるのか、を考える機会を持つことが大事だと思っています。
学生も地域も成功体験が実践力や活性化の源になります。振り返り時には頑張った学生を褒め、地域からの評価もできるだけ学生に直接伝えてもらいます。またパブリシティの結果は、社会的評価を得た達成感とともに、大学の他の教員や家族からも褒めてもらえます。それらは自信となり、そしてそれが社会人基礎力における「前に踏み出す力」の糧となります。
学生は、地域の要請に何でも応える無償便利屋ではなく、また地域も、一方的な学生の学びの場でもありません。両者にとってメリットのあるWin-Winな関係を維持しながら、活動の成果を通じて信頼関係を構築していくことが大切です。
誰でも失敗はしますし、新しいことにチャレンジすることに失敗はつきものです。チャレンジしたことを褒めて、失敗は指導者の責任と考えるようにします。
当たり前かもしれませんが、ある一定の枠組みのもとで、学生の主体性を尊重します。大学の都合や教員のやりたいようにやる場合は、サービス・アシスタントの仕事として位置づけ、アルバイト代を支給し、学生を消費しないように心掛けています。
注 | |
(1) | バンドワゴン効果とは、受け入れられている、流行しているという情報が流れることで、さらに支持されること。「勝ち馬に乗る」現象のこと。 |
(2) | イートイン設備とは、飲食店で買った食料品をその店内で食べられる設備のこと。 |