事業活動報告No.4
情報系人材分野における産学連携事業を本格的に実施するため、本協会では過去4回実施した「産学連携人材ニーズ交流会」の意見、ニーズを踏まえて大学教員の現場研修の取り組みを平成24年度から開始した。本事業の目的は、「学生に学びの動機付けを行うための現場研修」、「キャリア形成支援の教育力向上に向けた現場研修」、「最新の現場情報・技術・技能等の振り返りの現場研修」の三つとしているが、平成24年度は、協力企業および参加教員のマッチングの結果を受けて、最新の現場情報の獲得に焦点を当てて実施した。以下に開催結果を報告する。
プログラム
9月6日(木)
セキュリティ概要・ウイルス対策(10:30〜12:00)
サイバースペースでの活動、サイバースペースでの個人特定等、最近の動向および最低限必要なウイルス対策、不正アクセスの種類、不正プログラムの侵入、感染の防御策の説明を学び意見交換する。
パスワード管理・Web閲覧の危険性・メールの危険性等(13:00〜17:00)
ID、パスワードの漏洩を防ぐ対策やPCの弱点からの侵入を防ぐ対策、フットプリンティング等について学び、Web閲覧やメールの危険性についてもシミュレーションの体験を通じ学び意見交換する。更にソフトウエアのアップデートを適宜実行することの重要性についても学ぶ。
9月7日(金)
外部からの攻撃・巧みな誘導(10:30〜12:00)
各種攻撃の解説、フィッシング、ファーミング等の巧みな誘導についての説明と実際に疑似体験を通じ理解を深め、対策などについて意見交換する。
ハードディスク管理・隠れた情報の存在(13:00〜16:30)
ハードディスクに残っている情報、情報を別ファイルに見せかける方法等について説明し、実施にコンピュータ上で疑似体験し、理解を深める。
質疑応答・意見交換(16:30〜17:00)
参加の大学教員と企業の技術者間で日常のPC管理を含め様々なセキュリティ関連について意見交換を行う。
時宜を得たテーマでもあったことから受講者の評価は高く、終了後のアンケートでは、「研修結果が授業改善に役立つ」、「この研修を他の教員にも紹介したい」が100%であった。また、研修の難易度についても100%が「十分理解できる内容」との回答であった。
現場情報や最新の技術動向の内容については「期待通り」と「ほぼ期待通り」の回答が86%であり、「期待通りでなかった」との意見には、「コマンド等について理解できる資料が欲しい」、「企業のセキュリテイ対策や問題点の動向を掘り下げて説明して欲しかった」等があった。
良かった点としては、「大学では実施できないネット攻撃の具体的事例を各人のパソコンで体験できたこと」、「ウイルス対策ソフト、クラッキング等の具体例や方法等が研修できたことは大学での実際の授業に役立てられる」等の意見が寄せられた。主な意見を以下に示す。
コンピュータセキュリティの基礎の研修
プログラム
9月11日(火)
組込システム概要(10:30〜12:00)
組込システムとは何か、開発環境、技術動向の最新情報について説明し、最新の組込システム開発についての理解を深める。
組込システム開発工程(13:00〜14:30)
組込とアプリケーションとの違い、V字工程、設計と検証、システム方式設計、ソフトウエア方式設計、ソフトウエアコーディング、テスト、ソフトウエア結合テスト、ドキュメントまで一連の流れを研修し、全体像を掌握する。
組込システム開発演習I(14:30〜17:00)
グループに分かれ実際に演習を行い、結果を紙と鉛筆でまとめる。
9月12日(水)
組込システム開発演習II(10:30〜12:00)
電車シミュレータの要求仕様書作成の演習を体験する。
組込システム開発演習III(13:00〜16:00)
限られた提示条件の範囲からどのようにして具体的に要求仕様をまとめるか、システム化するまでのポイントをコミュニケーションしながらまとめる演習を行う。
成果発表(16:00〜16:30)
クライアントに対し、組込みシステム開発全体の採用に向けたプレゼンを実施する演習を行う。ここでは積算もシミュレーションし、よりビジネス社会に近いプレゼン方法を学ぶ。
質疑応答・感想(16:30〜17:00)
質疑応答および参加者が気付いたことや感想を発表する。
組込システム開発基礎は、夏季休暇前の参加募集で周知期間が短く、募集定員10名に対して3名の参加であり参加者募集の案内方法、周知期間を十分に確保することが今後の課題となった。
研修後のアンケートでは、研修結果が授業改善に役立つは3名、この研修を他の教員にも紹介したいが2名、研修の難易度は2名がやや難しいとの回答であった。
また、初めて学ぶ教員にとっては有益であったが、専門的な立場からはコーディング実習などを体験したい等の意見や企業現場の緊張感が体験できた、学問としての組み込みとビジネスとしての組み込み開発の違いが感じ取れた等の意見も寄せられた。主な意見を以下に示す。
技術動向説明 開発演習
プログラム
3月7日(木)
企業が求める人材についての意見交流(10:30〜12:00)
富士通株式会社の人材育成体系を紹介するとともに企業現場で考えている大学で身につけて欲しい基礎知識、能力等について意見交換・議論を行う。
ICT先進事例の紹介と技術者との意見交換I(13:00〜17:00)
(1)スパコン「京」で創る未来・夢
世界最高性能のスーパーコンピュータ「京」を用いたシミュレーションや開発アプリの現場情報を開発責任者から紹介、事例を用いて最新、最先端のICT技術の可能性と将来性について意見交換する。
(2)ビッグデータの活用「データをして語らしめる」
リアルタイムに時々刻々と生成される大量のデータから、いかに知見を見出しビジネス戦略に活かすか、情報システムの在り方を大きく変えるビッグデータの活用について最新の事例紹介と意見交換を行う。
(3)農業でのICT活用(農業クラウドなど)
農作物の生産状況やコスト構造の「見える化」により農業経営の効率化を図る、ICTを活用した農業経営支援等の最新のシステムの事例紹介と意見交換を行う。
研修終了後、参加者と企業関係者の交流会(18:00〜19:30)
3月8日(金)
医療分野の先進事例紹介と技術者との意見交換II(10:30〜12:00)
(1)医療分野でのICTの活用
健診やレセプトデータ等の健康情報を組み合わせ、将来の疾病リスクの予測等を紹介、バイタルデータを使った健康支援などについて開発現場の技術者から最新の技術を紹介し意見交換を行う。
富士通(株)新人との意見交換(13:00〜16:00)
入社3年〜5年の若手社員と「大学の学びが現在役に立っていること」、「大学で学んでおくべき点」等について意見交換を行い、新しいICTの使い方をワークショップ形式で実施する。
十分な周知期間を持って参加募集を行ったこともあり、参加者は定員通りの20名と好評であった。
研修後のアンケートでは、「研修の難易度は適切であり、この研修を他の教員にも紹介したい」が100%、「この研修結果が授業改善に役立つ」との回答が100%であった。また、研修の内容については100%が「研修は期待通りであった」との回答であった。
富士通株式会社の人材開発体系の紹介、新入社員に望まれる能力等については質疑も多く活発に意見交流が行われた。スーパーコンピュータ「京」で創る未来・夢では心臓シミュレーション(医療業界)や津波シミュレーション(自然界)などで幅広く活用されている事例紹介や、世界最速でなければならない背景も含め説明いただいた。また、ビッグデータの活用や農業でのICT活用事例、医療分野でのICT活用事例を説明いただき、ここでも数多い質疑や意見交換がなされ、ICTが果たす役割を再認識した。
また、若手社員との意見交流では、本音で大学時代にもっと学んでおくべきと考えていること、社会人になって気付いたことなどの本音の意見交換がなされ、参加者有志による夕食交流会には、参加者の70%強が参加し、「研修の現場とはまた違った情報交換ができた」との意見が多く寄せられた。参加者の満足度は高く、「今後も継続して欲しい」、「授業の現場で役立つことが多い」、「他の教員にも紹介したい」等の意見が多く寄せられた。主な意見を以下に紹介する。
先進事例の紹介や現場技術者との意見交換 富士通(株)の若手社員との
意見交換
※システムインテグレータ(SI)とは、主に大規模情報システム構築において、コンサルティングから設計、開発、運用・保守・管理までを一括請負する情報通信企業を意味する。
プログラム
3月14日(木)
システムインテグレータが支える社会システムの事例紹介(10:30〜11:30 )
具体的に情報システムが社会インフラとして役立っている「ANAインターネット予約システム」や「全国47都道府県警察本部のDNA型鑑定支援装置」等の事例を紹介し意見交換する。
システムインテグレータのプロジェクト事例と求められる人材像 (11:30〜12:30)
システムの構築に於ける失敗事例の紹介や原因分析を通して、SI企業が社員に求めるスキルとは何なのかについて紹介し意見交換する。
新卒採用基準と社員教育プログラム(13:30〜14:20)
新卒採用方針や選考基準等を紹介し、新卒研修や、階層別の教育プログラムの説明と意見交換を行う。
大学教育はSIの企業現場で役立っているのか(14:20〜15:30)
新卒社員、入社5年目の若手社員、管理職の3名がそれぞれの経験から、大学教育と企業現場の要求のギャップについて発表し意見交換を行う。営業部員(2012年新卒入社) 「入社前に考えていた企業現場と実際の企業現場のギャップ」、営業部員(2007年入社)「大学の学びで企業現場に役立ったものは何か」、営業部長「企業最前線の管理職が求める即戦力人材の条件」
社会人基礎力育成に関する意見交換(15:30〜16:30)
企業が求める社会人基礎力のギャップを確認した上で、その連携方法について意見交換を行う。
募集定員を超えた参加があり、終了後のアンケートでは、「このような研修を他の教員にも紹介したい」が100%、「この研修結果が授業改善に役立つ」との回答が100%であった。また、研修の内容については100%が「研修は期待通りであった」との回答であった。
意見としては、「SI(システムインテグレータ)の具体的な業務内容が理解でき、求められる人物像のイメージを理解することができた」、「システム構築の成功事例、失敗事例を詳しく紹介いただき、事例を通じてコミュニケ―ション能力の重要性や、解決策、『失敗やトラブルの解決を通じて人材が育つ』という言葉が大変印象深く残った」等の感想が寄せられた。主な意見を以下に紹介する。
社会システムを支えるシステムインテグレータの事例紹介と現場情報の研修
平成24年度は最新の現場情報の獲得に焦点を当てて実施したが、参加者から高い評価が得られ、平成25年3月開催の「第4回産学連携人材ニーズ交流会」においても継続・拡大が要望され、今後さらに拡大して実施することが確認された。また、新入社員との意見交流の中で、大学に求めるものとして「学ぶ姿勢と意欲を高める授業」、「学びを実践に結び付ける授業」、「専門分野の知識が社会でどのように役に立つのかを理解させる授業」などの意見が現場から出され、改めて授業を振り返る機会が持てたなどの意見が寄せられた。
平成25年度はさらに取り組みを拡充することとしており、9月には「システムインテグレータ企業の人材育成を事例を通して学ぶ現場研修」、「次世代の社会システムと最先端ICT活用事の例現場研修」を2回を実施している。平成25年3月にはさらに3回の企業現場研修の開催を予定しており、改めて報告する。