教育・学習支援への取り組み
北海道医療大学は、1974(昭和49)年に創立され、今年で38年が経過しました。本学は「知育・徳育・体育の三位一体による医療人としての全人格の完成」を建学の理念として歴史を歩み始めました。今年、リハビリテーション科学部(理学療法学科、作業療法学科)を加え、現在では薬学部(薬学科)、歯学部(歯学科)、看護福祉学部(看護学科、臨床福祉学科)、心理科学部(臨床心理学科、言語聴覚療法学科)の5学部8学科と5研究科、さらに歯学部附属歯科衛生士専門学校を擁し、近年の多様なニーズに応えるべく、「新医療人育成の北の拠点」を目指し、医療系総合大学として成長をし続けています。卒業生は1万6,000人を超え、全国各地で高いレベルの知識、技術のもと、地域医療、研究、あるいは教育に貢献しています。学生数、教職員あわせて4,000人を超え、その数の増加に対応するために、平成25年3月に、既存の中央講義棟を地上3階建てから10階建てに増築しました。薬学部やリハビリテーション科学部を中心に使用される実習室や講義室、また最上階には全学部の学生が自由に利用できる憩いのスペースを設置した、本学の新しいランドマークです。
医療の現場で求められているのは、病気を治すことだけではありません。心のケアや社会復帰の支援も含めた、全人的なケアが大切です。そのためには、医療従事者がお互いに対等の立場で連携することによって、患者中心の医療を実現していかなければなりません。これが「チーム医療」です。本学は医療系総合大学として、学部、学科の壁を超え、充実したカリキュラムを備えるべく、保健、医療、福祉全般を幅広く学ぶ「全学教育」を展開しています。これによって、単科大学ではなし得ない多職種理解を深め、チーム医療の中で活躍できる有能な医療人を育てています。
このようなチームワークは医療現場だけでなく、本学の教育現場でも生かされています。卒業生や、現役の学生、教職員の協同と努力により、日経グローカル「全国大学の地域貢献度ランキング」では全国医療系大学の最上位の一つにランクされています。本学が立地する当別町(北海道石狩郡)への貢献を主眼として、平成16年度には現代的教育ニーズ取組支援プログラム(現代GP)「地域への健康支援と融合・連携した学生教育」が採択されました。この取り組みの中では、我々はキャンパスレス教育を提唱しました。学生が町に出て、町民の健康支援に貢献するために、例えば保育所や幼稚園での口腔保健活動、小学生を対象に歯科医師を体験してもらう「1日歯医者さん」、成人を対象とした、健康に関わる講演会や健康相談などを行ってきました。また、町民の方々にも大学に来ていただき、模擬患者役などとして学生教育に貢献していただいています。現在30名以上の町民の方々が参加して下さり、医療面接の実習などに活躍しています。また、看護福祉学部では、障害児の一時預かり施設「ゆうゆう24」を開設し、レスパイトサービスなどを卒業生が中心となって学部学生も一緒に活動しています。
本学を含め、医療系学部の教育においても、ICTの活用は注目されています。例えば、薬学部の場合、6年制教育へ移行したことに伴い、歯学部と同様に全国の薬学部で共通に実施される共用試験にICTを活用したCBT(Computer Based Testing)形式が導入されました。また、医薬品情報資料や薬品質疑回答データベースなど、情報共有サイトを活用することにより、必要な情報を効率的に検索可能となってきています。さらに、PBL(Problem Based Learning)などのアクティブラーニング形式の授業でもLMS(Learning Management System)を導入するケースが増えてくるなど、自己主導型学修への支援、また、演習問題や卒業試験や国家試験の自己学修への支援等においてもICTの活用は必要不可欠なものとなっています。しかしながら、ICTシステムの活用にあたり、医療情報の共有、PBL形式の教育、長期の実務実習や国家試験対策など医療系学部特有の潜在的需要に応えるためには、システムの持続性、継続性を担保していく必要があります。
このような中、本学では独自の手法でICTを活用した教育を展開しています。その特徴が、ICTシステムの開発を学外業者などに委託するのではなく、教職員が学問的な専門領域の枠組みを超えて組織的に協力して独自にシステム開発やコンテンツ制作をしている点です。これにより、ICTシステムを長期間継続することを担保し、学生が主体的にICTシステムを活用する環境を整え、高い教育効果を挙げてきています。
ICTを活用したこれらの教育改善の取り組みに対して、私立大学情報教育協会「ICT利用による教育改善研究発表会」において2年連続して奨励賞をいただいております。この取り組みの中における薬学部の例などを簡単に説明させていただくとともに、最近特に力を入れているアクティブラーニングへのICT活用の取り組みについても紹介いたします。
(1)システム開発
システムの開発は、本学の薬学部教員(専門、実務、情報工学)と情報推進課職員が学際的な観点から協力したチーム体制で実施しており、図1にチームのメンバーの役割分担を示しました。システムを開発するにあたって特に重視したことは、本学独自の教育手法を細部にまで実現することで、ICTシステムを対面授業へスムーズに組み込んだり、教員や学生間できめ細やかなコミュニケーションができるようにした点です。また、システムの利用者は、入学予定者を対象とした入学前教育から卒業年次に至るまでの「すべての学生」を対象としました。プログラムサイズの合計は70,260行になりました。これは、cocomo工数試算によると208人・月、システム開発にかかる工程を1人が担当すると約17年かかる量です。
図1 Web based教育支援システム開発チーム
(2)情報共有と知識習得のために
まず、ICTシステムの活用で目指した教育改善の狙いが「情報共有と知識習得」でした。具体的なシステム内容としては、1)薬学6年生教育の全科目を対象とした出欠や履修情報の共有や学生・教員のコミュニケーションを支援する教務支援システム、2)薬学部5年生が学外の医療機関において履修する長期実務実習を対象として、学生と学外の医療機関を結ぶ実務実習支援システム(次ページ図2)、3)薬学部への入学予定者を対象として基礎的な知識習得を目指した入学前教育システム、4)医療人としてモチベーションを高めるために薬学部1年生に実施している早期体験学習を支援する学習情報の共有システム、5)学外の福祉施設と連携したPBL形式の医療福祉活動演習における学習情報の共有システム(写真1)、6)実務実習前に必要となる薬学に関する基礎的事項の知識習得を支援する実務実習前特別演習システム(4年生用)、7)卒業試験、国家試験への対策となる演習試験解説システム(6年生用)の七つに分類されます。
このように、情報共有と知識習得を目指したシステムの整備とコンテンツの充実化の取り組みを教職員が一体となって行った結果、例えば、実務実習前特別演習システムには、すべての薬学部教員が参加して、現在では8,000題以上の問題が集積、登録されています。図3には、今までに実務実習前特別演習システムへ登録された演習問題の登録数を記載しましたが、システムが運用されてから教職員によって持続的、継続的にコンテンツが登録されているのがわかります。
薬学部では、これらのICTシステムを導入したことで、学生と教員間のみならず、学外の医療機関に従事しながら本学の教育をサポートしている医療従事者の方々との密接な情報共有ができるようになり、また、学生による主体的な学習時間が増加するなどの高い教育効果を得ることができました。特に、学習時間を間接的に表すシステムの利用回数は年間で200万回、学生一人当たりでみると年間約2,000回にものぼり、このような高い利用率を継続的に記録し続けています。さらに、全国の薬学部4年生が受験する薬学共用試験の合格率は、本学では、試験が開始されてから4年連続で100%を記録しています。
薬学部から始まったこのようなICTシステムを活用した取り組みは、さらに、看護福祉学部、心理科学部、そして、歯学部へと広がりを見せています。看護福祉学部に対しては、CBTシステムを独自に開発して、ソーシャルワーク実習といった地域の社会福祉施設などと連携した実習に望むにあたっての学習到達度を判定しています(図4)。また、看護福祉学部と心理科学部に対しては、学生の自己学習を支援するICTシステムを開発して、各学部に関する国家試験(社会福祉士、精神保健福祉士、言語聴覚士)対策に向けた教育支援を行っています。歯学部に対しては、学習到達度を判定するCBTシステムと自己学習システムを発展的に統合させることで新たな教育支援システムを開発し、学習到達度の低い分野に対して集中的な自己学習を促すことで、その学習到達度を高めるような取り組みを行っています。
図2 薬学部5年生用実務実習支援システム
写真1 薬学部3年生医療福祉活動演習システム
図3 実務実習前特別演習システムの演習問題登録題数
棒グラフは月毎の題数(左軸)、折れ線グラフは累積題数(右軸)を示す。
図4 学習到達度判定CBTシステム
その結果、歯科医師国家試験においても、ICTシステムが導入されてから本学の合格率は飛躍的に伸びております。もちろん、これらのICTシステムだけの功績ではありませんが、幅広い医療に関する知識の整理や定着を目指した本学の教育方針を反映させたシステムが本学における教育活動の重要な一端を担っていることは間違いありません。
(3)アクティブラーニングへの展開
情報共有と知識習得に対するICT活用に加えて、本学では、現在、アクティブラーニング形式の授業に対しても新しい観点からICTを活用する取り組みを始めています。いままでにも、PBL形式の授業などのアクティブラーニングにおいてICTを積極的に活用していますが、ここでは、主に、学生のレポートや学習ポートフォリオなどの学習情報の共有を目的としてICTを活用していました。このような取り組みを数年間にわたって続けてきた中で気づいたことが、ICTシステムに学習に関する膨大なデータが蓄積されていたことでした。例えば、学外の医療機関と連携したアクティブラーニングである薬学実務実習を支援するシステムには、学生が入力したレポート(日誌)が文字数にして1年間で一千万文字以上も蓄積されており、また、日誌以外にも様々な文字データが蓄積され、システムを稼動させてから一億文字近くの膨大なデータが蓄積されてきました。現在、これらのデータから、個人情報の取り扱いに対する配慮を踏まえた上で、視覚的、かつ、客観的に、学生全体としてのアクティブラーニングの教育効果による成長過程を読み解く仕組みづくりをしています。さらに、その結果を、実務実習の教育の場へフィードバックすることでアクティブラーニングの教育改善も図っています。そして、医療系総合大学として本学の薬学部・歯学部・看護福祉学部・心理科学部・リハビリテーション科学部が、職種ごとの専門知識や考え方の違いを理解した上で、互いに連携し、学部という枠組みも超えて「チーム医療」をさらに推し進めるためのICTシステムを活用したアクティブラーニングの実現も目指しています。
以上、本学独自の手法によるICTを活用した教育改善の取り組みについて報告しました。「医療系総合大学」の特徴を有効に活用し、各学部で応用できるシステムとして今後も活用し、大学教育、さらには卒業生の「質」の保証に大きく貢献することが期待できます。
文責: | 北海道医療大学情報センター センター長 千葉 逸朗 運用主任 二瓶 裕之 |