教育・学習支援への取り組み
新潟国際情報大学は、時代ニーズである国際化・情報化に応えられる人材を育成することを建学の理念に、1994年4月開学し、本年2013年は「20周年」という節目の年を迎えました。
2014年度からは国際学部国際文化学科が新設され、これまでの情報文化学部情報システム学科とあわせ、2学部2学科で新たな一歩をふみ出します。2013年10月末現在、学生数は1,218名、教職員数は75名です。新潟国際情報大学は、新潟市西区にある「本校(みずき野キャンパス)」と新潟市中心部にある「新潟中央キャンパス」(2003年開校)の二つのキャンパスで、教育・研究活動を実施しています。
国際学部は、北東アジアやアジア太平洋地域をはじめとする国際社会の理解と外国語の習得、および幅広い教養や知識の獲得を教育研究の基本とし、地域ならびに国際社会の平和や真の発展のために貢献できる人材を育成することを目的としています。
また、情報文化学部は、情報を使いこなすための知識と技術、社会環境や人間活動に深く関わる情報システムの機能と仕組みを習得し、社会に対する責任を果たしながら、情報社会の発展に貢献できる人材を育成することを目的としています。そのために、情報システムの開発プロセス(企画、開発、運営)に加え、情報を扱う人間や組織の役割と仕組み、新たな情報システムの概念の創出を含む幅広い体系的なカリキュラムを構成し、さらには、地域(新潟県)の教育機関や産業界等のニーズおよびその変化に対応した教育・研究を行うことで社会や地域に貢献しています。
本学では2010年度からFD委員会を設置しFD活動を組織的に実施しています。
(1)「学生による授業評価 アンケート」の実施
「学生による授業評価アンケート」は、2010年に共同開発した「Webによる授業評価アンケートシステム」を使用して実施しており、学生は担当教員の指示によって携帯電話、スマートフォン、あるいはPCから回答を行います。学生の回答を締切った後、教員は担当科目の集計結果(グラフ)および自由回答に対するコメントをPCから入力します。この教員からのコメントは、集計結果とともにWeb上に公開され、さらにPDFファイルとして出力され冊子媒体としても提供されます。
(2)FD研修会
毎年、FD委員会が主催して、全教職員向けの「FD研修会〜FD講習&教育改善事例研修〜」を実施しています。外部の講師による講演と本学教員による教育改善事例を紹介し全体で討議を行っており、教員間の情報の共有と理解を深めるような工夫が施されています。
(3)教員による授業相互評価
情報文化学部情報システム学科では、試験的に1年生の必修4科目を担当する教員間で授業の相互評価を行いました。「教員による授業相互評価」で得られる他の教員からの知見と、上述(1)の「学生による授業評価アンケート」の結果双方を参照することで、教育内容・方法および学修指導等の改善への効果的なフィードバックが可能になりました。
(4)その他
eラーニングシステム(2003年)、学生ポータルサイト(2012年)、シラバスシステム(2013年)、学生カルテシステム(2014年予定)、出席管理システム(2014年予定)等の各種システムの導入を実施(予定)してきました。
情報文化学部情報システム学科の専門科目の演習科目では、他者と協力して問題解決プロセスを適用できる力、ICTの利活用方法を修得し仕事や生活に活用できる力、物事の仕組みをシステム的に捉え論理的な判断ができる力、そして自主的、計画的に情報を収集し、考察し、自らの見解を加えて記述し発表する力を育成していきます。そのために、「基礎演習」、「PBL」、「情報システム演習(A、BC、D)」、「卒業研究(1、2、3、4)」、「卒業論文」の合計15単位が必修で、「情報処理演習(F、U1、U2、C1、C2、Wから2科目選択)」および「専門演習(AD、B、Cから1科目選択)」の合計5単位が選択必修です。
この中の「情報処理演習」と「専門演習」での取り組み事例を以下に紹介します。
(1)「情報処理演習」におけるソースコードタイピングの導入事例
情報文化学部情報システム学科の「情報処理演習」は、スキルやアプリケーションにより細分化されており、基礎から専門までの六つ(F、U1、U2、C1、C2、W)の演習内容から自分に合った演習を自ら選ぶことができます(表1参照)。
表1 情報処理演習 情報処理演習 推奨レベル 演習内容 F
(MOS、スペシャリスト)Word,Excel初心者 Word, Excel基礎 U1
(MOS、エキスパート)Word, Excel経験者 Word, Excel応用 U2
(VB,SQL,ACCESS)U1終了者 VB(プログラミング)
SQL(データベース)
ACCESS(データベース)C1
(C言語、初級)C言語
初心者C言語 基礎 C2
(C言語、上級)C1終了者 C言語 応用 W
(web環境構築)Word, Excel経験者 OS(Linux)のインストール、ネットワークの設定、ウェブサーバの構築、CSS、JavaScript, CGI等のウェブプログラミング技術
情報システム演習は、1・2年生を対象とした2単位の選択必修科目であり、授業規模は20〜40名程です。ここでは「情報処理演習(C1)」の取り組み事例を紹介します。
情報処理演習C1は、コンピュータプログラムを学ぶ演習です。プログラマを目指す学生だけでなく、これまであまりプログラムについて興味を持っていなかった学生も受講します。この演習はそのような初めてプログラムを学ぶ学生を対象としていますので、最も初歩の部分から丁寧に授業を進めていきます。そして学生のプログラムに対する興味を喚起するために、例えば商用ゲームを題材として簡単なプログラムを作ってみたり、自分自身の作ったプログラムを使って、他の人のプログラムとネットワークを通じて会話をしたりする演習を行っています。しかしプログラムは、1文字でも間違えて入力すると全く動作しないため、馴染めずに情報処理演習C1を敬遠する学生もいます。
そこでそのようなプログラムに興味を持てない学生に対して、あえて単純作業の課題を課すことによって前向きに演習に取り組むことができる方法をとり入れています。それは、ソースコードタイピングと呼ばれ、情報処理演習C1の一部の教室で実施されています。
ソースコードタイピングとは、画面に表示されたコンピュータプログラムを正しく入力することをいいます。キーボード操作を覚えるために、画面に表示される日本語をタイピングするものと同様に、画面上に表示されたプログラムを1文字ずつ正確に打たないと先に進めることはできません。受講者は、授業の開始時に図1の画面を立ち上げてそこに書かれているプログラムを打ちこみます。
図1 ソースコードタイピング
このソースコードタイピングのねらいは次の三つです。
「プログラムを体感的に会得する」とは、例えば日本語の文章を黙読するよりは、声を出して読んだ方が頭に入りやすいように、教科書に書かれているプログラムを見て理解したつもりになっているよりは、実際に打ってみて実行した方がより理解できるという考えです。ただコンピュータプログラムの場合には、1文字の入力ミスで全く動作しないものです。またそのミスは、多くは全てのプログラムを入力し終わらないと分かりません。そのため、プログラムの初心者は、この教科書に書かれたプログラムを打ってみるということも敬遠してしまいます。そこで、タイピングの練習の形式にしてプログラムを打ちこみます。演習期間の始めの方では、受講生は打ち込んでいるプログラムの意味を理解していません。しかし演習が進むと、普段打ち込んでいるプログラムの意味を少しずつ理解していきます。
次の「プログラムに接する機会を増やす」とは、より多くの接触の機会があるものに対して人は興味を示すということをプログラムに対しても実現しようとしたものです。限られた演習の時間内でより多くのプログラムを打ちこむために、疑似的ではありますがソースコードタイピングを用いたプログラムの作成は役立っています。
最後の「小さな達成感を得る」とは、プログラムを敬遠する学生は、1日の演習を何も理解をしないで終えてしまうことがあります。そのようなときは、受講生にとってもストレスのたまるものです。そこでソースコードタイピングを課すことによって、最低限でもソースコードタイピングは実施してきたという小さな達成感が生まれると考えます。この小さな達成感は、次の回の演習につながります。
このようなソースコードタイピングは、タイピングの成績と演習の成績に相関がみられることが分かってきました。図2は、タイピング速度を横軸に、30点満点である演習のテストの成績を縦軸にした散布図です。
図2 タイピングの速度と、演習の成績との相関
図2からタイピングの速度が速い人ほど、成績が良いことが分かります。この相関係数は-0.313(1%水準)と高い相関ではありませんが、関係があることは統計上示されました。
この相関は、タイピングの速度を高めれば成績が上がるという因果関係ではありません。今後は、このような相関から因果関係を推定し、多くの学生にプログラミングを会得してもらう取り組みをしていく予定です。
(2)「専門演習」のシミュレーション演習での効果的なPBLの導入事例
専門演習は、3年生を対象とした2単位の選択必修科目であり、授業規模は60080名程です。授業回数は15回ですが、ここでは15回のうち4回で実施する「シミュレーション演習」を紹介します。
この演習の特色は、シミュレーションとPBLとを組み合わせて実施することで、(教室内だけの)シミュレーション言語の習得のみにとどまらず、既存のシステムでの問題発見・構造化・解決のプロセスをチームとして実体験できることです。また、各チームのプロジェクトおよびシミュレーション手法を用いた分析結果をWebで公開し、チームで相互評価(投票)する環境を構築しました(図3参照)。
図3 発表および投票画面
佐々木桐子研究室のページ:
http://www.nuis.ac.jp/~tohko/c/2013presentation.htm 参照
この演習では、はじめにシミュレーションの 概要、シミュレーションモデルの構築方法を学習し、学生個々人のモデリング能力を高めます。次に5・6名プロジェクトチームを編成し、身近な問題を見つけ、現地調査を実施することで、シミュレーションモデルの構築に必要なデータを収集します。このデータを使い現行システムのシミュレーションモデルを作成し、実行結果を解釈します。さらに、改善案をモデル化し、実行結果を比較検討していきます。2013年度は、12チームが自分たちで見つけた問題(学食、学内の売店、コンビニやスーパーのレジ、JRの自動改札等の待ち行列)に果敢に挑んでいました。
さらに各チームの分析結果をWebで公開・相互評価(投票)することによって、他のチームの着眼点や創意工夫を共有し、お互いの成果を確かめ合い、相対的なチームのレベルを自ら意識することができました。
この専門演習に関する授業評価アンケートの集計結果(有効回答率88.5%)では、「この授業は総合的にみて良かったですか」の問いに、「非常にそう思う(22.2%)」、「そう思う(64.8%)」で、高い満足度が示されました。
また、自由記述の回答の中には、「毎日の生活の中でも、日頃からさまざまな情報システムを活用しながらここを改善すべきだと感じているところが多くあったのだが、具体的に何をしたら良いのか考えてはいなかった。今回のシミュレーション演習では、自分たちで問題のある情報システムを探し、それについて改善案を挙げてシミュレーションモデルを作って動かし、その結果から考察するという一連の作業は、多くのことを学ぶことができたので面白かった。」というコメントも寄せられました。
ここで紹介した二つの事例のように、教育の現場を預かる教員は、教育内容の充実・改善を図りながら、様々な工夫をとり入れることによって学生の学習意欲、理解力を向上させる方法を模索してきました。同時に、学生の出欠状況の把握、質問に対するコメント、小テストなどによる理解度チェック、アンケートの実施等、講義・演習での学生の取り組み姿勢を定量的に把握する努力を日々行っています。
しかし、このような学生の取り組み姿勢を定量的に把握・評価することは、担当教員の裁量に任されているため、教員間の温度差は非常に大きいのが現状です。最先端のICTを駆使し、学生や教員への過度の負担を強いることのない、使いやすい授業支援システムの構築・導入、および環境整備が望まれるところではありますが、それ以前に教員の教育力の向上と意識改革が本当は重要な課題なのかもしれません。
文責: | 新潟国際情報大学 | |
情報文化学部情報システム学科 | ||
准教授 佐々木桐子 | ||
講師 中田 豊久 |