事業活動報告No.1
平成25年度 ICT利用による教育改善研究発表会 開催報告
本発表会は、全国の国公私立大学・短期大学教員を対象に、教育改善のためのICT活用によるFD活動の振興普及を促進・奨励し、その成果の公表を通じて大学教育の質的向上をはかることを目的としている。今年度は平成25年8月10日(土)に東京理科大学(森戸記念館)において開催した。一般参加者は125名(74大学、8短大、賛助会員2社)で、発表会は第1次選考も兼ねて32件の研究発表が行われた。当日の発表内容は以下の通りである。
その後、第2次選考を10月5日(土)に実施し、11月26日(火)の本協会の第8回臨時総会冒頭に表彰式を行った(詳細は本誌p.42を参照)。
Aグループ
A-1 |
ICTを活用した導入科目の実質化と達成度保証 |
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情報系学部の専門教育の実質化と達成度保証を目的に、これまでのプログラミング入門科目を再構成してオンライン教材による予習課題を与えた。また、授業内での即時集計とフィードバック、LMSによる達成度試験も行ったところ、学習態度が向上し、下位層の大幅な達成度向上を図りながら客観的な達成度保証を行うことができた。
A-2 |
データ可視化および組込みプログラミ ングを用いたソフトウェア開発学習の試み |
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データの可視化プログラミングにProcessingを用い、組込みプログラミングにArduinoを用いることで、ソフトウェア開発の設計・プログラミング・テストの各段階において、調査力の向上、試行錯誤による自力での目標達成、実行結果の検証等の具体的な能力向上が確認できた。
A-3 |
eラーニング利用による反転学習を取り入れたプログラミング教育の実践 |
千歳科学技術大学 |
林 康弘、深町 賢一 小松川 浩 |
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学生のコンピュータ・プログラミング技能の向上を実現するために、自習用のeラーニング教材を開発し、授業で使用した。具体的には、講義内容をeラーニング教材としてまとめ、学生が自宅や講義の空き時間に使用できるようにして、授業では実習を中心とした授業を展開した。その結果、期末試験の成績が向上した。
A-4 |
転写禁止型のプログラム作成・実行・評価用 Web アプリによる初期プログラミング教育の実践事例 |
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転写禁止型のJavaプログラム作成・実行・評価用Webアプリケーションを開発し、授業で使用した。このシステムは、転写を禁止した形でプログラムをWebページ入力し、コンパイル・実行等の結果をソースファイルに、実行結果などをデータ・ベースに記録する仕組みで、学生一人ひとりに対応した教育に寄与する。
A-5 |
テキストマイニングを用いた自学自習による情報リテラシー教育におけるアンケート評価の分析 |
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自学自習による情報リテラシー教育に関する授業アンケートのうち、学生サポートに対する自由記述アンケートに焦点を当てて、データマイニング分析を実施した。この試みは、授業アンケートにおける学生のコメントを授業改善に結び付ける方法の創造に役に立つ。
A-6 |
個別学習から協同学習へ〜キャリア教育を意識した主体的学び活動の実現〜 |
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1年生前期の授業情報リテラシー教育で、個別学修から協同学修の要素を取り入れたアクティブ・ラーニングへの転換を試みたところ、学生の学修に対する満足度、理解度は良好であった。これから4年間の学習活動においても良い影響を及ぼすと考えられる。
A-7 |
e-Learningシステムにおける中国語教育プラットフォームの構築とその活用 |
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大学のe-Learning上に中国語1科目のプラットホームを構築し、講義のPPTファイル、教科書のドリル解答、中国文化の紹介映像を担当の複数教員とTAで共有できるようにし、全学の中国語1の共通目標の実現を図った。反復練習や小テスト結果の分析を踏まえて、学生の学習状況の一部を把握できるようにした。
A-8 |
Moodleを用いた教室外学習を伴うスペイン語入門授業について |
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授業で用いたスペイン語教材をeラーニング教材として開発してMoodle上で運用した。予習・復習の利用記録に基づいて教員は学生に指導を行うようにしたところ、学生の授業外の学習時間や頻度が増加した。
A-9 |
短期集中日本語講座におけるICT活用の実情とその展望 |
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集中的にオンラン教材を使うことによって、反復練習で漢字、単語等の自学自習を可能にしたところ、小試験の点数がICTを活用していなかった際の点数と比較して、わずかではあるが伸びが見られた。
A-10 |
コミュニケーションスキルを育成する実践的なカリキュラム開発 |
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大学卒業後も必要となるような実践的なカリキュラム開発のため、180分コンテンツを90分の管理システムで実現した。テレビドラマ(DVD)と視聴前後の説明によって、スムーズにディスカッション等を進めることができ、学生自身が行き詰まりを自覚しながら、相互に学び合う学習環境を実現できた。
A-11 |
初年次教育と就職対策としての経営系学部におけるe-Learningの活用 |
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新入生全員にiPadを配布し、中学から高校までの教育コンテンツを公開し、必修授業で一定の点数をとることを推奨した。学習を重ねることにより、平均点が上昇することが分かった。
Bグループ
B-1 |
ワークショップ型インタラクティブ授業によるデジタル・デザイン |
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建築設計の分野におけるコンピュテーショナルな手法によるデザイン指導の取り組みである。課題それぞれに、チーム分けされた履修者に対して、解説とワークショップを組み合わせた授業を行う。インタラクティブなコミュニケーション、チームワーク育成、3D印刷によるモデリングの精度確認に効果があった。
B-2 |
ミクロ経済学教育におけるeラーニングの教育効果に関する考 |
東洋大学 |
巽 靖昭、児玉 俊介、佐藤 崇、澤口 隆 |
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知識レベルが多様でかつ学習動機が低いとみられる2部学生を対象として、講義授業にeラーニングを取り入れ、提出課題の得点を最終評価の40%とするなどの工夫を加え、反復学習を行わせた。eラーニング利用者と非利用者間の平均点比較では有意差は見られなかったが、演習履修者に限ると有意差が確認された。
B-3 |
協調作業を重視した双方向型演習の実践と評価 |
東京工科大学 |
飯沼 瑞穂、中村太戯留、松橋 崇史、千代倉弘明 |
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演習の授業において、グループ分けされた履修者に個人課題とグループ課題を課し、ExcelやPowerPointのファイルをクラウド上で編集、更新、保存、閲覧ができるようにした。授業アンケートの結果、教員と学生間の双方向コミュニケーションの改善、グループワークの実践が容易になったことがわかった。
B-4 |
wikiエンジンを用いた社会調査実習教育におけるグループワークの促進 |
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社会調査実習科目にwikiを導入した。グループワークの記録を紙媒体からwikiに切り替えたことで、学修過程の可視化と適切なフォローアップ、および教室外での協働作業が可能となった。その結果、グループワークが活性化し、受講生の達成感向上および授業参加意欲の促進に繋がった。
B-5 |
歯科基礎医学の講義に替わりうるICTを用いたTBLシステムの開発 |
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2学年時の感染微生物学の授業の後半をTBL形式とし、ICTを活用した予習リスト・資料の配布、既設の出欠システムをレスポンスアナライザとして利用した、双方向コミュニケーション等を実施した。この試みは学生が楽しみながら意欲的・主体的に学修することを促進し、その結果として学習到達度が向上した。
B-6 |
積み上げ式歯学教育を支援する学習到達度判定・Web自己学習統合システム |
北海道医療大学 |
二瓶 裕之、斎藤 隆史、和田 啓爾、小田 和明、中山 章、唯野 貢司、千葉 逸朗 |
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歯学コアカリキュラムの分野ごとにCBTを実施して学生に不得意分野を気づかせ、それを動機とした学生の主体的学習をICTを活用した自己学習環境を提供して支援した。さらに、自己学習の成果を次年度に確認するサイクルを確立して学習進捗度を可視化し、学習到達度向上および国家試験合格率上昇を実現した。
B-7 |
ICTを利用したコーチング志向型講義による主体性・能動性の育成 |
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1・2年生対象の社会科学特別講義2クラス(70人、50人)において、学生のプレゼンテーションと講義に対するTwitter上の意見や質問をリアルタイムで取り上げ、授業の最後にFacebookにコメントを書き込むなど、ティーチングとコーチングを組み合わせた。さらにICTの活用により、学生の主体性・能動性の涵養を促した。
B-8 |
学生の授業に対する能動性向上を目指した表計算ソフトの活用 |
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「電気回路論及演習1」において、回路に流れる電流または電圧の時間変化や位相変化を求める際にExcelを用いることにより、瞬間の電流または電圧とそれらの微小の時間に対する概念を図表として瞬時に視覚的に理解できるようになり、教育効果が向上した。
B-9 |
ICT利用による“ものづくり”教育の新たな試み |
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3年次科目「CAD/CAM/CAE演習U」において、学生自身が自発的に学習でき、誤り箇所等をシステム側が提示することで学生が納得いくまで学習できるGコードシミュレータやCAM動画マニュアルを構築した。工作機械1台に一つしか存在しないNC操作盤のシミュレータも開発し、多くの学生が同時に学習できる環境を実現した。
B-10 |
ビデオアノテーション機能によるPBL活動の効果的「ふりかえり」支援の取組 |
大阪成蹊大学 |
浅井 宗海、稲村 昌南、中井 秀樹、千代原亮一 |
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専門演習においてゼミ横断で4回のPBLを実施する「共通プログラム」を実施し、ビデオアノテーション機能を電子ポートフォリオシステムに組み込み、ビデオと評価内容を同期させ、自己評価・他者評価をビデオの該当箇所に表示するシステムを2013年度より導入した結果、ふりかえり学習の有効性を高めることができた。
B-11 |
「経済学コア6」による2年次までのテーマ学習と学士力達成に向けた演習の充実 |
名古屋学院大学 |
児島 完二、伊澤 俊泰、木船 久雄、秋山 太郎、阿部 太郎、家本 博一、大石 邦弘、河原林直人、黒田 知宏、佐々木健吾 |
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身近な経済事象から10テーマを選び、経済学の6コア分野の観点から20ヵ月分の関連設問1,200題を作成し、LMSに「経済学コア6」を構築して、PCやスマホで学習できる環境を整備した。学習達成度のポイントを表示し、ゼミ対抗コンペを実施するなど、学部として学生の学士力向上に努めている。
Cグループ
C-1 |
リメディアル物理教育における授業と教材の工夫 |
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物理の基礎学力が不足している入学生に対し、書き込み式の授業プリントの書き込み例や動画をスクリーン上で示し、学生の間を回って標準の2倍の時間をかけて指導し、双方向授業を展開したところ、学生の授業中の集中力を高め、学習意欲の向上につながった。
C-2 |
クラウド上での数学レポートの成績管理による採点業務の負担軽減と教育の質的向上 |
神奈川工科大学 |
土谷 洋平、白井 暁彦、藤森 雅巳、谷戸 光昭 |
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高校数学の数Uまでのリメディアルと数学の応用を目指して、全学共通の必修科目のレポート課題提出に無料のクラウドサービスを利用することで、最新情報の共有による教員間の共通認識、学生への迅速なレポートのフィードバックが可能となり、課題提出率の向上と記述内容の質向上がもたらされた。
C-3 |
大学の数学教育に対する主体的な学びとなる学修環境作り |
山口東京理科大学 |
亀田 真澄 |
山口県立大学 |
宇田川 暢 |
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初年次の数学教育に対し、紙媒体レポートに加えてe-Learning環境を構築して、数式解答評価システムが付加されたWeb学習管理システムを提供したことで、学生の小テストへの積極的取り組みを引き出し、その得点と期末試験の得点に相関がみられたことが確認できた。
C-4 |
生物系基礎知識の格差を埋める学習支援の取り組み |
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高校における生物の習得の有無によって生じる学生間の基礎知識の格差是正を目指して、Web上にある既存のeラーニング教材を事前学習に活用し、さらに学習を促すため、授業に入る前にランダムに選んだ1割程度の学生に質問を投げかける工夫を行ったところ、eラーニング教材による学習意欲が向上した。
C-5 |
二重テスト方式とクリッカーを併用したコラボテストの運用改善 |
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Webベースの協調作問システムの運用を工夫することで、学生の主体的学習の促進を目指した。個人とグループでの二重の解答を行い、グループ解答にはクリッカーにより正誤集計結果が即時に表示されることで、学生はグループ内の連携や学びの効果を実感でき、学習動機付けの強化につながった。
C-6 |
複数教員による協調的な授業開発・改善の試み〜教職科目を題材として〜 |
江戸川大学 |
波多野和彦 |
早稲田大学 |
三尾 忠男 |
明治大学 |
山路 進 |
江戸川大学 |
中村 佐里 |
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所属大学の異なる複数教員が協調的な授業開発・改善を実施することで、それぞれの大学の授業改善に好影響を及ぼすことから、複数授業担当者の連携や工夫そのものを、教職科目の教育内容として取り上げた。私立大学における開放制の教職課程に対し、日々授業改善を行っている。
C-7 |
学修自己評価のためのeポートフォリオシステムの開発と運用 |
九州工業大学 |
林 朗弘、坂本 寛、堀江 知義、中村 貞吾、楢原 弘之、藤原 暁宏、田中 和明、磯貝 浩久 |
近畿大学 |
藤尾 光彦 |
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学生の学習意欲向上を目指して、eポートフォリオの「学修自己評価システム」を全学の規模で開発し運用している。成績上位者や向上傾向にある学生の方が、そうでない学生よりもシステムへのアクセス頻度が高いことから、有効性が確認できた。
C-8 |
板書画像と録音ファイルの活用による授業振り返りとノート作成力の向上 |
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授業用のブログを開設して講義の音声と板書の画像をダウンロードできるようにし、授業時間外に学生にノートを作成させた。授業時は教員からの問いかけや最新事例の提示などを機動的に行い、ブログ上や出欠票へのコメント記入による双方向性も保つことができ、学生の満足度や評価は高かった。
C-10 |
Websiteデータベースを活用したキャリアデザイン科目の自己覚知に関する学び |
関西福祉科学大学 |
新川 泰弘、宇惠 弘、八田 武志、山内 彰 |
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キャリアデザイン科目の中で自己覚知に関する学修を行う際に、大学のWebsiteデータベースを活用して学習履歴を蓄積するとともに、テキストマイニングによる学修成果の分析結果をフィードバックした。グループ討議やKJ法でとりまとめた成果を発表し共有する学修と合わせて、効果的な意識の変化を確認できた。
C-11 |
課題解決型学習法PBL(Project-Based Learning)における動機付け |
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ゼミの中に連携事業を取り入れ、プロジェクト型の学習形態(PBL)にブログや電子メールなどのSNSを動機付けツールとして活用することを試みた。その結果、事業内容の高度化とともにSNS上での用語が敬語に変化していく過程が見られ、フォーマルグループとしての活動を導く学びの場となり得ることが確認できた。
文責:ICT利用教育改善発表会運営委員会
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