教育・学修支援への取り組み

至学館大学のICTを活用した教育・学習支援への取り組み
〜人間力形成支援を目指して〜

1.はじめに

(1)至学館大学の歩み

 至学館大学は、日露戦争只中の1905年(明治38年)故内木玉枝により「健全で円満な女性の育成」という建学の理念のもと、内木学園中京裁縫女学校として設立されました。その後、中京高等女学校(大正11年)を経て1963年(昭和38年)に中京女子大学となりました。2004年(平成16年)、アテネオリンピックで中京女子大学は、女子レスリング競技において本学学生が三つのメダルを獲得し、続く北京大会、ロンドン大会においてもそれぞれ三つのメダルを本学卒業生が獲得しました。さらに、この中から国民栄誉賞を受賞する卒業生も輩出し、本学のアスリート育成についても、広く注目されてきました。
 そのような中、2010年(平成22年)に現「至学館大学」として新たなスタートを切ることとなりました。それとともに男女共学化、大学の名称変更ならびに教育研究組織の再編を行い、また、建学の理念を新たに「人間力の涵養」として引き継ぎ、大学の教育理念も「人間力の形成」としました。加えて、中京女子大学では健康科学部と人文学部の2学部制であったものを至学館大学においては健康科学部1学部3学科へと改組しました。これにより、健康を主体とした「人間力の形成」へとより注力するとともに、「健康・スポーツの至学館大学」という社会や地域の期待により強力に応えられるようになりました。
 併せて、地域に根差した市民から信頼される大学を目指して、教育・研究・地域貢献活動を推進し、地域社会と連携・協力を図ることを基本として、地元の大府市をはじめとする近隣の地方自治体などと連携・協力するとともに、学内の知的資源を活用しながら社会貢献を積極的に進めています。
 以上のような活動を通して、至学館大学は、多くの国際的競技者の輩出のみならず、スポーツや健康を通した人材教育に対し、地域社会はもとより世界的に高い評価を得てきました。

(2)学園構成

 至学館大学は、2010年の改組とともに法人名も学校法人至学館に改称しました。キャンパスは、至学館大学大学院、至学館大学、至学館大学短期大学部で構成されています(表1)。また、キャンパスには至学館大学附属幼稚園が併設され、学生と園児達が一緒に遊んだり、こども健康・教育学科の学生がボランティアを行ったりするなど、ふれあい空間が生まれています。系列校としては他にも、野球部の甲子園出場実績もある至学館高等学校があり、こちらは普通科、商業科、家政科で構成されています(表1)。学園の規模を表すために学科構成ならびに学生数(2013年度、各学科全学年)も表1にて示します。

表1 学科構成および学生・生徒数等

(2013年5月1日現在)

至学館大学 大学院健康科学研究科 10名
健康科学部(合計:1,259名)
健康スポーツ科学科 662名
栄養科学科 331名
こども健康・教育学科 266名
至学館大学
短期大学部
短期大学部(合計:318名)
専攻科 15名
体育学科 303名
至学館高等学校 1,528名
至学館大学附属幼稚園 301名

 教職員数(2013年度)は表2の通りです。

表2 教職員数

(2013年5月1日現在)

教員数(人数) 職員数(人数)
大学 56名 大学 38名
短大 14名 短大 8名
高等学校 73名 高等学校 9名
附属幼稚園 14名 附属幼稚園 1名
法人 3名

 なお、学校法人至学館の姉妹校には、別法人ではありますが、学校法人谷岡学園の系列校として大阪商業大学、大阪商業大学高等学校、大阪女子短期大学、神戸芸術工科大学やその他附属校等があります。

(3)教育理念「人間力の形成」

 先述のように、2010年の至学館大学改組とともに、大学の教育理念を「人間力の形成」と定め、そこでの「人間力」を「健康力」、「知的視力」、「社会力」、「自己形成力」、「当事者力」の五つの力で構成されるものと定義しました。さらに、真の人間力となすには、これら五つの力を乗じて総合的に応用・展開していくものと捉えています。
 加えて、紙数の関係で割愛させていただきますが、各学科においても五つの人間力に基づいた教育目標を定めています。

2.人間力形成を目指した教育におけるICT活用の取り組み

(1)人間力形成支援システム(仮称)

 前述のように、2010年より本学の教育理念を「人間力の形成」と定めましたが、それを具体的な教育活動へと展開するため、いくつかの教育・研究上の施策を展開してきました。同時に、学科毎にディプロマ・ポリシー、カリキュラム・ポリシー、アドミッション・ポリシーを定め、それらの具現化に向けての施策も行っています。
 これらを受けて、教育課程の実施や学生の厚生補導における人間力向上に関する指導・助言、人間力の形成支援を目的としたシステム化と運用、キャリア支援等を行うため、「人間力開発センター」を立ち上げました。
 2013年度は、それを具現化するためのシステム作りに努め、まずは全学学生対象に印刷物へ記入する形式での評価・報告書を通じて人間力形成の達成度を確認する作業を行っています。同時に、一部のゼミ所属または「教養基礎演習」(1年次基礎教育)授業受講学生を対象に、PCやモバイル情報端末を用いたWebベースの人間力形成支援のためのシステムを開発、試験的運用を行っています。以下、その内容について説明します。
 本システムは、2011年度至学館大学学内共同研究費の助成を受けて行った共同研究「人間力形成を目指した学習・キャリア支援方略の開発」におけるシステムを継続運用しているものです。したがって、開発・運営コスト低減のために、既存ソフトウェア資源を有効活用し、安定運用を目指したものとなっています。また、最近はやりのクラウドシステムは意外に維持管理コストがかかるため、サーバは学内に設置しています。これは、情報保全上の事由でもあります。
 さらに、人間力を支える礎として基礎的学力が必須であることから、学習支援機能(以下LMS:Learning Management System)を併せ持つこととしました。課題提示やアンケート、小テスト等の容易な作成、課題提出や回答の容易かつ直感的な実施等といった基礎的機能を有しています。人間力形成支援機能とLMSは独立させ、それぞれを安定運営させることも考えられましたが、コスト的配慮と相互の関連性維持のため、あえてこのような形態を採用しています。
 システム・ソフトウェアは前述の要件に基づき、既存のポートフォリオシステムである「Mathfia」と学習管理システム「Moodle」(Modular Object-Oriented Dynamic Learning Environment:Moodle Pty Ltd. オープンソース)を基にそれらを統合し、カスタマイズしています。なお、「Moodle」は、活用事例の豊富さ、活用のためのリソースの潤沢さ、動作の安定性、一応の評価が得られていること、オープンソースであることなどの事由により採用が決定されました。また、ユーザ管理やアクセス管理の基本的な仕組みに関しても「Moodle」を活用しています。ユーザ管理については、学部、学科構成や授業構成に対応させるため、別途ユーザ情報管理の仕組みを新たに開発し、付加しています。
 ハードウェアについては、初期研究段階から検証目的としてはもとより段階的活用時においても安定運用を可能とするようにスペック設定がなされています。

(2)人間力形成支援システムの機能(学生の活動)

 本システムにおいては、学生は主として1)活動報告、2)学習支援、3)学生カルテ、4)プロファイル、5)メッセージの五つの活動を行います。各活動内容の概要は以下のようになっています。さらに、本システム利用のゼミ所属学生は、PCのみならず、予め貸与されたスレート型端末(タブレット端末)、もしくは個人所有のモバイル端末を利用することによって、システムへのアクセスが可能となっています。

1)活動報告

 学生は日々の活動を指導教員に対して五つの人間力に基づくカテゴリ別に報告し、その活動を振り返って自己評価を行います(図1)。また、教員が設定した期間の達成目標を自己設定し、それに対する実践・評価を記述します。評価については点数化が可能となっており、活動の分類と各人間力へのヒモ付けによって、活動内容の種類を選択するだけで、その活動がいずれの人間力向上へ寄与したかを評価・累積記録することが可能となっています。

図1 活動報告画面

2)学習支援

 Moodleのコア機能であるLMSを利用し、課題提出、教材・資料閲覧、小テスト(選択、記述、穴埋め等)、アンケート、ディスカッション、メッセージ等をGUI(Graphical User Interface)環境で実施します(図2)。

図 2 学習支援画面

3)学生カルテ

 システム内に蓄積した活動内容の内、点数化された評価スコアを図表で確認し、人間力形成に関する活動の進捗状況を把握可能するためのものです。

4)プロファイル

 自身のアカウント情報の確認・変更を行います。

5)メッセージ

 同じ所属ゼミの学生同士、ゼミ指導教員と学生間でのコミュニケーション・ツールです。仕様はメーラ(メール送受信ソフト)に準拠し、主にゼミ単位でのやり取りを行います。なお、構成員以外のユーザとの交流は行えないようになっています。

 各活動内容や評価は、専用サーバに蓄積され、学生の人間力の成長結果として、学生本人、指導教員の双方が逐次確認可能となっています。これら成果の確認と後述する教員からのメッセージ機能を通したアドバイスにより、学生のさらなる「やる気」の発揚へと結びつけていくことを企図しています。
 学生は学内、自宅、飲食店(カフェ等)と様々な場所で活用し、「喫茶店でレポートや報告書を考えたり、書いたりして楽しく取り組めた」というように、時と場所を選ばずに使用できることも学習動機の獲得へと結びついているようです。また、モバイル端末内蔵のカメラで撮影した画像等をレポートに張り込むことや、音声データの活用等を各人自ら工夫・試行錯誤して活用方法を見出しており、学生のモバイル機器への適応力の高さとも相まって、モバイル端末等と本システムを乗じた次世代的総合学習環境として様々な可能性が見出されています。

(3)システムの機能(教員の活動)

 教員が行うゼミ所属学生の人間力形成の支援や学習を目的とした機能としては、学生が行う活動に対応して、1)活動報告コメント、2)学習支援、3)学生カルテ、4)プロファイル、5)メッセージの五つの機能が設けられています。各活動内容の概要は以下のようになっています。

1)活動報告コメント

 「活動報告一覧」機能により、ゼミ所属学生の活動報告を閲覧し、報告に対するコメントの記入と評価が行えます。コメントは記入後、即時学生側から閲覧可能です(図1)。
 アカウントのアクセス管理機能(セキュリティ管理機能)により、教員は指導教員として自らのゼミやクラスに所属する学生の情報にのみアクセス可能です。

2)学習支援

 MoodleのLMS機能により、課題提示・提出、教材・資料提示、小テスト、アンケート、ディスカッション、メッセージ等の作成の大半をGUI(Graphical User Interface)環境で行います。また、教員が作成したファイルをアップロードし、課題提出や、提出・未提出の課題を一覧表示で確認すること、未提出者にメッセージを送ること等も可能となっています。また、アンケートは実施後、即時集計、提示が可能であるため、授業内に学生とともにその結果について話し合い、授業改善につなげていくことが可能です。

3)学生カルテ

 学生用の機能と同様、各学生の活動進捗状況や評価の確認を行います。

4)プロファイル

 学生用の機能と同様、教員自身のアカウント情報を確認・変更する他、学生のアカウント情報の閲覧を行います。

5)メッセージ

 先述のように所属学生とコミュニケーションを行います。教員自らがゼミ単位のメーリングリストを作成せずともゼミ毎にユーザ閲覧が行えるため、連絡やサポートを効率的に行えます。

 ところで、上記システムは未だ完成形ではなく、現在、一部機能の修正や改善に取り組んでいるところです。また、実施も先述のように一部学生を対象としたものに留めたものとなっていますが、今後の全学展開を目指し、新たな取り組みを企図しています。

(4)情報関連授業での取り組み

 本学の一部情報関連科目では、受講者満足度向上と学習の効率化を目的として、習熟度別クラス編制を行っています。特に、「情報基礎演習」等の情報リテラシーに関する学習内容は必修科目となっており、さらに、健康科学部の栄養科学科においては管理栄養士資格試験受験要件として「健康情報処理論・演習」も必修となっています。そのため、これら教科では受講者が多く、習熟度別クラス編制は必須と考えています。そこで、そのためのプレイスメントテスト(クラス分けを目的とした習熟度調査)を毎年各期に実施しています。
 調査は、Webベースの筆記試験形式で集計と採点処理の効率化を図っています。出題形式は選択問題のみならず自由記述、穴埋め形式等、またはそれらの組み合わせが可能です。
 受講者の比較的少ない他の授業ではより柔軟な科目構成を行っています。学習テーマを学生自らが自由に設定できる等の工夫を行っている授業もあり、そこでは、携帯電話の動画撮影機能を活用したプレゼンテーションやロボットのコントロールを通したフローチャート学習など、多彩な学習内容となっています。

(5)教育におけるその他ICT活用の取り組み

 本学では、大学院、四大、短大共通の「ライブキャンパス」と名付けられたシステムによって履修登録や成績管理等を行っています。学生自ら履修登録や成績情報閲覧、単位管理、時間割表作成等を行います。また、図書管理についても貸し出し(ICカード)、書架・蔵書管理等にICTが活用されています。
 さらに、先述の人間力形成支援のためのモバイル端末によるシステム活用や一般教室内でのPC活用を踏まえて、2013年度より無線LAN設備の拡充が図られました。以前は図書館や一部教室のみの設置であったのが、現在では学生ホール、食堂、その他教室においても設置が進み、モバイル端末等からもネットワークへのアクセスが可能になっています。
 以上のように、至学館大学では「学生主体」を最重要のキーワードとして、学習環境をはじめとした学内環境整備等に取り組んでいます。

3.おわりに(今後の課題等)

 本年度は新生・至学館大学としての完成年度となりますが、現時点においてはまだそのゴール途上です。したがって、その取り組みは終わっておらず、弊論においてはあくまでもその過程を述べさせていただいたに過ぎません。また、人間力の形成を支援する取り組みに関しても、まだ始まったばかりであり、今後はさらに多くの検証と改善を積み重ねていく必要があります。
 なお、現在、ディプロマ・ポリシー、カリキュラム・ポリシーに則した学習到達度把握のためのシステム等も企画されており、至学館大学は、今後も教育のICT利用への取り組みをさらに深化・発展させていくことを目指して参ります。

文責: 至学館大学
情報処理センター長
健康科学部こども健康・教育学科准教授
前野 博

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