事業活動報告 No.2

大学職員情報化研究講習会
〜応用コース〜 開催報告

 本年度の「応用コース」研究講習会は、「大学教育の質的転換を図るための改革行動とICT活用の可能性」をテーマに、平成25(2013)年11月15日、早稲田大学国際会議場(東京都)において開催され、61大学、賛助会員企業4社から103名(前回67大学、企業5社、113名)の参加があった。

−全体会−

 全体会では、本講習会運営委員会の深澤良彰担当理事(早稲田大学)より、ICTが真の教育改革推進ツールとなるには、いかに素晴らしいシステムを導入するかではなく、何のためにそのシステムを導入するのかという、それぞれの大学が進める改革の方向性に沿った目的こそ重要であり、その視点を忘れずに各校の取り組みから学んで欲しいとの開会挨拶があった。
 続いて、木村増夫運営委員長(上智大学)から、教育再生実行会議提言、大学改革実行プランなど、大学の人材育成に対する国・社会からの要請の内容とそのポイントを示しながら本コースの開催趣旨と参加者に求められる心構えについてメッセージが贈られた。
 また、当協会 井端正臣事務局長から、「大学教育への提言−未知の時代を切り拓く教育とICT活用−」と題し、協会が進める教育改革に資するICT活用の取り組みが基調講演の後に紹介された。

【基調講演】

「大学教育の質的転換を図るために〜いま大学に求められる改革行動とは〜」

金子 元久 氏(筑波大学大学研究センター教授)

 大学教育を取り巻く社会的要請について、学生、卒業生、企業を対象にした調査結果とその分析から、1)経済社会の視点から見た大学教育の問題点、2)大学教育の現状と改革のポイント、3)経営問題としての大学教育、4)大学職員の役割と情報整備について、示唆に富む提言がなされた。
 大学に課せられた課題は、1)欧米の大学と比べて極端に少ない学修時間をどう確保するか、2)社会的要請の高まるグローバル人材育成にどのように対応するか、3)大学入試改革への取り組みの大きく三つであり、そうした論点の下、今、大学がどのように行動するかが問われている。
 大学教育の問題点について経済社会の視点から見てみると、産業構造の変化によって人材育成で問われる質が変化していることがわかる。大学卒業者数は1996年に50万人を超えて以来約55万人で推移しているが、就職者数は30万人で、バブル崩壊(1991)以降変化がない。つまり、大学を卒業しても就職できない層が拡大している。内訳は、安定的に収入を得ている層40%、進学者15%となっており、それ以外の45%は非正規雇用または自活できない層である。また、大学で習ったことを活かせていると答えた学生は1割で医療系学部出身者がほとんどである。産業構造の変化でサービス業を中心に新たな産業が拡大して大学教育と職業とがリンクしない時代を迎えた。
 企業の人事担当者5千人を対象に行ったアンケートによれば、人事担当者の多くは、よく言われるコミュニケーション能力や考える力などより、マチュリティ(一人の社会人として人格が形成されているか)を重視していると回答している。その人が持つ夢や希望やこだわりが、その企業のどのような部分に貢献できると考えているのか(=人格、企業の側からみれば、一緒に働きたいと思える人材)がポイントになっており、その意味からエントリーシートは目的に適っていると言える。
 高度経済成長期には欧米の先駆的な取り組みを模倣して適用することが得意な人材が必要とされ、その能力を偏差値で測っていたが、今は産業構造が変化して多種多様なビジネスモデルが構築され、課題解決能力が問われるようになった。入試改革が必要と言われる所以であり、根本的には学部組織の見直しが必要だ。
 しかし、学部教育は職業に連動していないが、学修時間が多い学生ほど就職決定に有利に働いており、勉強した経験が就職活動でモノを言うことはデータ上はっきりしている。つまり、流動性の高い社会構造の中で一人ひとりが考え、学修することが求められており、それに比して日本型学修はあまりにも自律的学修時間が少ない。問題は、学生がこのことに気付いていない点にあろう。
 次に、大学教育を経営問題として捉え直してみると、大学教育に理想モデルはなく、個別の大学が個々に模索しなければならない。改革の必要性は学部に所属する一教員には理解しにくく、大学全体でどのようにしていくかという問題、つまり経営問題として捉える必要がある。多くの教員が少人数制教育=良い教育と思い込んでいるが、実は中規模でもきちんとデザインされた授業の方がよほど教育効果は高い。1990年以降、私立大学の兼務教員数は増加の一途を辿り、本務者を超える状態が一般化している。本来、コースナンバリングで科目を体系化しなければ、特に兼務教員は何を教えればよいのか分からないはずであるが、現状では教員任せになっている。
 最後に、そうした状況を踏まえて大学職員に期待される役割を考えてみると、職員に求められる改革行動としてまず期待されるのは、改革サイクルを動かす基盤を作るという点である。教育は個々の授業だけで成り立っているわけではなく、システム化と全学化が必要で、そのような方向に推進していくための基盤が必要になってくる。そして、改革を推進するための情報整備である。ミクロレベルでは、履修データなどの連結、「学修ポートフォリオ」の整備を通じた学修行動調査、授業評価などである。また、授業、施設、国際化、入試に関わるコスト分析も重要である。マクロレベルでは、全国的な動向の把握、類似大学とのベンチマーキングである。いたずらな危機感や精神主義では持続的な改革は成し得ず、情報の組織化こそが意識を変え、行動を変えることにつながり、大学改革を推進することを意識して欲しい。

−分科会−

第1分科会

「主体的学びを促進するICTを活用した学修支援環境の考察」

<情報提供>

「LMSを活用した事前・事後学修への取り組み」

名古屋学院大学教授 児島 完二 氏

「学修ポートフォリオを活用した教育への取り組み」

帝塚山大学学長 岩井 洋 氏

 本分科会には、主に教務系、システム系を中心に計43名が参加した。情報提供に続き、本協会の井端事務局長より、MOOCとそれを活用した反転授業の最新動向、日本オープンオンライン教育推進協議会(JMOOC)の設立について情報提供があった。
 グループ討論では、最初から学修システム「導入ありき」の議論ではなく、特に「目的と必要性」について、大学教育の質的転換を念頭に掘り下げた議論が行われた。講習後、議論の時間が足りないとの意見もあったが、講習内容は実情を理解する上で、実のあるものであったと好評を得た。

講習終了時における獲得目標の達成度

  • LMSについて理解を深める (達成度89%)
  • 学修ポートフォリオについて理解を深める(同92%)
  • LMSや学修ポートフォリオの目的や活用方法、課題等を認識する(同92%)

第2分科会

「教学マネジメントを活性化するためのICT活用の考察」

<情報提供>

「Webサイトで可視化する教育課程(授業科目のナンバリング、履修モデル等)体系化への取り組み」

国際基督教大学副学長 森本あんり 氏

「ラーニング・コモンズ構築を基盤とした組織的な教育改革の取り組み」

同志社大学学習支援・教育開発センター
事務長 井上 真琴 氏

 本分科会には、情報系、教務系、図書館等幅広い部門から36名の参加があり、昨年度に引続き、数名ではあったが教員の参加が見られ、貴重な意見交換ができた。事前研修の段階で、各大学における教学マネジメントの取り組み、その現状や課題を共有していたことから、少人数グループに分かれての討議では、活発な意見交換がなされた。しかし、時間的な制約もあり、十分に討議することができなかったため、本コースの運営内容や事後研修の工夫が今後の課題として残った。
 終了後に提出された「自己評価シート」では、特に、二つの事例紹介は、「大学のあるべき姿」を考える上で重要であり参考になったとの多くの感想が見られた。これらの気づきや学びを活かし、10年後の自大学のあるべき姿を目指して学修支援および教育改革に繋がることを願う。

講習終了時における獲得目標の達成度

  • 織的な教育改革を進める教学マネジメント について理解を深める(達成度68%)
  • 大学教育の質的転換を図るために期待される職員の役割について認識する (同59%)

第3分科会

「改革行動を支援するICT活用と情報システム部門の役割」

<情報提供>

「大学情報の戦略的活用による教育情報公表の工夫への取り組み」

芝浦工業大学理事室部長 石井 博文 氏

「教育改善に向けた学修支援基盤システムの高度化における情報システム部門の役割」

東洋大学情報システム部情報システム課
主任 藤原 喜仁 氏

 本分科会には、情報システム部門を中心に24名が参加した。事前研修で、自大学の報告等により主体的な参加を促し、当日の分科会冒頭でも、全体会の確認や分科会の討議テーマ・発表のポイント・最終獲得目標について確認を行ったので、参加者のグループ討議への導入はスムーズだった。他大学の事例と自学の事例とを比較検討することにより、教育改革の実行を効果的に進めるために大学の情報システム部門・職員として応えられる心構えなど、個々の考え方に気づきがあり、改革行動への第1歩を踏み出す指針を示すことができた。

講習終了時における獲得目標の達成度

  • 改革行動を支援するICTの導入とビックデータ等の利活用について認識する(達成度95%)
  • 改革行動をICTの活用により支援する情報システム部門の役割について認識する(同95%)

【おわりに】

 今回の講習会は、基調講演を始め7名の講師を迎えて充実した情報提供が実現した。参加者アンケートからも、「講演はどれもとても良かった。今までの講習でベスト」、「他大学の状況や先進校の優良事例を知ることができた。大きな収穫だった」等、情報提供への高い満足度が確認され、大学が取り組むべき課題への理解を深め、自大学での課題解決に役立つ情報を収集するという所期の目標は達成できた。
 一方、「1時間という短い時間で討議するように求められたが、初めて会うメンバーが、それぞれの状況も違う中で議論しなければならず、実際はうまくいかなかった。」、「時間が足りない。以前のように3日間の研修をしなければ答えは出せないと思う」等、開催日数を短縮しても事前・事後の研修も含めた有益な議論の場、参加者相互のコミュニケーションの場を提供するという課題に応えることはできなかった。
 アンケートから感じられるのは、講習会終了後、参加者が一様に抱えていた焦燥感だった。これは、十分な討議時間が確保されれば解決する問題ではなく、基調講演で「大学教育に理想モデルはなく、個別の大学が個々に模索しなければならない」と指摘したとおり、今、大学に突き付けられている課題は、一通りの答えが準備されているような単純なものではなく、大学がそれぞれの建学の理念に基づいて構築していかなければならない根源的な課題であることの証左ではないか。そのことも踏まえて、今後の講習会企画を検討していきたい。

講習終了時における獲得目標の達成度

  • 大学教育の質的転換が求められる改革行動について認識を深めることができた (達成度91%)
  • ICT(情報通信技術)を活用した課題解決や 価値創造のトレンドを把握することができた(同75%)
  • ICTを活用するにあたって向き合わなければならない人的、組織的課題を認識することができた(同75%)
文責: 大学職員情報化研究講習会運営委員会

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