巻頭言
川瀬 正明(千歳科学技術大学・学長)
千歳科学技術大学は「光サイエンス」を特徴とした公設民営の理工系単科大学として平成10年に開学した、まだ若い大学である。
建学の精神に「人知還流」(優れた人材、知的成果を世に送り出し、高い評価を大学に還流することで社会とともに発展する大学を目指す)を掲げているように、基礎から実社会で役立つ技術まで幅広く学び、地域、社会に貢献する人材を育成する教育を目指している。
さて、大学教育におけるICTのルーツは教育現場のOA化であろうか。「OA」と聞いてすぐイメージが湧くのは中年以上の人間であろう。20世紀後半のビジネス社会ではワープロやファクシミリ、コピー機などによりオフィスの自動化を図るOA (Office Automation)化が先進オフィスの代名詞として用いられ、その最終形態はペーパーレスなオフィスを実現すること、とされた。
しかし、いつの間にかオフィスにパソコンやインターネットが普通に使われ出し、OAという言葉自体が使われなくなった。ペーパーレスが実現したとは言えないが、すっかり当たり前のことになっている。
ところで、現在の大学教育におけるICTの利用と定着度はいかほどであろうか。もちろん日頃の情報流通・共有手段としてすっかり普及してはいるが、その利用レベルは大学によって、また同じ学内でも組織や人によって千差万別であろう。
本学では開学(平成10年)間もない頃から学生の学力レベルの多様性に対応する手段として、いわば必要に迫られてリメディアル教育のツールとしてのeラーニングシステムの開発が始められた。早期に取り組みをスタートしたこと、当時の学部長や担当教員の熱意の甲斐があって、学内外で活発な利用実績を得ることができている。このeラーニングシステムをベースとした高大連携協定締結校も平成25年度末で50高校を数え、大学にとって大きな財産になっている。
本学のeラーニングシステムの特徴は開発、製作にあたって学生が主体となるプロジェクトを構成していることである。高校の先生方や他大学の先生から素材をいただくことも多く、担当する学生にとって貴重な実践学習の場になっている。その意味では早くからアクティブ・ラーニングの先取りがなされており、完成システムとしてのeラーニングだけでなく、その開発、製作過程そのものが教育の一環になっている点が大きな特徴であり、単なる教育現場のOA化とは根本的に異なる位置づけになっている。
本学ではeラーニング以外にも各種GPを通して様々なシステム開発を行っており、学内のポータルサイトには授業の詳細スケジュール、得られる知識の明示や個々の学生のポートフォリオが記録され、教育に資するシステムが構築されている。ただ、システムが高度化され詳細になるほど、利用実績または普及の度合いがあがるとは限らず、逆の傾向になることもままある。もちろん先進的なシステムが開発され、それが使いこなされるまでにタイムラグが生ずることはOA 化の時代にも経験済みではあるが、FA(Factory Automation、工場の自動化)と違って最終的に「人」が絡むサービスにおいてはオフィスから「ペーパー」が最後まで消えなかったように、人の感性が大きな要素になる。
ICTの力で教育の効率化が図られる面は大きいが、効率化に加えていかにユーザーの感性にあった、使って心地よいシステムを構成するかが目指すところである。きめ細かく手がかかる教育の重要な支援ツールとして、ICTがますます重要なポジションを占めることは間違いない。教員の熱意と、精神論だけでは済まない教育現場に不可欠なインフラとしてのICTに期待するところ大である。