教育・学修支援への取り組み

立正大学における学修支援の取り組み

1.立正大学について

 立正大学は、品川キャンパス(2014年度より大崎キャンパスから名称変更)5学部10学科、熊谷キャンパス3学部5学科を有する学生数1万人規模の総合大学です。立正大学の起源は1580年安土桃山時代の飯高壇林に遡り、明治5年に開校、2012年に140周年を迎えました。立正大学の名称は日蓮聖人の『立正安国論』に由来し、その立正精神である真実・正義・和平に学ぶことを建学の理念としています。2013年4月に立正大学付属立正中学校・高等学校が品川から馬込へ校地移転しましたが、その品川校舎を品川キャンパスに吸収するとともに、法学部の品川キャンパスへの移転を決めました。法学部移転は2014年度からの4年間で完了の予定です。また、品川キャンパスの拡張に伴い、各種施設のリニューアルを実施していますが、特に、ネットワーク環境等の情報システム基盤の充実とラーニング・コモンズ等の図書館施設の拡充に力を入れています。

2.立正大学の教育理念、方針

 本学は立正の精神に学ぶことを建学の理念としています。立正精神は次の三つの誓いに現されています。

一、真実を求め至誠を捧げよう

二、正義を尊び邪悪を除こう

三、和平を願い人類に尽そう

  日蓮聖人が真の仏教者として社会に貢献する生き方を実践できたのは、日本の柱・日本の眼目・日本の大船になるという若き日の誓願に基づくこの『三つの誓い』であったと、流罪地の佐渡で著された『開目抄』に表現されています。この言葉をもとに本学第16代学長(第55代内閣総理大臣)石橋湛山が現代風に言い換えたものが、立正大学の建学の精神です。本学の大学教育は、この建学の精神に基づき、深い教養を備え、モラルと融合した感性豊かな専門性にすぐれた人材を育成することを目的としており、それを実践するための3つの方針として、入学者受入れ(アドミッション・ポリシー)、教育課程編成・実施(カリキュラム・ポリシー)、学位授与(ディプロマ・ポリシー)を定めています。

(1)入学者受入れの方針

 「自らの問題意識を磨き目的をもって自律的に学修する意欲のある者」、「基礎的な学力を十分に備え、主体性と意欲をもって学修・研究に励むことができる者」であることを入学者に期待しています。

表1 設置学部・学科、専任教員数、学生数(2013年5月1日現在)
キャンパス
設置学部 設置学科 専任教員数 学生数
品川 仏教 宗学科 9 212
仏教学科 9 276
文学部 哲学科 8 371
史学科 12 621
社会学科 11 598
文学科 16 642
経済学部 経済学科 32 1,628
経営学部 経営学科 27 1,354
心理学部 臨床心理学科 22 853
対人・社会心理学科科 12 370
熊谷 法学部 法学科 28 1,293
社会福祉学部 社会福祉学科 22 905
子ども教育福祉学科
14 448
地球環境科学部 環境システム学科
22 458
地理学科 14 466
258 10,495

(2)教育課程編成・実施の方針

 「全学共通カリキュラムの多面的履修を含め、基礎的な学習能力を養うとともに、人間・社会・地球環境に対する理解を深め、専門領域を超えて問題を探究する姿勢を育成する課程」、「学部・学科における体系的学習と学部・学科を横断する学際的学習とを通して、現代の多様な課題を発見、分析、解決する能力を育成する課程」、「講義および演習での学びや卒業論文等の作成を通して、知識の活用能力、批判的・論理的思考力、問題探求力、問題解決力、表現能力、コミュニケーション能力、異文化理解力などを統合する学士力を育成する課程」を編成・実施します。

(3)学位授与の方針

 「建学の精神に基づき、深い教養を備えモラルと融合した感性豊かな専門性にすぐれた者」、「全学共通教育および各学部・学科の特性に応じて編成された科目の履修を通じ、教養教育と専門教育をともに修め、所定の期間在籍し各学部・学科所定の単位を修得した者」に対して学位を授与します。

3.立正大学における教育ビジョンと学修改革

 本学では、建学の精神にもとづき教育ビジョンを構築し、その実現に向けた取り組みを進めています。その教育ビジョンが『「モラリスト×エキスパート」を育む。』です。立正大学が育む「モラリスト×エキスパート」は、私たちが生きている/生かされているこの世界をより良いものにしていく原動力となる人材です。すなわち、

1.自ら前向きに律することのできる人。

2.人の喜びや悲しみを想像し共有する感受性を持った人。

3.大人としての基礎的な教養を身につけた人。

 こうした「モラル」という基盤に一人ひとりが「これだ!」と追求したくなる専門分野を見つけ、 掛け合わせ、深め、議論し、行動を起こす。社会問題、環境問題が深刻化する中で、このような「モラリスト×エキスパート」こそが世の中で求められる人材であると考えます。そのために本学では、「予測困難な現代社会が要請する諸課題」を見据えた初年次教育・教養教育の内容の整備・充実に努めております。『「モラリスト×エキスパート」を育む。』の教育ビジョンの下で具体的な教育の質保証を確保するために、本学では、GPA、Webシラバス、授業改善アンケート、FD委員会活動の導入はもちろんのこと、次のような学修システムの改革に取り組んでいます。

(1)初年次教育の推進

 新入生が高等学校までの生活から学問探究の場としての大学生活へとスムーズに移行し、学修に積極的に取り組むことができるよう、初年次教育をとりわけ重視します。初年次教育では、まず「モラリスト×エキスパート」を育むための全学共通の必修科目「学修の基礎T」で、本学の建学の精神や沿革はもちろん、社会に生きる人間のあるべき姿(モラル)の多面的探究や大学での具体的な学修方法について学びます。また、大学での学びを確実にする上で決して欠くことのできない日本語表現、英語、情報処理等のいわゆるコミュニケーション・リテラシー関連諸科目の充実にも取り組んでいます。

(2)人間力育成支援プロジェクト(モラりす塾) の開催

 グループワーク中心の参加型学修プログラムであり、意欲のある学生に対して「教養」「自律性」「感受性」を高められるような機会を提供します。他の学生に対して影響力を与えられるような「リーダー」を養成することで副次的効果をも狙います 。同時に、プロジェクト自体を職場横断的な職員で構成し、職員が自立的にプロジェクトを運営することで、教育ビジョンへの理解を深めるとともに、未来の立正大学を担う次世代リーダーの養成を目論みます。また教員も参加型のプログラムを必須とすることで、意欲の高い学生に新しい教育手法を実践する機会を提供します。

(3)RISカフェ

 本学の学生たちに学部や学年を越えた仲間との出会いや、さまざまな学校行事への参画機会を提供するために「RISカフェ(りすかふぇ)」をオープンしています。「RISカフェ」は「ワールドカフェ」という手法を採用し、気軽に自由に議論できるような「場」を作っています。月に1度のペースで、本学連携高等学校の高校生とのカタリ場、オープンキャンパスや公開講座での懇談、「立正大学学園新聞」の取材など、大学が行うイベントに関連しての成長の「場」として提供しています。

(4)FD活動

 この数年で本学のFD活動は着実な変革を遂げました。Webシラバス、授業改善アンケート、GPA、キャップ制度、FD関連機関紙の発行、FDポスターの掲示、新任教員や専任・非常勤教員を対象としたFD研修会の開催そして学部開催のピアレビューなどがその成果です。特に、単に種々のFDのための手法や方法を導入しただけではなく、導入時点の手法や方法の不断の改善に取り組み、深化させてきた点は、FD活動として高く評価できると考えています。2014年度からは新たに学習ポートフォリオやルーブリックへの取り組みを始めます。

図1 FDの組織的な取り組み
図2 教育目標を達成するための仕組み

4.授業支援室

 本学における教育理念、教育改革、組織的な取り組み等について説明してきましたが、教育の実践の場である授業において教育目的を実現するためにも遠隔授業を含むICTの活用は不可欠といえます。そのため本学では「授業科目の一部を多様なメディアを高度に利用して、当該授業を行う教室等以外の場所で履修させることができる」等、授業科目に関する学則を改正して授業方法の多様化を制度面から整備しました。また、普通教室に対して教卓から操作できるPC(各種授業支援ツール・ソフト)、AV機器(CD、DVD、Blu-ray)、録画カメラ、プロジェクタ、スクリーン等の機器設置を推進し、授業におけるICT活用環境を施設面から整備しています。しかしながら、ICTを活用した多様な授業を展開するには、ソフトや機器類の操作知識と技術の取得がどうしても必要であり、結局は断念してしまうケースが少なくありません。こうした状況を鑑み、授業現場におけるICT活用を支援するため、2009年に授業支援室を開設しました。授業支援室の主な業務は表2の通りです。

表2 授業支援室の主な業務
教室内のPC、AV機器の操作支援と障害対応
遠隔授業のサポート
品川キャンパス‐熊谷キャンパス間の遠隔授業、国内外の他大学・研究機関等とのインターネットを使った遠隔接続をサポート
各種授業支援ツール利用サポート
クリッカー、WingnetWebOption、小テスト・アンケート用マークシステム、Web出席システム(出席管理)、端末室授業支援システムWingnet、C-LearningシステムWebClass、授業録画システムUb!Pointの活用をサポート
講習会の実施
端末室のPCに導入されているソフトウェアや、授業支援ツールの使い方についての講習や個別指導を実施
その他、機器・備品の貸出し、ICT活用支援の相談等
図3 授業録画システムUb!Point の画面例

 当初は、授業支援室の利用の仕方に教員が戸惑うこともあり、授業支援室のスタッフも大学の授業に慣れていないところもありましたが、開設以来6年目を迎え、授業支援室の役割も周知され軌道に乗りつつあります。特に、クリッカー、マークシステム、Web出席システム、WebClass、Ub!Pointの使用頻度は授業支援室のおかげで格段に向上しています。また、これら授業支援ツールの使い方等についての教員向け講習を毎年4月に開催しており、参加教員は約50名を数えます。中でも授業録画システムUb!Pointは、講義のネット配信の潮流もあって、需要が高まっています。
 Ub!Ponitではカメラ、録画、録音等の操作を教員卓備付のPCから行え、単に講義場面の録画ばかりでなく、配布資料を含めての編集ができます。学生はその動画を学内外から見ることができますが、PowerPointやPDF等の講義資料と連動した映像であるため、授業そのものとして入り込みやすいでしょう。各学部一様にいずれかの教員が使っており、また、政策広報課、学生生活課、キャリアサポートセンター等の部署でも学生への情報発信として利用されています。気になる点は、映像ファイルがUb!Point専用形式のためmp4等へ一般的な動画ファイル形式への変換が難しいこと。もう一つは授業支援室の問題ですが、映像編集のスキルを持つスタッフがいないため、教員自らが編集作業に多くの時間を費やしている点です。講義のネット配信をより簡易により多くの人に発信するには、この点のクリアが必要でしょう。
 授業支援室の今後の課題としては、授業時間外でも学生への指導的対応が行える指導補助者の育成と組織化、MOOC等を見据えての強力な教材コンテンツ作成スタッフの採用等があげられます。前者の先駆けとして2014年度4月よりSA(スチューデント・アシスタント)制度を設け、学部上級生が初年次情報教育の補助員として授業計画に参加し、初年次情報系授業における受講生の補助的対応に就かせるようにしました。ゆくゆくは院生を横断的に組織し、ICTを活用した授業やラーニング・コモンズにおける指導補助者までに成長させたいと考えています。

5.教育ビジョンを実践する授業例

 授業支援室の全面的な協力の下に、本学の教育ビジョンを実践する授業はいくつかありますが、その一つとして、本学文学部哲学科の田坂さつき教授の実践を紹介します。
 田坂教授は生命倫理をテーマに難病患者との交流授業を毎年行っています。ALS(筋萎縮性側索硬化症)患者の舩後靖彦氏を本学に招き、難病患者の施設や自宅、あるいは他の授業教室をYahoo! Messenger Meeting24、Skype 、学内遠隔システムでつなぎ、ネットを介しての画像・音声による交流が可能な環境を作ります。学生は患者と直接に対話しながら「生きるとはどういうことか」などを自らに問いかけ、患者を含めた皆と話し合いながら、生命についての考えを深めます。そして目の当たりにしているその現場から既成の考え方に囚われない自分なりの知を模索し創造して行きます。教育ビジョンである「モラル×エキスパート」が確かに実践されている授業であり、知の地殻変動といわれる時代に相応しい「生涯学び続け、主体的に考える力を育成する」取り組みとも言えましょう。
(授業事例は、本誌2011年度 No.3「遠隔通信を活用した生命倫理の授業」で紹介しています。http://www.juce.jp/LINK/journal/1201/mokuji.html

写真1 遠隔授業の様子
図4 交流授業のネットワーク構成
参考文献
[1] 今井賢:ICT活用による大学教育支援環境の展望.パーソナルコンピュータ利用技術学会全国大会講演論文集 4, pp.33-36, 2009.
[2] 峰内暁世,井川久美子,山下倫範:立正大学授業支援室運用実績によるICT活用推進に関する検討.パーソナルコンピュータ利用技術学会全国大会講演論文集 4, pp.57-60, 2009.
[3] 立正大学:立正大学140年のあゆみ.立正大学, 2012.
[4] 田坂さつき,田和久,峰内暁世,菅野智文,水谷光:ネットワークによる体験授業.情報メディアセンター年報第1号, pp.37-46,2011.
[5] 友永昌治:大学教育、ICT、そして、クラウド.2012年度情報メディアセンター報告会, 2012.
[6] 山下倫範:立正大学における遠隔システムについて.情報メディアセンター年報第1号, pp.17-35, 2011.
文責: 立正大学
情報メディアセンター長  友永 昌治

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