巻頭言
三枝 幸文(静岡産業大学・学長)
大学と地元自治体の包括連携協定の締結が近年目につくようになった。大学の役割は、教育・研究・地域貢献と言われて久しいが、特に地方の小規模大学にとって地域貢献(地域連携)は、大学の存在意義そのものとも言える。静岡産業大学は、平成6年に、磐田市と本学校法人との公私協力方式によって設立された。設立の経緯からも本学にとって地域貢献は、開学当初から運命づけられていた。現在は、磐田市(経営学部)と藤枝市(情報学部)の2か所にキャンパスを有している。平成18年には、「県民大学宣言」を出し、本学は地域社会に貢献するための大学であり、教育第一の大学であることを宣言し、本学の存在意義を明確にした。
公私協力方式で設立されたこともあって、磐田市とは開学当初から、年1回参与会を開いている。
教育の面でも、磐田市には平成13年から、藤枝市には平成15年から、冠講座を開講していただいている。それぞれ前期・後期のいずれかで15回の授業を行い、市民にも無料で開放している。これは、学生にとっては地域の課題や行政の役割を認識する上で、大きな存在である。大学も、開学以来、市民向けに様々な活動をしているが、中でも、情報関連の講座は、パソコン・タブレット・スマホと端末の多様化もあり、年齢を問わず根強い人気がある。
本学は、昨年の5月に磐田市と、今年5月には藤枝市との間で包括連携協定を締結した。しかし協定を締結してみると、連携関係を継続的・発展的なものにするためには、従来のような教員個人のネットワークに依存した活動から脱皮し、連携した大学が、相互に具体的課題とこれに応ずるノウハウを理解しあって、組織的に活動することが必要となってきた。
本学では、地域連携活動を主たる業務とする「静岡産業大学総合研究所」が、具体的テーマに応じて複数教員の専門的能力をコーディネートするなど、組織的な対応を可能とする仕組みを作ることになった。
市の連携窓口担当者と、総合研究所のコーディネートを担当する職員が一緒に、市の各課から、希望する連携事業の趣旨と具体的活動内容を聞き取り、希望に応え得る教員に繋げていく作業を行っていった。相互の窓口を一本化することにより、事務的にも言わば標準仕様ができることで、とりわけ「官」と「学」の連携がスムーズに進むようになった。これに伴い、市役所からは、市民の意見への対応についてSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)等を利用した新たな方法を提案して欲しいという声や、地元商店街の活性化や地場産業の振興に関して、中小企業のためのSNSの活用、特にデータを如何に分析してマーケティングに活用するかに関する講習をして欲しいという要望が極めて多く寄せられた。
今日、SNSは、組織運営や地域活性化などの場面で注目されている。SNS活用に対するリテラシーを高め、解析結果から有意味なデータに気付き、消費者の行動や態度の根底にある本音を把握する能力が重要となるが、この部分にかなりの関心があることが分かった。加えて、地域からは事業の企画スタッフまた実働要員として、学生の若い力への期待が大きいことも改めて認識できた。本学としては地域のニーズに応え、地域連携の中で、学生を巻き込んで現実の事例を学ぶことは、極めて大きな学修効果が得られると理解している。そのためにも学内のSNSを活用した学修環境をさらに構築していきたいと考えている。