人材育成のための授業紹介・歯学

電子ポートフォリオシステムのチーム医療教育への活用

片岡 竜太(昭和大学歯学部スペシャルニーズ口腔医学講座 歯学教育学部門教授)

1.はじめに

 チーム医療に参加できる医療人になるために必須な基本的能力であるコミュニケーション能力、情報リテラシー能力、生涯学習能力、自己評価能力を涵養するためには、教養課程から専門課程に至るまで一貫した教育が必要です。本学の1年次の学部連携教育では、全学部生が富士吉田キャンパス(山梨県)に寄宿(全寮制)し、個々の学生の習熟度や特性に応じた教育を行うことを心掛けています。2年次から学生は学部ごとに三つのキャンパス(旗の台、洗足[東京]、長津田[横浜])に所属し、卒業まで臨床教員を含む様々な教員から指導を受けます。
 紙媒体のポートフォリオを様々な教員が共有して学生の指導に活かすことは現実的には難しかったため、6年一貫教育を実践するために、電子ポートフォリオシステムの構築をしました。ここでは電子ポートフォリオシステムを紹介するとともに、同システムをチーム医療教育へどのように活用しているかを紹介します。

2.授業科目の位置づけ

(1)6年一貫のチーム医療教育と専門教育

 本学(医学、歯学、薬学、保健医療学部)は2014年に昭和大学の学生が卒業時に有している医療人としての能力(コンピテンシー)を以下のように制定しました。
医系総合大学である昭和大学は建学の精神である「至誠一貫」のもと、「真心と情熱をもって医療の発展と人類の健康増進と福祉に寄与する人材の育成」を教育の目標としています。全学生は卒業時に以下の七つのコンピテンシーを身に付けていることが期待されます。

 コンピテンシー(3.チーム医療)を到達するために、図1に示す4学部が連携したチーム医療教育を入学から卒業まで一貫して実践しています。すなわち、1年次には全寮生活を基盤として、4学部で連携した初年次体験実習および学部連携PBLチュートリアル、3年次・4年次には学部連携PBL、5年次には学部連携病棟実習を実施しています。

図1 6年一貫の4学部連携チーム医療教育

 6年次には学部連携地域医療実習、アドバンスド病院実習を選択実習として実施しています。
 6年一貫教育の中で、学生の習熟度に合わせたきめ細やかな指導を行うには、学生と教員の間の「情報交換」や学生の「ふりかえり」、教員からの「フィードバック」を促すことが重要です。そこで、本学では2008年から電子ポートフォリオサイトの試験運用がスタートし、2010年から電子ポートフォリオシステムの運用を開始しました。

(2)授業内容

 医学部(約120名)、歯学部(90名)、薬学部(200名)、保健医療学部(200名)が学部混成のグループで、段階的に学部連携PBLおよび学部連携病棟実習を必修授業として受けます(図2)。初年次のPBLは約600名の学生が72グループに分かれ、各グループにファシリテーターが1名ついて、3週間にわたり、医療倫理などの課題(シナリオ)に取り組みます。第2段階は医歯薬3年生、保健医療学部2年生が同様に脳梗塞やリウマチなど臨床的な課題に取り組み、患者や家族の問題を把握し、その問題解決を図ります。第3段階は医歯薬4年生、保健医療学部3年生が、模擬カルテをシナリオとして、病棟実習をシミュレーションした形で問題に取り組みます。最終段階は医歯薬5年生、保健医療学部4年生が4学部混成の4〜5人のグループになり、昭和大学7付属病院の延べ120病棟で、一人の入院患者さんを1週間担当させていただく実習を行います。

図2 累進型PBL

(3)電子ポートフォリオシステム概要

 6年間一貫した指導を学年と学部を超えて徹底するために、Web上で学生・教員間のコミュニケーションを支援するコミュニティサイト構築用ソフトXoops(Extensible Object Oriented Portal System)を利用して、図3のような電子ポートフォリオシステムを構築しました。

図3 電子ポートフォリオシステムの概要

 本システムでは、過去に提出したポートフォリオを「閲覧サイト」で、学生と教員がいつでもどこでも閲覧することができます。学生は授業のオリエンテーションを聞いた後に、今回の授業の目標に以前の授業で到達できなかった点も加えて「目標書き出しシート」に記入し提出します。授業終了後、学生は授業をふりかえり、達成できたこととできなかったことを「ふりかえりシート」に書き、自分がこの授業を通じていかに成長したか、そして今後どのように活かすかを「成長報告書」に書きます。教員は学生が気付いていない成長に気付かせ、達成できなかったことをできるようにするために、どのようにすればよいかを指導します。

(4)電子ポートフォリオシステムの実際

 ログインし、メイントップページにある実施中のユニットの名前をクリックすると個別の授業のトップページ(ユニットトップページ)が表示されます(図4)。
他の授業で提出したポートフォリオや提出物、またこれらに対するコメントなどの学修履歴を確認できます(図5)。ポートフォリオや提出物を提出する際には、当該ユニットのポートフォリオの時系列表示画面に移ります。この画面は学生一人ずつに別の画面として用意されており、学生が他の学生の提出物や他の学生への教員コメントを閲覧することはできません。一方で、その授業を担当している教員や学生を指導している教員からは閲覧できるようになっています(図6)。様々なファイル(Word や PowerPoint、画像、動画など)を提出することができます。

図4 電子ポートフォリオのトップページ
図5 学修履歴の閲覧(学生)
図6 ポートフォリオの提出
図7 教員のフィードバック

(5)教員のフィードバック

 教員がログインすると、担当している授業の学生別のポートフォリオ一覧に提出コメントと共に表示されます。フィードバックや返信を随時送信できます(図7)。

(6)電子ポートフォリオの活用

 第1から第4段階(図2)のすべての授業で、学生は電子ポートフォリオを用いて授業前に「目標書きだしシート」授業後に「ふりかえりシート」「成長報告書」を提出します。また授業中に学生グループが決めた学修項目について、調べた内容をA4版2枚以内にまとめた「学修成果のサマリー」とその内容をグループメンバーに説明する際に用いる「説明用ファイル」をシステムに提出し、グループ(学生と教員)で共有します。さらに、グループでディスカッションして作成した、患者や家族の問題の全体像を把握するための「プロブレムマップ」や「ホワイトボードに記載した内容」もシステムに提出し、共有を図ります。

(7)学生が提出したポートフォリオと教員のフィードバック

 授業終了時に、「ふりかえりシート」に以下のような項目について授業をふりかえりながら書いてもらいます。

1.学部連携PBLの到達目標のうち達成できたもの、できなかったものは何ですか?

1 グループ内でのコミュニケーション

2 自己主導型学修(説明ファイル・引用文献・図書など)

3 PBL(シナリオの問題共有と解決策の提示)

4 医療人としての将来の展望

2.グループとして患者さんや家族に満足できる治療・ケアプランが提案できましたか?

具体的にどのような提案をしましたか?

3.今の気持ち・感情はどうですか?

4.学部連携病棟実習、臨床実習に向けて、さらに勉強、実習すべきことは何でしょうか?

5.プロブレムマップを患者さんの問題把握と治療・ケアプランの作成に際して、どのように活用しましたか?

 具体的な成長報告書の例を図8に示します。

図8 成長報告書の例

3.教育実践による改善効果

(1)電子ポートフォリオシステムの利用状況

 2013年度の本電子ポートシステムは医学、歯学、薬学、保健医療学部連携教育や各学部教育で約90の教科で活用されており、登録学生は全学で延べ6,514名、教員が806名でした。電子ポートフォリオの提出はすべての4学部連携チーム医療教育で必修化されており、評価に組み込まれています。したがって提出率は99%以上となっています。

(2)ポートフォリオ記載内容の経年的変化

 4学部連携チーム医療教育におけるポートフォリオにおける記載を同一学生について、経年的に比較しました。コミュニケーション、グループワーク、自己主導型学修のカテゴリーに分けて、経年的な変化を検討しました。すべてのカテゴリーで、1年次と比較して3年次では意識の深まりが見られました(表1)。

表1 同一学生のポートフォリオへの記載の経年的な変化の例
  コミュニケーション グループワーク 自己主導型学習
1年生 自分の中で意見を整理してから発言することを心がけていきたい。 自分で調べて知識を取り入れていく楽しさや、他人の意見を聞きながら疑問を解決していくおもしろさに気づいた。 関連項目の知識を盛り込み、簡潔にわかりやすく、読みやすいサマリーを作るべきだと思った。
3年生 ただ議論をするだけではなく、お互いの立場や専門を考慮したコミュニケーションをとりたい。 それぞれの知識が深まり、議論していても様々な視点があることを知り、新しい発見が多く、楽しくできた。 自分の学部の専門領域から患者に適した治療やケアを提案することが大切であることを痛感した。

(3)目標設定能力・自己評価能力・将来像を見据える能力の改善効果

 無作為に抽出した20名の学生の目標設定能力、自己評価能力、将来像を見据える能力を1〜4年次に提出したポートフォリオ(目標書き出しシート、振り返りシート、成長報告書)において2名の教員が評価しました。評価が異なる場合は協議をして、最終的な評価は著者が行いました。目標設定能力、自己評価能力、将来像を見つめる能力の評価基準を表2に、評価結果を表3に示します。

表2 ポートフォリオの評価基準
レベル A.目標設定能力
1 具体性がない
2 具体性はあるが達成度を考慮していない
3 具体性があり、達成度も考慮している
 
  B.自己評価能力
1 目標が到達できたか書かれていない
2 目標の一部のみ到達できたか書いてある
3 目標が到達できたか明確になっている
 
  C.将来像を見つめる能力
1 将来について触れていない
2 将来像はある程度あるが、現在との関連づけができていない
3 将来像が明確で、現在との関連づけができている
表3 1〜4年次のポートフォリオ評価結果
S:目標設定能力、R:自己評価能力、F:将来像を見つめる能力

 目標設定能力の評価(平均点)は1年次2.0、2年次2.3、3年次2.6、4年次2.7と、学年が上がるにつれて上昇し、4年次では70%の学生がレベル3に到達していました。レベル3の学生は、目標が具体的で、どのように達成するか考えて目標を立てていました。自己評価能力に関しても同様で、75%の学生が4年次にはレベル3に到達しており、何についてどのように実施できたか、あるいはどの程度理解できたかが明確になっており、今後の具体的な目標へとつながっていました。将来像を見つめる能力も同様でした。

(4)電子ポートフォリオ導入による効果のまとめ

 現時点における電子ポートフォリオによる教育効果をまとめると以下の通りです。

1)適正な到達目標の設定と達成感の獲得

特に6年一貫教育では、前の学年の電子ポートフォリオを参照して、到達度を考慮した目標設定ができるようになり、達成感がもてるようになりました。

2)自己評価能力の向上

上級学年になるにつれて、到達目標の達成度を自己評価できるようになりました。

3)医療人としての将来の展望

将来の医療人としての自分の姿を常に考えることによって、現在の学修の位置づけができるようになりました。

4.今後の改善点

 電子ポートフォリオを書く際には、将来良い医療人になるために、現在の自分のありのままの姿をポートフォリオに書くように学生に指導を行うことが重要だと考えます。学生に真の姿を吐露させるためには、学生に対するガイダンスの実施と、学生と教員との信頼関係が重要です。コンピテンシーを卒業までに必ず身につけられるように指導することを学生に約束するという意識を全教員が共有しなければ、ポートフォリオという学生と教員との共同作業は決して実を結ばないと考えます。
 本学では理事長、学長の指導下、建学の精神である「至誠一貫」を体現できるように、大学全体でチーム医療教育を推進しています。また、学生に対する指導を徹底するために、全学で指導担任制度を実施し、教授・准教授を中心に各教員が4〜8名程度の学生に対して、主に学業成績や出欠席などの学生情報をもとに対面指導を行っています。指導担任制度はある程度の成果をあげていますが、電子ポートフォリオシステムも組み合わせることにより、指導担任は学生の普段の学びの様子を把握することができ、各教科の指導教員と連携してさらなる教育効果を上げることができると考えます。


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