事業活動報告No.1

平成26年度 大学職員情報化研究講習会
(基礎講習コース)開催報告

 本協会では私立大学における職員の職務能力の開発・強化を支援するため、主体的な学びを促す教育環境の工夫等、情報通信技術(ICT)を活用した大学改革の基盤づくりについて認識を深めることを目的として、基礎講習コースと応用コースの講習会を実施している。
 本年度の基礎講習コースは、参加者がICT活用の可能性や工夫について基礎的な理解を深め、大学の経営戦略や教育活動の充実に向けて主体的に取り組む考察力の獲得を目指して、7月16日〜18日の3日間、加盟校・非加盟校合わせて73の大学・短期大学から139名(昨年度比15%増)の参加者を集め、静岡県浜松市の浜名湖ロイヤルホテルにて開催した。
 参加者の内訳としては、所属部門別では、学事・教務部門が30%、情報センター部門が22%と、この2部門で過半数を占めるが、学生、総務、就職、会計経理、企画、人事、図書館、広報、財務、管財と、大学における業務の全部門に亘っている(図1)。在職年数別では3年以下が74%、また、年齢別では20歳代が80%を占めており、本講習会を職員の初年次研修に組み込んでいる大学もあり、ICT系を中心に経験者採用された方々の参加が多いことも特徴である。また、50歳代高年齢層の参加者が3%を占めていたことも昨年度までにはなかった傾向であると言える(図2)。

図1 参加者の所属部門別構成
図2 参加者の年齢別構成比

 本講習会は、開会時間前から参加者間にて、積極的に挨拶や名刺交換が盛んに行われ、講義形式、グループ討議による研修に加えて、他大学職員との交流の場として活用されている。
 また、本講習会のねらいを達成するために、全体研修とグループ討議の2部構成にて実施した。

基礎講習コースのねらい

1.事前研修

 大学を取り巻く環境、社会が大学に求めること、ICTを活用した学修環境など、Webサイト上のコンテンツや昨年度の本講習会におけるグループ討議の成果等により、参加にあたり事前に把握いただきたい基礎的な情報について、理解を深めた。それに加えて、自大学の本年度の事業計画書に目を通すとともに、現場の問題点を捉え、大学改革及びICT利活用のキーワード等についても、事前に学習した。

2.全体研修

 研修を進めるにあたり必要となる、大学を取り巻く環境、大学改革や大学教育の質的転換の必要性、情報通信技術(ICT)活用の意義などについて、基礎的知識や情報を提供するとともに、事前研修の成果を確認しつつ、課題を共有することにより、課題に対する理解を深めることができた。

(1)イントロダクション

「研究講習会での学びについて」

説明者:木村 増夫氏(学校法人上智学院理事長付主幹、大学職員情報化研究講習会運営委員会委員長)

 大学の経営戦略や教育活動の充実に向け、大学を取り巻く環境や大学教育への社会的要請を踏まえ、課題解決に向けて大学職員の果たすべき役割と求められる能力について説明があった。
 はじめに、「開催の趣旨、ねらい」について確認するため、大学を取り巻く環境の変化や、参加者の基本的な姿勢について説明があった。
 文部科学省から平成24年6月5日付で報告のあった「大学改革実行プラン(社会の変革のエンジンとなる大学づくり)」について紹介と、我が国が直面する課題、将来想定される状況から、我が国が目指すべき社会や求められる人材像・目指すべき新しい大学像についての説明があり、激しく変化する社会における大学の機能の再構築、大学の機能の再構築のための大学ガバナンスの充実・強化についての説明が加えられた。
 続いて、平成25年6月14日付で閣議決定した「第2期教育振興基本計画」についても紹介があり、教育行政の四つの基本的方向性、1)社会を行き抜く力の養成、2)未来への飛躍を実現する人材の育成、3)学びのセーフティネット、4)絆づくりと活力のあるコミュニティの形成について説明があった。
 大学職員に求められる能力(職員力)について、「私立学校法一部改正の概要」「最近の文部科学省の動向」「学校教育法の改正」「国立大学法人法の改正」等を資料として、職員一人ひとりが自律的に取り組み「情報」を収集・分析し、それに基づき解決策を考え行動に移す「情報活用能力」と「実行力」が重要であるとした。

(2)情報提供

 事前学修の成果を確認しつつ、解説を加えて課題を共通し、課題に対する理解を深めた。また、グループ討議で参考にしていただきたい三つのICT活用事例について、次の通り紹介があった。

「ICTの活用と課題」

講師:濱谷 英次氏(武庫川女子大学共通教育部長、外国語教育推進室長)

 大学の業務改革、教育改革におけるICT活用の現状を紹介し、今後考えるべき情報システム(IR、ポートフォリオなど)及び支援体制について、武庫川女子大学における導入事例を交えて解説された。
 ICTは、従来までのネットワークやマルチメディアをはじめとする環境整備ツールから、教育改革・大学改革のためのツールに変革している。中央教育審議会等の動向や背景からも、この20年間で教育の質保証が鋭く問われており、大学の社会的責任の明確化、自己点検・自己評価(第三者評価)、組織としてのガバナンス確立が求められている。
 ICTの利活用を考えるには、大学としてのポリシーに沿っていることが前提であり、そのポリシーの原点には「建学の精神や理念」があることを再度認識して置く必要がある。これらを受けて、教育・研究・管理運営の改善や向上に寄与することが必要とされている。
 それには、1)導入目的は何か、2)期待する成果や効果は何か、3)成果や効果は何をもって評価するのか、4)責任ある組織体制は確立しているのか等、事前の課題分析が重要である。特に、計画から具体化の過程段階では、ハードウェアやソフトウェアの耐用年数後の計画や費用対効果等についても、視野に入れることが求められる。さらには、当該ICT利活用に関わる取り組みの全般を評価する仕組みを確立し、従来型の「使う」から「使いこなす」ことを忘れてはならない。
 「使いこなし」が活用される一事例として、ポートフォリオがあげられている。ポートフォリオという言葉は、「自らの持つ様々な情報をひとまとめにして一覧にできるようにしたもの」といった意味合いで使われていることが多く、大学においては教育の質向上や学修の実質化の議論と関連して良く用いられている。中央教育審議会答申の「学士課程教育の構築に向けて(平成20年12月24日)」において、「学生が、自ら学修成果の達成状況について整理・点検するとともに、これを大学が活用し、多面的に評価する仕組み(いわゆる学修ポートフォリオ)の導入と活用を検討する」、「授業改善に向けた様々な努力や成果を適切に評価する観点から、教員が教育業績の記録を整理・活用する仕組み(いわゆるティーチング・ポートフォリオ)の導入・活用を積極的に検討する」が背景となり、現在特に注目を浴びている。
 続いて、課題に関する情報収集・分析を行い、解決方策を大学に提供するためのツールとして活用が期待されている大学ポートレートや自己点検・自己評価に必要不可欠とされるIRについても、その必要性等についての紹介もあった。

「クラウドコンピューティング入門」

講師:鈴木 浩充氏(東洋大学情報システム部情報システム課長、大学職員情報化研究講習会運営委員会委員)

 コスト削減や災害対策、人的負担の軽減が求められる中、クラウドのメリットや課題、留意点、利用形態など導入の判断基準を確認するとともに、東洋大学における事例を通じてクラウド基礎について解説された。
 大学は、教育研究の社会的責任を果たすために自前で情報システムを整備してきたが、提供するシステム、迅速な対応、セキュリティ、コスト、人員等の面から最適な情報システムを検討する必要が生じている。その際、検討すべき選択肢の一つとして、クラウドサービスの導入が有益であることが話題とされている。このサービスは、数多くの大学で電子メールサービスなどを中心に導入されており、サーバ等の設備を保有せずに短時間でシステムの構築ができることや、運用に伴う負担削減に加えて、新たに大学連携、産学連携などにより教育機能の高度化を可能にするなど、新たな付加価値の創造が期待されている。
 一方、大学情報システムの大きな課題として、情報の保管場所や管理内容などのセキュリティ面や、災害時、障害時などに最適な対応がとれるような備えを準備しておくことが課題となっている。
 導入のメリットとして、学修支援、大学での生活支援などの充実向上、教育、研究、経営機能の情報環境整備が計画段階から導入まで短期間で行うことができ、計算・蓄積・ソフト等資源の所有を最小限に留められることから、情報化投資や運用経費削減が可能になること、またインターネットを経由して何処からでもアクセスすることができるため、学生や教職員の利便性が向上すること、大学連携、産学連携、高大連携などに利用することで、新たな教育機能の付加価値の創出をもたらすことが可能となり、学内の環境負荷の軽減が図れること等があげられている。
 反面、課題としては、データ保管場所によってはその国の法律が適用されるため、日本基準の情報保護と異なるリスクがあり評価基準の整備が急がれること、障害の生じた際の原因追究が困難であり、自ら復旧することができないため、業務に支障が生じることがあること、過度にクラウドに依存することで、学内の運用能力や実装能力、事故対応能力が低下すること、標準化された機能に限定されるため、教育課程のカリキュラム編成などの変化に対応する改編ができないことが多いこと、また利用者数、利用時間、利用機能の拡大によっては、自前の設備よりコスト高になる可能性があり、インターネットに障害発生するとシステムが利用できなくなるリスクを考慮しておく必要があること等がある。
 これらの導入のメリットや課題等を念頭に置き、東洋大学のPCクライアント(教育系・事務系)構成、プライベートクラウド(学内運用)及びパブリッククラウド(学外資源)の側面について、導入事例を用いて紹介された。

「事前・事後学修をICTで強化する取り組み」

講師:高木 功氏(創価大学日本語・日本文化教育センター長、経済学部教授)

 教室外での学修時間の確保と知識理解の定着を図るための予習・復習をネット上で構築し、学生の学修行動を支援する取り組みについて、創価大学における事例について解説された。
 自律的、能動的な学修者の育成は、大学教育の重要な目標の一つである。学生と学生が互いに討論する機会の意識的な創出と大学カリキュラムへの効果的編入は、問題意識の涵養、能動的な学修姿勢の喚起、コミュニケーション能力、人間関係形成力の育成に、必須と考えられる。しかし、「討論(話し合い)」をクラスの中で実施することに、特に大規模なクラスにおいては困難である。LTD(Learning Through Discussion)は、討論のための予習、実施のステップと枠組みが体系化されており、参加する学生はスムースに話し合いのスキルの修得と喜びを感じられるよう工夫されている。LTD法は、演習のような少人数クラスにはもちろん、むしろ大規模クラスには非常に有効な協同学修法と評価され、あわせて学修支援ポータルサイトを併用することによって、さらに効果的となる。また、単位の実質化のためには予習・復習という各学生個人の個別学修時間を確保することが必要である。
 創価大学では、学修支援ポータルシステム(PLAS)を既に導入しており、このシステムの多様な機能、例えば、シラバス、レポートボックス、小テスト、授業アンケート、講義連絡、成績評価等の管理機能を活用することによって、LTDを含む講義による成果の確認や改善が可能となっている。高木氏の担当科目においても、このPLASを活用してほぼ毎回、授業アンケートを取っており、また、頻繁に授業の前にキーワードを課題としてPLASを通じて課し、調べた課題をPLASのレポートボックスに提出させている。アンケートの内容は同じく、このPLASを講義に活用している。

(3)全体討議

 全体討議は、冒頭に30分ほどのミニグループ討議の時間を設け、グループごとに情報提供に対する情報交換を行い、その上で情報提供者に対する質問事項をまとめ、それに対する回答・補足を情報提供者から説明をする形で進めた。
 グループごとで情報交換することにより質問事項や疑問点等も共有することができ、活性化した討議に繋がり、能動的に討議を進めることで、さらに理解を深めることができた。
 本報告の冒頭に掲げた、本講習会のねらいを再確認した上で、グループ討議でも念頭に置いて意見を交わし、成果を持ち帰っていただきたいと全体討議は締めくくられた。

3.グループ討議

 グループ討議では、自らがどのように教育改革や大学改革に関与すべきか、対話と議論により望ましい改善案の提言作りを通じて、主体的な考察力、イノベーションに取り組む姿勢の獲得を目指した。7〜8名を1グループとして18グループに分かれ、討議のサポート役として、3グループに1名、研修運営委員を配置した。本年度は、昨年度とは異なり3グループを1部屋(全6部屋)に配置することが可能だったため、より密度の濃い討議ができる環境を用意することができたと言える。また、「グループ討議『見える化』シート」により討議のポイント明示することで、限られた時間内で効率よく、実施的な討議が交わされるよう配慮した。参加者に修得していただきたいスキル(能力)について6項目を設定し、3段階の自己評価により到達度の確認を図った。

(1)課題発見能力

 大学が抱える諸問題について、その本質的な課題を探るため、多様な観点から事象を分析しようとする態度を持つ。

(2)創造的思考力

 課題解決を図るため、積極的にアイデアや意見を述べて、創造的な議論を、促そうとする態度を持つ。

(3)コミュニケーション能力

 他のメンバーの意見やアイデアを尊重し、議論を発展させるためにお互いに協調しようとする態度を持つ。

(4)スキルを使う姿勢と態度

 討議を通じて学んだ成果を認識し、これを常に磨きながら、自身の大学の教育改善に使おうとする態度を持つ。

(5)プレゼンテーション能力

 グループでの討議内容を他のグループに分かりやすく伝えるため、相互に協力しながらスライドを作成する。

(6)発展的思考力

 質疑応答や他グループの発表から、新たな着眼点や改善点を発見して、それを相互のブラッシュアップにつなげようとする態度を持つ。

<グループ討議の流れ>

「ステップ1:気づき、発見の時間」

 第1部(事前研修、イントロダクション〜全体討議)より、大学改革の必要性、職員に求められる能力、ICTを活用して教育改革及び業務改革に関与することの重要性と主体的な取り組み姿勢について、各自がどのような“気づき”を得ることができたか、グループ内で発表し、共有した。

「ステップ2:討議と成果のまとめ」

 大学改革や主体的な学修環境を構築するにあたり、職員各自が果たすべき役割や、それを実現する手段としてICTを活用する意義、重要性について確認、共有し、教育活動や大学の管理運営のイノベーションの実現に向けてICTを活用した望ましい改善策の構想作り等について、以下のステップを踏んで議論を行った。

1)テーマ設定

2)問題点の深堀り

3)解決策の検討

4)討議結果のまとめ

5)発表準備

「ステップ3:発表会と意見交換」

 グループ討議の成果発表、グループ間での相互評価、意見交換を行った。

「ステップ4:省察(アンケート記入)」

 グループ討議、発表会・意見交換会を踏まえて、各自、省察を行った。

 グループ討議の進捗や成果は、それぞれのグループにより異なるが、その一部を以下に紹介する。

「守破離(しゅはり)〜個性ある学生を育てるために〜」

 守破離は、日本での茶道、武道、芸術等における師弟関係のあり方の一つである。日本の文化が発展、進化してきた創造的な過程のベースとなっている思想でもある。
 まずは師匠に言われたこと、型を「守る」ところから修行が始まる。その後、その型を自分と照らし合わせて研究することにより、自分に合った、より良いと思われる型をつくることにより既存の型を「破る」。
 最終的には師匠の型、そして自分自身が造り出した型の上に立脚した個人は、自分自身と技についてよく理解しているため、型から自由になり、型から「離れて」自在になることができる。
以上をまとめると、

「守」:指導者の教えを忠実に守り、聞き、模倣する段階(イミテーション)

「破」:指導者の教えを守るだけでなく、自分の考えや工夫を模索し、試みる段階(シュミレーション)

「離」:指導者から離れ、自分自身の方を作る段階(イノベーション)

図3 グループ討議発表スライド(抜粋)

 この思想を学生の成長モデルと照らし合わせて、個性ある学生を育成するための提案がなされた。提案内容には、コミュニケーション力を確保するための方策、電子ポートフォリオやe-Learning等のICT活用が盛り込まれており、またICT活用だけでなく、運用で対応できること等についても、積極的に討議された。

4.まとめ

 本年度の基礎講習コースは、全体研修では大学を取り巻く環境、ICTを活用した大学改革や大学教育の質的転換の重要性、クラウドコンピューティング及び授業改善の一方策などに関する情報提供がなされた。また、グループ討議では、参加者自らが大学改革の課題を発見し、その解決について討議し、大学のイノベーションの提案、ICTの活用についてまとめた。「大学の役割」について論じた結果として、「次代を担う人材育成」が全グループの共通の見解であった。
 具体的な改善の対象としては、学生支援を扱うグループと、授業改善や教育の仕組みに対する改善といった、教員、大学へのアプローチについて議論したグループに分かれた。
 研修という限られた時間の中で、すべての課題を網羅することができた訳ではないが、様々な大学の、様々な部門の職員が集まり、多角的視点から大学改革に関する議論がなされたものと推察している。
 研修終了後、討議のまとめと発表内容をもとに、グループとしてのレポートと発表スライドを提出いただいた。限られた時間の中では議論を尽くせなかったこと、相互評価や質疑応答から気づいたこと、発表までにはまとめきれなかった部分等について、電子メール等による討議により洗練度が上げられており、合宿研修の成果を職場に戻って振り返り、改めて報告書としてまとめることで、成果をより着実に自身のものにされた方も多いと思われる。
 事後のアンケート結果から、入職から日の浅い者にとっては情報提供の内容や課題が難しかったとのコメントも見受けられたが、問題に気づき・発見し、課題を洗い出し、解決策を考えるという日常では経験できない研修は、大学職員として一段の飛躍につながり、日常業務でも実践していきたいという前向きなコメントも寄せられていた。
 また、同アンケート結果には、スケジュール設定や運営体制側への要望や改善事項等も寄せられおり、今後より良い運営体制で講習を進めるため、運営委員会等で問題を整理し、改善を図ることにした。
 2泊3日の研修の場でできることは限られているが、研修で得たことを各自が実践し、自大学内に広めることで、自己と大学全体の職員力の向上に繋げていただければと願っている。

文責:大学職員情報化研究講習会運営委員会


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