事業活動報告No.5

平成26年度 短期大学教育改革ICT戦略会議 開催報告

 平成26年度の本会議は、9月4日にアルカディア市ヶ谷(東京、私学会館)にて、「短期大学士力」の抜本的改革をテーマとして開催し、参加者数は昨年度よりも増加し、58名(39短期大学)であった。
 短期大学は、教育の面から4年制大学と専門学校との差異化を通じて、その役割と機能の強みを具体的に明確にしていくことが問われている。中央教育審議会においても、短期大学士に必要な能力を整理確認する中で、職業一般に必要な教養教育、地域・企業等社会の人材ニーズに対応した教育、ライフステージに応じた教育、学士課程教育への接続教育が重要とされている。
 このような状況下で、地域社会や産業界から強く求められている「短期大学士力」を有する有為な人材育成に積極的に取り組む必要があり、アクティブ・ラーニングなど効果的な教育方法の導入による教育改革が不可欠となっている。
 そこで、社会や地域と連携しながらアクティブ・ラーニングなど教育の工夫を行われている短期大学から事例紹介をいただき、中央教育審議会における短期大学士力に関する意見や短期大学の課題についても紹介いただいた。また、3年前より構想し、今年度開始した「短期大学就業力コンソーシアム」の活動として、短期大学教育の在り方を点検するエビデンスとして、短期大学として取り組むべき課題を洗い出し、教育改善に向けた取り組みを促進するための卒業生アンケートの実施結果を報告した。詳細は以下の通りである。

アクティブ・ラーニング事例紹介1

「アクティブ・ラーニング手法を取り入れた地域・産業界との連携教育」

静岡英和学院大学短期大学部食物学科准教授 前田 節子 氏

 従前より実践している就業力育成支援事業を、さらに23大学・短期大学からなるグループにおいて、アクティブ・ラーニングを活用した教育力の強化と地域・産業界との連携力強化の2点を柱とした事業に取り組んでいる。
 2012年に行ったアンケートの結果において、積極性など社会人に必要とされる能力が低いという結果を踏まえて、アクティブ・ラーニングを用いて社会人基礎力の向上を目的とし、学生企画による食育劇の上演など食育活動の参加状況、インターンシップへの参加状況、および内定状況についてそれぞれ能力特性との関連について調査を行った。
 評価には評価方法の一つであるPROGを用い、リテラシー評価においては、1、2年生を比較した場合、食育活動参加者には課題発見力、インターンシップ参加者では情報収集力を除く能力、内定者では情報収集力と言語処理能力でそれぞれ差が見られた。また、コンピテンシー評価について同様の比較を行った場合、あまり差が見られなかったが、内定者と非内定者との間では大きな差が見られ、特に2年生においては対自己基礎力、自信創出力、行動維持力などについて有意差が見られた。
 これらの活動は、コンピテンシー評価される能力がアクティブ・ラーニングにより大きく影響することで、より産業界との連携推進や地域活動の発展に寄与することが期待される。

アクティブ・ラーニング事例紹介2

「自ら考え行動しチーム貢献できる保育者養成」

聖徳大学大学院教職研究科
聖徳大学短期大学部保育科教授 藪中 征代 氏

 本取り組みは、学生が少人数コミュニティを形成し、教員はファシリテーターとして、学生の主体的な学びを推進する教育プログラムを展開することを目的としている。学生間と学生・教員間の双方向学習が可能で、学習テーマや活動内容などをコミュニティごとに決定して実践することで幅広い学びが保証され、自ら考え行動していくことによって課題探求能力と人間関係調整力を向上できることが特徴である。
 学生は、自分の成長を記録するプログレスノートに活動を記入しながら、コミュニティごとのテーマ学習を情報収集やフィールド学習の結果を通じて、学生フォーラムで最終発表する。教員は、研修会を通じてスキルと質を向上させることで、課題解決型学習の実効性を高めている。
 評価としては、学生による自己・学生間評価や満足度、教員や外部による評価など多面的に評価を行い、概ね高い評価が得られた。
 また現在では、大学COC事業「信頼と共感でつなぐ“ふるさと松戸”づくり」が行われており、地域貢献科目の必修化により、地域の保育現場に出向き子育て支援に取り組むことで、アクティブ・ラーニングを活用して知識と活力と仕事力のある保育者の養成を目指し、広義の地域貢献や地域貢献活動の実践に繋がるように計画されている。

話題提供

「短期大学士力の考察〜中央教育審議会での意見を踏まえて〜」

中央教育審議会大学教育部会短期大学ワーキンググループ専門委員
東京大学大学総合教育研究センター教授 小林 雅之 氏

 中央教育審議会大学分科会大学教育部会短期大学ワーキンググループにおいて、平成26年8月に「短期大学教育の在り方」がまとめられた。元来短期大学は、短期の高等教育機関として社会に有為な人材を送り出すために高等教育の機会均等を確保し、地域社会を支えるべく職業人材の育成の役割を担ってきたが、グローバル化や情報化の進展、少子高齢化に伴うこれからの知識基盤社会は、大学教育に対して明確なアウトカムを求める傾向にある。
 18歳人口の減少、学生の4年制大学志向の拡大など、短期大学を取り巻く経営環境は依然厳しいが、その中で短期大学の強みと弱みを明らかにし、専門学校との差異化を図り、情報を公開・発信する中で短期大学士力が明確に提示されることになろう。
 短期大学を専門学校と比較した場合の最大の強みは、質保証であり、設置審査は言うまでもなく、認証評価機関である短期大学基準協会により事後の評価による質保証がなされている。さらに、育成する人材像に合わせて教養教育を取り入れた一貫したカリキュラムが構築されている。特に教養教育は、今後、旧設置基準から受け継がれた「人文・社会・自然科学」を基礎とするだけでなく、情報科目に代表されるような新しい社会ニーズに対応し、かつこれらを包括する言語能力と論理能力を育成する内容へと進化する必要があろう。また、4年制大学と比較すると、少人数教育や担任制度など、きめ細かな教育を提供できる利点があり、導入教育としての性格を持たせることもできる。
 短期大学教育の在り方として、職業一般に必要な教養教育、地域・企業等社会の人材ニーズに対応した教育、ライフステージに応じた教育、学士課程教育への接続教育などがあげられるが、現在、求められているのは、4年制大学や専門学校との差異を具体的に「見える化」することである。さらに、短期大学全体として社会ニーズを研究し、教育の在り方や教育方法を高めあう努力が必要である。そのためには、大学ポートレートの積極的活用、IR(Institutional Research)の強化、コンソーシアムの結成などによる戦略的計画の策定が重要となろう。

<質疑応答>

Q:今後、短期大学教養教育には具体的にどのような内容が求められるのか。
A:倫理観を導入した「情報リテラシー」や、「金融リテラシー」などが考えられる。金融リテラシーでは、お金を借りる利子が発生して、といったような社会での常識をきちんと教えるべきではないか。
Q:短期大学の規模でIRを導入するのは事務的な負担にならないか。
A:どの短期大学でも学生データ等は既にとっているはずで、そのデータがうまく活用されていないことの方が問題ではないか。米国の小規模な二年制のコミュニティカレッジでも実働したのはここ10年くらいで、担当者は1、2名である。日本でも導入可能と考える。
Q:大学ポートレートは就職先に対してはどう働くか。
A:就職先もステイクホルダーとして想定したが、まず重要なのは受験生とその保護者、としてスタートした。これからの課題だ。
Q:大学ポートレートは高校生に周知されているか。
A:現時点では、残念ながら徹底されているわけではない。これから人気が高まることを期待している。
Q:短期大学として、非学位課程の検討も重要か
A:生涯学習の拠点としての役割の重要性は20年前から議論されているが、コストの問題、受講生の教育要求とのミスマッチなどの問題があり、なかなか実現にまでは至っていないのが現状。

活動報告

「短期大学就業力コンソーシアムによる教育点検」

「短期大学就業力コンソーシアムの実施報告」
短期大学会議教育改革ICT戦略運営委員会 豊田 雄彦 氏(運営委員)

 短期大学会議では、昨年度より加盟校と短期大学会議参加校等に呼びかけ、今年度より「短期大学就業力コンソーシアム」を開始し、社会からの意見を踏まえて短大教育のあり方を点検するエビデンスとして、卒業生アンケートを実施した。その結果がまとまりまったので、以下に報告を行う。
 調査機関は2014年6月〜7月、調査方法はWebによるアンケート調査とした。13校に協力いただき、計6,816名の卒業生に回答を依頼した。調査項目は性別、卒業年、現在の職種、業種などの属性項目、職場で発揮できていると思われる力、自分がもっと身につけておくべきだったと思われる力についての選択項目、教育に関する自由記述とした。その他に、各大学が独自に設定できる項目も加えた。
 調査結果については、回収数は642件で回収率は9.4%で、ほぼ想定した回収率となった。集計結果は「職場で発揮できている力」については、「職場で得た知識・理解」がもっとも多く58.3%、次いで「本学で学んだ分野や専門領域」で47.2%、「他の人と効率よく仕事する力」35.7%となった。「自分がもっと身につけておくべきだったと思われる力」については、「本学で学んだ分野や専門領域」が35.2%、次いで「他の人に意図を明確に伝える力」が34.7%、「新たなアイデアや解決策を見つけ出す姿勢」、「記録、資料、報告書等を作成する力」がともに27.2%であった。
 回答傾向については職種ごとに特徴があり、「保育士」、「幼稚園教諭」、「栄養士」のグループで似たような傾向にあり、同じく「接客業」、「事務的職業」、「製造業従事」のグループでも同一の回答傾向が見られた。
 自由記述では謝辞が大半を占めたが、一部、「知識だけでなく実技も必要」、「試験に論述式も必要」、「共通科目で評価基準をあわせて欲しい」といった教育改革につながる要望も寄せられた。

「教育成果を点検するための卒業生アンケートの活用」

戸板女子短期大学メディアセンター/キャリアセンター部長 坂 勇次郎 氏

 設置学科は服飾芸術、食物、国際コミュニケーションの3学科で、定員は400名で、そのうちの大半が就職希望であるが、就職率は96.7%となっている。就職率の向上に寄与した取り組みは「履修モデル」で、行きたい業界別にクラス編成を行い、専門家を招聘したり、現場での学外実習などを行っている。
 卒業生アンケートは独自に3年前より実施しており、今年は卒後2年目、3年目、4年目の卒業生を対象とし、去年や一昨年は数年おきの20年目まで、去年は25年目までを対象とした。質問内容は、学生生活はどの程度充実していたか、本学の学びについての感想、学んだことが社会で役立っているかなどである。
 このようなアンケートの結果を教学に反映するのが本来の目的であるが、本学では短大再生委員会を5年前に発足し、理事長を委員長として協議している。履修モデルもここでの検討結果である。この検討の結果は、入学者数の回復にもつながっていると言える。
 アンケートをとるのは簡単であるが、それを教育にフィードバックするのは難しいため、IR会議を発足した。学長をリーダーとして、学科長、センター長、局長、部長クラスで構成されている。学生に限らず高校生、高校教員、企業、卒業生、保護者、教員、職員などのステイクホルダーに関する情報の収集も行っている。

全体討議

 事例紹介や報告を踏まえて、以下のように参加者との意見交換を行った。

1)卒業生アンケートの教育への活用や、IRに取り組み、調査結果を教学にフィードバックする仕組みを既に持っているか参加者に確認したところ、2校から報告があった。IRの組織が立ち上がっていること、大学では多様なデータが分散しているため一元化する試みがなされ、調査結果をFD研修会でも活用し、改善に結び付けていること、地域のコンソーシアムに参加して、入学時、卒業時、卒業後の段階のデータをとり、大学間で比べていることであった。

2)教育改革と財務基盤の確立について、再度、戸板短期大学に意見を伺ったところ、ファイナンスなくしてガバナンスはありえないという考えのもとに、教学上の改革も進めてきた。IR会議の設置もその一つである。一方では教員評価制度を策定しており、アクティブ・ラーニングを進めるべく教員を研修に派遣している。

3)アクティブ・ラーニング実施の際の学生への支援について実践例を聞いたところ、グループワークを実現させるために、入学前から学習文化に慣れるようなプログラムを作り実施していること、クラス編成を工夫し、能力的に応じてクラス人数を調整する工夫を行っており、その結果、グループワークがやりやすくなったことが紹介された。

文責:短期大学会議教育改革ICT戦略運営委員会


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