教育・学修支援への取り組み

別府大学・別府大学短期大学部における授業改善について

1.はじめに

(1)本学の沿革と現状

 本学の建学の精神は「真理はわれらを自由にする(VERITAS LIBERAT)」です。
 1946年5月、本学の創設者・佐藤義詮は、本学の前身である別府女学院の開学に際して、新しい学校の理念としてこの言葉を掲げました。この言葉は、別府女子専門学校、別府女子大学を経て現在の本学に引き継がれ、今日まで一貫して建学の精神とされています。

 現在、本学は文学部(学生994人、教員51人)に国際言語・文化学科、史学・文化財学科、人間関係学科の3学科、国際経済学部(学生365人、教員16人)に国際経営学科、食物栄養科学部(学生416人、教員21人)に食物栄養学科、発酵食品学科の3学部6学科を擁し、大学院(学生36人、教員31人)に文学研究科博士前期課程・修士課程、博士後期課程並びに食物栄養科学研究科修士課程を設置しています。
 また、本学短期大学部(学生602人、教員51人)は、食物栄養科、初等教育科、保育科の3学科と専攻科(学生44人)に福祉専攻、初等教育専攻の2専攻を設置しています。
 大学・短期大学部では、共通の組織としてメディア教育・研究センター(以下、センター)を設置し、学内のICT環境の運用・整備に対応しています。
 センターは1995年に「情報教育センター」の名称で別府大学・別府大学短期大学部共用の合同機関として設置され、2007年には、創立100周年記念事業として「メディア教育・研究センター」に名称を変更し、学内情報環境の中核的位置づけとなりました(写真1)。

写真1 2007年(平成19年)に整備されたメディア教育・研究センターの概観

 現在、センターの運営は、センター長(学長兼任)及び大学・短期大学部から選出された教員(8名)で構成する運営委員会によって行い、専門職員2名が配置されています。運営委員会の下にそれぞれ情報基盤整備部(主にネットワークの管理運営と整備の検討)、情報教育・研究部(教育・研究の情報活用の検討)、地域連携部(地域企業との共同事業の推進)の3部門を置いています。
 本学・本学短期大学部は、2012年に5ヶ年の中期計画「教育研究発展計画」を策定し、大学改革に取り組んでいます[1]。計画では、本学の使命(ミッション)を現在の視点で捉え直し、「教育・研究・地域貢献」の三つの観点から、改善計画を具体化しています。「教育研究発展計画」における重点項目6「キャンパス・学習環境の改善」の視点から、学内LAN、サーバなどのコンピュータ関連設備について、計画的な更新、充実を図ることや、メディアを活用した学習環境の整備、設備の計画的な更新に努めることを重点として、様々な大学改革に関連する情報インフラの整備・運営を行っています[2]

2.ICT環境の基盤整備と運用環境

 2014年に大学・短期大学部の教育学術研究ネットワークを支える基幹ネットワーク(10Gbps)、支線建物内ネットワーク(1Gbps)を整備しました。仮想化サーバを用いて構築しています。学内ネットワークは、教員・学生が授業内外で自由にアクセスできるオープン系ネットワークと、学内用ネットワークを分け、運用しています。学内無線LANはオープン系へ802.11n(300Mbps)で、アクセス可能な環境を構築しています。
 従来の固定PC教室の運用では、授業内外における学生ニーズの多様化への対応と、情報リテラシー教育におけるPCの絶対的利用時間の確保の2点を根拠として、全学BYOD(Bring Your Own Device)を推進する方針を決定しました。
 学内無線LANアクセス環境の拡充とPC教室の縮小集約を実施し、授業を支援する貸出用ノートPC70台を用意し、学生の授業や自習における利用を支援しています。
 メインキャンパスでは、BYODが実施されることで、授業や自習におけるPC利用の問題改善を期待しています。学生の所有PCに対するアプリケーションの導入支援も、授業内容を検討し、2015年度に開始します。

3.授業改善のためのICT整備の状況

(1)学内ポータルの構築

 大学ホームページのトップページから教学システム、eラーニングやeメールシステムへアクセスするポータルを設置しています(図1)。教学システムから受講登録やシラバス情報、各種の登録や申請様式などへアクセスできます。

図1 学内ポータルの画面例
大学ホームページ(トップ)画面右のナビゲーションメニューから教学システムポータル、eラーニングシステムへ入ります

(2)eラーニングシステム・電子教材の利用

 eラーニングシステムはMoodleにより構築され、eメールシステムは携帯端末などへの利便性からクラウド化し、全教職員・学生が利用できます。  Moodle上に教員は自由にコースを設定することができ、2014年度では大学全体で45コース、短期大学部では34コースが開講されています。
 Moodleによるコースウェアを利用した授業改善では、2013年度から、全学部共通の教養科目「生物学」における授業中のミニッツペーパーや期末試験結果を電子化し、個別の学生へ返却する取り組みや、人間関係学科の必修単位である「情報リテラシーII」における授業前の課題提出を義務付けた反転授業、「大脳生理学」におけるTEDプレゼンテーションを授業に取り込んだ授業前課題との連携授業、大学内GPにより実施されたiPadを利用した学生の出席情報の教員間共有などに取り組んできました。
 日本語学習教材の開発は日本語検定を対象とした「上級日本語読解」で、日本語能力試験1級、2級の過去問題や解説動画、補助問題や日本語や日本語能力に関するサブコンテンツからなるコースとして構築され[3]、ブレンディッドラーニングモデルへ発展しました[4]。日本語教員養成の「日本語教育論1・2」では、ブレンディッドラーニングの実施[5]を経て、コースウェアを利用した反転授業の実施へ展開されています[6]。授業の中では履修生によるMoodleコンテンツの作成など、授業リテラシーの習得にも取り組んでいます。
 市販教材としてALC NetAcademy2(アルク教育社)、INFOSS情報倫理2014年度版(データパシフィック株式会社)を導入し、全学で授業や自学自習における利用を推進しています。
 ALC NetAcademy2の利用は、英語教育グループの組織的取り組みを実施し、2014年度は大学では24クラスで活用され、2013年度の導入から3年間で、レベル診断テスト受験済み学生(1,024人)は全体の43%に達しています。学生アンケートでは1年間学習した学生の7割以上が「課題に比較的まじめに取り組んだ」、8割以上の学生が「英語力の向上に役立った」と回答しました[7]

(3)情報環境と授業改善

 現在、センターの1階には映像スタジオ、音声スタジオを整備し、デジタルリニア編集、ノンリニア編集機器を整備し、地元テレビ局との共同授業(テレビ制作論)の実施(次ページ写真2)や、視覚伝達デザイン、アニメーションといったコースの学生の卒業制作、授業用コンテンツの録画・編集などに活用されています。

写真2 センター1階映像スタジオにおける地元テレビ局との演習授業風景

 2階は、2014年度私立大学等教育研究活性化設備整備費補助金により、電子黒板4台を導入し、またゼミ室でも利用可能な可搬式プロジェクターとスクリーン5セット(可搬提示装置)を導入しました。ICTの活用を支援するセンター事務室を設置し、ノートPCを利用する自習環境、電子黒板や可搬式プロジェクターによる授業や自習環境として運用され、学生の主体的学修への取り組みを支援しています。
 短期大学部では2013年度の同補助事業を利用してアクティブラーニング電子黒板6台と可動机教室2教室を整備しました。2014年度はBYODに対応した自主学修環境の構築に向け25号館学生ホールに電源付机を整備しました。
 本学では、全学で初年次教育に取り組んでおり、大学では2年生以降では発展演習、3年生の専門演習、4年生の卒論演習が必修となっています。アクティブラーニングや課題解決型授業への取り組みが、初年次教育を中心として増加するに従い、プレゼンテーションやグループワークの利用が増え、授業内外での学修に自由に活用できます(写真3)。

写真3 センター2階に設置された電子白板、可搬提示装置を用いたアクティブラーニング学習風景

 電子黒板は、教職履修の学生の専用の学修環境として1教室を整備しました。この教室では、電子黒板を利用した模擬授業の実践や、電子教材の活用についての検討、授業の録画によるフィードバックを可能にしました。教員を目指す学生のICT利用能力をより実践的に伸ばすことに主眼を置き、学生を中心とした授業研究を行う研修に利用しています。
 センター事務室は、授業支援として貸出用クリッカーや授業の成果物返却システムを設置し、授業におけるICT利用支援や導入相談を実施しています。
 3階は、PC教室を2教室(61台、51台)整備しました。情報リテラシーの授業を始め、情報基礎力の導入授業に利用されています。授業時間外は、すべての機器は学生・教員に開放され、自由に利用できるよう対応しています。
 4階は遠隔ビデオ会議システムと授業自動録画配信システムを整備した200名収容(うち20席はバリアフリー)のメディアホールとなっており、講義や研究会、シンポジウムなど様々な日々の教育・研究活動を支援しています。
 遠隔ビデオ会議システムを利用して、文学部人間関係学科の「韓国語」、「韓国語コミュニケーション」や短期大学部初等教育科の「韓国語コミュニケーション」の授業で、韓国の教員・学生と協同でビデオ遠隔授業を実施しています[8,9]。授業では日本の学生が韓国の学生に日本語を、韓国の学生が日本の学生に韓国語を互いに教えあう時間や、互いの学生生活や進路、流行、文化について紹介、スピーチコンテストを実施し相互に評価を行うなど、初習外国語を学ぶ動機付けに取り組んでいます。授業を通じて、知り合った学生同士は研修旅行で、実際に逢った場面では経験がない学生に比較して、積極的にコミュニケーションをとる傾向があり、有効性が確認されています(写真4)[3,4]

写真4 遠隔ビデオ会議システムを利用した海外大学との相互交流講義風景

 授業自動録画配信システムは、メディアホールを利用する授業や講演会、シンポジウムの記録などに活用され、2014年度では国際経営学部による県内企業経営者によるトップマネージメント講座(15回)、学部講師による講演会(19回)、高大連携事業の模擬授業(7回)、実習や演習授業(12回)、初年次教育や卒業論文の成果発表(3回)などの記録を行っています。
 メディアホールの各席には、電源と情報コンセントを整備し、さらに2014年度にはエクストリコムを利用したチャネル干渉のない多数ノートPCの同時接続環境を構築し、学生のノートPC設定の授業やワークショップに活用されています。
 また、センターの地域連携活動として、地元の大分合同新聞社との連携事業として大分の文化発信サイトNAN・NAN[10]の運営とコンテンツであるデジタルブックの制作を行っています(図2)。

図2 大分合同新聞社と別府大学の運営する大分の文化発信サイト「NAN・NAN」

4.今後の課題と展望

 大学・短期大学部では、センターを中核として、学生支援のため増加する持込みPCへのソフトウェア導入サービスをはじめ、より教育に実践的なICT利用環境を支援していくことになります。
 授業におけるeラーニングの利用や市販学修コンテンツの導入、学生持込端末への対応などにより、MOOCをはじめとする現時点では対応できていない学外のICTを利用した学修コンテンツの紹介を行うとともに、これらコースウェアの展開のためのワークショップなどを有効に展開し、学生・教員の双方にとってよりよい学びの場・研究の場を作っていけるよう活動を計画しています。
 大学・短期大学教育におけるICT活用は、授業の改善の一手法にとどまらず、授業改善に必要となる結果を蓄積し、分析、改善というPDCAサイクルの基礎となる段階まで進んできました。授業やカリキュラムにおける達成目標の設定とその評価を明確にする上で、全学的システムとeラーニングシステムやポートフォリオ、学生授業評価、学修実態調査などの評価を包括的に運用するシステムへの構築に向け、計画的に実施を行っていきます。

参考文献及び関連URL
[1] 別府大学・別府大学短期大学部: 教育研究発展計画2012-2016「未来へのアプローチ」. 2011.
http://www.beppu-u.ac.jp/general/files/2012vision-2.pdf
[2] 別府大学: 平成24年度自己点検評価書. 2012.
[3] 篠﨑大司: Moodleを活用した上級日本語読解eラーニングコンテンツの開発と学習者評価-ブレンディッドラーニングモデルの構築に向けて-. 別府大学国語国文学会『別府大学国語国文学』 第51号, pp.1-26, 2009.
[4] 篠﨑大司: Moodleを活用したブレンディッドラーニング授業モデルの構築とその有効性-上級日本語文法を中心に-. 別府大学会『別府大学紀要』 第52号,  pp.1-10, 2011.
[5] 篠﨑大司: 日本語教員向けeラーニングコンテンツの開発と授業実践および授業評価. 別府大学会『別府大学紀要』第54号, pp.1-9, 2013.
[6] 篠﨑大司: 日本語教員養成のための反転授業の実践と学習者評価-「言語一般」から「言語と教育」まで-. 日本語教育方法研究会
『日本語教育方法研究会会誌』Vol.21No.2, pp.34-35, 2014.
[7] 別府大学教養英語担当教員グループ: ネットアカデミー利用状況報告. 2014.
[8] 西村靖史, 孫在奉, 後藤善友, 朴志恩, 林相倍: 韓国語教育におけるインターネットビデオ会議システムを用いた相互交流講義の実践. 公益社団法人私立大学情報教育協会 平成25年度教育改革ICT戦略大会 資料集, pp.204-205, 2013.
[9] 西村靖史, 孫在奉, 後藤善友, 朴志恩, 林相倍: 韓国語学修における相互交流講義の実践. 公益社団法人私立大学情報教育協会 平成26年度ICT利用による教育改善研究発表会 資料集, pp.12-13, 2014.
[10] http://www.nan-nan.jp/
文責: 別府大学
メディア教育・研究センター
情報教育・研究部長 西村 靖史

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