教育・学修支援への取り組み

大学教育の質的転換に向けた取り組み
〜玉川大学〜

1.はじめに

 学校法人玉川学園は、「全人教育」の理想実現のため、1928(昭和4)年に小原國芳により開設されました。まず、小学部、中学部、高等女学校をもって開学しましたが、後に旧制玉川大学を経て、新学制の公布により、1949(昭和24)年に玉川大学文学部、農学部を設置しました。現在は上記の2学部に加え、工学部、経営学部、教育学部、芸術学部、リベラルアーツ学部、観光学部の8学部17学科、さらに大学院として6研究科を擁する総合大学として発展してきました。大学の学生数は7,568名(2015年5月1日現在)、専任教員数296名、専任職員数291名ですが、全学部・研究科およびK-12(併設校)すべてが東京町田市の61万uにおよぶ同一のキャンパスで教育研究活動を展開していることは本学の特色と言えます。
 玉川大学のミッションは、創立者小原國芳が「生まれながらにして唯一無二の個性をもちつつも、万人共通の世界をも有する存在」であると定義した人間像に基づいています。このように定義された人間をより完成されたものへと実現させることこそがミッションであり、さらに、日本社会および世界へ貢献する人材を養成することを玉川大学はめざしています。

2.これまでの教育改革の取り組み

 本学は創立以来、先に述べた「全人教育」を教育理念の中心として、人間形成には真・善・美・聖・健・富の六つの価値を調和的に創造することを教育の理想としています。その理想を実現するため12の教育信条(全人教育、個性尊重、自学自律、能率高き教育、学的根拠に立てる教育、自然の尊重、師弟間の温情、労作教育、反対の合一、第二里行者と人生の開拓者、24時間の教育、国際教育)を掲げた教育活動を行っています。なかでも自学自律を、「教えられるより自ら学びとること。教育は単なる学問知識の伝授ではなく、自ら真理を求めようとする意欲を燃やし、探求する方法を培い、掴み取る手法を身に付けるものである」と定義し、学生指導にあたっています。これらの理念や信条に基づき、中教審答申や高等教育政策、社会のニーズを踏まえた様々な改革を行ってきました。特に2011(平成23)年度には大学教育の質保証をキーワードにしたTamagawa Vision 2020を策定し、目標達成に向けたAction Planを掲げ、PDCA(Plan-Do-Check-Act)サイクルを回して実行しています。
 このTamagawa Vision 2020は、「教育活動における数値目標・指標の設定と国際的評価への対応」「教授主義から修得主義への転換」「国際教育・交流の充実と英語力の強化」「客観的根拠に基づく実践・体験型教育の推進」「教職課程における教員養成の充実」「教員の教育力の向上」「学生の活性化に繋がる支援の充実と学修支援の強化」「就職力向上のための支援の充実」「高大連携およびK-16としての連携強化」「社会貢献活動の推進と卒業生との連携強化」「学士課程の検証と更なる体制強化」の11の項目で構成されています。また、2020(平成32)年度までのロードマップを四つのフェーズに分けて実施しています。フェーズ1(2011年度〜2013年度)で実施してきたことは以下のとおりです。

1)単位の実質化に向けて、履修登録上限単位数を半期16単位へ変更

2)全学部の卒業要件に累積GPA2.00以上を付加

3)全授業科目において、通常のシラバスに加え、学修指導書となるシラバスを追加作成

4)GPAによる学修警告制度の実施

5)学生ポートフォリオの導入

6)授業外学修時間を確保するための時間割の工夫

7)授業科目のナンバリング

8)本学における学士力(コンピテンシー)の策定 ほか

 これらの取り組みは、学生の主体的な学修時間の確保と習慣化および高次汎用能力の修得を目的としているものですが、合わせて教員の教育力向上のための取り組みも展開しています。

3.アクティブ・ラーニングの推進と学修成果の可視化

 本学では、アクティブ・ラーニングの推進と学修成果の可視化を図るための新たな学修環境を構築することにより、21世紀社会を支える高次汎用能力を備えた人材の育成に取り組んでいます。2015(平成27)年3月に本学の教員を対象に実施したアクティブ・ラーニングに関する調査によると、2014(平成26)年度のアクティブ・ラーニング実施率は79.7%に達し、実施している教員が多数を占めています(n=350)。また、その実施形態としては、図1のとおり「グループワーク(437科目)」、「ディスカッション(399科目)」、「プレゼンテーション(387科目)」、「ペアワーク(225科目)」、「ディベート(69科目)」、「Project/Problem based learning(85科目)」、「フィールドワーク(108科目)」などで、これらの取り組みは高次汎用能力の育成に効果的なものになっています。学生の能力を開発する上で、アクティブ・ラーニングが効果的であることは多くの研究によって実証されていますが、本学でも学修行動が図2に示すようになりました。教員の意見として最も多かった変化は、「学生同士のコミュニケーションの活発化(200名)」でした。「問題・課題解決のため能動的に学ぼうとするようになった(135名)」、「知識獲得が定着(116名)」が続いています。

図1 アクティブ・ラーニングの実施形態
図2 アクティブ・ラーニングの実施による学生の学修行動の変化

 本学では、学生が身につけるべき高次汎用能力(図3参照)を学生に提示し、カリキュラムマップおよびシラバスに示しています。また、シラバスにはその能力を獲得するための到達目標を掲げています。さらに、学生はラーニング・ポートフォリオを活用し、学修進捗状況の確認やどのような能力が身についたかを自己評価できるようになっています。その状況は、「成績評価(科目)」「成績評価(全体)」と併せてレーダーチャートで確認できます(図4参照)。

図3 玉川大学がめざす高次汎用能力
図4 高次汎用能力の修得状況

 2013(平成25)年度に入学した学生(現3年生)による自己評価を学部別に調査した結果、「自分には身についていない」と学生が自覚している能力は、人文社会系学部では「倫理観」「数量的スキル」「社会的責任」が多く、理工系では「多文化・異文化の知識と理解」「社会的責任」となっていることが分かりました。これらのポートフォリオの内容やデータを踏まえて、今年度より個々の学生の学修プロセスや学修成果の確認と指導を行い、学修成果の把握に役立てていくことを計画しています。
 教員には、時代に即応した教育のあり方を学ぶと同時に、教員として何ができなければいけないのかを体得することを目的に、全教員の参加を義務とするアクティブ・ラーニング対応型のFD研修を定期的に開催しています。授業方法と技術の到達目標を明確にすることで、教員の教育力向上を図っています。アクティブ・ラーニングを実施する上で重要となるのが、それぞれの科目に適切な授業方法が選択されているか否かです。そのために、本学が開設する全科目を対象に、それぞれアクティブ・ラーニング対応とするか、それとも講義中心とするかを、学問領域とディプロマ・ポリシーの関係を踏まえて議論し、アクティブ・ラーニング対応とする科目の体系化をFDer(ファカルティ・ディベロッパー)を中心としたアクティブ・ラーニング推進委員会で検討しています。その上で、それぞれの科目でどのようにアクティブ・ラーニングが行われるかを学生に明確に示す『アクティブ・ラーニング・ハンドブック』を作成する予定です。さらに、アクティブ・ラーニングを実施した科目の内容・手法・省察等を記録し、教員間の情報共有と授業改善に役立てる手段として、ティーチング・ポートフォリオのシステム開発を行っています。開発の際には、国際的通用性のあるシステムを構築する観点から、先行している米国の大学の実態調査を行い、参考になった項目を反映させています。
 2015(平成27)年度以降、毎年『教学マネジメントの改善』に関するシンポジウムを開催し、その中で「アクティブ・ラーニング」の体系化が教学マネジメントに果たす役割について報告することを計画しています。

4.新たな学修の場としての「大学教育棟2014」

 「大学教育棟2014」は図5に示すとおり、図書館、ラーニング・コモンズ、講義室、教員研究室で構成されていますが、講義室における学修を図書館(1・2階)やラーニング・コモンズ(3・4階)でより深化させ、不明な点等はサポートデスクに常駐の学修支援スタッフや教員研究室を訪ねて確認できるように、建物全体を学びのサイクルとして捉えた設計になっています。図書館の蔵書を通じて知識を獲得する個人学修の場に加え、高次汎用能力を身につける場として、学生の主体的な学びを促進し、他者とともに成長できる“協同学修の場の創成”を目指しています。2015(平成27)年4月〜7月の教育学術情報図書館の入館者数は243,792名(前年度の同月比217%)で、図書の貸し出し冊数は140%に増加し、この数字から学生の学修行動の変化が確認できました。

図5 「大学教育棟2014」におけるフロアの機能と構造 (出典:『全人』2015年5月号No.794)

5.今後の計画

 学生の高次汎用能力の修得状況について、現状では学生の自己評価が中心になっているため、外部の検定や適性検査等のデータを加味した客観的な可視化が図れるような取り組みをする必要があると考えています。また、本学が参加している大学IRコンソーシアムの学生調査と本学が独自に実施している卒業生調査等の結果を踏まえたエンロールメント・マネジメントを機能させ、教学マネジメントの改善につなげていくことを計画しています。

文責: 玉川大学教学部長 稲葉 興己

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