巻頭言

「夢追人」育成システム

谷岡 郁子(至学館大学理事長・学長)

 至学館大学は「人間力の形成」を教育理念として掲げている。人として自らの夢を設定し、その夢に計画的に近づいていくために必要な力を身につけさせることが私達の願いである。私達は学生達に「夢追人たれ」と呼びかけ、また「仲間の夢を応援し支える者たれ」と言い続けている。ちなみに、至学館女子レスリング部の選手達は「夢追人」の文字が背中に書かれたシングレットを着て試合に臨んでいる。
 学風、イズムの問題として物事を捉えるのであるならば、至学館大学の「人間力の形成」は一定程度成功しているようにも思える。挑戦者意識が高く、開放的で明るい雰囲気の中で、学生たちは仲の良さと元気の良さを誇りにしている。しかし、私達は現在、これをもう少しシステマティックにできないものかと頭をひねり、さまざまなアイデアを出し合って少しずつ実行し始めているところである。
 私達は人間力に以下の五つの表札をつけた。

「健   康   力」:
全ての人間活動の基盤となる心身の健康をつくり保持していく力。
「知 的 視 力」:
自らの知識を体系化し、広い視野を長い視線、鋭い感覚をもって「本質」に迫る力。
「社   会   力」:
社会的存在として自らをいかし、また社会をより良きところとするために働くことのできるための力。またそのためのコミュニケーション力や実践力。
「当 事 者 力」:
さまざまな事から、状況を自らの問題と捉え、責任を担うことができる力(含、主権者力)。
「自己啓発力」:
常に自らの人間力を高め続けるために課題を見つけ、方法を設定し、実行していく力。

 実は、これらの力はそれぞれがもっと細かく分けることもできる反面、互いに深く関連し合っている。私達が五つの部分と表現せず「表札」と言うのは、どこから入ってもその他の部分についても無関心、無関係ではいられないからである。
 このような人間力を形成していく主体は当然学生自身である。また求めるべき人間力を決定するのも学生自身であり、当面の具体的課題を選ぶのも学生自身であるべきである。この条件を満たし、かつ大学としての責任の持てる教育プログラムを構築するというのは、実はかなり難しい。とりわけ私達のような小さな大学では。
 今、私達が開発をしているのは「人間力形成ノート」である。ICTを利用して学生達が4年間(短大では2年間)の自らの人間力形成を記録し、チェックし、次の挑戦課題を設定し、また実行して記録して学んでいくというものである。これをその時々の課題に応じた担当教員が相談を受け、必要な教材や試行方法を提案したり、またその結果についてコメントしたりすることができるようにしていくというものである。人間力形成関連の課目の進行のチェックも、独自課題の進行もチェックできるようにする。卒業時には、専攻する分野とともに、その基盤となる人間力がどのような進歩を見せたか、自ら見ることができるようにしようというものである。同時に、それは卒業後の課題を見つけることでもある。つまり、このノートによって人間力の一定部分の「見える化」を図り、必要な助言を得ながら自らの人間力を高めるということに挑戦させようとするものである。そのフィールドとしては、読書や鑑賞から部・サークル活動、ボランティア等が利用できる。とりあえず、卒業時には「自己啓発」の何たるかが伝わればと念じている。
 私達にとっては、システムとしての「人間力形成」を目指して壮大な試行錯誤を繰り返すことが、「大学力」の形成になっているのかもしれない。


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