特集 教学マネジメントの試み(2)

「Webシラバス・システム」を核とした
教育改革の取り組み 〜富山短期大学〜

安達 哲夫(富山短期大学副学長)

1.富山短期大学の沿革と特徴

 富山短期大学の前身である富山女子短期大学は、富山県民の熱い期待と強い支援を得て、昭和38年4月に開学しました。
 その設立趣意書には、「真に近代社会が要請する婦人像を求め、家庭婦人としても職業婦人としても基本的に必要な、人間愛を基調にした高い知性、広い教養、そして健全にして豊かな個性と、社会性に富む調和のとれた全人的な婦人形成を建学の基本とする」とされています。
 富山女子短大は、入学定員100名の教養科1科でスタートしましたが、当初より「全人的な教養人」と「職業人としても役立つ女性」の育成を目指す実学教育が志向されてきました。以来、時代の変化と社会のニーズに対応しながら、変わることなく「地域社会の発展に貢献する」専門職業人材の育成に力を注いでいます。
 現在は、食物栄養、幼児教育、経営情報、福祉の4学科と専攻科食物栄養専攻から成る、入学定員345名、専任教員38名、専任・非常勤職員33名の小規模短大です(平成27年5月1日現在)。

2.教育改革の柱と方向

 平成20年12月の『学士課程答申』、平成24年8月の『質的転換答申』を機に、本学においても教育改革の取り組みを強化しつつあります。とりわけ、平成26年度に文部科学省「大学教育再生加速プログラム(AP)」(テーマII学修成果の可視化)に選定されて以降、その取り組みを加速しています。
 現在は、以下の五つを柱として、教育の質向上と質保証のためのPDCAサイクルを実質化する教育改革に取り組んでいるところです。

(1)「学修成果」に焦点を当てた教育改革

 まず、教員が「何を教えるか」ではなく、学生が「何ができるようになるか」を重視した、学生の社会的・職業的自立を促す教育への質的転換を進めています。
 平成24年度には「学位授与の方針(DP:ディプロマ・ポリシー)」、「教育課程編成・実施の方針(CP:カリキュラム・ポリシー)」、「入学者受け入れの方針(AP:アドミッション・ポリシー)」の三つの方針を体系的に策定するにあたり、「育成する人材像」と獲得すべき力・能力(「学修成果(Learning Outcomes)」)を具体的に明示しました。
 「学修成果」は、1)知識・理解、2)技能・表現技法、3)思考・判断・表現力、4)関心・意欲・態度、5)人間性・社会性を五つの基準として、各学科・専攻科・各科目で具体的に規定されています。
 科目の「学修成果」に関しては、当該科目で獲得すべき力・能力の具体的内容とその到達水準、評価基準・方法を示したルーブリックが「Webシラバス」に掲載され、学生は常に「学修成果」を意識して授業に臨むとともに、教員は「学修成果」別にきめ細かな評価を行うようになりました。
 さらに、すべての学生が社会的・職業的自立のために身に付けるべき具体的な能力として表1に示す「21の力・能力」を、全学的な「学修成果」の具体的な達成目標としています。

表1 全学的「学修成果」の具体的な「21の力・能力」

(2)教育課程の体系化

 教育目標と「学修成果」を達成するには、体系的・効果的・組織的なカリキュラム編成を行うとともに、絶えざる見直しが必要となります。
 そのためには、科目のナンバリングを実施して科目関連・系統図を作成するとともに、各学科・専攻科の「学修成果」が効果的・効率的に実現できる内容・配置になっているかを検証するための「カリキュラム・マップ」が必要となります。
 本学では、平成24年度に「Webシラバス・システム」を構築する際に授業科目のナンバリングを行い、平成27年度に同システムに「カリキュラム・マップ」自動作成機能を付加しています。

(3)「主体的学び」を促す教育の工夫・仕掛け

 「学修成果」を高めるには、学生の「主体的な学び」が欠かせません。専門職業人として生涯学び続け成長するためにも「主体的に学ぶ力・姿勢」が必要です。
 そのためには、キャリア教育の充実等に加えて、「主体的な学びの好循環」を形成するための仕掛けが不可欠です。その仕掛けとは、学生自身の「振り返り(リフレクション)」と「気づき」を促すための、アクティブ・ラーニングの工夫と様々な情報のフィードバックです。
 効果的なアクティブ・ラーニングには、授業における教員の様々な工夫とともに、学生の「振り返り」を容易にする専用のラーニング・スタジオや、学生の自学自習・協働学修を支援するラーニング・コモンズ等の整備が有効です。「振り返り」を促す情報のフィードバックには、学生個々人の様々な学修関連情報を集約する「学生情報ファイル・システム(SIF)」の構築が効果的です。
 本学では、平成25年度以降、こうした学生の「主体的な学び」を支援し促すための学修環境の整備に努めています。

(4)「学修成果」の評価と可視化

 本学の教育目標がどの程度実現できているかを検証するには、「学修成果」を客観的に評価し、誰にでも分かるように可視化する必要があります。
 そのためには、まず「学修成果」とルーブリックを明確にし、「何が、どのような基準と方法で評価されているのか」についての理解を、教員、学生、第三者の間で共有する必要があります。
 それによって、学生は自らの学修目標・到達目標が明確となり、「学修成果」を自己評価できる結果、学修行動改善へのモチベーションを高めることができるようになります。
 教員は、「学修成果」別評価と可視化により、自らの教育内容・方法を振り返ることが容易となり、よりきめ細かな授業改善が可能となります。
 また、第三者との間で「共通の土俵」を形成することで、「学修成果」とルーブリックの社会的妥当性・通用性を議論することが可能となります。

(5)「学修成果の可視化」によるPDCAサイクルの実質化

 「学修成果」の可視化は、本学の教育目標の到達度を検証するとともに、教育内容・方法の妥当性・有効性・問題点・課題等を教員だけでなく、学生や第三者をも含めて検討し、絶えざる授業改善・個別指導の改善、学修行動の改善につなげ、さらにはCP・DPの点検を通じて、教育の継続的な質向上と質保証に資することを目指しています。

3.「学修成果の可視化」とPDCAによる改善

(1)「学修成果の可視化」の方法・手段

 「学修成果の可視化」は、(表2)にあるように、教員と学生、第三者(就職先と卒業生)による「学修成果」の評価によって行います。

表2 「学修成果の可視化」の方法・手段とPDCAによる改善項目

 教員は、客観テストやルーブリックによって、五つの「学修成果」別に成績評価を行います。学生は、期末授業アンケートで、やはり五つの「学修成果」別の達成度を自己評価するとともに、学修行動・生活調査では、先に見た「21の力・能力」別の成長度を自己評価します。第三者評価では、「21の力・能力」別のレベル・達成度評価を行ってもらいます。
 学生アンケートはすべて「Webシラバス・システム」上で実施され、また教員の成績入力も同システムで行われますので、データは科目別・学生別・学科別・全学で集計されます。
 これによって、五つの「学修成果」別・「21の力・能力」別の到達度と成長度を、多様な角度からレーダーチャートや棒グラフ等で表示し可視化して、科目別・学生別・学科別・全学のレベルで「学修成果」を検証します。

(2)PDCAによる改善項目

 毎回授業アンケートは、学生の当該授業での1)理解度、2)興味・関心度、3)授業への参加度、4)予習・復習時間、5)当該授業で獲得できた「学修成果」の内容、6)疑問・質問事項、7)その他感想等を訊くものです。
 このアンケートで教員は、リアルタイムで自らの授業を振り返ることができ、次回の授業改善に活かすことができます。また、毎回授業アンケートの集計結果は、本人の回答内容とともに毎回、学生にフィードバックされます。その結果、学生は自らの回答内容と「学修成果」を振り返ることで、学修行動の改善につなげることができます。
 期末授業アンケートは、当該授業の内容、方法、効果・成果に関する学生の評価を訊き、授業改善ならびにカリキュラム編成の点検に役立てることを目的としています。
 学修行動・生活調査は、広く学生生活に関する満足度を訊いて学修行動・学生生活の改善に役立てるとともに、「21の力・能力」に関する成長度を自己評価してもらうことで、カリキュラム編成の点検に役立てることを目指しています。
 第三者(就職先・卒業生)アンケートは、ルーブリックに関する社会的妥当性・通用性を高めることを目的としています。社会で通用する、本来の社会的・職業的自立に必要な力・能力を育成するには、教員と学生、卒業生や就職先等の第三者とが、「学修成果」を評価するための「共通の土俵」を形成することが重要であると考えています。

4.Webシラバス・システム〜授業・学修支援システムから教学マネジメント改善のプラットフォームへ〜

 既に述べたように、教員の成績入力も学生アンケートもすべて「Webシラバス・システム」で行っています。いわば、「学修成果の可視化」とそれによるPDCAサイクルの実質化の要を「Webシラバス・システム」が担うようになっています。
 そもそも、「Webシラバス・システム」は、紙ベースのシラバスを廃止して、授業・学修支援システムを構築するために、平成24年度に文部科学省「私立大学教育研究活性化設備整備事業」の補助金を得て整備したものでした。
 当初は、シラバスをインターネット上に置き、教材や参考資料を添付する、あるいはリンクを貼ることにより、いつでも、どこからでも、インターネットに接続できる環境にあれば、予習・復習や課題提出が可能な環境を整備することから始めました。
 併せて、毎回授業アンケートを実施することにより、教員も学生も毎回の授業・学修の「振り返り」が可能となり、教員は授業改善の、学生はモチベーション向上の大きな手段となりました。
 平成25年度には、同システムの課題提出機能を拡充したことにより、反転授業、双方向授業、グループワーク等の様々なアクティブ・ラーニングを展開できる環境が整えられました(表3参照)。

表3 「Webシラバス・システム」の主な機能

 平成26年度に、文部科学省「大学教育再生加速プログラム(AP)」(テーマII学修成果の可視化)に選定されてからは、既に述べたように教員の成績入力や各種学生アンケートを、すべてこのシステム上で行い、「学修成果の可視化」のためのインフラを整えつつあります(図1参照)。

図1 「学修成果の可視化」とPDCAサイクルの実質化

 平成28年度には、このシステムで得られた各種データを教職員で共有して、教学の改善のためのPDCAを回すための教学IR(Institutional Research)を本格化するとともに、「学生情報ファイル・システム(SIF)」を通じて学生への情報のフィードバックも本格化します。
 当初は、授業・学修支援のために構築した「Webシラバス・システム」でしたが、今や教学マネジメント改善のプラットフォームとなっています。

5.当面の課題

 教学マネジメント改善のための当面の課題は次の三つです。
 第一は、ルーブリックの社会的妥当性・通用性の確保と向上です。
 例えばコミュニケーション能力、クリティカル・シンキング、課題解決能力等と言っても、大学で評価している具体的内容は、本当に社会で求められている内容なのか。さらには、その到達水準を評価する基準・方法は、社会的に妥当なものなのか、という課題に対処する必要があります。
 そのためには、ステークホルダー、特に就職先との間で共通理解を形成し、「学修成果」を評価する「共通の土俵」作りが必要となってきます。
 本学では、第三者アンケートを基に今後、富山短期大学外部評価委員会で検討していただくことが課題となっています。
 第二は、IRの拡充です。当面は、教学IRの充実に努めた後、学生支援のためのIRや入試広報活動を支援するためのIRに拡げていくことが課題です。
 「Webシラバス・システム」で得られた各種データは、学生毎に「学生情報ファイル・システム(SIF)」に集約されます。将来的には、各部署に分散している各種データをこのSIFに集約し一元化することで、学修支援のみならず生活支援や就職支援に役立てていきます。
 第三は、FD・SD活動の一層の充実です。
 本学のような小規模短大では、教職協働によるシナジー効果を最大限に活かして、効果的・効率的な授業改善・学修支援・生活支援・就職支援等につなげていく必要があります。
 教職協働によるシナジー効果を生むには、可視化されたデータに基づいて具体的な改善目標・手段・方法等を共有し、教職員の「振り返り」と「気づき」を促すことが重要です。
 平成28年度には、まず『授業改善事例集』を作成し、FD・SD等を活用して教職員間で改善事例の共有を図っていく予定です。
 教員・職員・学生・地域社会(ステークホルダー)間の協働を一層深め、「学修成果」に焦点を当てたPDCAサイクルの実質化を推進して、さらなる教育の質向上と質保証に努めているところです。


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