事業活動報告 No.1
平成27年8月4日(火)午後1時、青山学院大学青山キャンパスを会場に89大学6短期大学より、156名の理事長、学長、副理事長、副学長、学部長、教務部長等関係者が参集して、「大学教育の質的転換を徹底するための抜本的な改革を考える」をテーマに開催した。
開会にあたり向殿政男会長(明治大学)より、「教育改革を徹底していくために、教育の質的転換、教学マネジメントの確立、入学者選抜改革の方向性等を確認する中で大学執行部によるイノベーションが前進していく機会にしたい」との挨拶があった。
次いで、会場校を代表して青山学院大学の仙波憲一学長より、「一番大事なのは教える側の姿勢が問われている。教員がどのようにアクティブ・ラーニングという問題に対応していけるのか、また対応していかなければいけないのか。教育の実質的な転換を図っていくために、どのようなシステムを作っていったらよいのか。それぞれの大学の歴史、教育研究の中でどのように位置づけていくか、大変な大きな課題と考えている」との挨拶があり、プログラムに入った。
安西 祐一郎氏(独立行政法人日本学術振興会理事長、文部科学省顧問、高大接続システム改革会議座長)より、主に次のような考えが披露された。
経済産業省が2010年に行った「大学生の『社会人観』の把握と『社会人基礎力』の認知度向上実証に関する調査」によると、企業から見て日本の学生に不足していると思う能力は、主体性、粘り強さ、コミュニケーション力と感じている。それに対して学生は、技術とかスキルが自分には不足していると思っている。高大接続改革が提唱している主体性を持って多様な人々と協力して学び働いていく態度を企業側は求めているが、学生はそうは思っていない。企業側が学生に求める能力と学生が企業から求められている能力に大きなギャップがある。
1995年頃からインターネットが普及し、デジタル携帯も普及を始めた。日本の18歳人口が急減を始めていく時期と国内外の時代潮流が明らかに変わった。1999年は初等中等教育と高等教育の接続に関する答申が行われた。実は2014年の高大接続改革答申と中身が相当重なっている。つまり1999年から2014年までの間、高校の卒業テストを作ろうということで随分努力もされてきたが、結局形にはならなかった。着実に議論して進めていかなければいけない大きな改革で待ったなしとなっているが、既に15年経ったところに我々はいる。それでも、この改革が形になっていくのは、2020年を越えて2024年に高校3年生ぐらいからで本当に時間がかかる。教育改革は社会改革と言える。
時代の大きな変化に伴って求められる力は、我々の時代とはかなり変わっていく。答えのない問題を自分で見つけ、それを自分で解決していく力として、知識と技能及び思考力、判断力、表現力、主体性をもって多様な人々と協力して学び働く力を若い人達一人ひとりに身に付けさせてあげられるかどうかが課題だ。
世界がボーダレス、グローバルになっていくときに、一つの仕事に対して日本だけでなくアジアから世界中からアプライがある。一つの仕事に対して多くの需要があるときにどのような人材を採用するかというと、給料を安く抑えられる優秀な人が職に就く。2000年は中流階級の中で中国以外が90%近くとなっているが、2030年になると世界の中流階級の50%近くが中国人とインド人で占められるという予測がある。2030年、2040年、2050年の世界に若い人達は生きていくわけで、そのための力をどうやってつけてあげられるのか。幕末と明治期と戦後に匹敵する大きな時代の流れ、世界の流れの変化の中で生きていく子供達、学生達の将来について時代背景を共有していただきたい。
今、高大接続改革については、「どうしてそんなことをする必要があるの」、「どうしてそんなことをしないといけないの」、「センター入試が変わる」などの意見があるが、「主体性を持って多様な人々と協力して学び、働く力」を得るための教育の機会を日本で学ぶ子供達、学生達すべてが持てるようにするにはどうすればよいのか、という課題に対応する必要がある。十分な知識・技能を持ち、それを活用できる思考力・判断力・表現力を臨機応変に発揮でき、自分の目標を自分で見出し実践する主体性、多様な人々とのインタラクションをとる多様性、他者と協働し、学ぶ協働性が身につくよう、時代の大きな潮流を見据えて高校教育、大学教育、大学入学者選抜の一体的改革を始めなければいけない。もしできなければ、子供達、学生達に申し訳ないと思う。
よく高大接続改革は入試改革とマスコミでは言われるが、入試改革ではなく教育改革である。大学入学者選抜についても、高校教育と大学教育が変わる中で、当然のことながら入学者選抜の方法も変わることが求められてくる。そのポイントは、小中高の学習指導要領の抜本的改訂と高大接続の改革が課題となる。
小中学校では既に全国学力・学習状況調査の小6と中3のB問題の例にあるように、記述式の答えのない問題が実施されている。総合的な学習時間で主体性を持って学んでいくという、いわゆる探究的な学習が結構入ってきており、変化してきている。高校になると協働での学習が極めて少ない。今、小中学校はかなり主体性を持って学ぶ教育が入ってきているのに対して、高校、大学は行っていない。これを何とかしようということが問題となっている。高校は個性をもって教育を展開してもよいことになっているため、レベルの問題も出てきている。大学も自治ということもあって教育がなかなか変わらない。これをどうしたらよいのかという問題がある。
学生がアクティブ(能動的)にラーニング(学修)することで、学生自身が将来に向けて主体性を持って多様な人々と協力して学んでいくと思わない限り、アクティブ・ラーニングしたと言えないのではないか。少人数のクラスにしようと、自分から学びにコミットしようと思わない限り、実施していると言えないのではないか。特に私立大学では大学自体の多様性があるので、一人ひとりの学生が多様性・主体性を持って学んでいくようアクティブ・ラーニングで仕掛けを作ることだと思う。教員が例えば五つくらいテーマを出して選ばせる。選ぶということは選択なので、学生にとって自分で目標を見つけたわけではない。自分で目標を見つけさせるにはどうしたらよいのかということが、アクティブ・ラーニングを教育に入れていく本質的なところではないかというふうに見ている。
今までの学習指導要領の改訂と非常に違う。まだ議論中なのでどうなるかわからないが、1年半後に答申されることが期待される。これまでは教えるべき内容が沢山示されていたが、教育の方法、学習の方法はほとんど触れていない。能動的学習(アクティブ・ラーニング)に変えていくその方法を指導要領にもし書き込めたら、画期的なことになる。また、学習の評価方法、いわゆるコンピテンシーの評価をどうするのかという問題が関わってくる。これに対応して高校における教室のマネジメント、カリキュラム・マネジメント、学校のマネジメント、調査書の問題、指導要領などが関わってくる。そういう中で教科の英語について4技能、特にスピーキングとライティングをどうやって入れればよいのか。例えば民間の資格検定をどのように活用すればよいのかなど議論が行われている。社会生活を営むために必要な力を身につける新たな科目として、選挙権が18歳になる中で、例えば主権についてどのように学んでいけばよいのかなど、公民の科目名について議論されている。地歴は、例えば歴史をどのように見ていくのか、思考力、判断力、表現力が非常に大きく関係する。思考力の中身を開けて見なければならない。理科基礎、物理基礎、化学はもちろんある。その他に探究理数ができないかという議論がされている。今、学習指導要領の改訂に向けて全部アクティブ・ラーニングをベースにして進めていこうという方向がある。
高校の情報の科目は必履修になっており、選択必履修で「社会と情報」、「情報の科学」のどちらでもよいことになっているが、これからの情報社会の中で情報の考え方を持つようにするための検討が学習指導要領でも始まっていくと思う。
第一に「高等学校の教育改革」として受け身の学習から能動的学習への転換を図る。そのためには、次期学習指導要領をどう変えられるか、また、高校の調査書をどのように変えられるか、それを大学側がどのように活用できるかである。それには2018年から始まる第3ラウンドに入る大学の認証評価制度に、高大接続改革の考え方をどのように入れられるのか、これから議論されると考えている。
第二に「高等学校基礎学力テスト(仮称)の導入」で基礎的な知識、技能をしっかり担保し、高校生の学習改善に役立つようにするとともに、高校も指導改善に役立てることを目的として、高等学校基礎学力テスト(仮称)を導入することについて議論が進んでいる。このテストだけで全体評価されるのはおかしいので、おそらく高校3年生の新しい学習指導要領が入ってくる頃までは、大学の入学者選抜、高校卒業生の就職には使わないということになるかと思う。高校生必修の国語・数学・英語で、2・3年生に2回ずつ、一人の高校生で4回受けられるようコンピュータで試験を行う検討が進んでいる。英語は民間の資格検定試験の活用も議論されている。
第三に「大学教育の改革」としては、ディプロマ・ポリシー、カリキュラム・ポリシー、アドミッション・ポリシーを一体化し、公表しなければいけないことが、文部科学省の省令改正で出てくると思う。アドミッション・ポリシーは、入学者選抜の方法とリンクしているはずだが、大学のホームページで見ると「意欲ある学生を求めます」などとしているが、入学試験ではそうではないペーパーテストをしているわけで、それは本当に求めていることにはならないのではないか。大学のポリシーが連動していない大学が多いと思う。また、将来に亘り社会で大学の看板を背負い、自分の大学を誇りにしてくれるような企業人、社会人が育つようにディプロマ・ポリシーを実践することが問われてくる。その上で受け身の教育から能動的学修への転換に向けた教育改革が求められている。
第四に「個別大学における多角的評価による入学者選抜」とリンクしていくのは、一つずつ着実に考えていけばよいと思っている。その一方で素通しで入ってこられる大学についても、活動経歴評価方法の改善、高校調査書の改革、面接・集団討論・小論文の評価方法の改善などが入ってくると思う。三つのポリシーを踏まえた上で、面接をどのように実施するのか、そのノウハウをどのように蓄積していくのかを大学が考えていかなければいけない。主体性を持って多様な人々と協力して学んでいけるかどうか見ていただきたい。
第五に「大学入学希望者学力評価テスト(仮称)の導入」が考えられている。高校のテストが知識と技能を担保するためのテストに対して、知識、技能は当然であるが、思考力・判断力・表現力を培ってきているかを見たい。それには、例えば記述式の問題も考えなければならない。高校の学習指導要領が変わる前までに、短文の記述式問題を入れることを検討している。自分で考える習慣を高校で身に付けてきた生徒が評価されていくようなテストにしていきたいということで、かなりの難易度をとるように大学入学希望者学力評価テストについて作問まで含めて検討している。また、情報という科目を入れようという検討が始まると考えている。
以上のような仕組みについて、高大接続改革の実行プランが文部科学省から公表され、検討が進められている。多少実施の年度が変わる可能性はあるが、知識・技能、思考力・判断料・表現力、主体性・多様性・協働性を評価するシステムとして、高校教育の質の確保・向上のための仕組みとしての基礎学力テスト、大学入学者選抜のための仕組みとしての大学入学希望者学力評価テストの活用、各大学における個別選抜を考えており、図のように三次元で高大接続改革としている。
文部科学省も大学に改革していただくには、アドミッション・オフィスの問題、カリキュラムの整備など様々なことをサポートしていかなければいけないということで、予算も含めて現在検討されている。
森澤 正之氏(山梨大学大学教育センター副センター長)より、反転授業を組み込んだアクティブ・ラーニングの試行について主に次のような説明と紹介が行われた。
国際社会や周囲との関わりへの関心が低い、学びに対して受動的で意欲が低い学生が多くなってきている。そこで受動的な一斉講義から学生自身による主体的・協調的学修としてアクティブ・ラーニングの導入に期待した。しかしながらアクティブ・ラーニングは非常に時間をかける教授法であり、講義時間が減少し、知識伝達量が不足することになるが減らすことはできない。では、どうしたらよいかというところで、山梨大学が試みているのが、反転授業を組み合わせたアクティブ・ラーニングで3年くらい試みてきたので、それについて紹介する。
(1)アクティブ・ラーニングと反転授業
アクティブ・ラーニングは、学生が能動的に学修を行うことを目指した手法で、事前指導後に実習を行うことが最良の結果を与えるとされている。一方、反転授業は、図の通り講義部分を動画として事前提供し、学修させる。空いた時間を使って、対面授業を知識伝達から、グループによる学生の主体的・協調的な学び合いの時間に転換する。
したがって、授業量は減らさないで事前学修し、教室授業でのアクティブ・ラーニングで知識の定着を図ることができる。
(2)事前学修動画(ビデオ)の作成
立派な動画を作っても対面授業との連続性、関連性が薄いと効果がほとんどない。逆に教員が作った拙いものでも、対面授業との関連性が強いと、非常に効果は強くなり、学生も熱心に見てくるようになる。重要なことは、最初に教える内容を分析して授業の目標を明確にし、教える内容の見取り図を設計する。次に、事前学修ビデオを作成し、対面授業を行い評価し、授業を改善する。そのためにどのような事前学修が必要か、ということを関連づけてビデオを開発すると非常に効果がある。普通のビデオで作るのは大変なので、スライド(スクリーン)キャストシステムを使用している。パソコンの画面を音付きで取り込んで、ビデオにしていく。マウスポインタで指示をしながら解説すると学生はあたかも、話を聞いているようにビデオを見ることができる。パソコン1台、マイクが一つあれば簡単に動画ビデオを作れる。その動画を動画配信サーバーにアップロードし、学生はインターネットを通して事前学修をする。
(1)座学中心の工学専門科目で試行
答えがないテーマを対象にするのがアクティブ・ラーニングだと思うが、工学部の専門科目では答えがある。普通の講義科目には必ず数学、工学があるので知識の定着を目指して反転授業を組み込んだアクティブ・ラーニングを取り入れるようにした。1年目は熱意・興味がある教員を募集して3・4名を選び試行的に4科目程度で行い、2年目は教員を増やし7科目に増やした。3年目の去年は20科目程度で試行した。授業方法は授業科目ごとに異なっている。スクリーンキャストシステムを用いて15分から40分程度の動画を事前に配信する。対面授業では質疑応答、演習、グループワーク、プレゼンテーションなどのアクティブ・ラーニングを行う。授業量は減らさないことを原則としている。
次に授業事例を二つ紹介する。「例その1」は対面授業中は講義は行わず、全部アクティブ・ラーニングをしている。
授業3日前に10分から15分の事前学修動画を2本から3本提供し、例えば簡単なアンケートや選択肢問題に回答させる、またはルーブリックの評価表を提示して事前学修のノート作りを指示している。対面授業中は動画内容の講義は行わないことを原則にしている。対面授業の進め方は、授業前に4人グループでルーブリックの評価基準に基づきピアレビューを行う。教員だけの評価だと結構手を抜いたノートを作成してくるので、ピアレビューにするとしっかりしたノートを作るようになる。授業中では4人グループで可動式のホワイトボードを用意して学修目標と達成目標を提示し、その上で事前学修内容を解説するような課題、応用問題、演習問題をホワイトボードを使用して、グループで討論させる方法を繰り返し行う。なお、机間巡回し、必要ならば全体発表、教員による解説を行っている。
「例その2」は、授業の4日前に15分から30分の事前学修動画を提供し、学修状況をノート作成チェックする。「例その1」と同様、対面授業中は動画内容の説明はしない。授業は90分が連続している180分の講義で結構時間がある。最初は事前学修動画のポイントと疑問点をワークシートで振り返りさせるが、その際にスマートフォンのクリッカーソフト(無料)で分からなかったキーワードを入力させて、そのキーワードをプロジェクターに出して学生に詳しく質問をさせた上で解説を行い、質問がなくなるまで繰り返し事前学修をフォローしている。その上で内容を理解するための演習問題を個人で取り組ませる、またはグループでホワイトボードを用いて意見交換を繰り返している。
(2)反転授業の試行結果
3年次の情報系科目の結果を紹介する。次の図はヒストグラムと見ていただきたい。数字1個が学生一人を表す。数字の意味は50点台に9とあれば59点が一人、9が二つ並んでいる場合は59点が二人となっている。反転授業を導入すると低得点者数がかなり減り、高得点者数が大幅に増加したことが分かる。平均点は57.4点が71点と非常に効果がある。2年目は教員が変わっても同様に効果があることが分かった。
多くの試行例で平均10点から15点の成績向上が見られ、下位層の底上げと上位層の引き上げの両方に効果がある。事前学修をどこまでさせ、どこまで理解するように求めるのか、対面授業の設計がとても大切になる。例えば、少し講義をするとか、ビデオではやりにくいような部分の補足説明などを対面授業でどのように組み合わせるかなど、授業設計に時間をかけることが重要で、反転さえすれば必ず教育効果があがるというわけではない。なお、点数に現れない効果として、授業中に学生が寝ないようになり、返答するようになる。
1週間当たりの予習時間は、20分から30分の事前動画を提供すれば2時間程度は勉強してくる。視聴は、どの科目でも1回全体を見て部分的に分からないところを繰り返し見ている。反転授業の効果は、事前にビデオを閲覧して授業に臨んだことによって理解が深まったが8割以上であった。アクティブ・ラーニングにより理解が深まった学生は、どの科目も8割となっている。反転授業と組み合わせたアクティブ・ラーニングについては、難しいことは授業中に友達に聞いたり教員に聞いたりということができるので、効果的であると受け止めている。また、学修意欲の向上を感じているという学生が意外と多い。成績があまり上がらない科目でも学修意欲の向上だけはあがるという学生が結構多い。
反転授業は、必ず対面授業を組み合わせるので授業のオンライン化ではない。反転授業の教材は授業を受けるためにあるわけで、不足する知識は対面授業で補足できるし、前の対面授業を反映した授業になっているので、対面授業を受けていない人にはあまり効果がない。オンライン授業のように間違いが一つもなく、学生に分かりやすくフットワークを軽くできる。対面授業こそが鍵なので、どのような事前教材を準備して、何を対面授業で行うのかなど授業設計が大切であり、反転できない授業はない。講義である以上はどのような科目でもできると思う。教員が話すのではなく、学生に学修させるところが結構難しいところである。クラスの規模に適正サイズはあるが、多くてできないというわけではない。ノートで行うと個人ワークになってしまうので、ホワイトボードは役に立つ。そこに書くと学生の視点が集まり、グループワークがたちまち始まる。授業時間中のインタラクションは劇的に増える。講義だけの授業に比べて教員の準備作業は大変になる。アクティブ・ラーニングの場合は学生に何を学修させ、どのような成果を出させるのか、それに対する適切なレベルをどのように求めるのか、判定が学生の質によっても違うので非常に難しく、時間がかかってしまうときがある。
【質問】
反転授業を多くの教員に普及させる戦略をどのように考えておられるか。
【回答】
全員にというのはあまり効果的ではないように思う。15回のうち1回のアクティブ・ラーニングは、1回目から成功することがないので、それで見限ってしまう例が多い。最低でも5回は体験していただく必要がある。意欲のある教員数名で成功例を作ることが重要だと思う。成功したら大々的にアピールして、仲間の教員を増やしていくというのが非常に効果的と思う。また、最初に取り組む場合は、15分でよいから反転授業していただき、対面授業でアクティブ・ラーニングを実施することを呼びかける。反転授業が短くても毎回取り組むよう促すと効果が見えるので、反転授業の時間が長くなるというところがある。
【話題提供】
「教養教育のカリキュラム・マネジメントによる全学的なアクティブ・ラーニングの展開を目指した改革戦略」
松坂 誠應氏(長崎大学教学担当理事)より教養教育改革とアクティブ・ラーニングの全学的展開について次のような紹介が行われた。
国立大学法人長崎大学の片峰 茂学長が7年前から始めた教養教育の改革、全学的なアクティブ・ラーニングを目指した取り組みの一端を紹介する。7年前の平成20年12月には中教審答申で指摘しているように、グローバル化する社会において社会から、社会人基礎力、ジェネリックスキルの育成が大学に対して要請されてきた時代であり、当時の本学の教養教育は、従来の自然科学、社会科学、人文科学の枠組みから、科目を選択し広くて浅い学修であった。受け身の授業となっており、学生へのインパクトは非常に低かった。そのような中で教養教育を端緒として教育改革をすることにした。
ガバナンス体制の特徴の一つとして、役員懇談会の下に設置されている学長室は、懸案事項がある場合に学長室にワーキングを設置して、半年、または1年後に学長に答申をするシステムがある。最初に20年12月から全学教育検討ワーキンググループを設けて、四つの全学共通学士像を設定した。その内の「自ら学び、考え、主張し、行動変革する素養を有する」いわゆるジェネリックスキルの育成を目指して平成21年11月に新しい教養教育の具体像作成ワーキンググループを新たに設け、教養教育の改革を始めた。その1年後には新しい全学教育カリキュラム改善専門部会が立ち上がり、平成24年4月からモジュール科目による新しい教養教育が開始された。
モジュール科目とは、一つのテーマのもとに、社会から要求されている諸能力を育成するために集めた科目群で、この全学モジュール科目にアクティブ・ラーニングを全面的に取り入れた。学生は現代的課題で関心のあるテーマ「安全で安心できる社会、環境問題を理解する」、「グローバル社会のパスポート」など25のテーマから選択し、それぞれのテーマごとに基礎的な内容の科目群(モジュールI)と基礎を応用した発展的な内容の科目群(モジュールII)の中から必修3科目選び、グループワーク、フィールドワーク、アクティブワークショップなどを行っている。全学モジュール科目は各学部からテーマを提供させるが、当該学部の学生は専門科目になってしまうことから、受講できないことにした。目的は社会人基礎力の育成、サブメジャーと考えた。例えば医学部の学生が経済のことも学ぶというような目的で始めた。それぞれのテーマにしたがい1年後期から2年後期に実施した。そのテーマの責任者の役割は、9名の担当教員の調整をするということで、全学的に新しい手法に戸惑いがあったが、当時学長が積極的に関わるとともに、種々のFDを実施した。
その中のいくつかの課題をあげてみると、一つは、内容が専門的すぎて、学生からは非常に難しい授業に不満があった。一方、教員からは医学部のことを経済学部の学生が聞いて理解できるはずがないが、経済学部の学生の理解が悪いとの不満があった。また、自らの医学部の学部生が受けられないことに対しても不満があった。二つは、アクティブ・ラーニングは教員にとって手法が未熟なために不安があった。学生にとってグループワークするが、受講者が多いという不満があった。三つはテーマ内での科目選択が一つに限定されているため、学生にとってそれ以外のテーマから選べない、いわゆる選択肢が少ないことに不満があった。教員にとっては科目担当者が9名から多い場合には12名で教員間の調整が非常に不得手であった。全学モジュールの評価を24年、25年に実施したところ、「総合的満足度」、「学修意欲を高めた」、「目標の達成」、「学生参加の工夫」では、かなり低い評価となった。しかし、2年間継続して担当した教員の授業評価は、上記のいずれの項目も優位に改善されており、アクティブ・ラーニングの一つの指標としている。
次に、アクティブ・ラーニング推進のために教員・学生の疑問等の検討を行った。まず、適切な受講生はどのくらいか、受講生と学生の授業評価の関係を検討してみると、モジュールIの基礎編では50名程度、モジュールIIの発展編では40名程度であった。これに近づけるにはモジュールIのテーマを現在の28から36テーマに増やす、モジュールIIは現在の47テーマから51テーマに増やす必要があるが、科目数を増やすには教員の理解が得られないといけない問題がある。一方、教員は受講生数が多いから評価が悪いと言われるが、統計的な優位さは見られなかった。
教員が感じたアクティブ・ラーニングの「でき」、と学生の授業中の反応などについてロジスティック回帰分析したところ、受講者数はあまり関係なく、学生の授業態度、質疑での学生の反応、受講生数に対する教員の印象、教員の授業達成感などと、非常に相関すると思っている。
学生が抱える課題への対応として、「成績分布の偏り」については、成績評価の基準(内規)を作り、特段の事由がない限り成績分布を極端に隔たることがないようにした。「授業内容が専門的すぎる」については、全学モジュールの目的を再確認し、社会的基礎力の育成を最優先し、サブメジャーは低い優先順位にした。「科目選択の幅が狭い」については、従来はテーマを一つ選んでいたが、テーマのカテゴリーを三つ作った。例えば、カテゴリーとして「多様性と共生」ではモジュールIに6テーマあり、1テーマを選ぶ。モジュールIIでは12テーマから1テーマを選ぶように改善した。
教員と学生の考え方は関連しており、どのように授業を設計して教員の支援が促進されていくのかということで、インストラクショナルデザイナー2名を雇用するようにしている。そのような支援を行うことで、教員のアクティブ・ラーニング技能の向上、教員の授業達成感の向上、教員の理解の向上が改善されていくが、ここで教員の参加・協力が向上するようにインセンティブをつけるため、勤勉手当等を支給している。このような方法で今後、受講生数を是正し、学生の意欲向上を目指していこうと思っている。
全学的な展開の戦略としては、現在、全学モジュール科目について全学出動体制としており、参加教員は約300名で核となる教員団として、それぞれの学部でアクティブ・ラーニングを進めており、成果の可視化を通じて納得できる授業評価を全学的に広めていくことを目指している。
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「アクティブ・ラーニングの体系化と教員の教育力養成、学修プロセス・成果の可視化を目指した改革戦略」
稲葉 興己氏(玉川大学教学部部長)より大学教育の質保証に向けた取り組みを中心に紹介が行われた。
玉川大学では、2011年に新たな玉川ブランドの確立と社会の養成に応える教育の推進を目的として、「Tamagawa Vision 2020」を立ち上げ、その中で大学教育の質保証として次の11項目を掲げている。
2020年までの10年間を四つのフェーズに区切っており、「フェーズ3」までは、毎年、具体的な施策の達成目標をアクションプランに落とし込み、年度末にはその評価を行ってPDCAのサイクルを回し、2020年はレビューとしている。
「フェーズ1」では、1)1単位の実質化に向けて履修登録上限単位数を半期20単位から16単位へ変更、2)全学部の卒業要件に累積GPA2.00以上を付加、3)全授業科目に通常のシラバスに加えて学修指導書となるシラバスを追加作成し、事前の予習・事後の復習に取り組ませる。4)GPAによる学修警告制度として1年次1.80、2年次1.90、3・4年次2.00未満の場合には警告が一度発せられ、累積で3回受けると退学処分になる。5)学生ポートフォリオの導入、6)授業外の学修時間を確保させるための時間割の工夫、7)授業科目のナンバリング、8)学士力の策定を行ってきた。
本事業は、アクティブ・ラーニング実施科目の体系化を図り、それぞれの科目でどのようにアクティブ・ラーニングが行われるかを学生に明示すると同時に、適切な指導が行われるよう教員の教育力の養成、学修プロセス・成果の可視化、実社会における学修の有効性の研究・開発を実施計画としている。これらを通じて授業満足度及び学修到達度等にかかわる全学的な教学マネジメントの改善を図ることにしており、右下の図の通り社会からの要請である21世紀社会を支える高次汎用能力と態度、志向性を備えた人材の育成につなげていくことを目指している。
具体的な取り組みとして、第一に「アクティブ・ラーニングの推進」については、目的に合ったアクティブ・ラーニング科目の体系化を目指していく。そのためのハンドブックを作成し、アクティブ・ラーニング手法の研究・開発も着手している。
第二に「学修支援」として、図書館の3階にラーニング・コモンズを設置して学生が授業時間外にかなり活動している。また、4階の学修支援エリアに常駐の学修支援の専従スタッフ(選任2名、非常勤8名の10名と事務職員が1名)を配置している。昨年度に比べ利用度は3倍になった。
第三に「学修成果の可視化」として、1)入学時の学力の把握と能力別クラス編成に役立てるため、入学時点で英語、数学(理系のみ)のプレスメントテストを実施しているが、2016年度から日本語関係のプレスメントテストを追加する予定にしている。2)学生ポートフォリオの活用により、授業を通して獲得した能力を学生が自己評価できるようにしている。3)学期が終わったところで担任が学生と面談し、学修プロセスの把握と学修指導を行う体制をとるように今年度から始めるようにした。4)学生の学修到達度、学修行動の調査を大学IRコンソーシアムに加盟して継続していくことにしている。例えば、理系学部学生のレーダーチャートである学生がどのようなコンピテンシーが不足しているのか、図や表で見てみると、多文化・異文化に関する知識の理解が身に付いていない、問題解決能力が付いていない、市民としての社会的責任がないなど、学修ポートフォリオを活用して担任が指導していくような仕組みを作っている。
第四に「教員の教育力の向上」としては、ルーブリックやアクティブ・ラーニングのワークショップの開催、教職員による授業参観の実施、ファカルティディベロッパーの育成、ティーチング・ポートフォリオの1次開発・2次開発が終わり、今年の秋からパイロット運用を始める予定にしている。
本学でアクティブ・ラーニングを実施している教員は79.7%と高い。実施形態としては、グループワーク、ディスカッション、プレゼンテーション関係が多い。アクティブ・ラーニング実施による学生の学修行動の変化により、学生同士のコミュニケーションが活発化した。問題・課題解決のために能動的に学ぼうとするようになったこと、知識理解が定着したことが多く見られた。
アクティブ・ラーニングの実施形態と学修行動の変化との関連は、ペアワーク、グループワーク、ディスカッション、プレゼンテーションは、コミュニケーションが活発化になったことが顕著になっている。それに対してディベート、フィールドワーク、TBLは、あまり学修行動変容の項目間の差が見られなかった。このような調査結果をもとに、アクティブ・ラーニングがどのような到達目標の授業に一番適しているのか、体系化していく方向で今検討を進めている。
アクティブ・ラーニングのワークショップに関しては、受講者を初級、中級、上級のレベル別、分野別に開催する必要がある。授業に則した実践編を多く望む声が寄せられたため、内容や時間配分を検討する必要がある。学修成果の可視化に関しては、学生が身に付いたと思う力を自己評価する際の基準が明確になっていない。現在は学生が主観的に判断しているので、ルーブリックを作成して明示していく。ある程度客観性があるという意味で外部適性検査等の活用を検討している。
【話題提供】
「選抜型から育成型入試への転換による基礎学力の向上と課題発見力・論理的思考を目指した高大接続の改革戦略」
福島 一政氏(追手門学院大学副学長)より選抜型から育成型入試への転換、アサーティブプログラムとアサーティブ入試による高大接続の改革を目指した大学教育再生加速プログラムにおける取り組みが紹介された。
本学の志願者数は戦後第2のベビーブームのときがピークで、その後ほぼ右肩下がりで減少し、4年前の2012年に底を打ち、2013年から3年間でおおよそ2割、2割、4割という形で志願者数を伸ばしてきた。その要因としてはテクニカルな工夫もあるが、アサーティブプログラムとアサーティブ入試の取り組みが、高校や保護者、高校生の信頼感を形作ることに役立ったと思う。
一つは、2008年の日本青少年研究所の調査結果による日米中韓の中学生と高校生の意識調査から、自分をダメな人間だと思う割合が日本の中学生、高校生は5割以上と高く、自己肯定感が乏しい。
二つは、OECDが2013年に実施した「国際教員指導環境調査」から、中学校教師の1週間当たり勤務時間が日本は53.9時間とOECD加盟国平均より15時間も長いが、勉強ができると自信を持たせる、関心を示さない生徒に動機付けをするなど、教師の自己効力感が日本では2割前後と低い。
三つは、本学の入学者のうち第一志望は2割から3割となっており、不本意入学が多い。基礎学力が不足、進学目的が不明確、学習意欲の不足・学部選択のミスマッチで、大学の授業は居眠りや私語、スマートフォン遊びなど結構少なくなく、初年次教育や授業改善だけでは解消できないと判断した。そこで基礎学力と学修意欲をバランスよく身に付け、主体的に自らの進路を考え決定できる仕組みをアサーティブオフィサーという本学の職員が中心になって企画開発し、実践している。
アサーティブとは、相手の意見に耳を傾けながら、自分の意見や考えを主張することができる態度、自分を知り表現することが大切になるという意味で、コミュニケ−ション能力としての人間関係形成力が備わっていなければ、主体的に生きていけないという思いも込めて使用している。
1)本学で学びたいという気持ちを描いてその思いを伝えられる人、2)今は確かな希望や理念がなくても知的な事柄への興味あるいは活動を通じて何のために学ぶのかを問い続けて努力をする人、3)高校までの基礎的な知識や技能の習得を見直して向上しようと努力しようとする人を受験者像として描いて明確化する。その上で入学予定者像として、シラバスの活用ができる、講義への参加意欲の向上、各種活動への積極的参加ができる学生を迎えたいと考えた。
以上を入試の中で考えたが、入試の概念では収まらない。受験者像に育てる場所が必要ということで、アサーティブプログラムを設けた。アサーティブな態度、コミュニケーションをとれるように大学側が高校生と直接対話することにした。もう一つは、職員のスタッフディベロップメントとして位置づけ、職員として今後の仕事に活きるようにしていきたい。全部、本学の職員にかかわらせており、現在58名の職員が面談している。
一つは、本学との「個別面談」がある。本学職員と1対1で面談し、将来の自分を意識させ、大学で学ぶ意味を自ら気づくように促し、学ぶ意欲を引き出すことができるようにする。「何のために大学に行くのか、君の将来はどうしたいのか」問いを発し、そういう中で「他にもたくさん大学があるよ」など、大学で学ぶ意義や進むべき進路を自から見出せるようにしている。
二つは、本学が独自開発したインターネット学習システム「MANABOSS(マナボス)」により、弱点克服に向けた計画的な学習を促すことができる「基礎学力」のシステムと議論を展開する力を身に付ける「追手門学院バカロレア」のシステムを設けている。「基礎学力」では、スマートフォンやパソコンで高等学校段階の学力を客観的に診断できるように、「言語能力問題」「非言語能力問題」を設けている。例えば、「言語能力問題」は現時点では国語と数学とし、13ジャンルに分けて問題を作っている。5択で回答させた上で採点し、不正解の場合は解説が付くようにしている。また、「達成度」からグラフが表示され、弱点の分野、得意の分野を見て、自分で学習計画を立てることができる仕組みになっている。ポートフォリオで成長の記録を振り返ることができ、入学後の学生ポートフォリオにつなげることができる。
「追手門学院バカロレア」のシステムでは、バカロレア問題を提示し、SNSを通じて登録している受験生同士の多様な意見に触れながら、自分の意見を主張することができる訓練「バカロレアバトル」を行う。例えば、「あなたは今この瞬間存在しますか、もし存在するとしたら、それをどのようにして証明しますか」という問題を出す。登録している受験生がネット上で意見を出すので、それに対して自分の意見を出すが、さらに他の登録者から意見があり、答えが一つではない問題の探求を体感する訓練になっている。
三つは、自己成長を促す「アサーティブノート」を本学独自に作り、将来に向けての自分の考えや気持ち、参考になった新たな発見を記録していくことで、自分自身の成長を振り返るためのノートを渡している。
以上の取り組みを通じて、アサーティブな態度が育ち、本学に入学を希望するようになった段階で「アサーティブ入試」を受けさせる。入試はグループディスカッションによる1次試験と個別面接と基礎学力適性検査の2次試験で構成している。1次試験では、主体性・協調性・論理性などを評価している。昨年入試の問題は「動物園の動物は幸せか」を5、6人1グループで議論させ、環境問題、市の保存の問題などの議論に発展した。2次試験は、「MANABOSS」と同じ形式、同じ程度の問題をペーパーで行った。将来はコンピュータによるCBTを考えている。面接は志望理由、学問に対する意欲や知的関心など主体性や多様性、協働性について評価し、最終的にこの両方のバランスをとって合否を判定した。今年の入試結果は、面談者実人数190名、アサーティブ出願者数91名、1次合格者80名、2次合格者53名であった。
今後の課題は、5年後に入学定員の3割500人をアサーティブで確保したい。MANABOSSの充実と面談職員の増員と研修、入学した学生の追跡調査と4年後の分析、高等学校と成長のプロセスなどを伝える新たな協働関係の構築、アサーティブ研究センターを考えている。
【全体討議:主な意見交流】
向殿政男会長を座長に、安西祐一郎氏に助言をいただく形で進めた。
[質問1]
長崎大学の教養教育を全教員が担当している経緯は何か。
[回答:松坂]
以前教養部があったが、教養部が解体され専門に分属する形になった。その後、全学教育と言っていたけれども、それぞれの部局から全員出動という体制で教養教育、全学教育でこれまで続けてきている。
[質問2]
玉川大学でGPAによる学修警告が3回されると退学になるとしているが、現実どのくらい退学されているか。そのような仕組みを導入して学生の意識は変わったでしょうか。
[回答:稲葉]
年間で200名程度退学している。
ラーニング・コモンズができてから驚いたことには、図書館には朝の8時半から広い個室の行列ができていて、午後6時過ぎくらいまでは全然空き時間がないような状況にもなっており、効果が出ているのかなと思っている。
[質問3]
追手門学院大学では職員がメインで対応して、教員が表に出てきていないのはなぜか。
[回答:福島]
きちんとした学ぶ姿勢を持った高校生を入学させるのは、職員の役割であろう。教員は授業をしっかりやってほしい。
[質問4]
アサーティブプログラム、アサーティブ入試の前は不本意入学者が多かったが、アサーティブプログラムで実施した後は、100%近くの学生が活発に学力に励んでいることについて、第一志望に選んだことによると捉えてよいか。
[回答:福島]
53名が最終的に合格した。1名だけ家庭の事情で入らなかったが、52名が全員第一志望で入学者像として想定したことについて、全員そういうふうになっていると思っている。
[質問5]
平成36年から教科情報が評価テストに導入されるということが検討される場合、大学の情報系学部、研究科と高校との連携がさらに進むような気もするが、それが全体に与える影響はどういうふうになるのか。
[回答:安西]
まだ検討がこれから始まるところで、どういう広がりを持つのかというよりも、高校教育として情報の内容をどういうふうに確定するか、それを大学のテストにどう反映するかということをこれから議論するという段階にある。主観だが、高等学校で使用の教科書等を含めた内容では、これからの情報化社会に対応できない。レベルの高い情報セキュリティの問題まで含めた内容の教育をすべきではないかと思う。テストもハイレベルにしていく必要があるのではないか。
[質問6]
玉川大学が2011年に行った半期16単位は大変英断で素晴しいと思っているが、2011年以前と以降で学生はどのように変化したか。また、GPAは科目の合否によって決まるので、トータルで不合格にするのは非常に難しかったのではないか。学内コンセンサス、学生への説明をどのようにされたか。
[回答:稲葉]
卒業生への変化について、GPAを導入した学生は2011年ではなく、2012年の入学生からで今4年生なので、今年度末に成果の測定・評価を計画している。GPAの1.00は本学でいうと合格のC評価になるが、それが例えばオールCの段階であった場合、自分の一番得意なものは何なのかを説明できるのか、というようなことから、「何かSがとれる得意の分野があってもいいですよね」とそのような説明をして理解していただいていると考えている。
[質問7]
10年以上大学で改革と言って努力をしてきたが、日本の大学の国際評価は落ちている。新しいアクティブ・ラーニングを入れ体制を整えるだけでも教師は大変な負担だ。これまで国際的に改革して評価が上がった大学がどれくらいあるか。TOEFLの英語の成績は、国際化・グローバル化といっても日本は世界最下位で、日本の平均は70点と低い。それが上がったかどうかということで判定していただけないか。
[回答:安西]
国際的になるというのはどういうことなのか、学生一人ひとり自分の目標を持ってたくましく生きていくということが第1点と思う。そのことが着実に達成されていくのであれば、日本の大学は再生していく期待を持っている。英語ができるようになることが国際化、外国人の学生が多くなることだけが国際化というふうに私自身は考えていない。ランキングが下がっていることは事実であるけれども、それぞれの大学がよい学生を本当に出していこうと改革を続けていけば、希望が持てるのではないかと思っている。
[助言:安西]
国際競争の中で競争していくことのできるリーダーシップのある学生の輩出という意味では、日本のいわゆるトップレベルの大学は後れをとっていると感じる。大学のこれからの取り組みは、良い卒業生をどのように出していくかということになるのではないか。今後この入口の改革が出口にどのように関係していくのか、話題提供大学の方々に一言ずついただければと思う。
[回答:松坂]
医師にしても看護師にしても意見を人の前で言えない、患者さんについて人に伝えられない現実がある。そういった意味でアクティブ・ラーニングを専門に広げ、社会の中でできるように大学生としての一つの資格のような感じがする。卒業生へのフォローを認証評価の中で卒業生、企業にアンケートをした。求められているのは意見を言える者がある。企業、社会に受け入れられているかということを、真剣に考えていく必要があるのではないかと思う。
[回答:稲葉]
就職先を考えてみると必ずしも、学部時代の専門性をそのまま活かした職業についているわけではない。どのような場合にも対応できるよう、高次汎用能力を身に付けた学生を輩出していくことを考えており、社会のニーズにあった、ミスマッチのない取り組みをしていきたい。
[回答:福島]
教育理念は自分の道を自分で切り開くことができるようにする。それが入試、プログラムに込められており、主体性、コミュニケーション能力が少しでも養成され、入学してからさらに育てられ、卒業生として社会で活躍してほしい。高校1年生からプログラムが受けられるので、大学に入る前の3年間、卒業後の3年間も何らかのフォローができるような仕組みを考えたい。
[助言:安西]
議論より実践の時期なので、それぞれの大学が知恵を絞って、これからの時代のために頑張っていただければと思う。私自身Future Skills Project研究会を5年あまり続けており、大学1年生の春学期に産学連携で答えのない問題で、少人数のディスカッショングループで議論をして発表する主体性を引き出す学びを実施してきた。自分で楽勝ゼミではなくて、自分で学びたいことを考えてゼミを選び、就職先を選んでいるということはもう明らかであり、先程の3人の先生方のお話とも通じるのではないかと思う。ぜひ、これからの時代の学びの在り方というのを実践して実現していただきたいと心から思っている。
[まとめ:向殿]
今後20年後に若者一人ひとりが主体的に社会に参画し、幸せに生きていけるよう大学関係者は自己犠牲をいとわず、知恵や経験を惜しみなくインスパイアし、支えていくことが使命ではないかと考える。毎年学生が社会に巣立っていくことを考えると、待ったなしの感が否めない。ここにお集まりの大学が連携を深める中で、未来を切り拓く若者に最良の教育を実現していただけることを期待して、この全体討議をまとめさせていただきたい。
関連情報提供
私立の大学・短期大学における教育の質的転換及び全学的な教学マネジメントの観点から、情報環境整備及び利活用の状況を振り返り、今後取り組むべき課題を整理する調査を実施し、白書としてとりまとめたので、内容の一部が紹介された。
1)「教育課程の体系性を可視化するICT利用」は、履修系統図、ナンバリングのWeb掲載などの取り組みが始められているが、50%は可視化にICTを利活用していない。取り組みが急がれる。
2)「教育活動の危機意識を共有する情報の掲載」は、定員充足率、授業評価アンケート結果の解析と改善策、中退率などの情報は30%から40%が共有されているが、学士力の達成状況はほとんど共有されていない。人材育成の使命達成という観点から、大学自身による関心が強く期待される。
3)「ティーチング・ポートフォリオの導入」は、学生にポートフォリオで学びの振り返りを求めているが、教員自身による授業の振り返りは進んでいない。教員が振り返る仕組み作りが急がれる。
4)「シラバス相互点検に対するICT利活用の取り組み」は、70%が相互点検にICTを利活用していない。多面的に意見を収集するには学内LAN上で相互点検を行う仕組みが欠かせない。
5)「ICTを利活用した教育・学修の支援状況」では、シラバスのWeb化、eポートフォリオ、学生カルテ、教材作成支援などは行われているが、授業設計の評価支援、産業界・地域社会との連携支援、IRは進んでおらず、今後の課題である。
6)「アクティブ・ラーニングを普及するための研修」は、全学レベルで25%が実施しているが、50%は実施していない。3年後でも20%は実施しないとしており、組織的な取り組みが急がれる。
7)「ラーニング・コモンズの整備」は、50%が整備、3年後は70%が整備、無線LAN、パソコン・プリンタ、プロジェクタ等AV機器の整備が中心。
8)「IRシステムの導入」は、全学レベルで約9%、一部の科目で17%が導入しているが、50%が導入していない。3年後は30%が全学で導入することが見込まれる。教育のIR活動としては、履修・成績状況の把握、学修行動の把握、学修成果の検証と質保証の確認、授業評価結果に対する改善策に50%以上が使用し、科学的に分析している。
また、40%が入学者選抜の政策、30%が学修ポートフォリオの活用、FD・SDの点検と改善、教育情報公表の戦略、20%が授業科目数の調整・統合、高大連携の政策、卒業生・社会からの評価、地域社会、産業界との教育連携戦略に使用されている。
経営のIR活動としては、70%以上が教育活動の中・長期戦略に使用している。資源の最適化政策への使用は40%強に留まっているが、3年後は50%強と使用が増える傾向がある。認証評価対策の使用は50%に留まっているが、大学より短期大学の方が高く、積極的に使用されていることがうかがえる。本協会では、6月下旬に文部科学省にICTを活用したアクティブ・ラーニング支援の強化と切れ目のない財政支援を要望した。また、サイバー攻撃に備えるため、情報セキュリティ環境の整備についても財政援助を要望した。IRの普及推進には、科学的に分析する専門家の確保・養成と組織体制の構築、統合データベースの構築などの取り組みを国として政策的に推進する必要を提案した。
IRの主要なエビデンスとして学修ポートフォリオの活用が注目されているが、学生の書き込みが年次ごとに減少し、持続しないことが指摘されている。その要因として考えられることは、1)学修ポートフォリオを作成することの意義やメリットについて、学生に十分な理解が得られていないこと、2)学生がポートフォリオに書き込みしても、教員からのコメントが適宜フィードバックされないこと、などがあげられている。そこで、本協会ではポートフォリオ導入に向けた共通理解を促進するため、当面、四つの対応策をとりまとめた。
一つは、「シラバスを通じて学生に呼びかける工夫」として、教員からの説明でなく、学生目線で語りかけることが効果的として、ポートフォリオに参加した卒業生からの声、上級生の声を映像や音声で紹介することを提案している。イメージとしては、『ポートフォリオは自分自身の行動を振り返り、達成できた点やできなかった点、その理由や改善点を明確にすることができる。それによって次の目標を考えることができるので、主体的に取り組むためのきっかけとなる。自ら進んで取り組むことで新しい発見や楽しみが増えてくる。』という趣旨の紹介を十数秒、個人情報を保護した上でシラバスに掲載する。
二つは、「自己点検用ワークシートの構成」として2種類考えた。1)授業の進み具合を点検するワークシートでは、学修時間の把握、知識・技能・態度の定着、活用、創造の測定、自主性及び主体性の確認を要素として掲げた。2)学修達成度を確認するワークシートでは、例えば授業で培った能力を他の授業に活用できる自信があるか否か、真実の声を聞き出し、確認する必要がある。そのときに欠落している能力があれば、卒業までに大学として学修支援する仕組みを別途設けておくことが必要となる。
三つは、「学士力獲得に不安を抱える学生の学修支援」として、1)基礎学力が不足する学生には、例えば補習授業を行い、ファシリテータと担当教員との連携によるきめ細かな助言・指導が必要。2)知識理解が不足する学生には、授業録画による学び直し、eラーニングによる個人指導が必要。3)友人がいなくて人間関係に悩みを持つ学生には、上級学生による学修助言と教員、職員などで連携し、孤立させないよう支援する仕組みが必要。4)発達障害の学生には、心理カウンセラーによるアドバイス、学内ネットなどを活用した学修方法の工夫などが必要となる。
四つは、「学生のコメントに対する教員からのフィードバックの方法」としては、1)授業期間中のコメントについては、授業で工夫できる内容であれば学修者にネットで周知する。個人的問題は、教職員が連携してケース的に対応、2)授業期間終了後のコメントについては、問題の重要性を認識している程度にとどめる、3)大学全体のコメントについては、大学の課題となりそうなことを教員個人の気持ちとして伝える程度にとどめる、ただし、財政・教育政策・組織の再編などに及ぶ場合は、組織的な課題であることにとどめておくことなどが適切と考えられる。
加盟校246大学の80%、78短期大学の70%の教育研究部門の情報化投資は、中央値で大学全体では約2億3,000万円と25年度より7.8%の減となっている。短期大学では1,587万円で13.4%の減となっている。26年度は補助金が耐震関係に重点配分されたこともあり、減少している。なお、外部データセンターの利用は、大学148校で74%が利用、年間1千万円以上が25%、中央値318万円と前年度より60%増えている。短期大学は25校で44%が利用し、中央値63万円となっている。