巻頭言
三幣 利夫(敬愛大学 理事長・学長)
敬愛大学は1966年に千葉市に創設された、経済・国際の2学部を持つ文系大学です。大学名の「敬愛」は、90年の歴史を持つ本学園の建学の精神である「敬天愛人」に由来します。学園の創立者でもあり初代学長の長戸路政司は西郷南洲の唱えた「敬天愛人」に深い啓示を享け、そこに教育の原点を見い出し建学の精神としました。本学ではこの精神のもとで、教育する者が教育される側の一人ひとりを敬愛するという校風が確立され、教育方針となっています。
今年2016年に本学は創立50周年を迎える節目となるため、次の50年に向けて新たなビジョンを策定しましたが、その一つが地域との関わりを重視し、地域と共に歩むことです。千葉県は首都圏にはあるものの地形的に南北に長い半島のため、都心に近い人口密集地域と、東京から離れる県東部・南部の過疎地域に二極分化しており、首都圏とは言えない人口減少地域を抱える課題があります。他方で、本学のある千葉市はその境界に位置しており、都心への通学時間が1時間以内と交通の便も良く、千葉市周辺から東京に近い人口密集地域の進学者は自然と都内の大学を目指す流れになります。このため本学としては学生確保のために都内を目指す流れを逆転させる魅力づくりと、地域活性化のための人材育成を自治体と連携しつつ推進しています。
この一つとして本学は昨年、千葉市と地域経済活性化に関わる連携協定を締結しました。この協定で相互に協力することは、まずは市内で働く産業人材の育成であり、中小企業の支援や商店街の活性化、観光振興、あるいは地域の教育力向上など幅広い分野での協働が含まれます。また、文部科学省が募集した地(知)の拠点大学による地方創生推進事業(COC+)に採択された千葉大学の「都市と世界をつなぐ千葉地方圏の“しごと”づくり人材育成事業」にも本学は参加大学として協働しています。千葉地方圏とは、東京から比較的遠く人口減少と若年層流出の著しい県東部・南部を指し、本事業は、首都に近く成田空港を有する立地を活かし、世界あるいは都市のニーズや研究シーズを地方圏につなぎ、地域産業を活性化しつつ人材を育成・供給する長期の取り組みです。
ICTの活用に関しては、本学では授業での利用だけでなく、修学から就職活動を含めた幅広い教育サポートにも活用しています。そのためのインフラ整備は着実に進められ、校内には無線LANが設置されており、教員による授業での利用に加えて、学生も事前に許可を得れば、個人のパソコンやスマートフォンを無線LANに接続して利用することができるようになっています。パソコンの設置台数は小規模大学でありながらも多く、教室内に設置されたパソコンは授業時以外には学生に開放し、その他自由スペースにもパソコンを設置することで利用しやすくしています。また、コミュニケーション・ラボと呼ぶ空間には、Skypeを利用したオンライン英会話のできるブースや、グループ学習のできるミーティング・ブースを含むラーニング・コモンズがあり、電子黒板、貸出用パソコン・タブレットなどを利用したアクティブ・ラーニングの実施が容易な環境となっています。
他方で、本学では教職員と学生のコミュニケーションを円滑に行うため、KCN(敬愛キャンパス・ナビゲーター)と呼ぶシステムを導入しました。学内外を問わずどこからでもアクセスが可能で、学生はシラバスや時間割の確認、履修登録から課題提出、成績確認、学生による授業評価だけでなく、教職員からの連絡確認や教員への質問もでき、学生カルテやポートフォリオとして入学から就活支援を含め、卒業までの多岐に亘るサポート役を果たしています。KCN運用による一つの効果として、中退率の低下がありました。このように本学では、ICTの活用により教育力を向上させ、また学生のITリテラシーを高めることで、充実した大学生活の支援を行えるように努めています。