事業活動報告 No.3

平成27年度 大学職員情報化研究講習会
〜ICT活用コース〜開催報告

 本年度の大学職員情報化研究講習会「ICT活用コース」は、「主体的な学びの推進と全学的な教学マネジメント」をメインテーマとして掲げ、平成27年12月19日(土)、京都産業大学(京都府京都市)5号館/雄飛館ラーニングコモンズ/神山天文台において開催し、49大学、賛助会員企業2社から71名の参加があった。

―全体会―

 全体会では、冒頭に運営委員より当日の大まかな流れについて、午前中の全体会終了後には、参加者が事前に登録をした【第一分科会】サブテーマ「アクティブ・ラーニング」と【第二分科会】サブテーマ「教学マネジメント」ごとに会場に分かれ、取組みや課題の事例紹介及び質疑応答を行うことの説明があった。
 続いて、京都産業大学の大和隆介副学長からコーオプ教育など産学連携教育等の取組みをご紹介いただいた。また、本研究講習会に全国から熱心な参加者が集まり議論を交わす会場として提供できることに対して、たいへん光栄であるとの会場校挨拶があった。
 引き続き、木村増夫運営委員長(上智大学)から、研究講習会「ICT活用コース」のねらいについて、「知識伝達型教育」から「問題発見・解決型学修」へと「教員中心」から「学位プログラム中心」への質的転換を推進することについて説明があり、本日の分科会テーマである「アクティブ・ラーニング」では反転授業の活用と普及に向けた教職協働の課題等について、「教学マネジメント」では教育の質的転換を実現するマネジメント体制の確立等について指摘がなされた。

―分科会―

第一分科会

「アクティブ・ラーニング」

<情報提供>

「反転授業の活用と普及に向けた教職協働の課題」

森澤 正之 氏 (山梨大学 大学教育センター副センター長)

 反転授業とは「従来教室で行われていたことを自宅で行い、自宅で行ってきたことを教室で行う教授方法」とされている。これにより対面授業で講義が行われない分、学生主体の学修方法に時間を割り当てることができるため、知識伝達量を減らすことなく、また講義の種類やクラス規模にかかわらず、アクティブ・ラーニングを展開することが可能となる。反転授業を継続的に実施していくためには、講義ビデオの作成と配信をいかに簡便にするかという点が重要なため、スクリーンキャストシステムを活用した。これは、PC上の画面を音声と同期して記録することで音声付きスライド形式の動画を加え、情報ネットワークで配信するシステムであり、特別なPCスキルを持たない教員でも容易に利用することができる。
 定期試験結果を見ると、反転授業を組み合わせたアクティブ・ラーニングの実践によって、平均点の向上だけでなく、成績下位層の底上げと上位層の引き上げの双方に効果があることが示された。

「主体性を育む実践的なキャリア教育(産学連携教育)の取組み」

松尾 智晶 氏 (京都産業大学 共通教育推進機構准教授)

 初年次に開講される全学共通教育科目「自己発見と大学生活」では、担当教員と授業を支援する上位年次生の学生ファシリテータを中心に、グループワークによる受講生、教員、社会人との「対話」を重視したアクティブ・ラーニングを実践している。各授業・部署との協働事業、ファシリテータ養成、学内外への発信を担う「F工房」の職員が学生ファシリテータに指導・助言を行う。これにより、学生ファシリテータ同志や受講生、教員との協働体験が実現し、学生の人間関係形成意欲を高める一翼を担っている。
 本科目を受講した初年次の学修成果実感調査では、自己理解やコミュニケーションスキルが向上したと回答する学生が大多数を占め、一定の教育成果を挙げている。特に、同年次の学生や先輩との情報交換や議論を評価する傾向が強いことから、学生ファシリテータの組織化や運営スタッフとの対話をより充実させることが今後の課題である。

<ミニ事例>

「アクティブ・ラーニングにおけるラーニングコモンズの活用について」

土井 健嗣 氏 (関西大学 教育開発支援課)

 平成26年度文部科学省「大学教育再生加速プログラム」に採択され、総合図書館の「ラーニングコモンズ」、凜風館の「コラボレーションコモンズ」、ITセンターの「サテライトステーション」の3つのラーニングコモンズを開設している。学生の自主学修をサポートする環境を整え、パソコン、プロジェクタ、ホワイトボードなどを活用し、グループ学修や勉強会等を開催できるようにしている。これらの学修空間を学生は誰でも自由に活用することができ、プレゼンテーションの練習や学びのアドバイザーに文章作成のスキルを学ぶことができるなど、学生の主体的学修(能動的学修)を促すアクティブな学修拠点となっている。

<講習会終了時における獲得目標の達成度>

1.大学教育の質的転換を図るための改革行動について認識を深めることができた

(達成度100%)

2.アクティブ・ラーニングや教学マネジメントについての取組みや方向性を把握することができた

(達成度97%)

3.ICTを活用するにあたって向き合わなければならない人的・組織的課題を認識することができた

(達成度81%)

第二分科会

「教学マネジメント」

<情報提供>

「シラバスの相互点検による学士力の明示に基づく修学指導の取組み」

河合 儀昌 氏 (金沢工業大学 情報処理サービスセンター所長)

 金沢工業大学では、学生自らが積極的に学修できるような「学生中心型の教育」への展開のため、シラバスによる教育内容の確認を通して、教育の質改善を目指す組織的な取り組みが行われている。具体的には、シラバスの相互点検や教員の自己点検評価による授業改善を、ICTを活用したWEBシステムを使って行い、また、教育の質を維持するために、学生一人ひとりに向き合う修学指導体制を構築している。個々人の各年次のGPAや累積修得単位、出席管理データなど、各種IRデータを活用し、学年ごとにポイント押さえた修学指導を全学的な教職協働のもとで行っている旨、紹介された。

「教育の質的転換を実現するための教学マネジメント体制確立への試み」

梅澤 修 氏 (横浜国立大学 大学教育総合センター長)

 横浜国立大学では、YNUイニシアティブを策定し中期目標・中期計画を示すことにより教育の質保証に向けた教育方針の明確化を図り、また、カリキュラムマップ、授業別ルーブリック、科目ナンバリングといった取り組みを通して、教育課程の体系化、厳格な成績管理化、学修成果可視化を進めている事例の紹介があった。今後の課題としては、ディプロマポリシーがわかるような形に変えていくために、教員中心の授業科目編成から学位プログラム中心の授業科目編成への転換が必要である。これらの教育改革を推進していくには、教員個人と教員組織における教育内容そのものへのマネジメント意識の共有と教職員組織内における授業科目の相互改善に向けて、全ての教職員が参画する全学的な教学マネジメント体制を整備することが重要であり、かつ、教学IRによる分析・提案が必要である旨、これまでの経験を通して具体的な説明がされた。

<講習会終了時における獲得目標の達成度>

1.大学教育の質的転換を図るための改革行動について認識を深めることができた

(達成度100%)

2.アクティブ・ラーニングや教学マネジメントについての取組みや方向性を把握することができた

(達成度93%)

3.ICTを活用するにあたって向き合わなければならない人的・組織的課題を認識することができた

(達成度89%)

―施設見学―

 昼の休憩時間に設定した雄飛館ラーニングコモンズ見学には全員が参加し、分科会終了後にオプションで実施した神山天文台見学には20名の参加があった。参加者からは、Webなどで施設の紹介はなされているが実際に見学することで理解が深まったなどの意見があった。

―総括―

「教育の質的転換とICT活用の戦略」

井端 正臣 氏 (私立大学情報教育協会事務局長)

 本協会事務局長より、教員による一方的授業から学生の主体性を引出し、伸ばす能動的学修に転換していくことの重要性、ICTを活用した教育改善の視点を明示し、全学的に展開していくために教学マネジメントにICTを戦略的に活用していく方向性として、入学から卒業までの情報を学内サイトに掲示し危機意識の共有化、学内サイトによるカリキュラムマップ、カリキュラムツリーの可視化、eシラバスによる教員相互の点検、ICTを活用した学修行動の把握、学修ポートフォリオと学修到達度を組み合わせた教学IRシステムによる教育プログラムの点検・分析による内部質保証の改善、学内サイトで学生と教職員間で意見交流する教学マネジメント体制について本協会の調査結果をもとに紹介された。

―おわりに―

 教育の質的転換を図るための改革行動には様々な角度から取組むことが求められ、特に今回のテーマである「アクティブ・ラーニング」及び「教学マネジメント」については、学修環境の構築や学修成果の可視化等、教職協働によるICTの活用が必須である。参加者には今回紹介をした取組みについて、自大学へのこれからの取組みに、是非役立てて頂きたい。また、取り組みの結果について、その成果や効果を紹介願いたい。

文責:大学職員情報化研修講習会運営委員会


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