事業活動報告 No.5

平成27年度 FDのための情報技術研究講習会
開催報告

1.はじめに

 私立大学情報教育協会が主催する、本講習会は、大学教員の教育技術力向上のための学外FD活動の一つとして毎年行っている。事前・事後の学修を促進するための教材作成、学生が能動的に学ぶための授業方法など、ICT(情報通信技術)を活用した教育改善手法の習得を目的とし、平成28年2月25日〜27日にかけて、大阪経済大学において(1)電子書籍型教材作成コース、(2)LMS活用コース、(3)双方向・参加型授業コースの三つのコースで実施された。研究講習会には、26大学と1短期大学から31名の参加があった。
 共通講義として、(1)アクティブ・ラーニング(山地弘起氏、長崎大学、大学教育イノベーションセンター教授)、(2)LMSを駆使した授業改善(児島完二氏、名古屋学院大学、教務部長、経済学部教授)、(3)反転授業(森澤正之氏、山梨大学、大学教育センター副センター長)の三つについて、授業事例紹介があった。さらに、大学で講義する際の著作権処理について、専門家の中村壽宏氏(神奈川大学、大学院法務研究科教授)からの情報提供があった。授業事例および情報提供についての参加者の評価は高く、「アクティブ・ラーニングに関するモヤモヤが晴れた」、「授業にどのように取り入れるのか、何に注意すべきかがわかった」、「能動的に学ぶ講義とは、どのような工夫をすれば良いか勉強になった」などの感想が得られ、主体性を引き出す授業イメージが共有できた。今後も時機に適った事例の紹介や情報提供をしていくことが重要であろう。

2.講習内容と結果

 「タブレットを意識した電子書籍型教材作成コース」では、自己学修や授業で使用する動画を含む電子書籍型教材の作成技術修得を目指した。
 「LMS活用コース」では、学生参加型のアクティブ・ラーニングに求められる手法とLMSの活用技術の習得を目指した。
 上述の2コースは、アクティブ・ラーニングを行うための基礎部分と位置付けた。
 「双方向・参加型授業コース」では、基礎を修得した参加者を対象に、問題発見・解決型授業やチーム学修による対話型授業を用いたアクティブ・ラーニングの手法について体得することを目指した。

(1)電子書籍型教材作成コース

 電子書籍型の教材作成のため、次の3つの技術の修得を目指した。

1動的な映像教材を作成するためのビジュアルプレゼンテーションツールであるPreziによるプレゼンテーション教材の作成技術の修得。

2プレゼンテーション画面をキャプチャーしながら音声を追加して映像ファイルを作成する技術の修得。作成したファイルをHTML5に対応したファイル形式に変換したり、不要な部分をカットしたりする加工技術の修得。

3EPUB3の電子書籍型の教材作成のオーサリングツールを用いた、教材作成技法の修得。

 以上の実習の後、参加者各自で担当科目の一部を電子書籍化し、その内容について相互にピアレビューを行った。
 参加者アンケートからは、教材作成技術の獲得について「見通しがたった」が100%であった。難易度については、「易しい」20%、「普通」60%、「難しい」20%であった。参加者からは「特に電子書籍に興味があり、その問題点を解決できた」、「Preziを用いて問題文と解答を分けた教材を作成できることがわかり、スマホでの利用が簡単になった」、「発想を膨らませることができた」、「ピアレビューでは、よいディスカッションができた」などの肯定的な感想が多かった。
 講習担当者の感想は以下の通りである。参加者はアクティブ・ラーニングなどの授業改善を既に試みようしているため、目的をもって講習会に参加され、能動的に受講された。Preziについても単に動的なプレゼンテーションができるというだけでなく、マインドマップ的な活用を意識ししている参加者も存在した。電子書籍においても双方向的な活用の可能性を模索していた。特にピアレビューでは、互いの問題を自分の問題としてとらえて活発な意見交換が行われ、授業改善に向けた課題を共有できた。コースの目標である「動画教材の作成と電子書籍化」の技術的な修得だけでなく、授業改善の工夫にまで到達できたと思われる。
 昨年度の経験を踏まえ、一方向的な知識や技能の伝達講習にならないように、一部には個別学習的な場面や参加者同士で問題を解決したり教えあったりする場面も取り入れたが、ピアレビューの場面以外では参加者同士の協働は少なかった。今後の課題としては、講習そのものを参加者同士の協働によるアクティブ・ラーニング的な発想で工夫する必要が感じられた。

(2)LMS活用コース

 学生の能動的な学修を支援する上で、ICT活用は有用な手段の一つである。また、授業において学生の積極的な参加を促し、より充実した学修体験を与えるために、ICTを授業内のみならず、授業外においても活用することが重要であると思われる。本コースでは、学生の能動的学修を支援するための方法の一つとして、学修支援システム(LMS)に焦点を当て、予習、授業、復習の各段階で、LMSを活用するための授業デザインや、LMSの使用方法について、講義、実習を行った。本コースの対象者は、既に電子資料(PDFやプレゼンテーション資料)等を自身で作成できる技術のある方を対象とし、オープンソースLMSの一つであるMoodle上で実際に作業を行いながら、LMSの学修支援への活用方法に関して実習を行った。ただし、昨年度の反省点を踏まえ、LMSの種類に依存する機能は極力排除し、多くのLMSに共通する機能のみを利用するよう実習内容を構成した。
 今回の講習会では、学修の時系列に沿って、予習、授業、復習の各段階で、LMSをいかに利用すればよいのか、またそれを実現するためには,どのような操作手順を踏めばよいのかを、参加者の担当するそれぞれの授業を題材に実習した。実習初日は、まず参加者自身の授業を振り返るとともに、予習、復習を含めた学生の学修サポートにICTがどのように利用できるかについてイメージすることから始めた。その後、3から4名で1グループを形成し、視野の拡張を目的として、グループ内で各自の構想に関して意見交換を行った。本年度は、当該コースの参加者が少なく、グループごとに運営員がファシリテーターとして参加することが可能であったため、参加者の個別の事情に沿った情報、技術の提供、授業デザインの支援を行うことができた。
 2日目以降は、実際にLMSを用いて、LMSの各機能の操作方法および、それらの機能を学修の中のどの場面でどのように活用できるのかを、具体例に沿って講義、実習を行った。その後、これら実習内容を踏まえ、より具体的に学修を支援する方法、授業の構想を膨らませ、最終的な成果物として、LMS上に1コマ分の授業情報を構築した。
 最終日には、参加者全員に各自の成果物を発表させ、その後、参加者全体で、アクティブラーニングやLMS、学修支援に関して意見交換を行った。
 参加者アンケートからは、ICTを利用したアクティブ・ラーニングの手法とLMSの活用方法の理解について、「達成できた」30%、「見通しがたった」70%であった。参加者から「LMSを使う可能性と期待感を持つことができた」、「意見交換を通じて自分だけでは思いつかないアイデアが生まれた」、「授業設計やカリキュラムとの整合性などを見直すきっかけとなった」などの感想があった。
 今後、より効果の高い講習とするためには、LMSの基本操作に関して事前学修を行うとともに、講習ではより実践的な演習を行う、いわゆる反転授業の要素を取り入れることも検討する必要がある。なお、グループでの討論は、同僚相手ではできないような意見交換が可能であることなどから、参加者の評価も高く、今後の講習でも継続して取り入れたいと考えている。

(3)双方向・参加型授業コース

 双方向参加型授業の理解と実現のため、本コースでは、反転授業の基礎的知識と技術を習得し、深めることを目指した。従来型の授業法から反転授業を含めてアクティブ・ラーニングからラーニング・ファシリテーション技法の活用方法及び実施に向けて講義・演習を通じて確認した。さらに、知の蓄積や再構成、創造性の育成、問題解決能力の育成を積極的に進める授業と、自律的に学修し展開できる双方向・参加型授業の実施計画を自身の講義に沿ったかたちで作成した。
 共通講義の反転授業の内容について、このコースでは、講師にも出席頂き、十分な質疑応答を行ったため、参加者からの評判は良かった。また、アクティブ・ラーニングには、画一的、一義的な手法は存在しないため、教員は、学生の学修到達度や目標・目的・意欲により多種多様に対応する必要がある。本コースでは、ラーニング・ファシリテーションにも焦点をあて、反転授業について一つの有効な手法を提示した。特に、いかに授業を組み上げるかをTBL(Team Based Learning)を使ってラーニング・シナリオ(learning Scenario)を作成し、反転授業に欠かせない事前学修用の教材作成の内容を相互に確認した。教員がファシリテーターに徹することは、理解ができてもなかなか実現ができないことや学生が自ら理解できる事前授業用の教材を準備することなど、従来の授業に比べて課題は多い。しかし、授業のすべてを反転するのではなく、アクティブ・ラーニングを一歩一歩実現していくことや、実現可能な授業から反転授業をスタートすることが望ましく、事前準備において一番手間がかかる事前学修教材の準備も、工夫により、わりと簡潔に作成できることが共通講義により示された。さらに、授業の中でアクティブ・ラーニングの展開を常に配慮することの重要性と学科や学部でアクティブ・ラーニングに取り組む姿勢が大切であることも確認できた。
 参加者アンケートからは、アクティブ・ラーニングの進め方について、「達成できた」25%、「見通しがたった」75%であった。参加者から「自分の授業に取り入れるにはどのようにしたら良いか見通しがたった」、「ベースとなるシナリオが作成できて良かった」、「時間をかける努力をして実行したい」などの感想があった。
 今後、本講習会参加者による各大学でのアクティブ・ラーニングへの波及効果が期待できると思われる。

3.おわりに

 参加者に講習会への要望をアンケートした結果、「知識の定着と活用を達成するアクティブ・ラーニング」に関わるコースの設定に6割の希望があった。また、共通講義のテーマについては、「アクティブ・ラーニングの総論」よりも、「アクティブ・ラーニングの失敗事例」や「アクティブ・ラーニングの分野別事例」の紹介に大半の期待が寄せられた。
 今後も、ICTを活用した授業をどのように展開すれば学修効果が上がるのかをこの研究講習会で発信していきたい。

文責:FD情報技術講習会運営委員会


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