事業活動報告 No.3

平成28年度 ICT利用による教育改善研究発表会開催報告

 本発表会は、全国の国公立大学・短期大学教員を対象に、教育改善のためのICT利用によるFD活動の振興普及を促進・奨励し、その成果の公表を通じて大学教育の質的向上を図ることを目的としている。今年度は平成28年8月9日(火)に東京理科大学(森戸記念館)において開催した。
 一般参加者は152名(79大学、2短大、賛助会員1社)で、発表会は第1次選考も兼ねて37件の研究発表が行われた。当日の発表内容は以下の通りである。
 その後、第2次選考を9月24日(土)に実施し、11月25日(金)の本協会の第17回臨時総会冒頭に表彰式を行った(詳細は次号に掲載)。※以下の発表者名は発表代表者のみ掲載。

Aグループ

A-1 文系学生の回帰モデリングの試み、R言語によるデータ分析
江戸川大学 ザン ピン

 文系の学生を対象にデータ分析に対する動機づけを主な目的として行われた授業の報告である。取り上げられた統計テーマは相関、回帰であり、教員からの知識の伝達を最小限にし、回帰で説明できる現象を見つけさせるという授業手法である。使用されたソフトウエアはフリーソフトのRである。学生の興味を喚起できたとの報告があった。

A-2 教員養成系学生の「教育の情報化」に向けたサスティナブルなICT利活用の実践
昭和女子大学 駒谷 真美

 教員養成系学生を対象としてICT活用指導能力を獲得させるための試みの報告である。電子黒板、タブレット端末など情報機器を使用した指導略案の作成、模擬授業の実施、授業録画とネット上での共有によるピアレビューなどを実施したものである。事前事後アンケートの分析、自由記述式回答からのテキスト分析を行い、ICT活用指導能力の獲得と自信が確認されたとの報告があった。

A-3 高度マルチメディア双方向授業−卒業研究ゼミナールにおけるアクティブ・ラーニング型授業の実践−
サイバー大学 川原 洋

 オンデマンド・コンテンツの自主制作を目的とする卒業研究ゼミナールの全過程をオンラインで行った授業の報告である。15人を3グループに分け、情報共有、意見交換、プレゼンテーションの作成などを経て、最終的に電子出版の審査まで到達させる内容である。審査通過の割合が年度を経て上昇し、本報告年度ではコミュニケーションの活性化により全員が出版を果たしたことが報告された。

A-4 学生による補助教材作りを組み入れたハッカソン的情報実験の試み
名城大学 高橋 友一

 Javaを用いてロボットを操作し、スポンジを積み上げる高さを競わせる授業の報告である。授業時間として10コマ分の時間を集中的に一度に行うことに特徴がある。また授業内では、大学院生の管理グループと参加学生の2グループ構成で実験を行い、授業終了後にビデオ教材の作成を行うなどに特徴がある。受講学生・大学院生の授業アンケート結果、下級生によるビデオ教材アンケート結果が示され、集中授業方式の有効性が報告された。

A-5 事前学習としてのLMSへの問題入力による学習意欲の向上
福山大学 中道 上

 ITパスポートの受験対策を目的にした授業の改善報告である。教員による解説、指導から学習者主体の授業へと転換し、事前学習では、学生による問題・解説入力、授業では、学生による解説のプレゼンテーション、事後学習では、他の学生が問題を解答するというプロセスである。アンケート結果から、学習意欲の向上、理解度の向上がみられたことが報告された。

A-6 異なる意見を持つ受講生同士のピア・ラーニングによる理解度向上とその定量化
九州大学 松永 正樹

 アクティブ・ラーニングの学習効果を定量的に測定しようとする試みの報告である。正解のあるクイズに対して個人で回答させた後、グループ討論を経て回答をさせた。グルーピングとして異なる回答をした履修生をグループとした場合とそのような配慮をしなかった場合とを比較している。異見をもつ履修者のいるグループでは正答率が有意に上昇したが、その配慮をしなかった場合は正答率が下がった旨の報告があった。

A-7 電子学術書を活用したゼミ授業の高度化と全学展開への挑戦
立命館大学 湯浅 俊彦

 電子学術書化を推進することで、大学教育における事前学修(反転授業)・授業受講・事後学修を効果的に進めることが可能となり、実際に導入した小集団教育では受講生が発表と論文執筆に専念でき、その成果を単行本化することを3年間続けて達成し、教育の質的向上が大いに図られた旨の報告があった。

A-8 AR(拡張現実)を用いた変化する授業プリントの活用
中央学院大学 清水 正博

 授業プリントにAR(拡張現実)を用い、スマートフォンをかざすと、文字や画像、音声、映像などを表示させることができるようにし、授業中の学生の授業への集中力を高める取り組みを行うとともに、授業終了後は、授業中とは異なる内容を表示させることで、授業後の復習の促進、次回の授業までの興味関心を持続させる旨の報告があった。

A-9 学習者の主体的な課題解決を促す授業の評価−ビジネスネットショップ制作を通して−
名古屋学院大学 松永 公廣

 アクティブ・ラーニングの具体例としての課題解決型授業について、学生が主体的に目標設定、実行、評価、改善などのPDCAサイクルを繰り返すことで目標に到達することができるようになるために、これまでの本大学での授業実施経験の分析をもとに提案した新演習方針が有効であったことを、授業実践データよりその有効性が示せたとする旨の報告があった。

A-10 Facebookを活用してテキストと授業の理解度を高める教育改革
近畿大学 足立 辰雄

 本取組では、「経営学」および「経営管理論」において、受講生を13チームに分け、各チームがテキストの担当章について質問を起こし、それに対する教員の回答とコメントをFacebookに公開している。その目的は、学生間のコミュニケーション力向上、授業参加意欲強化、ICTの有効利用、経営基礎学力向上にある旨の報告があった。

A-11 スキャナで読めるマークシートを活用した小テスト通過型単位認定方式
専修大学 小川 健

 本取組では、スキャナで読めるマークシートを活用した小テスト通過型単位認定方式を実施している。スキャナで読めるマークシートの使用によって、容易に小テストを何回でも実施できる。この取組の目的は、小テストを繰り返し実施することによって、学修理解の定着を図ることにある旨の報告があった。

A-12 オープンデータを活用した地図力育成:ソーシャルデザイン教育における質的転換と評価
東京工科大学 飯沼 瑞穂

 本取組では、GIS(Geographic Information System)などのICTを活用した授業を実施している。この取組の目的は、オープンデータとしてのデジタル地図情報を活用し、地図活用力を育成するとともに、地球規模の問題解決能力を養うことにある旨の報告があった。

A-13 休耕地活用をテーマにしたPBL型ゼミにおけるSNS活用手法とその効果
神田外語大学 石井 雅章

 本取組では、休耕地活用という地域課題に実践的に取り組むPBL(Project Based Learning)型ゼミナールにおいて、SNSを活用して学生と教員のコミュニケーションを量および質の両面にわたっていっそうの改善を促進している。さらに、ICTによって課題に向き合う態度および課題解決に必要な統合能力の養成を促進した旨の報告があった。

Bグループ

B-1 留学における「異文化理解」の実質化〜SNSを活用したリフレクションの実践と成果
工学院大学 二上 武生

 留学の意義である「異文化理解」を実質化させるため、留学先での「観察力」を磨くことを目的としてSNSを活用した「観察日記」を導入した。オーディエンスとしての参加協力を関係教職員に依頼した結果、遠隔地双方向コミュニケーションにより、投稿内容における「気づき」が深まり、「観察力」の向上が認められた旨の報告があった。

B-2 ICTによるアクティブ・ラーニングの取り組み−短期海外プログラムの効果的教育実践−
立教大学 郭 洋春

 立教大学経済学部では、短期海外プログラムでも専門的知識を英語で理解できることを目標に、従来型の教授法にICTを活用して反転授業を取り入れたアクティブ・ラーニングと、短期海外プログラムの効果的教育実践の試みを、2015年度から実践してきている。その教育内容と教育効果について報告された。

B-3 インタラクティビティを中心とした外国語教育環境の開発と活用
早稲田大学 アルベリッツィ ヴァレリオ

 イタリア語の教育において、視聴覚的な情報ととも言語情報を、一貫性のある形式で提供できるデジタルテキストブックの開発と、タブレット型端末、アプリケーションなどの連携を活用し、ピア・サポートを中心とした効率的な学習環境の開発を行った経緯、および統計的なデータから得られた学習効果についてまとめ報告された。

B-4 「考える」力を育成するための協働学習の取り組み:ピアレビューを取り入れた英語教育
大阪国際大学 齋藤 由紀

 英語力のうち「話す」こと「書く」ことで課題が多いと考え、タブレットの活用により発信型英語授業をめざした発表である。自己評価シートを用いて「考える」課題を認識させ、学生間でのピアレビューの環境を整え、英語でのコミュニケーションが自然に行える場面を設定し、発信型英語教育への協働学習へとつなげている旨の報告があった。

B-5 英語能力の効率的な向上のための多読用学習ソフトウェア
京都産業大学 ロブ トーマス

 多読学習法のさらなる普及のために開発した多読学習用記録・管理ソフトウェアMReaderに関する発表である。従来のムードル上のソフトウェアから発展させ,オンラインでどこからでもアクセスできるソフトにすることにより国内外の多数の教育機関での利用が広がり、多言語への対応や教育機関以外への利用の拡大も進めている旨の報告があった。

B-6 学部専門教育科目と一般教養科目の共同教育プロジェクト−English for Academic Purposesの実践報告−
朝日大学 西 善也

 法学部の専門科目担当教員と一般教養科目の英語担当教員がEAPをベースとする共同教育プロジェクトを立ち上げた効果に関する発表である。活動では学生主体のGroup ResearchとPresentation Projectを行って英語能力や情報発信能力だけでなく、アクティブ・ラーニング、TBL、事前事後、協働学習などの手法を取り入れて社会人基礎力の育成にもつなげている旨の報告があった。

B-7 日本語で受講する学部留学生に対する反転授業ー発音習得に関する講義理解と深い学び
同志社大学 須藤 潤

 外国人留学生の日本語発音習得に対する反転学習の役割を検討している。単に知識を習得するのではなく、習得知識を発音の技能獲得に適用することで、さらに正確な発音を追及する学習姿勢に良い影響をもたらすことを見出している。講義ビデオの長さが15分を超えると、理解度の低い学生が増え、負の相関を示す傾向が見られた旨の報告があった。

B-8 ICTを活用した協創型議論の場づくりと支援−21世紀型スキルの修得をめざして−
早稲田大学 尹 智鉉

 グループワークにICTのツールを活用し、ツールの選択は、学生の自主的選択としている。LMSのチャットは利用されず、LINEグループ、Skype、Google Docsが主に使用されている。情報リテラシが磨かれ、チームメンバー間のコミュニケーション、チームワークに努めるなど、協同学習の支援に効果的であった旨の報告があった。

B-9 第二外国語授業でのコミュニケーションの実践導入−SKYPEを通して−
国際教養大学 崔 壮源

 日韓の大学間で韓国語と日本語の学習者ペアを作り、Skypeを利用したコミュニケーション実践を試みている。普段は交流困難な学習言語の母語話者との交流が実現し、授業では得られない適度な緊張感や新鮮味を経験し、コミュニケーションを通して、自分の日本語を客観的に見る視点が学生に生まれるなどの効果があった旨の報告があった。

B-10 基礎的な授業技術習得のための示範授業ビデオの制作(2)
椙山女学園大学 坂本 徳弥

 研究協力校において授業研究を実施し、教職を志望する学生に視聴させるための3本の示範授業ビデオを制作している。これらを大学の模擬授業演習等の授業で実際に学生に視聴させ、学生に評価させたところ、電子黒板とタブレットを使った授業を経験したことのある学生の方が、経験がない学生よりも高く評価する傾向があることがわかった旨の報告があった。

B-11 協働による達成感醸成を図るGISを活用したウォークラリー行事
目白大学 藤谷 哲

 小学校教職課程を設置する大学の学科行事として、学生が自ら企画・運営するウォークラリー行事を実施し、参加者の所在地をリアルタイムに発信・記録・閲覧・確認できる地理情報システム(GIS)を導入している。GISは学習支援の役割を果たすとともに、利用を通じた楽しさ、利用時の操作性に起因するとみられる不安の意識が確認できた旨の報告があった。

B-12 eポートフォリオを活用した「書く力」の向上を目指した学修成果のアセスメント
淑徳大学 野坂 美穂

 本研究は、eポートフォリオの活用による学生の「書く力」の改善・向上を目指した実践報告である。実践により得られた示唆は、eポートフォリオの全面的な導入ではなく、電子媒体と紙媒体を場合に応じて使い分けることが必要であるということであり、特に「振り返り」においては、紙媒体が有効であることが明らかとなった旨の報告があった。

B-13 発表辞退

Cグループ

C-1 医用画像診断システムを応用した画像診断学演習
東京女子医科大学 鈴木 一史

 医学部の臨床実習前(4年次)のカリキュラムに、匿名化したDICOM画像を教育用PACSサーバを用いて参照するシステムを構築し、フィルムレス環境に対応した放射線画像診断演習を実現している。これをLMSと組み合わせて学生の繰り返し学習を促すことによって画像読影演習のアクティブ・ラーニング化も図った旨の報告があった。

C-2 ICT活用による新たな一次救命処置スキル実習システムの開発
東海大学 梶原 景正

 臨床実習の医学部生を予めインストラクターとして指導し、一次救命処置動画を標準スキルとして新入生に指導させたところ、教員と遜色ないスキル指導が実践できたばかりでなく、医学部生自身のスキルアップにも貢献している。過去9年間の教育改善成果について、利点・問題点などを述べるとともに、ICTが果たす重要性について報告された。

C-3 能動的かつ実践的学習を支援するICTを活用した臨床テキストブックの開発
大阪医科大学 林 道廣

 医学知識の理解支援を主目的とし、医学部、看護学部、薬学部で活用できる電子媒体を使用した臨床テキストブックを開発した。電子媒体の持つ特性を活かして学生の視覚的理解を助ける事で臨床実習や自学自習における学習を支援している。今後、アクティブ・ラーニングへの活用も計画されている旨の報告があった。

C-4 チーム医療を育む全学科・学年を対象とした全人教育・アセンブリ科目へのICT活用
藤田保健衛生大学 松井 俊和

 従前から実施されている多職種連携・チーム医療に参画できる人間形成を目指した「アセンブリ科目」で重要となる教員間・学生間の情報共有に向けて、ポータルサイト、LMS、電子掲示板、ピア評価システム等を小グループ学習やTBLに導入し、学習効果の向上を図った旨の報告があった。

C-5 ICT活用による能動的学修支援と学修成果の可視化を融合させた教育改善の実践
北海道医療大学 二瓶 裕之

 電子シラバスを基軸とした能動学修支援システムを開発し、学修情報の融合と成果の可視化によって学習方略を検証し、授業改善にフィードバックしている。反転授業と協働学修の適時性およびそれらの融合のための方略などが明らかとなり、それらを反映した授業改善が実現されはじめている旨の報告があった。

C-6 ICTを活用した看護過程における授業教材の開発と活用−学生の思考能力の育成−
産業医科大学 辻 慶子

 学生の思考能力の育成を主目的として、予習・復習、演習問題、作問学習を一元的に行えるシステムを用い、思考能力の育成を試みている。作問学習の導入が能動的学習姿勢の獲得に有効である可能性、およびそのことによる学修効果向上の可能性を示唆している旨の報告があった。

C-7 発表辞退
C-8 タブレット型端末および双方向型教育を導入したTBLの学修効果
兵庫医科大学 成瀬 均

 平成22年度から、チーム基盤型学修(TBL)を4年次科目「症候学」(現「症候病態TBL」)に導入したが、平成23年度より3年間かけてフリーソフトであるmoodleを導入し双方向型教育を取り入れている。参考資料や素材を紙媒体よりはるかに高いレベルで配信することができるようになっただけでなく、学生の推論過程まで把握することができる旨の報告があった。

C-9 実験科目におけるe-Learning systemの利用とその効果
日本大学 根本 洋明

 応用生物科学実験II(履修者142名)において、実験マニュアルや作業の確認と小テスト、データ解析などの解説と演習問題、実験操作解説用のビデオ動画、実験データのフォーム入力などのコンテンツをMoodle上で導入し、学生の実験技術レベルやデータ解析能力が大幅に上昇するとともに、学生へのフィードバックが効果的に行われている旨の報告があった。

C-10 ランダム出題、自動採点かつ反復受験可能な数学オンライン定期試験とその功罪
山口東京理科大学 亀田 真澄

 数学のオンライン試験に関する試みとして、微分方程式の試験出題時の回答が数式になる場合にも対応するシステムを構築して授業でその効果を確認している。3期に分けて、効果を測定した結果、期の経過とともに反復受験する習慣がつき、初回評点に対する最高評点の比率が増加するという傾向がみられている旨の報告があった。

C-11 ピア・インストラクションを用いた数学の概念理解の取り組み
金沢工業大学 西  誠

 数学の概念理解のためのクリッカーを用いたピア・インストラクションを反転授業と組み合わせて、教育効果を高める授業改善を行っている。26問の問題に対する正答率をピア・インストラクション前後で調査したところ、難しい問題に対してはピア・インストラクションの効果はみられなかったが、クラスの過半数が理解できている問題に関しては効果が認められている旨の報告があった。

C-12 ICT環境での学び合い学習−Open your world−
日本工業大学 河住 有希子

 課題を与えて、それをネット上で情報を収集することで解決するというアクティブ・ラーニングの実践報告。元素周期表をもとに金属を選ばせ、その金属について調査をさせることで学生の主体性や学生同士の学び合いを実践している。また、350人の10課題に対する教育効果としては、思考力、想像力、課題解決力が伸びたことである旨の報告があった。

C-13 初年次ICTロボット導入PBL授業における学習効果測定分析
芝浦工業大学 菅谷 みどり

 ロボット教材をもとにしたPBL授業により、9項目の教育効果について100名強の学生に対するアンケート調査をした結果から評価している。学生の役割に基づいて3グループに分け、積極性と学習意欲の向上について調べたところ、責任が重いグループ1とグループ3の学生はもともと積極性が高く、学習意欲の向上が認められている旨の報告があった。

文責:ICT利用教育改善発表会運営委員会


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